2016年10月7日金曜日

限界が近づく中国当局による元買い介入

 中国・人民元は9月半ばから不自然な動きを続けている。人民元の対ドルレート(以下、元レート)は、7月18日に節目とされる6.70を上抜け、2010年10月以来の元安水準を記録したが、7月後半から一転して元高基調が続き、8月半ばには6.61台と2カ月ぶりの元高水準に回復。しかし8月下旬には6.68台まで反落するなど不安定な動きを続けてきた。

 しかし9月に入ると元レートは、6.68近辺で安定的な動きに。9月20日から(原稿執筆時点である)10月7日の期間でみると、元レートは6.665~6.675という非常に狭いレンジで推移している。

 9月20日以降の為替市場では、米連邦公開市場委員会(FOMC)で年内の追加利上げが強く示唆されたこともあり、ドル高基調が続いていることを忘れてはならない。ドル円は100円ちょうど近辺から上昇基調が続き、本日(7日)未明には104円ちょうどまで上昇。ドル指数は95ちょうどから97ちょうどに達している。ドル高基調の中で、人民元が対ドルで狭いレンジで推移しているということは、人民元は他通貨に対し上昇していることを意味する。

 中国景気が一部で予想されていたよりも安定感が増していることで人民元が買い戻されている可能性もある。9月の中国製造業PMIは50.4と2カ月連続で50を超え、2014年10月以来の高い水準を記録。第3四半期の中国GDPは前年比6.7%と、前期並みの伸びを維持するとの見方が強まっている。

 ただ人民元の底堅さの背景には、中国景気の安定化だけでなく、中国当局による元買い介入もある。本日(7日)発表された9月の中国・外貨準備高は3兆1,664億ドルと、前月から200億ドル程度減少し、2011年5月以来の低水準に減少した。中国の外貨準備高は、中国の経常収支や貿易収支は黒字のままであり、外貨準備の減少は元買い介入の実施を意味する。

 中国当局としては、一路一帯(シルクロード)構想の推進や、中国経済の先行き懸念を払しょくする上でも、人民元の大幅な下落を防ぎたいところだろう。外貨準備は減ったとはいえ依然として3兆ドル以上あることから、今後も中国当局は元買い介入をしてでも人民元の下落ペースを緩やかなものにする意向を持ち続けると推察される。しかし中国の外貨準備のうち、元買い介入の原資として利用できるのは一部でしかない。

 米財務省が公表する米国債国別保有残高(Major Foreign Holders of Treasury Securities)によると、中国の米国債保有残高は1兆2,188億ドル (2016年7月)と、日本(1兆1,546億ドル)を抜き世界最大だが、外貨準備高全体に占める割合は4割弱にすぎない。言い換えると、中国の外貨準備の6割以上が米国債以外の資産で構成されていることになる。

 米国債は、発行残高が13兆ドルを超え、数ある金融証券の中でも最大級の発行規模を誇る。このため、たとえ中国が米国債以外の金融証券を大量に保有したとしても、3兆ドルを超す外貨準備の6割(約1.8兆ドル)を米国債以外の金融証券ですべてカバーできているとは考えにくく、米国債を除く金融証券が中国の外貨準備に占める割合は、せいぜい3割程度だろう 。つまり中国の外貨準備のうち、少なくとも3割(約1兆ドル)程度は、債権や株式といった流動性の高い金融証券ではなく、市場で取引されることがない融資や不動産で構成されている可能性は否定できない。この見方が正しいとすれば、中国の外貨準備のうち、元買い介入などで利用できる流動性の高い資産は、最大でも2兆ドル程度と考えられる 。

 ただし、2兆ドル全てが元買い介入に利用できるわけではない。中国は、外国人投資家などによる資金の引き揚げに備え、外貨準備のうち一定額を常に保有する必要があるからだ。中国の国際投資ポジション(2016年6月末)によると、対外負債残高(4.6兆ドル)のうち株式や債券といった証券投資が0.8兆ドル、融資と現預金が0.6兆ドル、計1.4兆ドルある。これらの負債が、中国の国外に全額引き出されるとは考えにくいが、中国から国外への資本流出が強まった2015年には0.40兆ドルの引き出しがあったのも事実である。中国当局は、外国人投資家に対し外貨での支払い能力を示すためにも、外国人投資家による対外負債の引き出しに備えとして、外貨準備のうち1兆ドル程度を保有し続ける必要があるといえる。

 結局、元買い介入の原資として利用可能な外貨準備は1兆ドル程度となる。3兆ドル程度ある中国の外貨準備が、元買い介入などでさらに減少し、5千億ドルほど減った2.5兆ドル程度になれば、中国当局による元買い介入の限界が市場で意識されやすくなるだろう。

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