2017年3月23日木曜日

円高リスクに備え何もしないとみるべき日銀の金融政策

 日本銀行(日銀)は、次のネガティブイベントに備えるべく、当分、何もせずに過ごすようだ。

 日銀は昨日(3月22日)、金融政策決定会合・議事要旨(1月30、31日開催分)を公表した。同議事要旨によると、大方の政策委員は、2%の「物価安定の目標」(2%目標)に向けたモメンタムは維持されているが、なお力強さに欠け、引き続き注意深く点検していく必要があるとの見方で一致。2%目標の実現までにはなお距離があることを踏まえると、現行の金融市場調節方針を堅持し、強力な金融緩和を粘り強く推進することで、2%に向けたモメンタムをしっかりと維持していくことが重要であるとの認識を共有したという。ちなみに、ある政策委員は、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)を中心とする現行の枠組みは所期の効果を発揮しており、その運用についても市場は冷静に受け止めているとの認識を示したという。

 1月のCPI(除く生鮮食品)は、前年比+0.1%と13カ月ぶりに前年越えとなったが、これは前年(2016年)に原油価格が大きく下落した反動の面もある。生鮮食品とエネルギーを除いたCPIは、前年比+0.2%と11カ月連続で1%未満の伸び。大方の政策委員が指摘するように2%目標の実現までの距離は長い。

 ただ今の日銀は、2013年や2014年の頃と異なり、2%目標の達成時期が2018年度頃になる可能性が高いとしており、目標達成を急ぐ必要がない。トランプ米大統領が、日銀の金融緩和策を円安誘導であると批判したこともあり、今のタイミングで金融緩和を強化するのは具合が悪い。また、だからといって、バランスシートの拡大ペースを抑制すべく、金融緩和縮小に動いてしまうと、円債市場の混乱や円高進展といったリスクが高まる。

 金融政策決定会合の声明でも示されているように、足元の日本景気は安定感を増している。国際金融市場の混乱や海外景気の失速など、国外を中心にリスク要因は存在するものの、日銀を取り巻く国内環境は、日銀にとって居心地の良いものと言える。希望的観測に過ぎないとの辛辣な見方も多いが、国外リスク要因が顕在化しなければ、現行の金融緩和を長期間続けることで、2%目標を達成する可能性もゼロではないように思える。

 日銀が新しいアクションを取るとすれば、それは国外リスク要因が顕在化した時だろう。足元で日銀にとって懸念されるのは円高の進展である。3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げペースの加速を示唆するとの期待を背景に、ドル円は3月10日に115円を上抜けしたが、その後は下落基調で推移。昨夜(3月22日の夜)は、一時111円を割り込み、昨年11月22日以来の安値を記録した。

 米国では、医療保険制度改革法(オバマケア)代替法案の本会議採決が現地時間23日に控えている。一部報道によると、共和党の保守派メンバーで構成する「下院自由議員連盟」を中心に同法案には25名以上が反対しているといわれており、このままだとオバマケア代替法案は否決される。この場合、為替市場ではトランプ政権による財政刺激期待が大きく後退し、ドル売りの動きが強まる。

 本日(3月23日)の東京市場では、ドルを買い戻す動きが続き、ドル円は111円台半ば近辺まで上昇したが、ドル円は、50日移動平均や100日移動平均を大きく下回り、トランプラリーといわれる昨年11月上旬から12月半ばにかけての上昇(101.2円から118.7円までの上昇)の38.2%戻し水準である112円ちょうども下回っている。オバマケア代替法案が否決となれば、ドル円はトランプラリーの半値戻し水準である109.9円(ラフに言えば110円ちょうど)割れを目指す動きが予想される。

 仮にトランプラリーが解消されるようなことになれば、日銀は何らかの追加緩和を検討する準備に入るとみるべきだ。ただマイナス金利政策に対する批判は続いており、日銀のバランスシートの拡大ペースをさらに加速することも現実的には難しい部分が多く、日銀に残された追加緩和策は少ない。日銀の追加緩和は難しいとの見方が市場に広がれば、円高がさらに進展する恐れもある。そうした展開に備える意味でも、何もせず次に備える、という選択肢が今の日銀にとって最適なのだろう。