裾野の広がりを予感
――ビットコインの魅力は
「インターネット上だけで流通し、物理的な保管コストはほぼゼロ。決済のほか、国境をまたいで迅速に送金できる利便性が評価されている。世界には金融機関に口座を持っていない人の方が圧倒的に多いが、携帯電話さえあれば取引できる点も魅力だ。通貨として流通する可能性はゼロではない」
――世界で利用者が拡大している
「需要が供給を上回るペースで増え価格が上昇したことが大きい。きっかけは昨年3月のキプロスの銀行課税。キプロス政府が銀行預金を封鎖し、残高に応じた課税を決めた際、逃げ場がビットコイン以外になかった。電子上で決済でき、政府にも把握されないということで注目され、1ビットコイン=10ドル程度から200ドルまで上がった。供給はマイニングと呼ばれる計算作業を通じて緩やかにしか増えないが、キプロス問題で投機対象としても世界の認知度が加速度的に広まり、昨年秋には1200ドルまで高騰した。新たな富の受け皿となった格好だ」
――リーマン・ショック後に日米欧が金融緩和政策に動いた影響もあるか
「暗号化処理などビットコインの技術概念は以前からあったが、通貨として使える提示をしたのがたまたま08年だったので、そこまで因果関係は強くない。ただ、反体制的な思想に基づく仕組みなので、構想のバックボーンだったかもしれない」
――米当局は有望視する一方、中国やインドは警戒感を強めている
「資本規制をかけている新興国は国境を無視して資本移動されるリスクをとりたくない。米政府も資金洗浄(マネーロンダリング)などに使われるリスクがあるので抑えるかと思ったが、肯定的な姿勢をとったのは次の戦略産業を常に探す姿勢を徹底しているからだろう。ビットコインの裾野が広がることを予感させる流れだ」
――日本で普及する可能性は
「意見が分かれるところだが、電子マネーとしてより投機的な金融商品としての扱いから広がりが出ることはあり得る。前向きにやるためにも、消費者保護的観点で政府が何らかのアクションをとってもいいのではないかと思う」
――一時的なブームにならないための条件は
「貨幣も金も同じだが、価値の根本はネットワーク効果でみんなが使うか使わないか。息の長い現象、社会インフラのひとつにまで発展するかはユーザー数の伸びにかかっている。それを決めるのは当局の規制ではなくニーズだ。読み切れないが、6割くらいの確率で広がると思っている。ただ、そうなれば既存の銀行やクレジット会社の収益基盤が大きく損なわれるリスクも出てくる」(万福博之)
【プロフィル】村田雅志 むらた・まさし 昭和45年、埼玉県生まれ。43歳。東京工業大学院修了、米コロンビア大学院修了。三和総合研究所などを経て米系銀行で通貨ストラテジスト。著書に「ドル腐食時代の資産防衛」など。
*本稿は産経新聞(2014年1月31日)に掲載されたものです。