2018年11月28日水曜日

財務健全性が注目されるLINEによる新しい銀行

無料対話アプリのLINEは11月27日、新銀行の設立に向け、子会社であるLINE Financialとみずほ銀行との共同出資による準備会社を設立すると発表しました。準備会社の名称は「LINE Bank設立準備株式会社」。2019年春に資本金20億円で設立され、2020年には銀行の開業を目指すそうです。同社の持ち株比率はLINE Financialが51%、みずほ銀行が49%となっています。

ミレニアル世代をはじめとする若者層での知名度が非常に高いLINEが、メガバンクと提携して新しい銀行を始める、ということで、国内メディアの多くは、期待感を込めてLINE Bankの設立を報じています。LINEは、LINE Financialを通じて、投資サービス「LINEスマート投資」、保険サービス「LINEほけん」を展開しています。またLINEは、今回のLINE Bank設立発表と同時に、子会社であるLINE Creditを通じて、信用スコアリングサービス「LINE スコア」や、ローンサービス「LINE ポケットマネー」の提供も発表しています。

すでに新しい金融サービスを始めているLINEならば、スマートフォン(スマホ)だけでサービスが完結し、支店に出かけなくても気軽に金融サービスを提供する、これまでにはない銀行を始めてくれるのではないか、と思いたくなるのは自然のことかもしれません。



しかし(当局への許認可申請前のためかもしれませんが)、LINE Bankが具体的にどのようなサービスを提供するかについて、LINEは具体的な説明をしていません。LINEや(LINEと提携する)みずほフィナンシャルグループの経営陣は会見で、新銀行がスマホを中心に若年層をターゲットとすることを示唆していますが、現時点では新規性をどこまで打ち出せるかは不透明です。

準備会社であるとはいえ、LINE Bankの資本金が20億円に過ぎない点も注意すべきと思われます。一般に銀行は、顧客基盤が大きくなればなるほど、自己資本規制の問題もあり、多額の資本金を用意する必要があります。たとえば、住信SBIネット銀行の場合、設立準備調査会社を設立する段階での資本金は40億円で、銀行営業免許を取得した時点では、資本金は200億円に増資されていました。仮にLINE Bankが、既存のネットバンクと同程度の規模を想定するのであれば、資本金を大きく増やす必要があるでしょう。

LINEの業績が足元で悪化していることも気になります。10月24日に発表されたLINEの2018年7-9月期決算は、売上収益が518億円と前年比16.9%増となりましたが、最終損益は95億円の赤字となってしまいました(前年同期は16億円の黒字)。広告収入は269億円(前年比22.2%増)と拡大したものの、金融サービスなどの戦略事業の赤字拡大が全体の収益を悪化させています。

LINEは、2千億円以上の純資産を有しており、LINE Bankのために100億円程度の増資を引き受けることが重荷になるとは思えません。また、100億円程度の赤字が数年続いたとしても、LINEが一気に破たんに向かうこともないでしょう。しかし、たとえ戦略事業とはいえ、金融サービス事業が、全体の収益の悪化につながり続ければ、株主から金融サービス事業の収益改善を求める声が強まることも考えられます。

過去の歴史をみると、新しく始まった銀行が早期に黒字化することを期待するのは難しそうです。モバイル銀行としてKDDIと三菱東京UFJ銀行(当時)とで共同で設立されたじぶん銀行が黒字化したのは、開業から5年目でした。おそらく、銀行免許を審査する当局は、LINE Bankが提供するサービス内容だけでなく、親会社であるLINEやLINE Bankの財務安定性にも大きな注意を払うと思われます。

LINEが、収益性を改善させ、新しい銀行に多額の資本・人材を投入する余裕が生まれれば、それに越したことはありません。しかし、このままLINEの業績悪化が続くようだと、LINE Bankに無理をしてまで銀行免許を取らせる必要はないとの考えもLINE内外で浮上するでしょう。この場合、LINE Bankは、銀行免許を取得せず、フィンテック企業の一つとして、スマホを通じた金融サービスに特化し、免許が必要な銀行業務は、みずほ銀行に任せるといったネオバンク・スタイルに舵を切ることも考えられます。

0 件のコメント:

コメントを投稿