福島第一、第二原発事故(以下、原発事故)による放射能汚染に対する賠償金の使い道について日本の一部メディアが報じた内容が話題になっているようです。報道では、楢葉町からいわき市に避難した家族が一時、月収200万円になったことを紹介し、現在でも家賃、所得税、住民税、医療費が免除されていると説明しています。また原発事故による避難者が、賠償金を元手に高級外車や高級腕時計の購入や、ギャンブルや遊興に勤しんでいるとも報じられています。また震災から半年は賃貸物件に人気が集中したものの、その後は中古住宅が売れ始め、震災から2年経つと、土地の購入が増えたという不動産業者のコメントも掲載されています。
避難者による浪費の真偽は定かではないにせよ、福島県景気が全国平均に比べ堅調のように見えるのは否定できないと思います。経済産業省が発表する大型小売店販売額をみると、福島県は消費税率引き上げの影響で今年4月は前年比2.4%減に落ち込みましたが、5月は同3.6%増、6月は同2.7%増と2カ月連続の前年越え。一方、全国は4月から3カ月連続の前年割れです。住宅着工件数をみると、2012年以降、福島県は全国平均を大きく上回る伸びを続けています。
東京電力は、原発事故で避難を余儀なくされた個人、法人、個人事業主などに対し、2011年10月から(仮払いではなく本払いとして)賠償金の支払いを始めています。個人に対する賠償金は、避難生活等による精神的損害、就労不能損害、その他実費(避難・帰宅等に係る費用相当額、家賃に係る費用相当額)などに対して支払われています。
東京電力がこれまで支払った賠償金総額は、今年7月25日現在、約4兆1,099億円。そのうち1兆8,002億円が個人に支払われていますが、自主的に避難した個人に対しては別に計3,530億円も支払われており、計2兆1,532億円(総賠償金額の52.4%)が個人に支払われたことになります。
東京電力の資料によると、同社が支払う賠償金の75%が福島県向けであり、そのうち70%が個人向けとあります。福島県在住の個人が受け取った賠償金額は約1兆1,304億円(=2兆1,532億円×75%×70%)と推計され、今年4-6月期は(月によってバラつきがあるものの)月間700億円強が支払われていると考えられます。
福島県在住の個人に支払われた賠償金の一部は預金に回っています。福島県の個人預金残高をみると、原発事故発生以降、増加基調で推移。特に2013年に入ってからは着実に拡大を続けています。
もちろん福島県の個人預金の増加分が全て東京電力から支払われた賠償金によるものではありません。しかし福島県の個人預金の伸びが原発事故以降に全国の伸びを上回り続けていることから、賠償金が個人預金の伸びを後押ししていると考えられます。
東京電力から支払われた賠償金のうち、どの程度が福島県の個人消費や住宅着工に回ったかは、支払われた賠償金から賠償金によって増えたであろう個人預金を差し引くことで推計できます。
たとえば昨年度(2013年度)をみると、支払われた賠償金総額は1兆5,714億円。そのうち福島県在住の個人に支払われたのは約8,250億円(=1兆5,714億円×75%×70%)と推計されます。同年度に個人預金は3,063億円(前年比7.2%)増えていますが、そのうちの一部は賠償金の支払いとは無関係に増えた可能性もあります。そこで、ここでは全国の個人預金の伸び(前年比2.8%増)を賠償金とは無関係に伸びたと仮定し、差分となる1,874億円が賠償金支払いによって増えた個人預金額とします。8,250億円から1,874億円を差し引いた6,376億円が福島県の個人消費や住宅着工に回ったと試算されます。県民一人当たりにすると32万円。2011年度の福島県の県内総生産(GDP)は6兆4,324億円ですから、上記試算によると、東京電力による賠償金支払いによって、福島県の県内総生産(GDP)は9.9%も押し上げられたことになります。仮に個人預金の伸び全てが賠償金支払いによるものと仮定しても、2013年度に福島経済(個人消費と住宅着工)に流入したマネーは5,187億円(=8,250億円-3,063億円)と試算され、2011年度の福島県・県内総生産(GDP)の8.1%となります。
こうした試算は、かなりラフなものですから、賠償金の支払いだけで福島県の経済規模が1割近く押し上げられた、という結果は、やや過大なものである可能性があります。ただ、東京電力による賠償金の規模が莫大であるのも事実で、程度の差こそあれ、東京電力による賠償金の支払いが、福島県経済に大きな影響を与えていることは否定できないと思われます。
2014年8月1日金曜日
2014年7月30日水曜日
強く期待することは難しい7月からの日本景気の回復
30日に発表された6月の日本・鉱工業生産は前月比-3.3%と市場予想を上回る落ち込みとなり、東日本大震災発生後、最も大きな落ち込みとなりました。鉱工業生産の季節調整済み水準は96.7と100を下回り、今年1月に記録した103.9から6.9%も低下したことになります。
生産よりも落ち込みが厳しいのが鉱工業生産者出荷です。6月分は前月比-1.9%と5カ月連続の低下。結果として在庫は季節調整済み水準で110.5と2012年11月以来の水準に積み上がっています。生産と出荷の低下、在庫の積み上がりという現象から機械的に考えれば、日本景気は今年2月から後退局面に入ったかのようにみえます。
ただ日本の金融市場は日本景気の先行きを悲観視していないようです。為替市場ではドル円を始め円相場は鉱工業生産に対し目立った反応を示しませんでした。円債市場は買い優勢(利回り低下)となっていますが、日本株市場は米国株が下落したにもかかわらず小幅ながらプラス圏で推移しています。
日本景気の先行き懸念が高まらない理由として、鉱工業生産と同時に発表された製造業工業予測調査で7月、8月の生産拡大が示されたからと思われます。同調査によると製造工業の生産は7月に前月比+2.5%、8月に同+1.1%と2カ月連続のプラスが見込まれています。生産用機械や化学工業が生産をけん引するとの見通しが示されています。
ただ製造工業予測調査は今年に入って下振れることが恒常化しています。たとえば製造工業生産予測指数は4月から3カ月連続で実績を2%程度下回っています。7月の予測指数は前月調査から下方修正されています。生産予測指数で7月、8月と2カ月連続の増産が示されたからといって、7月からの日本景気の回復を強く期待することは難しいように思われます。
生産よりも落ち込みが厳しいのが鉱工業生産者出荷です。6月分は前月比-1.9%と5カ月連続の低下。結果として在庫は季節調整済み水準で110.5と2012年11月以来の水準に積み上がっています。生産と出荷の低下、在庫の積み上がりという現象から機械的に考えれば、日本景気は今年2月から後退局面に入ったかのようにみえます。
ただ日本の金融市場は日本景気の先行きを悲観視していないようです。為替市場ではドル円を始め円相場は鉱工業生産に対し目立った反応を示しませんでした。円債市場は買い優勢(利回り低下)となっていますが、日本株市場は米国株が下落したにもかかわらず小幅ながらプラス圏で推移しています。
日本景気の先行き懸念が高まらない理由として、鉱工業生産と同時に発表された製造業工業予測調査で7月、8月の生産拡大が示されたからと思われます。同調査によると製造工業の生産は7月に前月比+2.5%、8月に同+1.1%と2カ月連続のプラスが見込まれています。生産用機械や化学工業が生産をけん引するとの見通しが示されています。
ただ製造工業予測調査は今年に入って下振れることが恒常化しています。たとえば製造工業生産予測指数は4月から3カ月連続で実績を2%程度下回っています。7月の予測指数は前月調査から下方修正されています。生産予測指数で7月、8月と2カ月連続の増産が示されたからといって、7月からの日本景気の回復を強く期待することは難しいように思われます。
2014年7月29日火曜日
8月中旬くらいから動きそうな円相場
29日に発表された6月の日本・小売業販売額は前年比0.6%減と3カ月連続の前年割れとなりました。同月同国の二人以上世帯の実質消費も同3.0%減と3カ月連続の前年割れ。消費税率が5%から8%に引き上がってからの3カ月間、日本の消費は低迷を続けていることになります。
メディア等々では足元での消費低迷を「消費税率引き上げ前の駆け込み需要の反動減」が続いている、と表現するかもしれませんが、事実を正確に表現しているとは思えません。CPIが消費税率引き上げ後に前年比3%以上の上昇を続けている一方で、一人当たり名目賃金の伸びが1%を下回る伸びとなれば、消費が低迷するは自然のこと。消費税引き上げ効果を取り除いてもCPIは前年比1%以上の伸びを示しているわけですから、一人当たり名目賃金はCPIの伸びに負けています。仮に消費税率が引き上げられなくても、消費はいずれ低迷すると考えるべきだったと思います。
日本株が伸び悩んでいるのも消費低迷の原因の一つでしょう。日経平均株価は1万5500円台を回復しましたが、それでも年初来4%の下落。昨年は日本株が大きく上昇したことで、いわゆる資産効果が生じ、消費を押し上げましたが、今年は昨年のような資産効果を期待するのが難しい状況です。
6月の日本・失業率は3.7%と前月から0.2%pt上昇しました。職探しを始めた方は増えたものの、人気の高い正規雇用は前年比2万人減と増えないまま。非正規雇用は同36万人増と拡大基調を続けていますが、職探し中の労働者の受け皿になり切れていません。
日銀の黒田総裁は日本景気が7-9月期(第3四半期)には再び成長軌道を取り戻すと言明しているだけに、今回(6月)の結果から動くことはできず、当面は様子見姿勢を維持すると思われます。為替市場は29日に発表された日本の経済指標に大きな反応を示しませんでした。おそらく日銀・黒田総裁と同じように7月の日本の指標を見極めたいとの思惑が強いのでしょう。
ただ、7月に入って日本の消費が6月から一気に拡大している、という報道を目にすることもなく、私の周囲の経済状況にも大きな変化が生じた様子もないことから、7月以降に日本景気が成長軌道を取り戻す、という見方が怪しくなってきた気がします。7月の指標が発表され始める8月の中旬あたりからは、これまで動きが少なかったドル円を含め、円相場が動き始めるかもしれません。ちなみに8月8日は日銀の金融政策決定会合と7月の景気ウォッチャー調査、8月11日は7月の消費者態度指数、8月13日には4-6月期(第2四半期)GDP。がそれぞれ発表されます。
メディア等々では足元での消費低迷を「消費税率引き上げ前の駆け込み需要の反動減」が続いている、と表現するかもしれませんが、事実を正確に表現しているとは思えません。CPIが消費税率引き上げ後に前年比3%以上の上昇を続けている一方で、一人当たり名目賃金の伸びが1%を下回る伸びとなれば、消費が低迷するは自然のこと。消費税引き上げ効果を取り除いてもCPIは前年比1%以上の伸びを示しているわけですから、一人当たり名目賃金はCPIの伸びに負けています。仮に消費税率が引き上げられなくても、消費はいずれ低迷すると考えるべきだったと思います。
日本株が伸び悩んでいるのも消費低迷の原因の一つでしょう。日経平均株価は1万5500円台を回復しましたが、それでも年初来4%の下落。昨年は日本株が大きく上昇したことで、いわゆる資産効果が生じ、消費を押し上げましたが、今年は昨年のような資産効果を期待するのが難しい状況です。
6月の日本・失業率は3.7%と前月から0.2%pt上昇しました。職探しを始めた方は増えたものの、人気の高い正規雇用は前年比2万人減と増えないまま。非正規雇用は同36万人増と拡大基調を続けていますが、職探し中の労働者の受け皿になり切れていません。
日銀の黒田総裁は日本景気が7-9月期(第3四半期)には再び成長軌道を取り戻すと言明しているだけに、今回(6月)の結果から動くことはできず、当面は様子見姿勢を維持すると思われます。為替市場は29日に発表された日本の経済指標に大きな反応を示しませんでした。おそらく日銀・黒田総裁と同じように7月の日本の指標を見極めたいとの思惑が強いのでしょう。
ただ、7月に入って日本の消費が6月から一気に拡大している、という報道を目にすることもなく、私の周囲の経済状況にも大きな変化が生じた様子もないことから、7月以降に日本景気が成長軌道を取り戻す、という見方が怪しくなってきた気がします。7月の指標が発表され始める8月の中旬あたりからは、これまで動きが少なかったドル円を含め、円相場が動き始めるかもしれません。ちなみに8月8日は日銀の金融政策決定会合と7月の景気ウォッチャー調査、8月11日は7月の消費者態度指数、8月13日には4-6月期(第2四半期)GDP。がそれぞれ発表されます。
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