2015年9月18日金曜日

金融市場次第となってしまった米利上げ開始のタイミング

米連邦準備理事会(FRB)は日本時間9月18日早朝、米連邦公開市場委員会(FOMC)で、利上げ開始を見送り、金融政策を現状維持とすることを決めた。FOMCは声明で、最近の世界経済および金融動向(financial developments)は、経済活動をやや抑制する可能性があり、短期的にはインフレの下押し圧力を強めるだろうと指摘。今後も海外動向(developments abroad)を監視していく意向を示した。なお今回の決定に対し、リッチモンド連銀のラッカー総裁は反対票を投じ、25bpの利上げを主張した。

FOMC声明で、中国株の大幅下落を中心とした金融市場の不安定性を「金融動向(financial developments)」と表現し、経済活動を抑制する可能性があることを示したことは、FOMCが金融政策の決定において金融市場の動向を考慮していることを示したという点で非常に興味深い。中国景気の先行き不透明感を背景に中国株式市場が不安定な動きを続ける可能性もあり、FOMCが年内に利上げを開始できないとの見方が広がる展開も考えられる。現にFRBイエレン議長は、FOMC声明公表後の会見で、アナリストの大半の予想を上回るような、より突然の減速のリスクがあり得るかについて、8月の金融市場の動きが、中国経済のパフォーマンスに下振れリスクがあるという懸念や、政策当局がこうした懸念に対象する上で不備があるとの懸念を一部反映していると考えられると述べた。

FOMC声明と同時に発表されたFRB当局者による金利見通し(いわゆるドットチャート)は、FOMCのハト派色が強まったとの印象を強めたかもしれない。ドットチャートでは、回答者17名中13名(前回は15名)が年内に1度以上の利上げを見込む一方、2016年まで利上げを見送るべきと考える当局者は4名(前回は2名)。4名のうち1名は、年内と来年のマイナス金利を予想した(つまり2017年までゼロ金利政策を続けると見込んだ)。

しかし今回のFOMCの説明は、一部メディアなどで指摘されているほどハト派色が強まったものではないとみるべきだろう。むしろ「金融動向」と表現された金融市場の不安定性がなければ、FOMCは今回(9月)に利上げを開始したとみてよい。

注目すべきは、FRB当局者の多数が、米国の雇用情勢の改善が来年も続くと見通していることだ。FRB当局者による経済見通しによると、今年第4四半期の失業率見通し(レンジ)は4.9~5.2%と、6月時点の5.0~5.3%よりも大きく低下。来年第4四半期の失業率見通しは4.5~5.0%と、今年8月の5.1%よりも低下するとの見方が示された。

FRBイエレン議長も会見で、非自発的雇用が依然として高水準のままとの見方を示したものの、FOMC参加者の多くは、長期的に正常とされる失業率の中間値の推計に近付いていることを認めている。また同議長は、金融政策の効果が遅れ(ラグ)を伴うことを踏まえ、物価と雇用の二つの目標(デュアルマンデート)が完全に達成するまで引き締めのプロセス開始を待つことは望んでいないと明言している。

ドットチャートで年内の利上げ見送りを見込む者が2名から4名に増えたが、これは9月の利上げ開始が先送りされたことで機械的に決まったものと考えられる。前回のドットチャートでは、年内2回の利上げを見込む声が大勢だったが、一部に年1回を見込む者もいた。9月の利上げ開始が先送りされたことで、年内の利上げは1回のみとの見方が大勢となり、もともと年内1回のみと見ていた者の一部が、年内の利上げなしに変更したと解釈できる。

なおドットチャートでは年内と来年のマイナス金利を予想する者が1名現れたが、これを重視する必要はないだろう。FRBイエレン議長は会見で、今日の会合では、マイナス金利が真剣な検討の対象となるようなものでは全くなかったと明言。マイナス金利は主要な政策オプションの1つではないと述べている。

金融市場が不安定化しており異論が多い中、無理に利上げを開始したことで、後日批判されることをFOMCが恐れたのかもしれないが、FOMCが利上げ開始を先送りした主因が、金融市場の不安定性にある以上、金融市場が安定性を取り戻せば利上げは開始されるとみるのが自然の考えとなる。

金融市場の動向は、誰もが完全に予想できないだけに、金融市場がいつ安定性を取り戻すかを正確に予見することはできない。仮にこれから金融市場が安定に向かえば、日本時間10月28、29日のFOMCで、利上げ開始が決まっても不思議ではない。現にイエレン議長が会見で、10月の会合で特別に会見を設定することも可能で、10月会合で利上げを開始する可能性も指摘した。

言いかえれば、金融市場がいつまでも不安定であれば、FOMCは年内の利上げを見送る可能性もあるということだ。この場合、米金融政策が市場動向で決まる色彩が強まるようになり、FOMCひいてはFRBの信認が揺らぐ恐れも出てくる。

為替市場では、FOMC明けの東京市場でドル円が120円を挟み、不安定な動きを続けている。金融市場の動向次第で利上げ開始の有無が決まる、という先行き不透明感の強まりを端的に示唆していると言えなくもない。

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