一部国内紙は8月21日、日本政府がスマートフォン(スマホ)で読み取るQRコードを使った決済基盤を提供する事業者(決済事業者)に補助金を供与し、中小の小売店にはQRコードによる決済額に応じて時限的な税制優遇を検討していると報じました。政府は、今年度中にスマホやタブレットでQRコードを読み取る非現金(キャッシュレス)決済の規格標準化に向けた方針を示すとも報じられており、この方式を使う決裁事業者に補助金が支給されるようです。
経済産業省は、決済事業者に供与される補助金予算を2019年度予算案に盛り込み、中小小売店を対象とした税制優遇については、自民党税制調査会などでの議論を踏まえ、今年末に政府が閣議決定する税制改正大綱への反映を目指すとされています。
経済産業省は、2025年までにキャッシュレス決済の比率を40%に高めるという目標を掲げています。決済事業者への補助金や中小小売店への税制優遇は、経済産業省の目標達成に向けた強い意気込みを示す一例と考えることもできそうです。
ただ、たとえ経済産業省がQRコードによるキャッシュレス決済を普及させたいと思っても、普及の進み具合は、買い物の担い手である消費者と、商品を消費者に販売する小売店の考え次第です。小売店からすれば、たとえ税制優遇という経済インセンティブがあったとしても、お客様である消費者が、キャッシュ(現金)による決済を引き続き望むのであれば、QRコードによるキャッシュレス決済システムの導入を見送るのが合理的となります。
キャッシュレス決済の手段は、QRコードによるものだけではないことにも注意が必要です。経済産業省は、QRコードによる決済がキャッシュレス決済を普及させるカギと考えているのかもしれませんが、QRコードより広く普及しているクレジットカードでの利用がさらに普及すれば、「キャッシュレス決済の普及」という点では同じです。最近ではフィンテック企業などが、ネットを活用することで安価なクレジットカード決済システムを提供していますし、消費者はクレジットカードによる決済の方がQRコードよりも馴染みがあるでしょう。中小小売店が、システム導入コストだけでなく、消費者の使い勝手なども考慮し、QRコードではなくクレジットカードによる決済システムを好む可能性もあります。行政(経済産業省)が、QRコードによる決済だけに経済インセンティブを付けることに対し、公平性の観点で批判が上がる可能性もあります。
さらに注意すべきは、キャッシュレス決済における技術進歩です。インターネット通販最大手のアマゾンが運営しているコンビニエンスストア「アマゾン・ゴー」では、入り口にあるゲートにスマホをかざせば、店内で買いたい商品を持ち、ゲートを通るだけで支払いが終わるシステムが採用されています。日本の大手電機メーカーは、顔情報を事前に登録すれば、顔だけで支払いができる「顔パス決済」の仕組みを開発したと報じられています。このような技術が一般的になれば、QRコードをレジで提示する、という現在のQRコードによるキャッシュレス決済の仕組みは、レジを使うという考え方自体が通用せず、一気に陳腐化する可能性が高まります。
一見、新時代の技術と思われていたものが、異なる新しい技術の出現により陳腐化してしまうことは過去にも多々見られました。たとえば日本では、今から15年ほど前、新しいインターネット接続回線としてADSLが普及しました。しかし、その後、ADSLよりも高速の通信回線である光回線が登場。当初の光回線はADSLよりも利用価格が高額でしたが、普及とともに価格も低下し、現在ではADSLは目にすることが非常に少なくなりました。
もちろん、QRコードによるキャッシュレス決済がADSLと同じ道を歩むとは断言できません。しかし中小小売店の経営者は、様々な報道などを通じ、キャッシュレス決済はQRコードによるものだけではないことを理解していると思われます。QRコードによるキャッシュレス決済を導入する前に、新しい技術の様子や普及を確認すべく、しばらく様子見姿勢を取ることも考えられるでしょう。経済産業省がQRコードによるキャッシュレス決済を積極的に推進したものの、QRコードではない新しい技術がキャッシュレス決済の主流となる社会を我々は想像しておいてもよいのかもしれません。
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