2016年4月8日金曜日

足元の円上昇は対外投資にとって絶好のチャンスか

 ドル円は、日本時間の昨日(4月7日)深夜から本日未明にかけて下落基調が強まり、一時107円台後半と、日銀が2回目の追加緩和を実施した2014年10月末の安値を割り込み、同年10月27日以来の安値に下落。日足では5営業日続落となり、4月1日の高値(112円台半ば)から5円近く下落したことになる。

 ドル円の下の節目は2014年8月の安値(101.5近辺)から2015年6月の高値(125.9近辺)の76.4%戻し水準となる107.3近辺。次は2011年10月の安値(75.4近辺)から2015年6月の高値の38.2%戻し水準となる106.6近辺となりそうだ。本日東京市場にドル円は108円台後半まで反発したが、これはゴトウビでドル需要が見込まれていたほか、麻生財務大臣の円高けん制発言によるもの。今後は、これまでサポートとして機能してきた110円ちょうど近辺がレジスタンスとして意識されやすくなると思われる。

 4月に入ってからのドル円下落の主因は円の上昇。4月1日から本日まで、円は対ドルで約3.5%の上昇と、G10通貨、新興国通貨の両者を含め最も高い上昇率を記録。日本銀行が公表する円の名目実効レート(円インデックス)は、3月31日の98.03から4月7日(昨日)には100.53と2.6%も上昇し、今年2月下旬と同様に2013年11月以来の高値に達した。

 円買いが強まったきっかけとして指摘されるのが、日本株の急落。4月1日の日経平均は前日比594円安の1万6164円と急落した。同日発表された日銀短観で、今年度の大企業・経常利益(計画)は製造業で1.9%減、非製造業で2.1%減といずれも減益。大企業・製造業の想定為替レートは117.46円と当時のドル円レートから5円も円安水準。日本企業の業績先行き懸念を強めた。

 安倍首相の発言も円買いの動きを後押しした。同首相は4月5日、一部米紙とのインタビューで、ここ数カ月の円高傾向や人民元の下落、その他の主要通貨の不安定な動きについて、「通貨安競争は絶対避けなければならない」と発言。「恣意的な為替市場への介入は慎まなければならない」とも述べ、ドル円の下落に対し介入を見送る意向を示唆した。

 各種報道では、ドル円の下落(円高)がさらに進むとの見方が散見される。日本の経常収支は、1年程度の遅れでドル円相場に影響を与えるとし、日本の経常黒字が昨年(2015年)に14兆円も拡大したことから円高圧力が強まったとの指摘がある。円の実質実効レートは、長期平均から依然として10%以上も割安であることから、円安修正は始まったばかりとの声もある。

 円買いが続く理由として世界計の減速感の強まりを指摘する声も多い。アトランタ連銀の経済モデル「GDPナウ」によると、第1四半期の米成長率は0.4%増の見込み。一時は2.3%増まで高まったことを考えれば、米景気の先行き期待が大きく後退しても不思議ではない。

 とはいえ、こうした悲観的な見方が蔓延するなか、世界景気が、じつは今年1-3月期が底で、4-6月期から持ち直す可能性がでてきた点には注意が必要である。今年3月の米ISM製造業景況感指数は51.8と、昨年8月以来の50超えを記録。内訳をみると、先行性のある新規受注が急上昇したほか、生産や在庫も2ポイント以上も改善した。同月同国の日製造業景況感指数も54.5と、前月から1.1ポイント上昇し、非製造業の拡大ペースが再加速しつつあることも示された。

 新興国各国でも、ほとんどの国で3月の製造業PMIが2月から改善している。中国の製造業PMIは3月に50.2と8カ月ぶりに50超え。景気悪化が長きにわたり指摘されてきたブラジルですら、製造業PMIは3月に46.0と、前月(44.5)から改善し、1-3月平均では46.0と、昨年10-12月期の44.5から大きく上昇している。

 本邦投資家による外国債投資は、4月2日までに年初来7.7兆円の買い越しと、昨年1年間の買い越し額(11.8兆円)の65.6%に達している。世界景気の持ち直し機運が強まれば、本邦投資家による対外証券投資は拡大基調を続けるだろう。足元の円上昇は、結果として対外投資の絶好のチャンスだった、となることも考えられる。