2017年11月17日金曜日
金融庁はICOを事実上否定 仮想通貨は発展を続けるか?
金融庁は10月下旬より、仮想通貨関連事業への規制・監督を強化する姿勢を示している。今後、日本企業によるICO(Initial Coin Offering)は大きく制約されることになり、仮想通貨交換業者(仮想通貨取引所)に対する規制・監督の流れは強まるだろう。ただ金融庁が、仮想通貨関連事業に関し、明示的なスタンスを明らかにしたことで、仮想通貨関連事業は、他金融サービスと同じ位置づけを得る機会を得たと考えられ、長期的には日本における仮想通貨関連事業が、さらに発展する展開も期待される。
金融庁は10月27日、「ICOについて利用者及び事業者に対する注意喚起」と題したペーパーを公表した(http://www.fsa.go.jp/policy/virtual_currency/06.pdf)。ICOとは、資金を調達したい企業などが「トークン」と呼ばれる新しい仮想通貨を独自に発行し、投資家が保有するビットコインやイーサリアムといった広く普及している仮想通貨と交換することだ。企業はトークンと交換して得た仮想通貨を、ドルや円といった通常の通貨と交換することで資金を調達できる。またトークンを取得した投資家は、トークンの値上がり益を期待することができる。
金融庁のICOに関する注意喚起は、利用者向けと事業者向けの二つで構成される。利用者に対しては、ICOで取得したトークンの価格が下落する可能性があるほか、ICOで記載されたプロジェクトが詐欺である可能性があるとし、トークンを購入するに当たってはリスクや内容を十分に理解したうえで自己責任での取引が必要であるとした。
事業者に対しては「ICOへの規制について」として、以下のような注意喚起がなされた(全文抜粋)。
●ICOの仕組みによっては、資金決済法や金融商品取引法等の規制対象となります。
●ICO事業に関係する事業者においては、自らのサービスが資金決済法や金融商品取引法等の規制対象となる場合には、登録など、関係法令において求められる義務を適切に履行する必要があります。
●登録なしにこうした事業を行った場合には刑事罰の対象となります。
●ICO において発行される一定のトークンは資金決済法上の仮想通貨に該当し、その交換等を業として行う事業者は内閣総理大臣(各財務局)への登録が必要になります。
●また、ICO が投資としての性格を持つ場合、仮想通貨による購入であっても、実質的に法定通貨での購入と同視されるスキームについては、金融商品取引法の規制対象となると考えられます。
●ICOへの規制についてご不明な点があれば、まずは、資金決済法上の仮想通貨交換業者を所管する以下の相談窓口にご相談ください。必要に応じて、他の事業者(金融商品取引業者等)を所管する担当課へおつなぎします。
上抜粋を簡単に要約すれば、(仕組みによっては、という逃げ道が与えられているものの)ICOは規制対象であり、法律や規制に対応しない事業者は罰則を受ける、ということだ。
これまでICOは、資金調達をする事業者にとって非常に使い勝手の良いものと見なされていた。事業者は、インターネット上でホワイトペーパーと呼ばれる事業計画書を提示すれば、原則、世界中の投資家を相手に資金調達が可能で、IPO(Initial Public Offering、新規株式公開)のように証券会社や証券取引所の審査を経る必要もない。またICOによって発行されたトークンは株式ではないので、トークンを受け取った投資家が企業の経営に介入する恐れもない。
ただICOのこうした仕組みは、従来型の資金調達方法に比べ問題が多い。ICOにおける投資家の立場は非常に脆弱だ。ICOにおける投資家の判断は、発行企業が作成・提示するホワイトペーパーによるところが大きく、発行企業の悪意に基づく詐欺事件はすでに数多く発生しているという。またICOは非合法組織による資金調達を可能にする。
ICOが資金決済法や金融商品取引法等の規制・監督の対象であると金融庁が明確に示したことで、日本企業の多くはICOの実施を控えるようになるだろう。ICOが規制・監督下に入るのであれば、ICOのための事務作業の煩雑さがこれまで以上に大きくなり、ICOは従来型の資金調達と事実上、同じになる。
また金融庁は11月10日、金融行政方針を公表した(http://www.fsa.go.jp/news/29/2017StrategicDirection.pdf)。同方針では、業態別の法体系から機能別・横断的な法体系への見直しの検討を実施すると明示され、16日の金融審議会(金融審)の総会では、金融機関の業態ごとになっている現在の法体系を改め、金融サービスごとに規制や法体系のあり方を検討する研究会の設置が決まった。
現在、金融事業に関する法律は、銀行、保険、クレジットカードなど業態ごとに制定され、規制・監督がなされている。つまり、たとえ同じようなサービスであっても、事業者に適用される法律や規制は、事業者の業態によって異なる。銀行であれば銀行法が適用される一方、資金移動(送金)業やプリペイドカード業であれば資金決済法が適用される。銀行は、銀行法に基づき銀行免許を取得する必要があり、自己資本規制もあるが、資金移動業者やプリペイドカード業者は、資金決済法に基づき金融庁に登録をするだけでよく、自己資本規制はない。
しかし資金送金業者とプリペイドカード業者には、同じ法律が適用されるものの、資産保全に関する規制で違いがある。資金送金業者は、顧客から預かった送金途中の資金を全額保全(供託)する必要があるが、プリペイドカード業者は、顧客から預かった資金(未使用分)の半額以上を供託すればよいことになっている。
こうした状況のままでは、金融事業に新規参入する事業者には、規制が緩い業態に進出したり、規制の対象外の事業を名乗ることで規制を回避するインセンティブが働くことになる。一方、銀行など既存の金融事業者は、業態を超えた新しい事業や活動が、適用される規制・監督によって新規事業者よりも不利な状態に置かれる恐れがある。
そこで金融庁は、金融の機能を決済、資金供与、資産運用、リスク移転などに分類し、規制・監督の内容を機能・リスクに応じたものに変更することや、「お金」の定義など金融に関する基本的な考え方(概念)やルールを統一化し、金融事業に関するすべての法律に適用することを検討するとした。
同方針では、仮想通貨についても言及されている。ICOに関しては、10月27日の注意喚起と同様の内容が記載されており、仮想通貨交換業者に対しては、システム面を中心とした高度な業務管理を求めている。具体例としては、仮想通貨交換業者は利用者保護を図るための態勢を整備するほか、適切なリスク把握に基づいたシステムリスク管理態勢の整備、マネー・ローンダリングなどの不正行為を防止するための実効的な対策を検討・実施を求めている。
金融庁が、仮想通貨交換業者に対し、具体例をあげながら規制・監督を強化する姿勢を見せたことを否定的に捉える見方があるかもしれない。しかし一般の方にとって仮想通貨は、仕組みが複雑であるほか、歴史が浅いこともあって、現時点では一般社会において信頼度の高い金融サービスとは言い難い。2014年におきたマウントゴックス破綻事件も、仮想通貨に対する印象を依然として悪くしているかもしれない。
むしろ金融庁が、仮想通貨に関し、規制・監督をしていくとコミットしたことは、仮想通貨関連事業者にとって朗報のように思われる。金融庁が仮想通貨に対し規制・監督する姿勢を明確化したことで、仮想通貨は他金融サービスと(ほぼ)同じ位置づけとなる。金融関連法制が業態別から機能別の体系となれば、仮想通貨と他金融サービスの心理的な垣根はさらに低くなるだろう。こうなれば、一般の方にとって、仮想通貨が特別なものではなくなる可能性が開ける。
仮想通貨関連事業が発展するには、一般の方の仮想通貨に対する心理的なハードルが低くなるだけでなく、関連事業者が当局の規制・監督のもと、良質なサービスを提供することも必要となる。どんな事業であれ、事業者とすれば行政当局から規制・監督されることは本来、好ましいことではない。しかし利用者の資産保全の観点から考えると、仮想通貨関連事業が規制・監督の外で広がることは許容され難い。仮想通貨関連事業者は、金融庁が提示する規制・監督をクリアすることが、良質なサービスを提供する体制構築につながると考えるべきだろう。
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