2017年12月11日月曜日

期待通りの働きは当面期待できないビットコインの先物市場



 米CBOEグローバル・マーケッツが運営するシカゴ・オプション取引所(CBOE)は、米中部時間10日17時(日本時間11日午前8時)にビットコインの先物取引を開始した。期近(1月限)先物価格は15460ドルで始まり、日本時間午前10時ころまで16000ドル付近で上下動を繰り返していたが、日本時間午前10時を過ぎると上昇基調で推移。日本時間午後5時現在の価格は18800ドル近辺と、清算(スポット)価格(16880ドル)を11.4%ほど上回っている。

 先物価格が短時間で急上昇したことで、CBOEは取引開始2時間半後と4時間後の2度にわたり取引を一時停止。CBOEのウェブサイトは、アクセスが急増したことで表示の遅延や停止が生じた。ビットコイン先物取引の開始は、世界的な注目を集めているようだ。

 ビットコインの先物市場が始まったことで、ビットコイン取引のすそ野が広がるとの見方も示されている。現物のビットコイン取引は、ブロックチェーンという仕組みのもと、世界中に存在するマイナーが各々、独立して分散処理をすることで取引が承認される。しかし、これでは、カウンターパーティーリスクが不明瞭のまま放置されることになり、資産保全の厳密性も確保しにくい。こうしたことから、従来型の機関投資家のほとんどは、ビットコイン取引に消極的なままだった。

 一方、先物取引では、原資産がビットコインであったとしても、取引そのものは取引所が一元管理し、取引ルールも標準化される。取引における価格の透明性も現物のビットコインに比べれば高いと言え、機関投資家も取引しやすくなると期待される。

 ビットコイン先物市場が始まったことで、ビットコイン価格が安定化に向かうと期待する声もある。先物市場であれば、ビットコインを保有していなくても、売り取引から市場に参入することも可能である。ビットコイン価格の水準が、ファンダメンタルズなどと照らし合わせ高すぎると判断される場面では、先物市場でのビットコイン売り取引が優勢となり、先物市場で価格は下落することになる(かもしれない)。この場合、価格下落の影響が現物市場に波及し、結果的にビットコインの上昇が抑えられ、最終的に価格安定につながるという。

 これまで派手な値動きで世界的な注目を集めていたビットコインにおいて、上場先物市場が誕生したことで、今後の展開を楽しみにしたくなる気持ちは分からなくもない。ただ、上場先物市場が誕生したからといって、機関投資家がすぐにビットコイン取引に参入するわけでもなければ、先物市場を通じてビットコイン価格が安定化することもないだろう。

 現物のビットコイン取引が他有価証券取引や通貨(為替)取引と大きく異なるのは、ビットコイン価格が、世界的に同じ(一物一価)ではなく、各取引所でバラバラ(一物多価)なことだ。日本のビットコイン取引所における価格をみればわかるように、同じ日本の取引所であっても、ビットコインの価格差が10%以上あることも珍しいことではない。

 上場先物取引では、清算時点で、ある特定の価格を清算価格として採用する必要がある。CBOEの場合、米国のジェミニ・トラスト・カンパニーが実施するオークションで清算価格が決まる。しかし、たとえオークションによって決まるといっても、世界各国に散らばる各取引所での取引状況が、オークション結果にすべて反映されるわけではない。(あり得ない話だが)たとえ世界の取引所における状況が全てオークションで反映されると仮定しても、そもそも提示されるビットコインの現物価格は、取引所によって異なる以上、清算価格と現物価格が全て一致することはない。現物価格のバラツキ(分散)が大きい状況の中、ある特定の水準を清算価格としたところで、その価格が現物価格を代表するものにはなり得ない。

 清算価格と現物価格の乖離が大きいのであれば、先物市場と現物市場との間で効率的な裁定取引が実施されることもないだろう。結果として、ビットコインの先物市場は、現物市場と連動するものではなく、ビットコインの名を語った別市場でしかない。

 急ピッチな価格上昇を抑制する効果も、(少なくともCBOEの)先物市場にあるとは考えにくい。CBOEの場合、個人投資家は買いの取引しかできないため、現物市場と同じようにロング(買い)バイアスは残ったままだ。CBOEやCMEでの先物取引の場合、必要証拠金は、CBOEで44%、CMEで35%と他先物取引に比べ非常に高く設定されている。これでは、ショート(売り)を使って有効的にビットコイン価格の下落をヘッジすることは難しい。こんな先物取引を使って、無理にヘッジ取引をするくらいなら、ビットコイン取引の現物ポジションを縮小するか、そもそも取引を避けた方が合理性が高い。

 先物市場が始まったばかりとはいえ、初日の出来高もそれほど大きくない。期近(1月限)物は2500枚程度となったが、2月限は10枚足らず、3月限は40枚足らずでしかない(日本時間午後5時現在)。世界的な注目を集めた割には、取引そのものは決して大きいわけではなく、機関投資家など市場関係者の多くは様子見姿勢を保っていると推察される。

 ビットコイン先物市場が期待先行に終わらず、現実のものとして活況を呈するには、現物市場での価格のバラツキが縮小し、世界各国でおこなわれる現物取引が円滑に遂行されることが必要だろう。ビットコイン価格が急ピッチで上昇した先週、日本の取引所では、通信障害などが長時間発生し、取引不能の状態が散見された。取引所の多くは、サーバーの増強などで取引急増への対応策を表明しているが、顧客の増加に取引処理能力が追い付いていないのが現実で、ビットコイン価格が急変動した際に、再び取引不能となる恐れも否定できない。

 取引所での円滑な取引が難しくなる恐れがある以上、取引所間でのビットコイン価格差が収斂することも期待しにくい。つまりビットコイン先物市場が、一部の期待通りの展開を見せるためには、少なくとも1年程度の時間は必要とみておくべきと思われる。

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