2014年3月5日水曜日

エコノミストと経済指標

エコノミストは経済指標から国や地域の経済動向を分析するため、経済指標に関して一般の方よりも詳細な知識が求められます。たとえば、経済指標の分野に、季節調整、という言葉がありますが、エコノミストとして活動するのであれば、季節調整の意味を理解するだけでなく、いくつか存在する季節調整の方法を把握し、できればソフトウェアを利用して自分で季節調整できるくらいのレベルであってほしいものです。

経済指標は各国・各地域に数多く存在します。たとえば日本の場合、(数えたことはありませんが)主なものだけで50くらいはあると思います。日本経済を分析するエコノミストであれば、せめて50くらいの経済指標については、それぞれの特徴などを把握することが必須となります。

エコノミストの実力を把握したいのであれば、経済指標に関する質問をすることが有効です。最近、発表された経済指標の結果について即座に答えられないようなエコノミストは、あまり信用しないか、その国についてきちんとみていない、と判断すればいいのです。

経済指標に関する知識を身につけるには時間がかかります。各指標の特徴や結果、他指標との連動性、市場での存在感といった様々なノウハウを出版されている書籍やネットから得ることは難しく、データをダウンロードし、エクセルなどでグラフ化し、結果などについて簡単なコメントを作成する、というプロセスを地道に続けるしかありません。

若い方の中には、こうした作業を嫌う方もいます。特に才能あふれる方ほど、地道な作業を嫌う傾向にあるかもしれません。ただ、こうした方は、エコノミストとしては、思うような結果が得られないことがほとんどです。結果として、いずれエコノミストという仕事から離れることになります。これは私が過去にみてきた経験に基づくもので、かなり確度の高い傾向と考えられます。

私は過去にエコノミストという肩書をつけた数多くの方々と一緒に仕事をさせていただきましたが、優秀と思えた方は、全員が経済指標について詳しい知識をお持ちでした。中には、経済指標を一目見ただけで、結果に対して鋭い分析を導く方もいらっしゃいますが、こうした方は、才能があるのではなく、過去に長い時間をかけて様々な経済指標を地道に確認する作業をしたと思っています。

日本でのビットコイン取引の普及

一部メディアは3月5日、日本政府がビットコインの取引ルールを導入すると報じました。報道によると、同政府はビットコインを通貨ではなく「モノ」と認定し、貴金属などと同じく取引での売買益などを課税対象にします。また「通貨ではない」ためか、銀行での取り扱いや証券会社の売買仲介を禁止にするそうです。

表面的にはノラリクラリな対応を続けてきた日本政府が、ビットコインの取引ルールについてここまで早期に内容を具体化したのは意外でした。ビットコインの普及を促進する可能性もあったことから、日本政府は「ビットコインに強い関心がある」、との姿勢を示せなかったものの、裏ではビットコインの法的扱いを政府内で急いで検討したのでしょう。関係各位は大変だったと思います。

同報道に対する解説などによると、ビットコインの法律上の位置づけが明確になることで、ビットコインを取り扱う企業は本人確認義務や取引記録の保存などが求められることになるようです。一方、今後、日本でビットコインを取り扱うのは銀行や証券会社といった金融機関ではなく、先日破綻したMt.Goxのような一般企業が担うことになりますので、金融機関に義務付けられている顧客資産の分別管理といった顧客保護規制は見送られることになりそうです。

あくまで推測でしかありませんが、日本政府はビットコインを「モノ」扱いすることで、他金融資産よりも一段低い存在と位置づけ、一般の方々のビットコインへの興味が高まらないよう配慮したのかもしれません。また政府の思惑通り、日本でビットコインを取引する人数が限定的なものとなれば、行政コスト負担を高める各種規制を実施する必要はなくなり、ビットコイン取引において発生するであろう各種トラブルを「自己責任」の類で処理できることを期待したのかもしれません。多少の摩擦は受容しながらもビットコインを新しい産業の芽となる可能性を模索する米国と違い、日本政府はビットコインをキワモノ扱いし、日本での普及を否定する姿勢を強めたと評価してもいいのかもしれません。

こうしたなか、カナダのビットコイン取引所であるフレックスコインは4日、不正アクセスにより約60万ドル分のビットコインが不正に引き出されたため閉鎖すると発表しました。別の取引所ポロニエックスも、ハッカーによる攻撃を受け保有するビットコインの約12%を盗まれ、取引を一時停止したことを明らかにしています。先日破綻したMt.Goxと同じ図式です。

金融資産の取引は各種規制で顧客資産保護の体制が整う一方、ビットコインについては規制による保護はなく、取引所では相変わらずハッカーによってビットコインが盗まれているという状況が続くようでは、日本でビットコイン取引が大きく普及すると期待するのは難しいように思えます。

2014年3月4日火曜日

エコノミストは料理人に似ている

エコノミストという仕事は、外食の厨房を担当する料理人の仕事と似ていると思っています。

料理人は、様々な食材から料理を作成します。食材はインターネットの普及もあって、(価格の高低という問題はあるものの)、そのほとんどを誰もが入手することができます。単に料理を作るだけなら、誰もができます。

エコノミストは、様々な経済指標から国や地域の経済を分析します。経済指標もインターネットの普及もあって、そのほとんどを誰もが無料で入手することが可能です。単に経済指標の結果を述べるだけなら、今では誰もができる業務といえます。

料理人の付加価値は、普通の人では作り出すことができないおいしい料理を提供することです。迅速に料理を提供できれば、その料理人の付加価値はさらに高まるでしょう。

エコノミストの付加価値も同じように考えることができます。経済指標から普通の人にはできない分析ができるエコノミストは付加価値が高いと言えます。迅速に分析結果を提示できれば、そのエコノミストの付加価値はさらに高まるでしょう。

Mt.Goxの破綻で思ったこと

一時は世界最大のビットコイン取引量を誇っていたMt.Gox(マウントゴックス)の運営会社「MTGOX」が2月28日、東京地裁に民事再生法の適用を申請し受理されました。同日開かれた同社の記者会見によると、2月初めころからシステムのバグにより不正アクセスが増加。顧客から預かっていた約75万ビットコインと、同社自身の持ち分である約10万ビットコインの計85万ビットコインのほぼ全てが消失しただけでなく、顧客からの預かり金が最大約28億円不足。同社は債務超過状態にあることが明らかにされています。

Mt.Goxの顧客は、米財務省FinCENの規制に従い本人確認書類の提出が義務付けられており、ビットコインを同社から搾取した犯人を確認することは比較的容易と思われます。またビットコインは取引が全て公開されるため、仮にMt.Goxからビットコインを盗んでも、犯人はビットコインを処分することが難しいはずです。Mt.Gox顧客の資産の行方については、同社の説明を鵜呑みにせず、今後の調査結果をみるまで、MTGOX社内部の者が顧客資産を無断で流用したなど、様々な可能性を想定し続けるべきと思われます。ただ原因が何であれ、MTGOX社が債務超過状態にあるのは事実であり、同社の破綻によって、顧客資産は大なり小なり毀損することになりそうです。

Mt.Goxが破綻によって得られた教訓の一つは、顧客から何らかの金融資産を預かる企業には、(規制のあるなしにかかわらず)アクシデントが発生しても顧客の資産を保全する仕組みが求められるということです。推測ですが、MTGOX社は顧客からの資産を自社資産と分別保管していない可能性が高く、FX会社などで義務化されている信託保全の仕組みも備えていないと思われます。このため同社の債務超過は顧客資産の毀損に直結したと考えられます。

FX会社を規制する金融商品取引法が施行されるまで、FX業界ではMt.Goxのような破綻で顧客資産が棄損する例がいくつかありました。たとえば2007年10月に破産宣告を受けたFX会社は、相場変動で発生した損失を取り戻すべく、顧客から預かった資産で取引を拡大。その結果、FX会社の資産だけでなく顧客の資産も消失し、顧客のもとには預けた資産の5%しか戻ってこなかった例があります。このような事例を経て日本の金融当局はFX業界の規制を強化。現在のようにFX会社は金融庁への登録が必要となり、信託保全など各種ルールが整備されました。ビットコイン取引が今後、日本で普及するのであれば、FX業界と同じように、顧客の資産保全を優先した仕組み作りが必要となるのでしょう。