総務省は帰属家賃に品質調整を実施する可能性がでてきたと報じられている。帰属家賃とは、実際には支払っていない持ち家に対する家賃を賃貸物件の家賃から推計したもの。消費者物価(CPI)全体に占める帰属家賃の割合(ウエイト)は日米ともに高く、日本では15%、米国では24%と高く、帰属家賃のCPIに与える影響は大きい。
日本の帰属家賃は2008年10月から前年割れを続けており、今年4-6月期は前年比で0.3%低下している。一方、同時期の米国の帰属家賃は前年比3.3%の上昇である。帰属家賃における両者の違いが、日米のインフレの違いにつながっているとの見方もある。
日本と米国では帰属家賃の推計方法に違いがある。米国では推計に際し、住宅の経年劣化の影響を織り込む(品質調整を実施する)が、日本では織り込まない(品質調整を実施しない)。一般に、住宅の品質は時間とともに劣化し、それが家賃に反映される(家賃が下がる)傾向にあるが、日本ではこの影響を考慮しないため、帰属家賃が恒常的に低下する一因であると指摘されている。
一部報道によると、日銀は2015年の政府・統計委員会で日本の住宅の老朽化を示し、住宅の品質の変化を考慮できていないために物価に下押し圧力がかかっていると指摘した。実態に近づけるために劣化を考慮し、家賃に品質調整をすれば、CPI全体が0.1~0.2%押し上げられるという。
総務省は、過去30年間の住宅・土地統計調査のデータから住宅の経年劣化が家賃に与える影響について分析し、1983年から2013年にかけて新築物件の家賃が平均で年率1.1%上昇したのに対し、既存物件は同0.7%にとどまったことを明らかにした。新築物件と既存物件の伸びの差である0.4%が経年劣化分と考えることができる。上述したように日本のCPIにおける帰属家賃のウエイトは15%だから、帰属家賃を品質調整すればCPIは0.1%弱(0.4%×15%)程度押し上げられることになる。
ただ、足元での日本のCPIは、総合CPI、コアCPIともに前年比+0.4%程度。仮に日本の帰属家賃に品質調整が実施されたとしても、両CPIは+0.5%程度になるだけで、2%インフレ目標に大きく近づくわけではない。2%インフレ目標に少しでも近づきたいという日銀の思いはわからなくもないが、多大な労力をかけた割に得られる果実は、日銀にとって大きいものに思えない。
帰属家賃が具体的に計測されるものではなく推計によるもので、かつ実際の経済活動に用いられることがないことも考えると、日銀は帰属家賃を押し上げることを考えるよりも、インフレとみなす対象指標を帰属家賃が含まれないものに変更したほうが合理的に思える。日銀が現在、対象としているインフレ指標は、生鮮食品を除く総合CPI(コアCPI)だが、たとえば対象をコアCPIから帰属家賃を除いたCPI(帰属家賃を除くコアCPI)に変更してもよい。
しかし、帰属家賃を除くコアCPIは4-6月期に前年比+0.5%と、2015年1-3月期以来の高い伸びに加速しているが、依然として1%を下回っている。帰属家賃の有無にかかわらず、日本のインフレ圧力が弱いことに変わりはない。市場関係者の一部からは、日銀の出口戦略を期待する声が依然として聞かれるが、CPIを見る限り、その声に現実味は感じられない。
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