2016年12月16日金曜日

マーク・ファーバーのコメント(2016年12月)

米大統領選後、米国株が上昇しています。
S&P500は2200を超え、NYダウは2万ドルを突破しようという勢いです。

日本株もTOPIXが1500を超え、日経平均は1万9000円を突破しました。

この株高をトランプの景気浮揚策への期待を反映した
“トランプ相場”とみる向きもあるようです。

しかし、ファーバー博士は
「クリントンの落選が米国や世界平和にとって
良いことであったのは間違いない」としたうえで、
トランプに過度の期待も不安も禁物であるとし、
本レポートでは、その理由について説明しています。

むしろ、財政赤字と債務残高をさらに拡大させ、
FRBのバランスシート膨張再開に期待する可能性が高く、
したがって、あれだけ非難していた
イエレンFRBに頭を垂れることもあり得るとのことでした。

現在の相場については基本、予断を許さない状況だが、
大天井を付けそうな株もあるようです。

レポート後半は博士の友人であるヤン・ロビンズ氏が
現金保有の危険性、貴金属保有の有効性、
コモディティが金融政策から受けた影響、
そして日銀の政策が“詰んで”しまい
「ドミノ倒しの初めのひと押し」になる可能性
について執筆しています。

氏は日本国債と日本円市場の「怖さ」を
承知したうえで、日本円に弱気のようです。

また、ポジション例として
イラク株ファンドと白金を挙げています

マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート

2016年12月2日金曜日

マーク・ファーバーのコメント(2016年11月)

ふと思い出したように、マーク・ファーバー博士から、レポートが届きました。
以下に内容を簡単にご紹介します。

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注目の米大統領選はトランプ氏の勝利となりました。
“世界中の誰もが驚いた”と報道されていますが、
本レポート読者の皆様には
「さもありなん」だったのではないでしょうか。

さて、今月のテーマは「超現実主義(シュルレアリスム)」です。
日本では、それを語源とした「シュール」という言葉が
「意味不明」「異常」「不思議」といった意味合いで、
よく使われているように思います。

ただ、もともとの意味合いは
合理性(現実・理性)を超越して、
潜在意識(自然・欲望)を探求する思想運動とのことです。
レポートに詳しい説明があります……。

博士は、芸術ならまだしも、現代の政治・経済・金融・マスコミで、
まさに合理性を無視して、己の欲望のまま突き進む
超現実主義者が臆面もなく闊歩していると指摘し、
いくつか具体例を挙げています。

そして、民主主義社会が超現実主義社会となり、
崩壊の道を歩んでいると危惧しています。

さらに博士は、こうした傾向からも
ハイパーインフレのシナリオが考えられ、
そのなかでどのような投資方針が立てられるか説明しています。

特に今月は、資源株で具体例を挙げています。
また、その読みが外れたときの“ヘッジ”についても言及しています。

なお、前半の超現実主義についての説明で紹介された
芸術家・作品について一見にしかずということでリンクを張りました。
よろしければ、ご参考ください。

【超現実主義の芸術家】
マックス・エルンスト(ドイツ出身の画家・彫刻家・1891―1976)
 https://www.wikiart.org/en/max-ernst
サルバドール・ダリ(スペイン出身の画家・1904―89)
 https://www.wikiart.org/en/salvador-dali
ジョアン・ミロ(スペイン出身の画家・1893―1983)
 https://www.wikiart.org/en/joan-miro
イヴ・タンギー(フランス出身の画家・1900―55)
 https://www.wikiart.org/en/yves-tanguy
ルネ・マグリット(ベルギー出身の画家・1898―1967)
 https://www.wikiart.org/en/rene-magritte
ジャン・アルプ(アルザス出身の彫刻家・画家・1886―1966年)
 https://www.wikiart.org/en/jean-arp

【超現実主義に影響を与えた芸術家】
ジョルジョ・デ・キリコ(イタリア出身の形而上絵画派画家)
 https://www.wikiart.org/en/giorgio-de-chirico
ギュスターヴ・モロー(フランス出身の象徴派画家)、
 https://www.wikiart.org/en/gustave-moreau
アルノルト・ベックリン(スイス出身の象徴派画家)、
 https://www.wikiart.org/en/arnold-b-cklin
オディロン・ルドン(フランス出身の象徴派画家)、
 https://www.wikiart.org/en/odilon-redon
アンリ・ルソー(フランス出身の素朴派画家)
 https://www.wikiart.org/en/henri-rousseau
ジュゼッペ・アルチンボルド(イタリア出身のマニエリスム画家)、
 https://www.wikiart.org/en/giuseppe-arcimboldo
ヒエロニムス・ボス(オランダの初期フランドル派画家)
 https://www.wikiart.org/en/hieronymus-bosch

【ニューヨークダダ】
マルセル・デュシャン
 https://www.wikiart.org/en/marcel-duchamp
 『ビン掛け』
 https://uploads0.wikiart.org/images/marcel-duchamp/bottlerack-1914.jpg
 『泉』
 https://uploads7.wikiart.org/images/marcel-duchamp/fountain-1917.jpg
フランシス・ピカビア
 https://www.wikiart.org/en/francis-picabia
マン・レイ
 https://www.wikiart.org/en/man-ray
アルフレッド・スティーグリッツ(訳注:米国出身の写真家)
 https://www.wikiart.org/en/alfred-stieglitz

【代表的な手法】
コラージュ(切り抜き)
 https://en.wikipedia.org/wiki/Collage
ドゥードゥリング(無意識ないたずら書き)
 https://en.wikipedia.org/wiki/Doodle
フロッタージュ(こすりつけて模様を映し出す技法)
 http://www.deviantart.com/tag/frottage
デカルコマニー(転写画)
 http://www.deviantart.com/tag/decalcomania
グラッタージュ
 http://www.deviantart.com/tag/grattage

マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート

2016年10月17日月曜日

マーク・ファーバーのコメント(2016年10月)

マーク・ファーバー博士から、またレポートが届きました。
せっかくですので内容を簡単にご紹介します。

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ミレニアル世代とは、
おおまかに80年代前半から00年代前半に生まれた
10から30代の米国人を指します。

「おおまかに」というのは、
厳密な定義があるわけではなく、
人によって結構な差があるからです。

日本では、おおまかに80年代前半から00年代までの
学習指導要領の影響を受けた10から30代を
「ゆとり世代」と呼ぶことがあります。

これも「おおまかに」であり、
その範囲は人によって大きな差があるようです。

ただ「ゆとり」というと文脈に
否定的な意味あいを含んでいることが多く、
要は日米ともに「いまどきの若い奴らは……」
という使われ方をしている感じがします。

さて、博士はこのミレニアル世代が
現状・将来に対して誤った認識をしているのに驚いた
(そしてよく考えれば驚くほどではない)
と指摘しています。

その元凶として挙げているのは、
いつもの方々です。

また、その“誤った認識”のひとつとして
年金の積立不足危機(特に公務員年金)
を挙げています。

ただでさえ不足しているのに
今後は逆ザヤで、さらに二進も三進もいかなくなり
倒産する自治体が続出する可能性があるようです。

それなのに米国では
「現金(の呪縛)を撤廃して
金利を“自由”にしよう
=金利操作・マイナス金利を推し進めよう」
という議論があります。

博士はキャッシュレス社会がむしろ呪縛となり、
さらなるドルへの自傷行為となる
可能性を指摘しています。
ここが今回のレポート最大のテーマです。

レポートの最後は
有望市場としてブラジルを挙げています。

大きな偏見と混乱で、かなりみえにくいものの
そこには「真実」「転機」「進化」があり、
むしろ人知れず、何もせず、
“いつもの方々”に踊らされて
退化していく国よりはマシとの指摘です。

マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート

2016年9月16日金曜日

マーク・ファーバーのコメント(2016年9月)

よき知人でもあるマーク・ファーバー博士からレポートが届きました。
以下に内容を簡単にご紹介します。

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今年11月8日に米大統領選が実施される予定です。
言い換えると投票まで2カ月を切りました。

ご存じのように
民主党の予備選ではヒラリー・クリントン氏が
共和党ではドナルド・トランプ氏が指名されています。

なお、いわゆる第3党の
リバタリアン党からはゲーリー・ジョンソン元ニューメキシコ州知事、
米緑の党からはジル・スタイン医師が指名され、
また、多数の無所属候補が出ていますが、
大旋風を巻き起こすまでには至っていないようです。

今回のレポートでは、一部には“究極の選択”といわれる大統領選で
クリントン氏もしくはトランプ氏が当選した場合、
世界情勢、財政・金融政策、債券・株式・通貨・コモディティ市場に
どのような影響が予想されるか考察しています。

博士としては、
共和党も民主党も“本流”は同じ穴のムジナとなっており
(マスコミの“本流”はそのプロパガンダを担っている)

失敗続きの既得権益層・エリート・ネオコンを代表し、
また政治家としての誠実さに問題をみせたクリントン氏よりも

政治的に未知数で、人格的に問題があっても、
民衆とつながり、国際協調的、実利主義であるトランプ氏のほうが
持続的成長に欠かせない「平和」、
ひいては投資環境の観点からもマシである
という意見のようです。

さて、金価格の横ばいが7月から続いており、
一部には天井感から値崩れの声も出てきました。

しかし、博士は依然として
「貴金属価格が長期的に著しく上昇しないという
 どんなシナリオも描くことが難しい」というスタンスです。

レポートでは貴金属が業界人に嫌われる理由と
その背景についても指摘しています。

マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート

2016年8月29日月曜日

追加緩和で高まる日銀の保有資産減損リスク

 先週末(8月26日)のワイオミング州ジャクソンホールでの年次経済シンポジウムでは、FRBイエレン議長だけでなく、日銀・黒田総裁も「『マイナス金利付き量的・質的金融緩和』による予想物価上昇率のリアンカリング」と題した講演を披露している。9月21日公表される予定の「(今までの金融緩和策についての)総括的な検証(総括的検証)」の約1カ月前だけに、同総裁の講演内容を検証する意義はあるだろう。

 黒田総裁は、講演の冒頭で、日本は過去20年以上、長きにわたるデフレ、潜在成長率の低下、幾度かの金融危機、急速な高齢化とこれに伴う労働人口の減少による構造問題を経験してきたと説明。その上で、長期でみると、低インフレと低金利は共存する傾向があると指摘し、名目金利にゼロという下限制約(ゼロ制約)があるため、伝統的ないし標準的な金融政策の頑健性(resilience)は著しく損なわれたと述べた。

 そのため同総裁はマイルドではあるものの継続的なデフレを克服するため、「量的・質的金融緩和(QQE)」を導入し、QQEには、(1)できるだけ早期に2%のインフレ目標を達成するという明確で強力なコミットメントを伴う、(2)大量の国債買入れによってイールドカーブ全体に下方圧力を加える、という点に特徴があると説明。(1) には、大規模な金融緩和と言う裏打ちによって人々のデフレマインドを抜本的に転換し、予想物価上昇率(インフレ予想)を引き上げる狙いがあったと述べた。
しかし黒田総裁は日本のインフレ予想が安定せず、弱めの動きが観察されていることを認める。その理由として同総裁は、日本の長期インフレ予想が1990年代以降、2%より低いままであったという事実を持ち出し、2014年夏ころからの原油価格の下落でインフレ予想が弱くなってしまったという説明をした。その上で、同総裁は長期的なインフレ予想を目標水準(2%)近傍に引き上げる(アンカーする)ために、現在「マイナス金利付き量的・質的金融緩和(マイナス金利付きQQE)」を推進していると述べた。

 その後、黒田総裁は、マイナス金利付きQQEによって長期・超長期の国債利回りが大幅に低下したと指摘。その理由として、マイナス金利付きQQEはゼロ制約を取り払うことになるため、ゼロ制約の影響を受けない場合に成立するであろう「真の金利」が示現したと指摘した。そして最後に黒田総裁は、中央銀行によるインフレ目標に対する強いコミットメントが企業や家計のインフレ予想の形成に影響を与えることがコンセンサスとなっており、コミットメントそのものが頑健な金融政策の枠組みを確立する上で重要であることに変わりはないとした。そして、日銀は今後も、物価安定の目標の実現のために必要と判断した場合には、躊躇なく、「量」・「質」・「金利」の3つの次元で、追加緩和を講ずるという、いつものフレーズを繰り返し、「量」・「質」・「金利」のいずれも追加緩和の余地は十分にあるとした。

 黒田総裁による講演内容については、市場関係者から賛否両論が示されているが、講演内容が総裁自身の考えであることは否定しがたい。9月21日公表予定の総括的検証でも、「インフレ期待」や「真の金利」、「中央銀行のコミットメント」が大きなキーワードになると思われる。
9月会合後の金融政策については、講演内で「中央銀行のコミットメント」を強調したこともあり、日銀がこれまでの金融緩和について自ら否定し、金融緩和の縮小と取られかねないような新たなアクションを選択するとは考えにくくなった。むしろ「インフレ期待」を刺激し、国債利回りを「真の金利」に近付けるためにも、マイナス金利の深堀り、買入資産の拡大といった何らかの追加緩和が実施される可能性が出てきたと思われる。

 ただ黒田総裁が講演最後に述べたように、追加緩和の余地が十分にある、との考えには注意が必要である。先の7月会合ではETF買入額の拡大が決められたが、これにより円債市場だけでなく日本株市場でも日銀の存在感の高まり(悪く言えば市場支配)が批判されている。マイナス金利の深掘りについても、金融機関の収益悪化につながるとの批判は根強くある。

 黒田総裁が、こうした批判を懸念せず、「量」・「質」・「金利」の3つの次元で大規模な追加緩和に踏み切る可能性は否定すべきではないだろう。むしろ批判が高まれば高まるほど、批判者の神経を逆撫ですることを意図的に狙うことで、「中央銀行のコミットメント」の強さを誇示しようとするかもしれない。

 仮に3つの次元で大規模な追加緩和が実施された場合、日銀の次なるリスクは保有資産の減損リスクとなるだろう。資産買い入れ規模の拡大は、保有資産の価格変動リスクをさらに抱えることになる。ETFやJ-REITは国債と違い満期による償還がなく、日銀が資産買い入れ額の縮小・停止(テーパリング)に入り、保有資産の売却(出口戦略)に着手するまで、日銀はETFやJ-REITの減損リスクを拡大させ続けることになる。

 マイナス金利の深堀りは、保有国債の減損リスクを高める。日銀は保有国債の減損に備え、すでに約2.7兆円の引当金(債権取引損失引当金)を計上しているが、日銀はマイナス金利付きQQEを開始してから、約マイナス0.2%程度の利回りで国債買い入れを年80兆円のペースで続けている。現在の金融政策が今後も続くとすると、マイナス金利で買い上げる国債の保有残高も年80兆円のペースで拡大する。仮に毎年80兆円の国債をマイナス0.2%で買い入れる場合、1年間で満期時に1600億円の損失が発生するが、これが毎年毎年積み上がると、5年後には約2.4兆円の損失と、2.7兆円の引当金の多くを使い果たしてしまう。仮に日銀が当座預金に付与するマイナス金利を2倍にし、円債市場でもマイナス金利が同じように2倍に拡大すれば、4年弱で引当金は不足する計算となる。

 日銀の2015年度決算では、債権取引損失引当金を4501億円積み増したほか、外国為替関係損益で4083億円の純損失を計上したことで、当期剰余金は4110億円と2010年以来の低水準に落ち込んだ。日銀が保有資産の減損に直面した場合、日銀が赤字企業に転落することは十分にあり得るし、場合によっては債務超過に陥ることも中長期的には視野に入る。

2016年5月31日火曜日

実質金利の低下を予感させる鉱工業生産のポジティブサプライズ


 本日(5月31日)に発表された4月の鉱工業生産は、前月比+0.3%と市場予想(同-1.5%)を裏切り2カ月連続のプラスとなった。4月14日に発生した熊本地震で、一部大手自動車・電機メーカーは工場閉鎖を余儀なくされたが、輸送機器は前月比-0.6%と小幅低下に留まり、電気機械はエアコン生産の拡大もあって同+3.9%と大きくプラス。鉱工業生産全体でも前月比プラスとなった。

 同時に発表された製造工業生産予測調査によると、5月は前月比+2.2%、6月は同+0.3%とプラスが続く格好。予測指数通りとなれば4-6月期は98.5(前期比+2.5%)と、2015年1-3月期以来の高水準に回復することになる。

 報道によると、安倍首相は2017年4月に予定されていた消費税率の引き上げを2年半(2019年10月に)延期する方針を固めた模様。国会会期末にあたる明日(6月1日)の首相会見では、今年度第二次補正予算案の策定について言及される可能性もある。熊本地震を受けての第一次補正予算の規模は7780億円。二次補正予算案の規模は、一部報道によると5~10兆円程度になるようだ。

 熊本地震による減産の影響が、当初の予想ほど大きくなかったことに加え、5月、6月は増産が続く見込み。8千億円弱の追加財政支出に、5~10円規模の補正予算が新たに加わることになれば、今年(2016年)4-6月期の成長率は、前期比年率2%台程度まで加速し、年後半は3%台前半に加速するとの見方も可能となる。

 景気が強含めばインフレ圧力が再び強まる展開も視野に入る。4月の有効求人倍率は1.34倍と市場予想や前月を上回り、1991年11月以来の高水準に上昇。失業率は3.2%と消費税率が3%から5%に引き上げられる直前の1997年3月以来の低水準を維持。日本の労働需給はひっ迫感が強まっている。

 円相場は上昇したものの、コアコアCPI(CPIからエネルギーと食品を除いたもの)は4月も前年比+0.7%と底堅く推移。NY原油先物価格は26日に一時50ドルを突破し、2月11日に記録した安値(26ドル)のほぼ倍の水準に回復した。日銀の2%インフレ目標のターゲットとなっているコアCPI(CPIから生鮮食品を除いたもの)は早期に前年比プラスに転ずるだろう。

 日銀が期待するように2017年度中のインフレ2%目標の達成は、依然として難しいように思われるが、これまでと違いインフレが立ち上がってくれば、アベノミクス1.0で示された第2の矢(機動的な財政政策)が復活したとの見方もあり、金融市場でインフレ期待が盛り上がる可能性も否定できない。

 日銀のマイナス金利付き量的・質的金融緩和により、円債利回りは10年までマイナスが常態化。ここでインフレ期待が高まれば、実質金利の低下を通じた円下落期待を指摘する声が広がっても不思議ではない。

2016年5月26日木曜日

マイナス金利政策の効果を高める預金金利のマイナス化



 日本ではメディアや有識者と呼ばれる方々を中心に、日銀のマイナス金利付き量的・質的金融緩和(マイナス金利政策)に対する批判的な指摘が続いている。マイナス金利政策が発動され3カ月が過ぎたが、設備投資や個人消費の拡大は限定的。3月の長期貸出平均金利が0.967%と初めて1%を割り込むなど、企業向け貸出や住宅ローンの金利は過去最低水準に低下したが、銀行・信金による貸出は4月時点で前年比2.2%増と伸び悩んだまま。メガバンク経営陣からは、マイナス金利政策による収益下振れ懸念が指摘されている。

 マイナス金利政策を始めた後に日銀がWEBサイトに掲載した「5分で読めるマイナス金利」の評判も悪い。この中では、マイナス金利政策の導入で個人の預金金利が下がり、消費が悪くなる可能性を指摘した質問に対し、「100万円預けて1年間の利息が200円だったのが10円になったということです。消費を悪くするほどの規模ではありませんよね」と回答。個人が得られるべき利息が減ることを認めながらも、それによって消費が悪くなることはないと根拠なく言い切る姿勢は、読み手に悪い印象を与えているようにも思える。

 日銀の黒田総裁は、金融政策の効果の波及には、ある程度の時間が必要と発言。4月28日の金融政策決定会合では効果を見極めるとの理由から金融政策の現状維持が決定された。一方で日銀は、同会合で物価上昇2%の目標達成時期を2017年度前半頃から2017年度中(2018年3月まで)に先送り。いくら時間がかかるとはいえ、効果が出る時期を1年以上先に設定する姿勢も日銀に対する批判を強める一因となっている。

 日銀のマイナス金利は(短期間とはいえ)目立った効果が出ていないほか、マイナス金利に対する批判は(目先の結果に囚われただけとの見方もできるが)理解しやすく、日銀より批判する側に分があるように見える。ただ、だからといって、マイナス金利という仕組みそのものを全否定するのは、やや行き過ぎているようにも思える。マイナス金利政策は、一部で指摘されてきた日銀(そしてECB)の量的緩和政策・限界論を打破したのも事実である。

 そもそも量的緩和政策が実施されたのは、政策金利がゼロに近づき、追加利下げが難しくなるという制約を克服するため。しかし日銀は、黒田総裁のもと2度の追加緩和もあって長期新発債のほとんどを買い入れる規模まで国債買い入れペースを加速。国債買い入れ規模のさらなる拡大が難しいとの見方が強まった。マイナス金利政策は、こうした限界論に対応した新たな措置と考えられる。

 日銀のマイナス金利政策が効果を発揮しきれていない理由の一つは、政策効果が波及するには時間がかかるだけでなく、マイナス金利の効果が貸出に対してのみ現れ、預金に対しては表れていないためと思われる。

 金利は本来、貸出だけでなく預金にも適用される。しかし日銀は、個人向け預金金利のマイナス化を事実上否定。大口預金に対する金利について日銀は、各金融機関の判断としているが、国内大手行は大口預金に対するマイナス金利適用を見送っている。貸出金利が低下する一方で、貸出原資となる預金への金利がゼロ制約のままであれば、貸出と預金を仲介する金融機関の収益が悪化するのは当然となる。

 仮に日銀がマイナス金利をさらに深堀したり、マイナス金利が適用される当座預金の範囲を拡大すれば、(金融当局の指導も必要だろうが)金融機関は、さらなる収益悪化を回避すべく、まずは大口預金に対しマイナス金利を適用し始めるだろう。これにより大口預金者のほとんどと思われる法人は、ゼロ金利が適用される現金保有を増やすことになるが、現金保有は管理コストが大きく、預金の全てを現金化するとは考えにくい。法人は預金を圧縮すべく、一部を設備投資や賃上げに回すことが期待される。

 先行き不透明感を理由に設備投資や賃上げに慎重な法人であれば、配当を増加させることで預金を圧縮するだろう。増配による株価上昇は資産効果を通じ個人消費を刺激すると考えられる。

 国際的な企業であれば、円預金の一部を外貨預金に切り替えることで、マイナス金利の適用を回避することも考えられる。海外子会社から日本の親会社への資金還流(レパトリ)も抑制されると思われ、結果的に円高圧力を弱めることになる。

 日銀・黒田総裁など金融当局者から預金金利のマイナス化を肯定する意見が示されたことはない。しかし今後、マイナス金利政策の限界論が声高に指摘されるようになると、日本の金融当局者が預金金利のマイナス化を示唆することも十分考えられる。

2016年4月8日金曜日

足元の円上昇は対外投資にとって絶好のチャンスか

 ドル円は、日本時間の昨日(4月7日)深夜から本日未明にかけて下落基調が強まり、一時107円台後半と、日銀が2回目の追加緩和を実施した2014年10月末の安値を割り込み、同年10月27日以来の安値に下落。日足では5営業日続落となり、4月1日の高値(112円台半ば)から5円近く下落したことになる。

 ドル円の下の節目は2014年8月の安値(101.5近辺)から2015年6月の高値(125.9近辺)の76.4%戻し水準となる107.3近辺。次は2011年10月の安値(75.4近辺)から2015年6月の高値の38.2%戻し水準となる106.6近辺となりそうだ。本日東京市場にドル円は108円台後半まで反発したが、これはゴトウビでドル需要が見込まれていたほか、麻生財務大臣の円高けん制発言によるもの。今後は、これまでサポートとして機能してきた110円ちょうど近辺がレジスタンスとして意識されやすくなると思われる。

 4月に入ってからのドル円下落の主因は円の上昇。4月1日から本日まで、円は対ドルで約3.5%の上昇と、G10通貨、新興国通貨の両者を含め最も高い上昇率を記録。日本銀行が公表する円の名目実効レート(円インデックス)は、3月31日の98.03から4月7日(昨日)には100.53と2.6%も上昇し、今年2月下旬と同様に2013年11月以来の高値に達した。

 円買いが強まったきっかけとして指摘されるのが、日本株の急落。4月1日の日経平均は前日比594円安の1万6164円と急落した。同日発表された日銀短観で、今年度の大企業・経常利益(計画)は製造業で1.9%減、非製造業で2.1%減といずれも減益。大企業・製造業の想定為替レートは117.46円と当時のドル円レートから5円も円安水準。日本企業の業績先行き懸念を強めた。

 安倍首相の発言も円買いの動きを後押しした。同首相は4月5日、一部米紙とのインタビューで、ここ数カ月の円高傾向や人民元の下落、その他の主要通貨の不安定な動きについて、「通貨安競争は絶対避けなければならない」と発言。「恣意的な為替市場への介入は慎まなければならない」とも述べ、ドル円の下落に対し介入を見送る意向を示唆した。

 各種報道では、ドル円の下落(円高)がさらに進むとの見方が散見される。日本の経常収支は、1年程度の遅れでドル円相場に影響を与えるとし、日本の経常黒字が昨年(2015年)に14兆円も拡大したことから円高圧力が強まったとの指摘がある。円の実質実効レートは、長期平均から依然として10%以上も割安であることから、円安修正は始まったばかりとの声もある。

 円買いが続く理由として世界計の減速感の強まりを指摘する声も多い。アトランタ連銀の経済モデル「GDPナウ」によると、第1四半期の米成長率は0.4%増の見込み。一時は2.3%増まで高まったことを考えれば、米景気の先行き期待が大きく後退しても不思議ではない。

 とはいえ、こうした悲観的な見方が蔓延するなか、世界景気が、じつは今年1-3月期が底で、4-6月期から持ち直す可能性がでてきた点には注意が必要である。今年3月の米ISM製造業景況感指数は51.8と、昨年8月以来の50超えを記録。内訳をみると、先行性のある新規受注が急上昇したほか、生産や在庫も2ポイント以上も改善した。同月同国の日製造業景況感指数も54.5と、前月から1.1ポイント上昇し、非製造業の拡大ペースが再加速しつつあることも示された。

 新興国各国でも、ほとんどの国で3月の製造業PMIが2月から改善している。中国の製造業PMIは3月に50.2と8カ月ぶりに50超え。景気悪化が長きにわたり指摘されてきたブラジルですら、製造業PMIは3月に46.0と、前月(44.5)から改善し、1-3月平均では46.0と、昨年10-12月期の44.5から大きく上昇している。

 本邦投資家による外国債投資は、4月2日までに年初来7.7兆円の買い越しと、昨年1年間の買い越し額(11.8兆円)の65.6%に達している。世界景気の持ち直し機運が強まれば、本邦投資家による対外証券投資は拡大基調を続けるだろう。足元の円上昇は、結果として対外投資の絶好のチャンスだった、となることも考えられる。

2016年3月10日木曜日

日本株下落や個人消費悪化の前兆にも見えるタンス預金の急増

 日本のタンス預金が急増している。2月の現金通貨流通高は前年比6.7%増と2003年2月(13年前)以来の高い伸び。現金に銀行などの金融機関に預けられた預金を含むM3は、前年比2.5%増と前月(同2.6%増)から小幅増加していることも踏まえると、日本に流通するマネー全体が拡大したのではなく、預金の一部が取り崩され、現金にシフトした動きが強まったと解釈できる。

 増えた現金の多くは、実際の経済活動に使われたわけではなく、自宅などに自分で保管される、いわゆるタンス預金であると推察される。現金を紙幣・硬貨別にみると、一万円札が前年比6.9%増と高い伸びとなっているのに対し、五千円札は前年比0.2%増、千円札は同1.9%増と伸びが弱い。保管目的であれば、千円札や五千円札よりも一万円札を使用するのが効率的で、タンス預金が増えているという推察と合致する。一部エコノミストが一万円札と千円札の二つの伸びから推計したタンス預金の総額は今年2月で約40兆円。金融危機の最中だった2000年代後半の平均が26.6兆円だったというから、タンス預金は金融危機時の約1.5倍に拡大したことになる。

 日銀が1月29日にマイナス金利付き量的・質的金融緩和の導入を発表したことでタンス預金が増加したと指摘するメディアもある。たしかにマイナス金利の導入は、一般の人々にも大きな驚きを与え、預金金利の急低下にもつながったが、それだけでタンス預金が急増したと考えるのは、やや無理があるように思える。一万円札の発行高の伸びが加速したのが、昨年後半からだったことも考えると、(これも一部エコノミストが指摘していることだが)マイナス金利の導入よりも、昨年1月の相続税の課税強化やマイナンバー制度の運用開始が、タンス預金の拡大を促したとみた方が自然に思える。

 ただ現時点では仮説でしかないが、足元でのタンス預金の拡大が、消費者心理の悪化を反映した動きである可能性もある。現に2月の消費者態度指数は40.1と市場予想(42.2)を大きく下回り、昨年1月以来の低水準に悪化。各種メディアは、中国を始めとする海外景気の悪化リスクを喧伝しており、大口資産家が資産保全措置としてタンス預金を積み上げていると推察することも可能と思われる。

 仮にこの仮説が正しいものとすれば、日本株の下落や消費の悪化といった事態を想定する必要があるのかもしれない。上述したようにタンス預金を中心現金通貨流通高の伸びが高まった2003年2月は、金融機関のペイオフ解禁などで金融不安が高まった時期。当時、日経平均株価は、2002年5月に記録した12081円から、2003年4月の7603円まで大きく下落。個人消費は、2002年第4四半期、2003年第1四半期と2四半期連続で前期比0.3~0.4%の減少を記録した。もちろん消費者心理の悪化だけで日本株が大きく下落し、個人消費が悪化するわけではないが、日本景気の先行き不透明感が強まっているだけに、慎重な見方を続ける価値はあるように思える。

2016年3月4日金曜日

安倍政権の次の一手となりそうな財政支出の再拡大

 日本の個人消費が悪化を続けている。昨年第4四半期の実質個人消費は、前期比0.8%減の304.5兆円と、2011年第3四半期以来の低水準に減少した。今年に入っても1月の実質消費水準指数(家計調査ベース)は、前年比-2.7%と5カ月連続の前年割れ。水準は93.0と前月(92.5)から小幅上昇したものの、消費税率が引き上げられた直後の2014年5月を除くと、1981年(35年前)以来の低水準に落ち込んでいる。

 消費悪化の主因とされているのが、一人当たり実質賃金の伸び悩みだ。本日(3月4日)発表された1月の実質賃金指数は、現金給与総額で前年比0.4%増と3カ月ぶりのプラスとなったが、ボーナスを除く「きまって支給する給与」は前年比ゼロ(横ばい)。「きまって支給する給与」は昨年7月以降、実質で前年比ゼロを境に小幅に上下動する状態が続いている。

 安倍首相は、2016年度予算案の基本的質疑で、総雇用者所得は名目で増え、実質でも伸びていると発言。たしかにGDP統計で公表される雇用者報酬(一人当たり賃金に雇用者数を乗じたもの)は昨年、名目で255.4兆円と2008年以来の高水準に増加。実質でも262.0兆円と2014年から1.1%増加した。ただ実質雇用者報酬の水準は、アベノミクスが喧伝された2013年(262.2兆円)を越えていない。安倍首相が、「名目では増え」と言いながら「実質では伸びている」と述べたのも、実質での水準の伸び悩みを意識したためと推察することもできる。

 所得の伸びだけでなく、可処分所得に対する消費の割合を示す平均消費性向の低下も、消費悪化の主因と思われる。1月の平均消費性向(家計調査ベース)は72.3と4カ月連続で低下し、昨年7月以来の低水準。単月でのブレを均すため四半期でみると、昨年第4四半期は73.1と2012年第1四半期以来、約4年ぶりの低さとなっている。

 名目でみた一人当たり賃金や平均消費性向が今後、大きく改善に向かうとは考えにくい。今年の春闘ではメガバンク3行の各労働組合は、いずれもベースアップ(ベア)要求を見送る方針。トヨタ自動車がベア2千円以上を回答する見通しとなっているが、前年の4千円を下回る。2月のロイター企業調査によると、今春の賃上げ率が2%以上と予想する企業は全体の16%と、昨年1月調査の40%から大きく低下。ベア実施予定の企業は現状で9%しかない。年始からの世界景気の減速懸念や円高の進展で、経営側は賃上げ回避や労働者への配分をベアではなく一時金で対応する姿勢を強めるだろう。一方、平均消費性向については、消費者態度指数や景気ウォッチャー調査といった消費者マインド調査が大幅な悪化を示していないが、日本株は年始から大きく下落。2017年4月の消費税率の引き上げを控え、消費者の生活防衛姿勢が緩むとも考えにくく、平均消費性向が底這いを続ける可能性も十分あると思われる。

 個人消費の悪化ないしは低迷が続くことで、日本のGDP成長率にも大きな期待は持ちにくい。そんな状況ではあるが、日銀の追加緩和を期待するのは当面、難しいだろう。日銀・黒田総裁は、本日の参院予算委員会での答弁で、さらにマイナス金利を下げることは考えていないと明言。1月29日にマイナス金利を導入した際の会見とは真逆の姿勢に転じた。マイナス金利導入による市場の混乱が長期化しつつあるほか、推測報道にあったようにG20での日本の円安誘導に対する批判への配慮を強めていると推察される。

 残された手段はアベノミクス第2の矢とされる財政支出の再拡大である。先月末に成立した今年度(2015年度)補正予算の早期執行を目指すだけでなく、(来年度(2016年度)予算案が成立していないが)来年度補正予算の早期策定も視野に入る。一部で実しやかに噂される消費税率引き上げの再延期も、今後の景気次第とはいえ現実味の薄いものとも思えない。先月27日に開催されたG20声明で「財政政策の機動的な実施」が盛り込まれたことも、安倍政権の財政再拡大の錦の御旗となりそうだ。

2016年2月5日金曜日

構造改革を阻害する可能性がある日銀のマイナス金利

日銀は1月29日、マイナス金利付き量的・質的金融緩和(マイナス金利付きQQE)の導入を決定した。ただ、決定からすでに1週間が経ったにもかかわらず、マイナス金利付きQQEの評価が定まっていない。

あくまで印象論でしかないが、業務経験の長いエコノミストほど、マイナス金利付きQQEに対して否定的な見方を表明している。日銀・黒田総裁は、これまでマネタリーベースを拡大することで2%物価上昇目標を達成すると公言してきたが、今回の決定ではマネタリーベースの拡大ペースは年率80兆円で変わらず。一方で、マイナス金利の導入を決定直前まで否定していたにもかかわらず、3つ目の次元としてマイナス金利を導入。とはいえ、マイナス金利が適用されるのは250兆円程度ある当座預金のうちの10~30兆円程度。200兆円は従来通り0.1%の金利が適用されるため、当座預金残高全体でみた場合、日銀から市中銀行には(金額は減少するものの)これまで通り金利が支払われる。日銀の政策意図が不明確という指摘も多い。

日銀は、当座預金のうちゼロ金利が適用されるマクロ加算残高を適宜増加させることで、マイナス金利が適用される政策金利残高を10~30兆円程度に維持する意向を示しているが、黒田総裁はマイナス金利のマイナス幅を広げる可能性もあると発言。ならば、ゼロ金利が適用されるマクロ加算残高を変更しなければいいだけとの指摘もある。

実体経済に対する追加的な効果が期待できないとの声も多い。マイナス金利の導入で円債利回りは8年債までマイナスとなるなど、日本国債のイールドカーブは全体的に下方シフト。これにより市中銀行は日本国債による運用が難しくなるが、たとえイールドカーブが下がり、貸出金利が多少下がったとしても、日本企業の資金需要が高まるとは考えにくい。結果として、市中銀行は貸出を増やすことなく、マイナス金利であっても日本国債での運用を余儀なくされるとの見方が根強い。

ただ、日本国債のイールドカーブが下方シフトしたことで、円買いの動きは抑制されるようになった。日銀がマイナス金利付きQQEを発表した1月29日にドル円は一時121円台後半まで上昇したが、その後は下落基調が続き、本日(2月5日)午後は116円台後半と、日銀が発表する1週間前(1月21日)以来の安値に下落した。これをもって、日銀のマイナス金利付きQQEは効果がなくなったとの指摘も目にするが、ドル円の下げがきつくなったのは1月の米ISM非製造業景況指数の予想外の悪化などでドル売りが進んだ結果。日銀が毎日発表する円の実効レートは、日銀の追加緩和と同水準のまま。仮に今後、再び円買いの動きが強まるようになれば、黒田総裁はマイナス金利の拡大を示唆するなど、円買いの動きにプレッシャーをかけることも十分に考えられる。

日銀のマイナス金利付きQQEについては、市場関係者を中心にあまり評判が良くないが、円高の抑制に貢献したという点も考慮すれば、言われているほど悪いものではないようにも感ずる。ただ、日銀がマイナス金利を導入したことで、日本経済が時間とともに低迷感を強める恐れがある可能性には注意した方がいいだろう。

市場関係者や識者とされる方々が指摘するように、マイナス金利付きQQEは日本の市中銀行の採算性を悪化させるだろう。当座預金による金利収入が減少する一方で、貸出金利は低下。しかし金利低下をカバーするだけの貸出増も期待できなければ、採算性が悪化するのも当然である。

一部大手銀行は、外債や株式といったリスク資産への投資比率を高めることも考えられるが、その他銀行では、そのような対応も難しい。時間とともに、採算性の悪い銀行が淘汰される形で、銀行業界の寡占化が加速する展開が予想される。

寡占化が進んだ銀行業界では、競争の必要性が低下するだろう。この結果、不透明感の強い案件への貸出を躊躇する傾向が強まり、ベンチャー企業や中小零細企業への貸出は、これまで以上に増えにくくなる可能性も高まる。日銀は、貸出の伸び悩みが続くことで、マイナス金利をさらに拡大するかもしれない。しかし、それは銀行の寡占化を進め、ベンチャー企業などへの貸出がさらに停滞する可能性を高める。

アベノミクスが日本経済の再生に資するには構造改革(3本目の矢)を推進することが求められるとの声が根強い。しかし、日銀の金融緩和(1本目の矢)が、3本目の矢を打つ射手を狙撃し続けている可能性に留意する必要があるのかもしれない。

2016年1月15日金曜日

盛り上がるかもしれない1月会合での日銀・追加緩和期待

現時点では市場関係者の一部からしか指摘が出ていないようだが、日本の成長率は昨年第4四半期も前期比マイナスとなる可能性が高いと思われる。

日本経済研究センターが公表するESPフォーキャスト調査によると、昨年第4四半期成長率見通しは前期比年率0.63%増と、昨年12月時点の同1.31%増から大きく鈍化。予測値が低い8機関の平均では同0.13%減とマイナスとなっている。

第4四半期も再びマイナスとなる最大の理由は個人消費の悪化だ。家計調査ベースの実質消費支出は、昨年11月が前月比2.2%減と3カ月連続の減少。10~11月平均でみると、7~9月期(第3四半期)から1.8%の減少となっている。

減少ペースが大きいことから、家計調査のサンプルバイアスを指摘する声もあるが、家計調査よりもサンプル数の大きい家計消費状況調査でも支出総額は減少基調で推移しており、家計調査の弱さをサンプル要因のみで説明するのは無理がある。

個人消費だけでなく設備投資も成長率の重石となりそうだ。11月の機械受注(民需除く船舶・電力)は前月比14.4%の大幅減。同指標は9月、10月と2カ月連続で大きく増加したが、11月だけで過去2カ月の増加分を打ち消した。12月が前月比9%以上落ち込まなければ、10~12月期(第4四半期)で前期比プラスとなるが、これは7~9月期(第3四半期)が前期比10.0%減と大きく落ち込んだため。12月の工作機械受注では、内需が前月比6.3%減(前年比11.5%減)と大きく減少したことも考慮すると、12月の機械受注に大きな期待は持ちにくく、第4四半期の設備投資も前期と同様に伸び悩む可能性が高いと思われる。

在庫調整の進展も成長率の下押し要因となるだろう。GDP統計によると、民間在庫は昨年第1四半期と第2四半期に計3.3%もGDPを押し上げ。第3四半期は0.8%の押し下げとなったが、昨年前半の積み上がりを解消したとは言い難い。鉱工業生産指数をみても在庫調整は一半ばで、第4四半期でも民間在庫は成長率を下押しすると予想される。

第4四半期の成長率は、12月の経済指標の結果次第といえなくもないが、これまで発表された12月の経済指標を見る限り、大きな期待は持ちにくい。12月の日経製造業PMIは52.6と11月から変わらず。12月の消費者態度指数も42.7と11月とほぼ同じ。12月のマネーストック(M2)は前年比3.0%増と、市場予想に反し11月から減速した。12月の景気ウォッチャー(現状判断)は48.7と、11月の46.1から大きく上昇したが、第4四半期の平均は47.7と、第3四半期の平均(49.5)を下回っている。今後発表される12月の個人消費関連、設備投資関連の各指標が、第4四半期成長率を大きく押し上げるほどの改善を示すと期待するのは難しいようだ。

第3四半期にプラスに転じた日本の成長率が、第4四半期に再びマイナスとなると、日本景気の伸び悩みが再び注目を集め、日銀による追加緩和観測が盛り上がることだろう。次回の金融政策決定会合は1月29日だが、同じの日の朝に12月の家計調査、鉱工業生産、CPIなど重要指標が相次いで発表される。いずれの指標も弱い結果となれば、市場が日銀の追加緩和期待を大きく強める展開も考えられる。