2016年3月4日金曜日

安倍政権の次の一手となりそうな財政支出の再拡大

 日本の個人消費が悪化を続けている。昨年第4四半期の実質個人消費は、前期比0.8%減の304.5兆円と、2011年第3四半期以来の低水準に減少した。今年に入っても1月の実質消費水準指数(家計調査ベース)は、前年比-2.7%と5カ月連続の前年割れ。水準は93.0と前月(92.5)から小幅上昇したものの、消費税率が引き上げられた直後の2014年5月を除くと、1981年(35年前)以来の低水準に落ち込んでいる。

 消費悪化の主因とされているのが、一人当たり実質賃金の伸び悩みだ。本日(3月4日)発表された1月の実質賃金指数は、現金給与総額で前年比0.4%増と3カ月ぶりのプラスとなったが、ボーナスを除く「きまって支給する給与」は前年比ゼロ(横ばい)。「きまって支給する給与」は昨年7月以降、実質で前年比ゼロを境に小幅に上下動する状態が続いている。

 安倍首相は、2016年度予算案の基本的質疑で、総雇用者所得は名目で増え、実質でも伸びていると発言。たしかにGDP統計で公表される雇用者報酬(一人当たり賃金に雇用者数を乗じたもの)は昨年、名目で255.4兆円と2008年以来の高水準に増加。実質でも262.0兆円と2014年から1.1%増加した。ただ実質雇用者報酬の水準は、アベノミクスが喧伝された2013年(262.2兆円)を越えていない。安倍首相が、「名目では増え」と言いながら「実質では伸びている」と述べたのも、実質での水準の伸び悩みを意識したためと推察することもできる。

 所得の伸びだけでなく、可処分所得に対する消費の割合を示す平均消費性向の低下も、消費悪化の主因と思われる。1月の平均消費性向(家計調査ベース)は72.3と4カ月連続で低下し、昨年7月以来の低水準。単月でのブレを均すため四半期でみると、昨年第4四半期は73.1と2012年第1四半期以来、約4年ぶりの低さとなっている。

 名目でみた一人当たり賃金や平均消費性向が今後、大きく改善に向かうとは考えにくい。今年の春闘ではメガバンク3行の各労働組合は、いずれもベースアップ(ベア)要求を見送る方針。トヨタ自動車がベア2千円以上を回答する見通しとなっているが、前年の4千円を下回る。2月のロイター企業調査によると、今春の賃上げ率が2%以上と予想する企業は全体の16%と、昨年1月調査の40%から大きく低下。ベア実施予定の企業は現状で9%しかない。年始からの世界景気の減速懸念や円高の進展で、経営側は賃上げ回避や労働者への配分をベアではなく一時金で対応する姿勢を強めるだろう。一方、平均消費性向については、消費者態度指数や景気ウォッチャー調査といった消費者マインド調査が大幅な悪化を示していないが、日本株は年始から大きく下落。2017年4月の消費税率の引き上げを控え、消費者の生活防衛姿勢が緩むとも考えにくく、平均消費性向が底這いを続ける可能性も十分あると思われる。

 個人消費の悪化ないしは低迷が続くことで、日本のGDP成長率にも大きな期待は持ちにくい。そんな状況ではあるが、日銀の追加緩和を期待するのは当面、難しいだろう。日銀・黒田総裁は、本日の参院予算委員会での答弁で、さらにマイナス金利を下げることは考えていないと明言。1月29日にマイナス金利を導入した際の会見とは真逆の姿勢に転じた。マイナス金利導入による市場の混乱が長期化しつつあるほか、推測報道にあったようにG20での日本の円安誘導に対する批判への配慮を強めていると推察される。

 残された手段はアベノミクス第2の矢とされる財政支出の再拡大である。先月末に成立した今年度(2015年度)補正予算の早期執行を目指すだけでなく、(来年度(2016年度)予算案が成立していないが)来年度補正予算の早期策定も視野に入る。一部で実しやかに噂される消費税率引き上げの再延期も、今後の景気次第とはいえ現実味の薄いものとも思えない。先月27日に開催されたG20声明で「財政政策の機動的な実施」が盛り込まれたことも、安倍政権の財政再拡大の錦の御旗となりそうだ。

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