2015年8月14日金曜日

長老からの圧力のガス抜きに思える人民元の切り下げ

 市場のリスク回避姿勢を強めた人民元安の動きは、ようやく落ち着きを見せつつある。中国人民銀行が発表する人民元レートの基準値は、本日(8月14日)1ドル=6.3975元と、昨日の基準値(6.4010元)や、前日の市場終値(6.3990元)に比べ元高・ドル安水準。基準値公表後の人民元レートは、基準値から小幅減安方向での推移となったが、午後の人民元レート6.40ちょうど近辺で膠着感を強めている。

 中国人民銀行(人民銀)は昨日(13日)、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)が力強いことを踏まえると、人民元が継続的に下落する根拠はないとの声明を発表。その後、人民銀の張暁慧・総裁補佐は会見で、11日からの元安の進展により人民元に蓄積していた下落圧力は解き放たれたと発言。元相場が将来的に上昇する可能性があるとの見方も示し、中国当局による元安姿勢は後退したとの見方が強まった。

 元安の動きが収まりつつあることから、市場には安堵感が広がりつつあるが、中国当局が人民元の切り下げに踏み切った理由は現時点でも不明なままである。元切り下げの前日(10日)までの年初来パフォーマンス(対ドル)をみると、人民元は変わらず。一方で新興国通貨は、ほとんどが下落。人民銀が元切り下げ後に人民元の実質実効レートは市場の期待とかい離しているとの認識を示したように、中国当局が景気減速を背景に人民元の割高感解消に動いたとの見方が有力視されている。

 しかし中国景気の減速は、今に始まったことではい。むしろ中国当局は、元の切り下げを決めるまで、基準値と実勢レートのかい離を容認し、場合によっては元買い介入を実施してきた。習近平主席は9月に訪米を控えており、米国政府が忌避する元切り下げを訪米直前のタイミングで実施するのも不自然だ。仮に景気減速だけが元切り下げの理由であるならば、利下げや財政支出の拡大といった景気刺激策も併せて実施してもおかしくない。元切り下げの理由を景気減速だけに求めるのは無理があるように思われる。

 あくまで推測の域を出ないが、今回の元切り下げは、共産党旧指導部(いわゆる長老)による習近平政権への圧力の高まりを反映した動きなのかもしれない。中国共産党は、毎年7月末から8月初めにかけ、河北省の避暑地である北戴河に現指導部と長老が集まり、北戴河会議と呼ばれる非公式の会合を開く。一部報道によると、今年の北戴河会議では、中国景気の減速に関し、長老が現指導部を激しく非難。人民元の大幅切り下げで景気の立て直しに成功した朱鎔基元首相らは、人民元の切り下げを主張したという。

 習近平主席とすれば、このまま元切り下げを拒否し、長老からの圧力を受け続けるくらいなら、自ら主導権を発揮し元切り下げに動くのも一つの手となる。また、人民元の基準値を実勢レートに近付ける形で切り下げることは、習政権が進めてきた人民元の変動相場制への移行に沿った動きとも言える。

 仮にこの推測が正しいのであれば、今回の元切り下げの目的は、長老からの圧力を和らげるガス抜きといえ、習政権が目指してきた経済構造改革路線に変わりはないことになる。そもそも人民元を5%程度切り下げたところで、中国景気の減速が解消に向かうとは考えにくい。中国政府の元切り下げ姿勢が後退したままで、追加の景気刺激策が取られないのであれば、中国景気の減速は続くとの見方が再び強まり、世界景気の先行き懸念も続くことになるだろう。

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