2015年6月25日木曜日

円相場次第の日本景気の「いい雰囲気」

日本景気は回復基調を強めている。第1四半期GDPは速報段階の前期比年率2.8%増から二次速報段階で同3.9%増に上方修正。個人消費は前期比0.4%増と小幅ながら3期連続でプラス。設備投資は消費税率引き上げ後に伸び悩んでいたが、第1四半期に前期比2.7%増と伸びが加速した。

今後も個人消費や設備投資は底堅く推移すると思われる。4月の現金給与総額は前年比0.7%増と今年最大の伸びを記録し、実質では同0.1%減と下げ止まった。消費者態度指数や景気ウォッチャー調査が示すように、消費者マインドも安定的に推移しており、個人消費は(緩やかかもしれないが)増加基調を維持するだろう。一方、設備投資の先行指標である機械受注(民需除く船舶電力)は4月に前年比3.0%増と5カ月連続でプラス。設備稼働率の低下など製造業の設備投資は先行き不透明感が強いものの、一部メディアが報じた設備投資計画などを考慮すると、設備投資も増勢基調が続くとみられる。

個人消費や設備投資の拡大は、日本景気の先行きに対する自信を深めるだろう。昨日(6月24日)、日経平均株価が終値で2万868円と、2000年4月に記録したITバブル時の最高値を超えたのも、日本景気の先行きに対する自信の表れと解釈できなくもない。一般メディアでの報道ぶりなどを見ると、日本景気は「いい雰囲気」にあるようだ。

日本景気が「いい雰囲気」になったのは、アベノミクスのおかげ、と思う方もいらっしゃるかもしれない。たしかに安倍政権は、その前の民主党政権に比べ、景気拡大や株価上昇に熱心な姿勢を露骨に示した。その結果が表れたという見方を完全に否定することはできない。

しかし、アベノミクス(ないしは安倍政権の姿勢)のおかげで日本経済が変わった、と考えるのも無理がある。そもそもアベノミクスの三本の矢のうち一本目(金融緩和)と二本目(財政拡大)は、伝統的な経済学に基づく景気刺激策。日本経済が変わっていないからこそ、日本景気はアベノミクスで拡大できたと言える。

三本目の矢(成長戦略)に対する期待は、株式市場関係者を中心に依然としてあるようだが、どちらかというと尻すぼみとなっている。米国とのTPP協議は、米国での法案成立の遅れもあって交渉妥結に至らないまま。規制改革については、農協改革や再生医療薬の承認までの期間短縮といった実績がある一方で、高度外国人材の活用や地熱発電関連は進展が見られない。安倍政権が22日に決めた成長戦略の素案は、官民対話の開始や中高年の転職や出向を受け入れる企業への助成制度の創設など、過去2回に比べ小粒となった。安倍政権の成長戦略に対する意気込みは認めたいものの、結果が伴わない印象が強まっている。

日本経済は変わらず、三本目の矢が期待外れであっても、日本景気が「いい雰囲気」になったからいいではないか、という声もあるようだ。たしかに、そういう考え方でもいいのかもしれない。ただ、現在の日本経済は、円安という追い風で救われている部分が相当あることを忘れてはならない。

日銀の黒田総裁が発言したように、日本円の実質実効レートは歴史的な低水準にあり、今後さらに低下する(円安になる)とは考えにくい。黒田総裁は、名目でのさらなる円安を否定したわけではないと釈明したが、仮に名目での円安が止まらず、実質実効レートが上昇に転ずるのであれば、それは日本の物価上昇が進むことを意味する。

日本の物価上昇が進めば、日銀の大規模緩和が終了に近付くことを市場は意識するだろう。黒田総裁は、出口戦略(大規模緩和の終了)を述べるのは時期尚早と繰り返すが、可能性を否定した直後に追加緩和に踏み切った実績があるだけに、市場は黒田総裁による出口戦略否定論を真に受けなくなるだろう。

安倍政権後の円安基調の大前提は、日銀による大規模緩和の実施。その前提が崩れてしまえば、円売りの動きは止まる。こうなるとあとは、ドル高による相対的な円安の進展を期待するしかなく、日本景気の先行き期待も後退しやすくなる。今の「いい雰囲気」の継続性を考えることは、円相場の先行きを考えることと同じのように思える。