2015年9月3日木曜日

アジア通貨危機と同じ構図に陥った中国経済

 各種報道によると、中国人民銀行(人民銀)は9月1日、元売り・外貨買いの通貨フォワードとスワップ取引で残高の20%を、通貨オプション取引では元本の名目価値の10%を、それぞれ準備金として人民銀行に1年間、預託する義務を10月15日から課すことを市中銀行に通知した。準備金は無利子となるため、市中銀行は顧客に対し手数料などの形でコストを転嫁する可能性が高く、元買い取引は対象外。今回の通達は、元売り抑制策の一つといえる。

 人民銀は8月11日、人民元・対ドルレートの基準値の算出方法を変更する形で事実上の元切り下げを実施。ところが、その3週間後に今度は元売り抑制策を実施したわけで、人民銀の(ひいては中国政府の)真意が読みにくくなったとの指摘も出ている。

 しかし中国政府の狙いは、人民元高を是正するとともに、海外への資本流出に歯止めをかけることにあると考えれば整理がつく。9月1日の人民銀通達の真の狙いは、元安を抑制するためではなく、元安期待を抑制することで中国の対外資本流出に歯止めをかけることにある、ということだ。

 中国の対外資本流出は、昨年後半から続いている。中国の外貨準備高は昨年6月の3.99兆ドルをピークに減少基調で推移。今年3月には3.73兆ドルとピーク時から2,632億ドル減少し、今年7月には3.65兆ドルと、ピーク時から3,419億ドルも減少している。

 一方で中国の経常収支は黒字を維持している。昨年7月から今年3月までの経常黒字(累計)額は2,181億ドル。この間、外貨準備は2,632億ドル減少したことから、この9カ月で中国からの資本流出額は4,813億ドル(=2,632億ドル+2,181億ドル)に達したことになる。

 中国の外貨準備高は、日本の外貨準備高と内容が大きく異なる点に注意が必要だ。日本の外貨準備高の大半は、過去のドル買い介入によるものであり、原資は過去の経常収支黒字である。一方、中国の外貨準備高は、政府・中銀が保有する外貨資産だけでなく、民間部門が保有する外貨資産も含まれている。このため中国の外貨準備高の原資は、過去の経常収支黒字だけでなく、海外からの借り入れも含まれる。

 このため、外貨準備高が対外純資産に占める割合(2014年末)は、日本が41%(=1.261兆ドル÷3.062兆ドル)であるのに対し、中国は約2.1倍(=3.843兆ドル÷1.789兆ドル)と突出している。つまり日本の外貨準備高は対外純資産でフルカバーされているのに対し、中国の外貨準備高のうち対外純資産でカバーされる割合は約48%(=1÷2.7)でしかなく、残り(約52%)は外国資本による。中国の外貨準備高は日本を凌駕し世界一なのかもしれないが、その原資の過半が海外資本による以上、中国の介入余力は外貨準備高の半分ほどと考えるべきだ。

 外貨準備高の減少ペースから考えて、昨年7月から今年7月までの中国からの資本流出額は6千億ドル近くに相当すると推察され、対外純資産(約1.8兆ドル)の約3分の1が流出したことになる。これだけ巨額の資本流出に直面し、今後も同様のペースで資本流出が続くのであれば、中国景気が金融面で大きく下押しされることは不可避となる。中国政府が、さらなる資本流出を懸念するのは自然といえる。

 中国景気の減速感が強まったことで人民元の(事実上の)ドルペッグは維持が難しくなると同時に、資本流出が継続・加速しつつある状況に直面する中国政府は、今後もクリアな対処方法を打ち出せないだろう。景気減速に対応すべく、元安を容認してしまえば、元安期待が強まり海外への資本流出が加速する。各種規制で資本流出に歯止めをかけようとすれば、人民元は割高のままで、輸出を中心に中国景気の減速感がさらに強まる恐れもある。

 中国政府は、景気刺激を目的とした巨額の財政支出に否定的な姿勢を示しているが、この姿勢が続くのであれば、景気減速は続くだろう。この場合、アジア通貨危機の経験から考えて、中国政府は、最終的には、人民元を大きく切り下げる一方で、資本流出を防ぐべく強力な資本規制を実施する状況に追い込まれることになる。

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