2014年1月31日金曜日

仮想通貨「ビットコイン」、日本で普及するか 専門家に聞く (産経新聞)

裾野の広がりを予感

――ビットコインの魅力は

 「インターネット上だけで流通し、物理的な保管コストはほぼゼロ。決済のほか、国境をまたいで迅速に送金できる利便性が評価されている。世界には金融機関に口座を持っていない人の方が圧倒的に多いが、携帯電話さえあれば取引できる点も魅力だ。通貨として流通する可能性はゼロではない」

――世界で利用者が拡大している

 「需要が供給を上回るペースで増え価格が上昇したことが大きい。きっかけは昨年3月のキプロスの銀行課税。キプロス政府が銀行預金を封鎖し、残高に応じた課税を決めた際、逃げ場がビットコイン以外になかった。電子上で決済でき、政府にも把握されないということで注目され、1ビットコイン=10ドル程度から200ドルまで上がった。供給はマイニングと呼ばれる計算作業を通じて緩やかにしか増えないが、キプロス問題で投機対象としても世界の認知度が加速度的に広まり、昨年秋には1200ドルまで高騰した。新たな富の受け皿となった格好だ」



――リーマン・ショック後に日米欧が金融緩和政策に動いた影響もあるか

 「暗号化処理などビットコインの技術概念は以前からあったが、通貨として使える提示をしたのがたまたま08年だったので、そこまで因果関係は強くない。ただ、反体制的な思想に基づく仕組みなので、構想のバックボーンだったかもしれない」

――米当局は有望視する一方、中国やインドは警戒感を強めている

 「資本規制をかけている新興国は国境を無視して資本移動されるリスクをとりたくない。米政府も資金洗浄(マネーロンダリング)などに使われるリスクがあるので抑えるかと思ったが、肯定的な姿勢をとったのは次の戦略産業を常に探す姿勢を徹底しているからだろう。ビットコインの裾野が広がることを予感させる流れだ」

――日本で普及する可能性は

「意見が分かれるところだが、電子マネーとしてより投機的な金融商品としての扱いから広がりが出ることはあり得る。前向きにやるためにも、消費者保護的観点で政府が何らかのアクションをとってもいいのではないかと思う」

――一時的なブームにならないための条件は

 「貨幣も金も同じだが、価値の根本はネットワーク効果でみんなが使うか使わないか。息の長い現象、社会インフラのひとつにまで発展するかはユーザー数の伸びにかかっている。それを決めるのは当局の規制ではなくニーズだ。読み切れないが、6割くらいの確率で広がると思っている。ただ、そうなれば既存の銀行やクレジット会社の収益基盤が大きく損なわれるリスクも出てくる」(万福博之)

【プロフィル】村田雅志 むらた・まさし 昭和45年、埼玉県生まれ。43歳。東京工業大学院修了、米コロンビア大学院修了。三和総合研究所などを経て米系銀行で通貨ストラテジスト。著書に「ドル腐食時代の資産防衛」など。

*本稿は産経新聞(2014年1月31日)に掲載されたものです。

2014年1月20日月曜日

「政治の季節」迎える新興国通貨の投資リスク(ロイター)

今年前半の新興国通貨は、昨年後半に引き続き対ドルで軟調な推移が続くと予想される。先進国景気は米国を中心に底堅く推移すると思われるが、新興国景気は中国の回復ペースが緩慢なこともあり大きく拡大することは期待しにくい。
 
米連邦準備理事会(FRB)が資産買い入れ、いわゆる量的緩和(QE)の縮小を続けることも新興国通貨の下押し要因となる。FRBはQE縮小でも金融緩和を維持と説明しているが、昨年5月にバーナンキFRB議長がQE縮小の可能性を示してからの市場の反応を見ると、新興国投資のポートフォリオ構成に少なからぬ影響を与えていると考えたほうが自然だ。QE縮小の継続により米債利回りの上昇圧力が今後も強まれば、新興国からの資本流出懸念が続くことになる。
 
ただ、こうした環境下であったとしても、新興国通貨が一方的に対ドルで下落するわけではなく、買い戻される場面も出てくるだろう。市場関係者の多くは今年の先進国景気を比較的楽観視しているが、経済指標などを通じて先行き懸念が少しでも強まれば、下落した新興国通貨を見直す動きも出やすくなる。
 
年後半に入れば、新興国景気の回復期待も強まりやすくなるだろう。年前半に新興国通貨が軟調な推移となれば、通貨安効果で輸出が刺激される。先進国景気の拡大が続けば、一部の新興国への波及効果も期待しやすくなる。しかし、景気回復期待が強まったとしても、新興国通貨を買い戻す動きが大きく強まることは期待できない。年後半に入ると、2015年の米利上げ観測を背景に米債利回りの上昇圧力が強まりやすくなる。新興国への資本流入は米債利回りの上昇で抑制される状態が続くと思われる。
 
今年はいくつかの新興国で選挙が実施されることに注意を払う必要がある。具体的には、タイ、南アフリカ、インド、インドネシア、トルコ、ブラジルだ。新興国では内政の不確実性が経済政策の失敗につながることが多い。選挙結果によって市場の見方が大きく変わり、大きな混乱が生ずる恐れもある。以下、大型選挙を控える上記6カ国の政治情勢と経済ファンダメンタルズについて、注目すべき点を整理した。
 
<タイ:景気減速感が強まる恐れ>
 
タイでは原稿執筆時点では2月2日に総選挙が実施される予定だが、インラック首相が反政府デモ拡大を受けて総選挙を延期するとの見方が強まっている。
 
インラック首相は当初、議会解散で反政府勢力に譲歩しながらも、総選挙実施で権力基盤の再構築を狙っていたようだ。しかし、反政府勢力は現政権の即時退陣を要求しており、デモ隊が税関をはじめとする政府施設を包囲するなど、勢いは増す一方だ。一部メディアはインラック首相がプラユット陸軍司令官に電話で辞意を示唆したものの、その後、辞意を撤回したと報じた。総選挙を経ずに政権が交代する可能性も出てきた。
 
反政府勢力の勢いがさらに増し、政局の先行き不透明感が強まれば、景気にも悪い影響が出てくるだろう。昨年第3四半期の国内総生産(GDP)は前年比2.7%増と2四半期連続で減速するなど、タイ景気は反政府デモが拡大する前から減速している。
 
タイ中銀は昨年11月に市場予想に反し25ベーシスポイント(bp)の利下げを実施したが、景気減速を背景に追加利下げに踏み切るとの見方も根強い。現政権が計画した大規模インフラ投資計画が中止に追い込まれるようだと、景気の減速感はさらに強まるだろう。
 
<南アフリカ:高まる通貨安圧力>
 
南アフリカでは4月に総選挙が予定されている。与党アフリカ民族会議(ANC)の支持率はここ数年で低下しているものの、総選挙で敗北することはないと思われる。注目すべきは、総選挙前後の財政赤字の動向だ。
 
ANCは総選挙を控え、景気刺激策として財政拡大路線を強める可能性がある。また、たとえ総選挙後であっても、ANCの得票率が09年の総選挙で獲得した65.9%を大きく下回り、60%を下回るようだと、財政を拡大させることで支持率の引き上げを狙う可能性もある。財政赤字の拡大は、同国の格下げリスクを通じ、南アフリカ・ランドの下押し圧力を高めるだろう。
 
南アフリカのインフレは景気低迷を背景に鈍化傾向で推移している。このまま同国のインフレが鈍化を続けるようであれば、南ア中銀は利下げに踏み切ると思われる。ただ、鉱山や自動車工場でぼっ発した労働者ストの影響もあって社会不安は強まったままだ。たとえ利下げが実施されたとしても、消費や設備投資が早期に拡大するとは考えにくく、単に南アフリカ・ランドの下押し圧力が増すだけと思われる。
 
<インド:財政懸念に注意必要>
 
インドでは5月に総選挙が実施される。昨年12月の地方選挙で、野党インド人民党(BJP)が複数の主要地域で勝利したことから、10年間にわたる国民会議派の連立政権時代が終焉するとの見方が強まっている。ただし、仮にBJPが総選挙に勝利したとしても、インド経済の先行きに対し過度な楽観視はすべきではない。同国は多くの構造問題を抱えており、いずれの政党が政権を握っても構造問題を早期に解決することは難しい。
 
これはインド中銀に対しても同じことが言える。市場はラジャン中銀総裁に対し強い期待を抱いているようだが、金融政策だけでインドのファンダメンタルズが大きく改善するとは考えにくい。
 
インドの財政懸念にも注意が必要だろう。総選挙を前に現政権が財政拡大策をとる可能性は十分にある。財政赤字の拡大は南アフリカと同様にインドの格下げリスクを高めることになる。
 
<インドネシア:持続的な通貨高は期待薄>
 
インドネシアでは4月に総選挙、7月に大統領選挙を控えている。世論調査によると、総選挙ではメガワティ前大統領率いる野党の闘争民主党(PDIP)が勝利する可能性が高い。一方、大統領選では現職のユドヨノ大統領が規定により3期目の立候補ができない。有力候補としてはPDIPのメガワティ前大統領に加え、ジャカルタ特別州のジョコウィ知事が注目されている。
 
ジョコウィ知事は新時代のリーダーとしてカリスマ的な人気を誇っている。世論調査では同知事の支持率は2位を20%以上引き離しており、民主党やゴルカル党など他党の支持層からも支持を集めている。ただ、知事自身は大統領選への出馬について明確な姿勢を示していない。
 
仮にジョコウィ知事が大統領選に出馬すれば当選する可能性が高いだろう。同知事は軍や財閥といった既得権益層との関係が薄く、汚職撲滅に尽力した実績も持つ。また、外資系企業の許認可手続きなどで透明性を高める姿勢を示していることから、大統領に当選すれば市場は好感し、インドネシア・ルピアが買われる場面も出てくるだろう。
 
しかし、同国の成長率は利上げの影響もあって潜在成長率を下回っている。高インフレや経常赤字縮小の遅れなどもあって、大統領選がどのような結果になっても、インドネシア・ルピアの上昇基調が続く展開は考えにくい。
 
<トルコ:米債利回り上昇に脆弱なリラ>
 
トルコでは3月に地方選、8月に大統領選挙が予定されている。足元ではエルドアン政権を巻き込んだ汚職疑惑が表面化するなか、首都アンカラを含む15の県の警察トップが一斉に更迭されるなど政情不安が指摘されている。エルドアン首相は大統領権限を強化する政治制度への移行に前向きであることから8月の大統領選に出馬するとの見方が強まっているが、政局不安を背景に3月の地方選の結果次第では出馬を取りやめる可能性もある。
 
昨年11月のトルコ経常収支は39.4億ドルの赤字と市場予想を上回る改善となり、対外収支悪化に歯止めがかかってきた。ただ、トルコの対外ファイナンスは証券投資に依存する割合が高く、トルコ・リラの値動きは市場のセンチメントに左右される状態のままである。
 
トルコ中銀はドル売り介入でトルコ・リラの下落を抑制しようとしているが、同国の外貨準備は他新興国に比べ規模が小さく、無制限に介入が続けられるわけではない。トルコ中銀が利上げに踏み切るまでトルコ・リラは米債利回りの上昇に脆弱な動きを続けると思われる。
 
<ブラジル:追加利上げで景気下押しも>
 
ブラジルでは10月に総選挙と大統領選が実施される。ルセフ現大統領が再選されるとの見方が根強いが、ペルナンブコ州知事として知名度の高いブラジル社会党のカンポス氏が、前回総選挙で2000万票も獲得したシルバ氏と連携したことで、政権交代の可能性も捨てきれない。
 
落ち着きを見せていたブラジルのインフレ圧力が再び強まる兆しを示している点にも注意が必要である。昨年12月のブラジル拡大消費者物価指数(IPCA)は前年比プラス5.91%と市場予想を上回る伸びとなった。ブラジル中銀はインフレ圧力を抑制すべく今月16日に市場予想を上回る50bpの利上げに踏み切ったが、ブラジル・レアルが軟調に推移すれば、輸入物価の上昇を通じインフレ圧力が高止まりし、追加利上げを迫られる展開もあり得る。さらなる利上げはブラジル景気を下押しし、ルセフ現大統領の支持率低下にもつながりかねない。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPTYEA0J01Y20140120?sp=true

2013年12月24日火曜日

仮想通貨「ビットコイン」、誤解される真価 (トムソンロイター)

インターネットでしか流通しない仮想通貨「ビットコイン」の注目度が高まっている。価格が急上昇後に大きく下落したことから否定的にとらえる見方もあるようだが、筆者は様々なリスクの内在を承知の上で、あえて肯定的な見方をとっている。
 
ビットコインは、2008年11月に正体不明の「サトシ・ナカモト」名義で公表された論文をベースにしたオンライン通貨の名称だ。10年5月にあるプログラマーが、オンラインフォーラムで1万ビットコインとピザを交換することを呼びかけたのが取引の始まりとされている。
 
このオンライン通貨はドルや円のように法的に定められたものでもなく、中央銀行や政府機関によって発行されるわけでもない。取引の正当性の確認は、マイニング(採掘)と呼ばれる計算作業を通じて行われ、同作業に協力した者(マイナー=採掘者)には一定量のビットコインが交付される。ただ、最大発行量はプログラムにて2100万と決められており、既存の貨幣のように発行量が無制限ではない。イメージとしては、発行主体があるわけではなく、地球上に一定量だけ存在する金、プラチナといった貴金属に近い。
 
ビットコインは、暗号化されたデジタル情報でしかなく、既存の貨幣のようにコインや紙幣といった物質(モノ)ではない。その保管や送受信には、ウォレットと呼ばれるフリーのソフトウェアが使われ、取引データはP2Pと呼ばれる分散型ネットワークに記録される。ウォレット利用のために本名などのプライバシー情報を開示する必要はなく、メールアドレスを登録すればよい。このため行政当局は個々人の取引状況を把握することができず、取引を強制的に停止したり、課税することも難しくなる。こうしたことから、ビットコインは国家による管理から自由であるといわれているが、アングラマネーのロンダリングに使われるとの批判もある。
 
<否定論者がはまったトートロジー>
 
ビットコインを入手するには、別の保有者から購入するほか、取引所と呼ばれる両替サービスを利用する方法がある。また、上述したマイニングに参加することで入手する方法もあるが、現在ではマイナーが多数になったほか、計算に要する時間やコストが莫大となったことから現実味を失いつつある。
 
ビットコインは金融機関を通さずにインターネット上で取引されることから、通貨における送金に該当する送付が容易かつ短時間で完了する。送付の際に送金手数料に該当するコストが発生するが、金融機関で発生する手数料に比べ非常に少額となる。なお、送付の際に発生したコストもビットコインで支払うことになるが、そのコストはマイナーに配分される。
 
容易かつ短時間で送付できるというメリットなどを背景に、ビットコインのユーザー数は急速に拡大している。ユーザー数と比例関係にあると思われるウォレットのユーザー数は、今年初めに10万を超えたが、原稿執筆時点では90万超に達している。一日当たりのビットコイン取引数は、今年初めの2―3万件から12月には7―9万件に増えている。
 
ビットコインが大きく注目されたきっかけは、価格上昇である。流通し始めた当初は1セントに満たない額だったが、その後上昇を続け、今年の初めには10ドル前後に到達。3月には財政危機に陥ったキプロス政府が銀行預金を封鎖し、同預金への課税を検討すると、国家の管理下にないとされるビットコイン価格は200ドル台に急上昇した。その後やや下落し、100ドル前後での推移が続いたが、10月以降再び上昇し、11月下旬には1000ドル、そして12月4日には1200ドルを超えた。あくまで仮定の話でしかないが、今年初めにビットコインを購入していれば120倍(3月にキプロス騒動時に購入していたとしても6倍)のリターンが得られたことになる。
 
しかし、その後、価格が急落したことで将来性について否定的な見方が増えているのも事実だ。
 
ビットコイン価格が1200ドルを超えた翌日、中国人民銀行が同国内の金融機関に対してこのオンライン通貨を利用した金融サービスを禁止するとの通達を出したことで、一時500ドルを割り込む水準まで下落。原稿執筆時点では700ドル程度に反発したが、わずか2週間で6割近くの価値が消滅したことで、ビットコインをバブル的な存在とみなす論調が増えてきた。
 
もともと何もないところから始まったビットコインに価格がつくことに違和感を覚えるのは理解できなくもないが、需要が増えているのも事実である。また、ビットコインの価格上昇の主要因は、供給がマイニングを通じて緩やかにしか増加しない一方、需要は知名度の高まりとともに急激に増えたためだ。そうしたなか、中国人民銀行の通達のように先行き不透明感を強めるイベントが発生し、需要が後退すれば、価格が急落するのも不思議なことではない。
 
ビットコイン需要増の背景に投機目的があるのは否定しないが、認知度が高まったとはいえユーザー数が100万にも満たない状況では、価格が需給動向によって大きく上下動するのは避けられない。ましてやインターネット上でしか取引されないことから、需給動向の変化スピードは他の実物資産に比べ早い。こうした状況を顧みず、価格変化の大きさを根拠にバブル視するのは、結局のところ、ビットコインは無価値であることを前提として、現在の状況をバブルと断じ、ゆえに無価値であると結論づけるのと同じだ。これは、単なるトートロジーに過ぎない。
 
政府や中央銀行といった機関による保証や法的根拠がないことを理由に、ビットコインの存在意義を認めないとする意見も説得力を持たない。貨幣の信認は本質的には消費者や企業といった主体から発生するものであり、政府・当局機関による保証や法律が貨幣信認の根源にはなり得ない。たとえ通貨が法的に認められたとしても、ハイパーインフレなどの形でその価値が崩壊する可能性があることを歴史は何度も示している。当局機関の保証のないことを根拠に将来性を否定する見方は、貨幣信認の本質を理解していないだけでなく、何もないところから生まれたビットコインが一定規模で取引されているという事実を無視している。
 
<マイクロファイナンスとの親和性>
 
ただ、ビットコインの先行きを過度に楽観視することも避けるべきと思われる。特にドルや円といった既存の通貨にとって代わるという見方について筆者は否定的である。その仕組みゆえに、いくつかのリスクを包含するからだ。
 
誰もが気づくリスクの一つは価格変動の激しさである。上述したように供給は緩やかにしか増加しない。一方で、需要はインターネットという手軽なインフラを利用しているがゆえに短期間で大きく増加し、価格が再び急騰する可能性は否定できない。
 
また、中国のように他政府・当局が新たな規制を示すといったイベントで、需要が大きく後退し、価格が急落する可能性ももちろんある。加えて、取引所でのサーバートラブルなどで取引が難しくなる可能性もある。換金性が低下したことで価格が急落することも想定しておくべきだろう。
 
技術的なリスクも考慮に入れる必要がある。偽造が難しい仕組みになっているものの、今後も偽造されないという保証はない。何らかのブレークスルー技術によって、偽造が容易となれば、その途端に価値はゼロに近づくことになる。また、取引の認証作業を担うマイナーが、マイニングコストの増加などによって減少し、取引認証に時間がかかる可能性もある。
 
ビットコインに代わる新しい仮想通貨が出現する可能性も否定できない。利便性を有しつつも、値動きがより緩やかとなる仕組みを備えた新たな仮想通貨により、ビットコインに蓄えられた富が新しい仮想通貨にシフトすることもあり得る。
 
こうしたリスクを考慮すると、ビットコインがドルや円といった既存の通貨を駆逐すると考えるのは無理があるように思える。しかし、その利便性は非常に魅力的であり、今後も認知度の向上とともにビットコインの普及は広がると期待してもいいと思われる。
 
金融機関に口座を保有していなくても、非常に低い手数料で送金を可能にするというビットコインのメリットは新興国で生活する人々にとって非常に魅力的だ。すでに携帯電話によるマイクロファイナンスは新興国で普及が進んでおり、その一手段として利用される展開も期待できる。
 
たとえ金融機関に口座を保有していても、インターネットというグローバルネットワークを利用した送金が可能という利点は大きい。グローバル化の進展で先進国から新興国へのアウトソーシングの動きは続いているものの、賃金などを新興国に送金する際には多額の手数料が発生するほか、送金完了までの時間がかかるといったデメリットが解決されないままである。低額かつ短時間で送金が可能なビットコインは、ビジネス界でのグローバル化の流れに非常にマッチしたものといえる。
 
<バーナンキFRB議長が示した理解>
 
価格が不安定であることから普及しないとの見方があるのは承知しているが、価値(富)保蔵の観点でも利点の大きいものと思われる。既存通貨で価値を保存してもインフレによって毀(き)損するゆえに、金やプラチナといった貴金属で価値を保存するという行為は世界的に一般化している。しかし、保存すべき価値が大きくなると、貴金属の体積も大きくなり、デリバリーや保管が難しくなるというデメリットがあるほか、政変などによって政府・当局に価値を没収されるリスクも高まる。
 
ビットコインであれば、物理的にはデジタルコードでしかなく、価値がどれだけ大きくなってもデリバリーも保管も容易なままである。また、政府・当局に価値を没収されにくい。今年3月にビットコイン価格が大きく上昇したのは、銀行預金への課税という形で財産の一部が没収されるのを懸念したキプロスの富裕者層がビットコインに価値を移したからだという見方は、それなりに真実味のあるものと思える。
 
ビットコインの普及が進めば、すでに一部で実施されている同通貨を用いた購買行為がより広がりをみせ、関連インフラ需要が喚起されるほか、取引所などといった関連事業も拡大することが期待される。
 
米上院国土安全保障・政府問題委員会は11月、仮想通貨のリスクや保証などに関する公聴会を開催。委員長のカーパー上院議員はEメールやインターネットを例に出し、当初は理解しがたいものだったが今では様々な利便性をもたらしていると発言。米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長も同委員会に宛てた書簡の中で、1995年にブラインダー元FRB副議長が行った議会証言を引き合いに出し、(仮想通貨は)法執行や監督業務のリスクとなる可能性はあるものの、イノベーションが支払いシステムの迅速性や安全性、効率性の向上を促すならば、長期的展望を持てる分野もあると指摘した。
 
政府や中央銀行といった規制当局の立場からすれば、ビットコインの違法性を指摘し、場合によっては規制を検討するのが自然のようにも思える。しかし、カーパー上院議員やバーナンキ議長の発言からうかがえることは、ビットコインを単なる異物として扱うのではなく、次世代のリーディング産業になり得る可能性を示したことだ。ビットコインを頭ごなしに否定する方々は、規制当局であっても可能性を否定しない米国人気質に敬意を表してもよいように思える。
 
*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。
 
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
http://jp.reuters.com/article/jp_fed/idJPTYE9BN05N20131224