2017年9月29日金曜日

日本企業の変革にかかっている日本経済の今後

 世界景気は、昨年(2016年)後半から堅調に拡大している。OECDが公表する世界景気先行指数(Global Leading Economic Indicator)は、2013年後半に前年比3%程度のペースで上昇していたが、その後、上昇ペースは鈍化し、2014年後半から2016年前半までの2年間は1.5%程度とギリシャショックの2011年後半以来の低い伸びが続いた。しかし2016年7月から世界景気先行指数は加速に転じ、9月には前年比2.0%、12月には同2.5%、そして最新データにあたる今年3月には同2.9%に加速した。

 4-6月期も世界景気は堅調なペースで拡大を続けている。主要国の4-6月期・実質GDP成長率を見ると、米国が前年比2.2%増と前期(1-3月期)から加速。中国は同6.9%増と前期と変わらず。ドイツは同2.1%増と2014年1-3月期以来の高い伸びに加速した。

 7-9月期も世界景気は好調を維持していると推察される。米ISM製造業景況指数は8月に58.8と2011年4月以来の高水準を記録。中国製造業PMIは8月に51.7と6月と同水準に高止まり。ドイツZEW景況感(期待指数)は7-9月平均で14.8と、前期(4-6月期)の19.6から低下したものの、前々期(1-3月期)の13.3を上回っている。

 日本も他国と同じように比較的順調な拡大を維持している。実質GDP成長率は昨年7-9月期に前年比1.1%増と1年ぶりに1%超を記録。翌10-12月期は同1.7%増に加速した。しかし今年1-3月期は同1.5%増、4-6月期は同1.4%増と、今年に入っても成長率は1%台を維持しているものの、緩やかに鈍化している。

 日本の成長率が伸び悩む理由として潜在成長率の低さが指摘されている。潜在成長率とは、経済的な付加価値を産出する際に必要とされる労働力、資本、生産性の3つの要素をすべてフル活用した場合に達成される成長率のことである。日本は、すでに人口減少局面に入っているため労働力の伸びが低く、設備投資が盛り上がっていないことから資本ストックの伸びも小さい。この結果、日本の潜在成長率は現在、ゼロ%台前半から1%程度と言われており、足元の成長率(1%台半ば近辺)は、潜在成長率からみれば良好であるとの見方すら存在する。

 ただ潜在成長率は、あくまで国内の生産要素を想定した考え方で、海外経済との連動性を明示的に考慮していない。仮に日本経済が、海外経済の拡大をより効果的に取り込むことができれば、日本のGDP成長率は、潜在成長率を大きく上回ることも可能である。

 日本が海外経済の拡大をどの程度、取り込むことができているかを見るために、ここではGDP成長率に対する純輸出(財・サービスの輸出から輸入を差し引いた額)の寄与度をみてみよう。今年4-6月期の場合、純輸出の寄与度は+0.5%と、全体の伸び(+1.4%)の約3分の1を占めている。なお、アベノミクスが始まった2013年1-3月期以降、日本の純輸出の寄与度は、-1.2~+1.3%と非常に狭い範囲で推移しており、2013年1-3月期から今年4-6月期までの4年半の平均は+0.2%に過ぎない。

 外需寄与度が狭い範囲に収まり、平均では+0.2%に過ぎないことは、日本経済が外需に左右されず、内需中心の体質になったと解釈することもできる。しかし、足元のように海外経済が堅調に拡大している局面では、日本が海外経済の拡大という恩恵を取りこぼす結果になっているとも解釈できる。

 たとえば、日本がオイルショックを乗り越えて再び成長軌道を取り戻した1980年代前半(1981~84年)の純輸出の寄与度は、0.0%~+2.3%と常にプラスで、平均で+0.9%と今の4倍以上の水準にあった。この結果、同期間の日本の実質GDP成長率は、平均で+3.9%と、こちらも今の4倍以上の高い伸びとなっている。当時の日本は、海外経済の動きを効率的に取り込み、高い成長を確保できていた。

 なぜ今の日本は、海外経済の拡大という追い風を取りこぼすようになってしまったのだろうか。一つの仮説として考えられるのは、日本企業がグローバリゼーションという世界的な流れへの対応に遅れてしまったということだ。日本では第二次世界大戦後から90年代前半までの長きにわたり国内市場が持続的に拡大してきた。この結果、日本企業の多くは、たとえ内需型産業であっても、それなりに発展することができたが、この成功体験が、海外市場への対応を軽視する企業文化につながった可能性がある。

 日本人の多くは強く感じるように、外国語に対するアレルギーも日本企業のグローバリゼーション対応の遅れにつながったのかもしれない。また日本は第二次世界大戦後、米ソ冷戦体制のもと米国に追随することで奇跡的な発展を手に入れたが、この結果、日本では海外=米国という枠組みが頭の中で定着し、90年代後半からの中国をはじめとする新興国の経済発展の流れに乗り遅れてしまった可能性も考えられる。

 リーマンショックと呼ばれる2008~09年に起きた世界的な金融危機による大打撃が、日本企業経営者のトラウマとなっているのかもしれない。リーマンショック時の日本では、大企業も含め数多くの企業が破綻し、数多くの労働者が解雇された。この痛手からの教訓として、日本企業の経営者は、海外経済との連動性をあえて断ち切り、業績の安定化を手に入れたのかもしれない。しかし、その引き換えに、海外経済の拡大を取り込み、業績を大きく拡大させるチャンスを見過ごしてしまった可能性も考えられる。この見方は、日本企業の多くが、万が一に備えるという名目で、増収増益が続いているにもかかわらず、設備投資や賃上げを実施せず、稼いだ利益を負債返済や現預金の積み増しに動いている姿からも推察できる。

 アベノミクスにおける第一の矢(金融緩和)や第二の矢(財政支出の拡大)は、日本経済を活性化したものの、海外経済の拡大を取り込むという点で大きな期待は持ちにくい。それゆえにエコノミストの一部は、日本経済のさらなる発展を目指し、第三の矢(成長戦略)に強い期待を示しているが、海外経済拡大の取り込みにおいては、政府が策定する成長戦略が果たす役割は限定的なものでしかない。結局のところ、日本企業経営者が、考え方や行動を変え、最終的には日本企業の収益力を上げていくしかない。10月22日投開票の衆議院選挙どのような結果に終わったとしても、日本経済の先行きは、政治ではなく日本企業の変革にかかっているように思われる。