2018年9月6日木曜日

地銀の将来像を示唆しているのかもしれない越境融資比率の違い

毎日新聞は9月4日、地方銀行(地銀)が本拠地以外の都道府県の企業に融資をする「越境融資」を拡大させていると報じています。同様の内容は日本経済新聞でも6月13日に報じられていますが、両記事とも、日本総合研究所の吉本澄司主席研究員のレポートでの分析結果をヒントに作成されたようです。

毎日新聞
越境融資を加速 都市進出に活路 金利競争が激化
https://mainichi.jp/articles/20180904/ddm/008/020/061000c

日本経済新聞
地銀の越境融資、最高に 再編論議に影響も
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31718500T10C18A6EE9000/

日本総合研究所・吉本澄司主席研究員
数字を追う~経済活動や取引先企業、貸出の県境越えと地域銀行再編
競争条件と規模拡大の両立には県境を越えた統合が有力
https://www.jri.co.jp/file/report/researchfocus/pdf/10591.pdf

報道によると、地銀が本店所在地外の都道府県で実施した融資は、昨年(2017年)3月末時点で融資全体の33.2%で、今年(2018年)3月末時点では過去最高の35%超に達したようです。アパートなどの不動産関連や中小企業の借り換えが比率の上昇に貢献していると考えられています。

越境融資の比率が最も高かった都道府県は、岐阜県の64.5%で、越境融資の比率が50%以上(本拠地以外での融資が全体の半分以上)の都道府県は岐阜県、島根県、和歌山県など6県。一方、比率が最も低かったのは沖縄県の2.7%で、越境融資の比率が20%以下は東京、愛知、埼玉など7都道県でした。(2017年3月時点)

吉本氏はレポートの中で、越境融資の比率に違いが生じる理由として、都道府県の境界を超えた経済活動の違いを指摘しています。境界を超えた経済活動とは、他都道府県を相手にした財・サービスの取引や、物流、人の行き来などのことで、境界を超えた経済活動が活発な都道府県に本拠地を持つ地銀は、越境融資の比率が高くなる傾向にあり、逆に境界を超えた経済活動が(比較的)活発ではない都道府県に本拠地を持つ地銀は、越境融資の比率が高くならない(低い)傾向にあります。

また吉本氏は、境界を超えた経済活動は、県内総生産に占める製造業の割合にも左右されると指摘しています。製造業の割合が高い都道府県は、境界を超えた経済活動が高くなる傾向にあることがデータで示されています。製造業は、非製造業に比べ財(モノ)を使うことが多く、作り出された製品(生産物)を他県に輸送するので、境界を超えた経済活動が自然と活発になります。

そして吉本氏は、越境融資を地域別にみると、その多くが地銀の本店所在地(本拠地)の近隣か東京であることを明らかにしています。その理由として同氏は、地銀がもともと地元の金融機関として位置づけられていたことや、東京が経済規模などで群を抜く存在であることを指摘しています。
もしかしたら、「越境融資の比率」という指標は、地銀が本拠地以外の場所で営業活動をしている努力の表れであり、地銀の経営・営業方針の違いによる、などと考えられがちかもしれません。また越境融資の比率が高い地銀は、地元に閉じこもらず全国各地で活躍している銀行のようなイメージがあるのかもしれません。

しかし、吉本氏の指摘から言えることは、越境融資の比率の違いは、地銀がどこに本拠地を置いているかに依るところが大きく、地銀の自助努力に依る部分は大きくなさそうです。また越境融資の多くは、東京で実行されていることから、たとえ越境融資の比率が高くても、その地銀は全国各地で活躍しているわけでもなさそうです。

むしろ越境融資の比率の違いは、今後の地銀の姿を示唆するものと言えそうです。越境融資の比率が高い地銀は、本拠地だけでなく近隣地域にも融資を広げ、営業活動の広域化を推進するでしょう。一方、越境融資の比率が低い地銀は、越境を超えた経済活動が活発ではない地域を本拠地としている可能性が高く、今後も本拠地に根差した営業活動に注力すると考えられます。

また東京での融資は、採算性が悪化すると予想されます。地銀の多くは東京に支店を有しており、どの地銀でも東京であれば融資活動を推進することができます。その結果、東京での貸出金利には低下圧力がかかり続けることになります。

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