2016年3月11日金曜日

政府・中銀が実力行使することも~介入の有無や限界を確認する方法

 政府・中銀が為替市場介入をおこなったかどうかは、国際収支統計の外貨準備の変化を見ることで確認できます。外貨準備とは、政府・中銀がもつ外国の通貨(外貨)のことです。もともと外貨準備は、海外からの借金(債務)が返せなくなるとか、為替レートが急激に変動したことで輸入が滞りそうになる、といった万が一に備えて用意されているものです。ただ、政府・中銀が為替市場介入として為替取引をすると、政府・中銀が保有する外貨(外貨準備)が変わりますので、外貨準備の増減を確認することで為替市場介入の有無が確認できます。

 政府・中銀が自分の国の通貨を買う介入(買い介入)をおこなうことは、外貨を売ることを意味します。この結果、外貨準備は介入の前から減ることになります。反対に、政府・中銀が自分の国の通貨を売る介入(売り介入)をおこなうことは、外貨を買うことになりますので、外貨準備は介入の前より増えることになります。つまり、外貨準備が減っていれば、その国は買い介入をした可能性が高く、逆に外貨準備が増えていれば、その国は売り介入をした可能性が高いと考えられます。

●外貨準備の変化を見れば、介入の有無を確認することができる
●外貨準備が減った=買い介入をした可能性が高い
●外貨準備が増えた=売り介入をした可能性が高い

 自分の国の通貨が高くなると、自分の国の通貨でみた輸出の金額が減ってしまうため、輸出を重要と考える国の政府・中銀は、自分の国の通貨を売る介入をする傾向があります。このため、輸出を重要と考える国ほど外貨準備は大きいと考えられています。

 たとえば中国は、輸出が拡大することで高い経済成長を続けてきたこともあり、中国の通貨人民元を売る介入を続けてきました。この結果、中国の外貨準備は、2014年には4兆ドル(1ドル100円とすると400兆円)程度と世界最大の大きさになっています。また日本も、円高によって景気が悪くなることを心配し、過去に多額の円売り介入をしてきました。日本の外貨準備は1.2兆ドルと中国ほどではありませんが世界第二位の規模に達しています。

●輸出を重要と考える国=自分の国の通貨が高くなることを嫌がる傾向が強い
●中国や日本の外貨準備は非常に大きい

 自分の国の通貨を売る介入(売り介入)は、他の国からの批判を無視すれば、好きなだけ、無限にすることができます。売るための自分の国の通貨が足らなくなれば、政府・中銀が自分の国の通貨をまた発行すればいいからです。一方で、自分の国の通貨を買う介入(買い介入)は無限にすることはできません。買い介入は、外国の通貨を売ることを意味しますが、外国の通貨は(当然ですが)自分の国では発行できず、政府・中銀が持っている額、つまり外貨準備の分しかできません。

 こうしたことから、外貨準備の規模が比較的小さい国が買い介入をしても、思惑どおりに自分の国の通貨が上がらず、失敗しやすい傾向があります。これは、たとえ買い介入がおこなわれても、外貨準備が少ないから、規模は大きくないと判断されるほか、買い介入が続けられる可能性も低いだろうと考えられてしまうからです。

●自分の国の通貨を売る介入(売り介入)は無限にできる
●自分の国の通貨を買う介入(買い介入)は外貨準備の分しかできない
●外貨準備の規模が比較的小さい国がおこなう買い介入は失敗しやすい

 いくつかの国では、為替介入を実施すると、後ほど、その結果を公表しています。たとえば、日本の場合、財務省が「外国為替平衡操作の実施状況」という名前で為替介入の実績をウェブサイトに公表しています。これを見ると、日本による介入のほとんどはドル円によるものであることが分かります。

 為替介入の結果を公表するのは、他の国に対する配慮を示すためと言われています。世界の国々の間では、政府・中銀は本来、為替介入をすべきではないという考え方が共有されています。ただ、何らかの理由でやむを得なく為替介入をしたのであれば、その結果を広く示して、為替介入をした政府・中銀の意向を示すことが、ある種のマナーとされています。

 ただ、すべての国が為替介入の結果を公表しているわけではなく、中国や韓国などは為替介入の結果を全く公表しない国もあります。政府・中銀が、いつ、どれくらいの規模で為替介入したかを公表してしまうと、政府・中銀の為替取引の傾向が読み取りやすくなり、政府・中銀が望むように為替レートを変えることが難しくなるからです。

 しかし、為替介入の結果を公表しない国々は、世界各国に対して、ある種のマナー違反をしていることになります。このため、こうした国々は、世界各国から批判を受けることもあります。

■ロンドン・NY市場の主要国通貨(2016年3月10日)

 3月10日のロンドン市場は円、ユーロなど主要通貨は動意に欠ける展開となった。ドル円は取引中盤まで上値の重い動きが続き、113円台半ばを小幅上回る水準から113円台前半にじり安で推移。ECB理事会を前に欧州株は小動き。しかし米債利回りは小幅ながら低下。ドル円の重石となった。取引後半に入り米債利回りが下げ渋ると、ドル円は113円台半ばを小幅上回る水準に反発。ただECB理事会の結果を見極めたいとの思惑も強く、ドル円は様子見姿勢の強い動きとなった。

 ユーロドルは1.09ドル台後半で小動き。取引序盤に発表された1月のドイツ経常収支は132億ユーロの黒字と黒字額が市場予想を大きく下回り、8カ月ぶりの低水準。ユーロの重石となったが、ECB理事会を控えていることもあって、ユーロ売りの動きは続かず。取引中盤以降は方向感に欠ける動きが強まった。

■ロンドン・NY市場の新興国通貨(2016年3月10日)

 新興国通貨は対ドルで大きな値動き。原油先物価格の下落でZAR、COPなどが売られる一方、東欧通貨は大きく上昇するなど、全体では方向感に欠ける展開となった。

 KRWは対ドルで1.1%の上昇。韓国中銀は市場予想通り政策金利を1.50%で据え置き。同中銀は声明で内需の回復は弱さが続いていると指摘。景気拡大は続く見込みだが、先行き不透明感は強いままとの見方を示した。

 PHPは対ドルで0.3%の上昇。1月のフィリピン輸出は前年比3.9%減と市場予想に反し10カ月連続の前年割れ。フィリピン景気の先行き懸念を強めた。

 INRは対ドルで0.2%の上昇。2月のインド自動車販売は前年比4.2%減と2カ月連続の前年割れとなった。

 BRLは対ドルで1.3%の上昇。3月のブラジルIGP-M(一次速報値)は前月比+0.43%と市場予想を下振れ。ブラジル中銀は会合議事録(3月3日結果発表分)を公表。物価見通しは前回会合から下方修正。GDPギャップは従来よりもディスインフレ圧力を強める状況になったとの見方も示され、メンバーの過半は状況を見守るべきとの意見だった。1月のブラジル小売売上高は前年比10.3%減と市場予想を上回る落ち込みとなった。

 CLPは対ドルで1.2%の下落。チリ中銀のエコノミストサーベイでは政策金利見通しが次回会合で3.50%、今後11カ月以内は3.75%、今後23カ月以内は4.00%の結果となった。

 PENは対ドルで0.4%の上昇。1月のペルー貿易収支は5.2億ドルの赤字と、ほぼ市場予想通りの結果となった。

 COPは対ドルで1.2%の下落。昨年第4四半期GDPは前年比3.3%増と市場予想や前期を小幅上振れ。12月の同国経済活動指数は前年比+3.7%と市場予想を上回る伸びだった。

 MXNは対ドルで0.6%の下落。2月のメキシコ名目賃金は前年比4.2%増と前月から小幅加速した。

 TRYは対ドルで小幅下落。1月のトルコ経常収支は22.3億ドルの赤字と赤字額が市場予想を下回った。

 ZARは対ドルで1.3%の下落。1月の南アフリカ鉱物生産量は前年比4.5%減と市場予想を大きく上回る落ち込み。同月同国の製造業生産は同-2.5%と市場予想に反し、前年割れ。低下率は2014年7月以来の大きさとなった。

 ILSは対ドルで0.3%の上昇。昨年第4四半期のイスラエルGDP(改定値)は前期比年率3.9%増と速報値から上方修正。同期のイスラエル経常収支は35.7億ドルの黒字と過去最高を記録した前期並みの水準を維持した。

 RUBは対ドルで0.5%の下落。2月のロシア軽自動車売上高は前年比13.4%減と減少率が2014年10月以来の小幅に縮小。3月4日時点のロシア金・外貨準備高は3790億ドルと前週から小幅減少した。

連日になりますが、今度は米民主党の大統領選立候補者であるサンダース氏に「お前はクビだ!」と言われる夢を見ました。彼に言われるとは思わなかったので、ちょっとショックでした。

2016年3月10日木曜日

日本株下落や個人消費悪化の前兆にも見えるタンス預金の急増

 日本のタンス預金が急増している。2月の現金通貨流通高は前年比6.7%増と2003年2月(13年前)以来の高い伸び。現金に銀行などの金融機関に預けられた預金を含むM3は、前年比2.5%増と前月(同2.6%増)から小幅増加していることも踏まえると、日本に流通するマネー全体が拡大したのではなく、預金の一部が取り崩され、現金にシフトした動きが強まったと解釈できる。

 増えた現金の多くは、実際の経済活動に使われたわけではなく、自宅などに自分で保管される、いわゆるタンス預金であると推察される。現金を紙幣・硬貨別にみると、一万円札が前年比6.9%増と高い伸びとなっているのに対し、五千円札は前年比0.2%増、千円札は同1.9%増と伸びが弱い。保管目的であれば、千円札や五千円札よりも一万円札を使用するのが効率的で、タンス預金が増えているという推察と合致する。一部エコノミストが一万円札と千円札の二つの伸びから推計したタンス預金の総額は今年2月で約40兆円。金融危機の最中だった2000年代後半の平均が26.6兆円だったというから、タンス預金は金融危機時の約1.5倍に拡大したことになる。

 日銀が1月29日にマイナス金利付き量的・質的金融緩和の導入を発表したことでタンス預金が増加したと指摘するメディアもある。たしかにマイナス金利の導入は、一般の人々にも大きな驚きを与え、預金金利の急低下にもつながったが、それだけでタンス預金が急増したと考えるのは、やや無理があるように思える。一万円札の発行高の伸びが加速したのが、昨年後半からだったことも考えると、(これも一部エコノミストが指摘していることだが)マイナス金利の導入よりも、昨年1月の相続税の課税強化やマイナンバー制度の運用開始が、タンス預金の拡大を促したとみた方が自然に思える。

 ただ現時点では仮説でしかないが、足元でのタンス預金の拡大が、消費者心理の悪化を反映した動きである可能性もある。現に2月の消費者態度指数は40.1と市場予想(42.2)を大きく下回り、昨年1月以来の低水準に悪化。各種メディアは、中国を始めとする海外景気の悪化リスクを喧伝しており、大口資産家が資産保全措置としてタンス預金を積み上げていると推察することも可能と思われる。

 仮にこの仮説が正しいものとすれば、日本株の下落や消費の悪化といった事態を想定する必要があるのかもしれない。上述したようにタンス預金を中心現金通貨流通高の伸びが高まった2003年2月は、金融機関のペイオフ解禁などで金融不安が高まった時期。当時、日経平均株価は、2002年5月に記録した12081円から、2003年4月の7603円まで大きく下落。個人消費は、2002年第4四半期、2003年第1四半期と2四半期連続で前期比0.3~0.4%の減少を記録した。もちろん消費者心理の悪化だけで日本株が大きく下落し、個人消費が悪化するわけではないが、日本景気の先行き不透明感が強まっているだけに、慎重な見方を続ける価値はあるように思える。

政府・中銀が実力行使することも~介入が成功する条件とは

 政府・中銀が保有する資金は、一般の民間企業や個人投資家に比べ非常に大きいので、為替市場介入は成功しやすいと思われるかもしれません。しかし、為替市場で取引される金額は、直物取引(スワップやオプションなどを含まない現物での取引)だけで1日あたり150兆円とケタ違いに大きい規模です。このため政府・中銀といえども、為替レートを自由に変えられるわけではありません。

 たとえば東日本大震災が起きた後の2011年8月、ドル円は1ドル80円を割り込む大幅な円高が進みました。これを受けて日本政府は同じ年の8月に4.5兆円、10月に8.0兆円、11月には1.0兆円と、当時の過去最大規模の円売り介入をおこないました。しかし、介入が実施された後も円売りの動きは強まらず、ドル円は2012年2月まで1ドル80円を超えることはありませんでした。

 介入が成功するもっとも基本的な条件は、政府・中銀の考えが市場関係者に納得を持って理解されることです。たとえば、政府・中銀が「今の円は高すぎる」と考え、円を安くするために介入をおこなっても、市場関係者が「円は高すぎるわけではない」と考えるのであれば、市場関係者は介入の後に再び円を買う動きを強めるでしょう。

 政府・中銀が為替市場介入をおこなう際には、できれば単独介入ではなく協調介入が望ましいとも言われています。一つの国だけが一生懸命頑張っても、他の国の政府・中銀が協力する姿勢を示さないのでれば、市場関係者も介入する説得力が乏しいと判断しがちです。また、ある国の政府・中銀による介入に対し、別の国の政府・中銀が批判することもあります。この場合も介入に対する説得力がなくなりますので、介入が失敗に終わる可能性が高まると考えられます。

 近年では、為替レートは市場で決まるべきであり、政府・中銀が市場に介入し、為替レートを人為的に変えることはやめるべき、という考え方が世界各国で広まっています。このため、政府・中銀が為替市場介入をおこなう時には、少なくとも他の国の政府・中銀から理解を得ることが必要と言えます。

 政府・中銀が望ましいと考える方向に為替レートが動いているときに介入をおこなうことも効果が高いと言われています。政府・中銀が介入によって為替レートが動いている方向を後押しすることで、市場関係者の多くは現在の動きに自信を持ち、同じ方向での取引を続けると考えられるからです。

●政府・中銀といえども為替市場を自由に変えることはできない
●介入が成功するには、政府・中銀の考えが市場関係者に納得を持って理解される必要がある
●他の国の政府・中銀から介入に対して理解を得ることも重要

■ロンドン・NY市場の主要国通貨(2016年3月9日)

 3月9日のロンドン市場は取引後半に円買い優勢の動き。一方、ユーロは上値の重い展開となった。ドル円は取引中盤まで112円台半ば近辺での小動き。欧州株は小幅高で米債利回りも底堅く推移したが、ドル円は様子見姿勢が強いまま。後半に入り、米短期債利回りが下げに転ずると、ドル円は112円台前半に下落したが、終盤には112円台半ばに再び反発した。

 ユーロドルは1.09ドル台後半から1.09ドル台半ば近辺へと緩やかな下落基調で推移。翌日のECB理事会での追加緩和に対する思惑もありユーロドルは上値の重い展開となった。

■ロンドン・NY市場の新興国通貨(2016年3月9日)

 新興国通貨は一部アジア通貨を除き対ドルで続伸となった。

 KRWは対ドルで0.8%の下落。1月の韓国M2は前年比8.1%増と3カ月ぶりの高い伸びに加速。2月の対家計銀行貸出は644.2兆ウォンと過去最高を更新した。

 MYRは対ドルで0.3%の下落。マレーシア中銀は市場予想通り政策金利を3.25%で据え置き。同中銀は声明で今年のインフレは昨年より加速するが、商品市況の下落がインフレ加速のインパクトを和らげるだろうとの見方を表明。金融政策は緩和的であるとの見方も提示。インフラ開発プロジェクトや製造業・サービスセクターの設備投資により、総投資は引き続き支援されており、対外セクターの緩やかな改善が国内経済を後押しすると指摘した。

 BRLは対ドルで1.5%の上昇。3月7日のブラジルFIPE・CPIは前月比+0.80%とほぼ市場予想通りで前週から鈍化。2月のブラジルIPCAは前年比+10.36%と市場予想や前月を下回った。

 CLPは対ドルで1.1%の上昇。USD/CLPは675台と昨年10月19日以来のCLP高水準に下落した。チリ中銀のトレーダーサーベイでは今月と3カ月内の政策金利見通しが3.50%、6カ月以内は3.75%で変わらずとなった。

 MXNは対ドルで1.0%の上昇。2月のメキシコCPIは前年比+2.87%と前月から加速したが、市場予想を下回る伸び。2月のメキシコANTAD既存店売上高は前年比9.6%増とほぼ市場予想通りで前月から加速した。

 CZKは対ドルで小幅下落。2月のチェコCPIは前年比+0.5%と市場予想通りで、前月から小幅鈍化した。

 ZARは対ドルで1.5%の上昇。第1四半期の南アフリカBER企業信頼感は36.0と前期と変わらずだった。

 HUFは対ドルで0.3%の上昇。ハンガリー中銀は会合議事録(2月23日結果発表分)を公表。政策金利の据え置きは全会一致の決定だったことが判明。3月のインフレ報告を受けて金融政策が緩和される可能性があるとの見方が示された。

米共和党の大統領選立候補者であるトランプ氏に「お前はクビだ!」と言われる夢を見ました。

2016年3月9日水曜日

政府・中銀が実力行使することも~為替市場介入の3つのパターン

 政府・中銀による為替市場介入には、単独介入、協調介入、口先介入の3つに大きく分けられます。

 単独介入とは、その名の通り、ある特定の一つの国の政府・中銀だけがおこなう介入のことです。日本の中央銀行である日本銀行が、円高を防ぐために円売りの取引をした、というのは単独介入の典型的な例です。

 単独介入には、その国の政府・中銀が自ら実施する場合のほか、自分の代わりに他の国の政府・中銀に介入を任せる(委託する)場合もあります。たとえば日本銀行が、東京市場ではなくニューヨーク市場で介入するために、ニューヨーク連邦準備銀行に介入を任せる例が当てはまります。自分の代わりに他の国の政府・中銀に介入を任せる介入は、委託介入と呼ばれることもあります。

 協調介入とは、複数の政府・中銀がお互いに連絡を取り合い、同じタイミングで介入することです。単独介入に比べ、より多くの国が介入に参加するため、介入の効果が大きい傾向にあります。

 協調介入として歴史的に知られているのが1985年のプラザ合意に基づいた協調介入です。プラザ合意とは、米国のニューヨークにあるプラザホテルで開かれた日米英独仏5カ国の国際会議で、ドルを安くすることで各国が協調することで合意したことを指します。プラザ合意に基づき、日米など5カ国の政府・中銀は同時にドル売りの為替取引をおこないました。この結果、ドルは円などに対して大きく下落しました。

 口先介入とは、その名の通り「口先」で介入することで、政府・中銀の関係者が、実際には為替取引をおこなわず、自らの考えを示すことだけで為替レートを望む方向に変えようとすることです。政府・中銀は、いざとなれば為替市場介入ができるわけですから、政府・中銀の関係者の考えを示すだけで、市場関係者に為替市場介入が将来おこなわれると予想させることが可能となります。

 口先介入で成功した例の一つは、1990年代始めから2008年のリーマンショック前にかけて続けられてきた米国のドル高政策です。1993年に米国の財務長官に就任したルービン氏は、為替市場でドルが高い状態でいることを続けることが、米国にとって利益(国益)になるという考え(ドル高政策)を打ち出しました。この考えは、その後の財務長官にも引きつがれ、ドル高は米国の国益である、という声明を繰り返し表明しました。この結果、ドルはリーマンショック前まで他の通貨に対して比較的高い水準を続けていました。

 国際的な会議で為替に関する声明を出すことも口先介入の一つといえます。先進7カ国によるG7という会合では、2008年10月の声明文で、円の大きな動きが経済や金融の安定に悪影響を及ぼすことが心配(懸念)されており、場合によっては適切に協力する、という趣旨の文言が盛り込まれました。当時、円は大きく上昇していましたが、この声明をきっかけに為替市場では協調介入に対する警戒感が強まり、円買いの動きが和らいだこともありました。

●為替市場介入は大きく3つに分けられる
単独介入:政府・中銀が単独で為替市場介入をすること
協調介入:複数の政府・中銀が同じタイミングで為替市場介入をすること
口先介入:自らの考えを示すことだけで為替レートを望む方向に変えようとすること

■ロンドン・NY市場の主要国通貨(2016年3月8日)

 3月8日のロンドン市場はドルが対欧州通貨で買い優勢の動きとなったが、ドル円は動意に欠ける展開となった。取引前半にユーロドルは1.10ドル台前半から1.10ドル台半ば手前まで上昇。1月のドイツ鉱工業生産は前年比+2.2%と市場予想に反し前年比プラスとなりユーロ買いを後押しした。またポンドドルも取引前半に1.42ドル台前半から1.42ドル台後半へと上昇。欧州株が下げて始まり、米債利回りは低下基調で推移したことで、ドルは対ポンドでも下落した。

 ただ取引中盤に入ると、米債利回りが下げ渋りの動きとなり、欧州株は方向感に欠ける動きを継続。ドルは対欧州通貨中心に買い戻しの動きとなり、ユーロドルは1.10ドルちょうどに下落基調で推移。昨年第4四半期のユーロ圏GDP(改定値)が前年比1.6%増と速報値から小幅上方修正されたが、市場の反応は限定的だった。ポンドドルも1.42ドル台前半へと下落基調で推移した。

■ロンドン・NY市場の新興国通貨(2016年3月8日)

 新興国通貨はBRLなど一部を除き対ドルで軟調な動き。原油先物価格の下落でCOP、ZAR、MXNの下げが目立った。

 TWDは対ドルで0.4%の下落。2月の台湾CPIは前年比+2.40%と市場予想に反し大きく加速。ただ主因は食品価格の急騰。同時に発表された同月同国WPIは同-4.79%と市場予想を上回る落ち込みだった。

 BRLは対ドルで1.3%の上昇。2月のブラジルIGP-DIは前年比+11.93%と市場予想を下回ったが前月から加速した。

 CLPは対ドルで0.5%の下落。2月のチリCPIは前年比+4.7%と市場予想を上回った。

 CZKは対ドルでほぼ変わらず。1月のチェコ貿易収支は193億コルナの黒字と黒字額が前年比3.7%増。2月のチェコ失業率は6.3%と市場予想に反し小幅ながら前月から低下した。

 HUFは対ドルで小幅下落。2月のハンガリーCPIは前年比+0.3%と市場予想を上回る鈍化。1月の同国貿易収支は5.1億ユーロの黒字と黒字額が市場予想を下回った。

 TRYは対ドルで0.2%の上昇。1月のトルコ鉱工業生産は前年比+5.6%と市場予想を上回り、5カ月ぶりの高い伸びとなった。

 ZARは対ドルで0.8%の下落。昨年第4四半期の南アフリカ経常収支はGDP比5.1%の赤字と市場予想を上回り、5期ぶりの高水準に上昇した。

差し出がましいようですが、我が家の近所の公園でしたら聖火台を置いても問題ないと思います。

2016年3月8日火曜日

政府・中銀が実力行使することも~為替市場介入とは


 民間企業や個人投資家だけではなく、政府や中銀も為替取引をすることがあります。ただ、政府・中銀が為替取引をするのは、企業や個人投資家のように利益を上げるためではありません。政府・中銀は為替市場を望ましいと思われる状態にするために為替取引をします。こうした政府・中銀による為替取引は為替市場介入(もしくは単に介入)と呼ばれます。

 本来、為替取引は企業や個人投資家などが自由にするもので、為替レートは自由な取引の結果として決まるものです。しかし、自分の国の通貨が急スピードで大きく上がったり下がったりすると、貿易などの経済活動が大きく損なわれる可能性もあります。

 たとえば極端な例ですが、1ドル100円だったドル円が、次の日にいきなり80円と20%もドル安・円高が進んだ場合を考えてみます。この場合、ドル建てでの輸出金額も変わらなければ、販売数量も変わらないとしても、円建てでみた輸出金額は一気に20%も減ってしまうことになります。数カ月から1年くらいのペースであれば、輸出金額が減ったとしても企業はなんらかの対応策を考えることもできますが、次の日からいきなり20%も輸出金額が減ってしまうと対応のしようがありません。売上高の多くを輸出に頼る企業ほど、苦しい立場に追い込まれ、中には倒産するところも出てくるでしょう、また、そうした企業で働いていた方々の給料は減る可能性もあり、場合によっては失業してしまうかもしれません。

 政府・中銀としては、このような状態をそのままにしておくわけにはいきません。政策金利を引き下げたり、景気対策をおこなうことで景気を良くすることも考えられますが、通常、効果が現実のものとなるまでには、両方とも、ある程度の時間がかかってしまいます。効果が表れるまで待っていては、景気がどんどん悪くなる可能性もあります。

 そこで政府・中銀は、自ら為替市場に乗り出し、為替取引によって為替レートを望ましいと思われる水準に変えようとします。為替レートが変えられれば、政策金利や景気対策と違い、短い時間で景気などの経済状況の悪化に歯止めがかかることも期待できます。

●為替市場介入とは
政府・中銀が為替取引を通じて為替レートを望ましいと思われる水準に変えること

■ロンドン・NY市場の主要国通貨(2016年3月7日)

 3月7日のロンドン市場では円が取引中盤から上昇基調で推移した。取引前半のドル円は113円台後半でもみ合いとなる一方でユーロドルは1.09ドル台後半から1.09ドル台半ば近辺に下落。ポンドドルも1.42ドルちょうど近辺から1.41ドル台半ばに下落するなど、ドルは対欧州通貨中心に上昇した。欧州株が下落するなか、米債利回りは小幅上昇。ドル買いの動きを後押しした。

 取引中盤に入っても欧州株の下げと米債利回りの上昇が続くと、ドル円は113円台半ば近辺に下落。一方、ユーロドルは1.09ドル台半ば近辺で下げ渋りの動き。取引後半に入ると、米債利回りが伸び悩んだことで、ドル円は一時113円台前半に下落し、ユーロドルは1.09ドル台半ばでやや強含む動き。終盤に欧州株の下げが落ち着くとドル円は113円台半ば近辺に小幅反発したが、上値は抑えられた。

■ロンドン・NY市場の新興国通貨(2016年3月7日)

 新興国通貨は対ドルで方向感に欠ける動き。原油先物価格の上昇でCOP、RUBが上昇する一方、東欧通貨やBRLが下落した。

 TWDは対ドルで0.5%の上昇。2月の台湾貿易収支は41.6億ドルの黒字と黒字額が市場予想や前月を上振れ。輸入が前年比13.1%減と市場予想を上回る落ち込みとなったことで貿易黒字が拡大した。

 MYRは対ドルで0.6%の上昇。2月29日時点のマレーシア外貨準備高は956億ドルと2月中旬から変わらなかった。

 IDRはBloombergによると対ドルで0.4%の上昇。2月のインドネシア外貨準備高は1045.4億ドルと前月から増加した。

 BRLは対ドルで1.1%の下落。ブラジル中銀の週次サーベイでは今年末のUSD/BRL見通しが4.30に下方修正。3月6日のブラジル貿易収支は12.4億ドルの黒字と黒字基調が維持された。

 CLPは対ドルで0.2%の上昇。2月のチリ貿易収支は6.0億ドルの黒字と黒字額が市場予想を小幅上振れ。1月のチリ経済活動指数は前年比+0.3%と市場予想を小幅上回ったが前月から大きく鈍化。一方、同月同国の名目賃金は同5.8%増と4カ月ぶりの高い伸びに加速した。

 MXNは対ドルで0.2%の上昇。2月のメキシコ消費者信頼感は88.7と市場予想を下回り、2年ぶりの低水準に悪化した。

 HUFは対ドルで0.5%の下落。1月のハンガリー鉱工業生産は前年比+2.2%と市場予想を大きく下回り、2014年10月以来の低い伸びに鈍化した。

 ZARは対ドルで0.4%の下落。2月の南アフリカSACCI企業景況感は80.1と3カ月連続で過去最低水準に留まった。

 ILSは対ドルで小幅下落。イスラエル中銀は会合議事録(2月22日結果発表分)を公表。金融政策の現状維持はメンバー4名での全会一致だったことが判明した。

米フロリダ州キーウエストで「ほら貝コンテスト」が開催されたそうです。1800年代に難破船の救助で生計を立てていた水夫らが当時、ほら貝を吹いて注意を呼びかけていたのが由来で、キーウエストは非公式に「ほら貝共和国」と呼ばれているとのこと。ほら貝共和国の国歌は、ほら貝で演奏されるのでしょうか?

2016年3月7日月曜日

年半ば以降は視野に入れるべきマレーシアの利下げ

 マレーシア・リンギット(MYR)が上昇基調で推移している。MYRは先週末、対ドルで一時4.10ちょうど近辺と、昨年8月下旬以降の最安値(MYR最高値)を記録。本日(3月7日)は4.10を割り込み、4.09台での推移となっている。次の下値は、昨年4月末の安値(3.54近辺)から昨年9月末の高値(4.48近辺)への上昇の半値戻し水準である4.00近辺となる。

 MYR上昇の背景には原油先物価格の上昇がある。先週末のNY原油先物価格(WTI)終値は、1バレル35.92ドルと1月6日以来の高値。本日は36ドル台後半と上昇基調を維持している。マレーシアの輸出の3割弱は原油・LNG関連。原油安局面ではMYR売りが続いただけに、原油価格の上昇はMYRの買い戻し材料となりやすい。

 マレーシア景気の先行き懸念の後退もMYRを下支えしている。昨年第4四半期GDPが前年比4.5%増と市場予想(同4.1%増)ほど落ち込まず。一般消費税(GST)導入で減速が心配された民間支出も同4.9%増と下げ渋ったことで、マレーシア景気の先行き懸念は後退しているように感じる。

 ただマレーシアの貿易収支は昨年11月から改善が頭打ちとなっている。1月の同国貿易収支は53.9億リンギットの黒字と、黒字額が市場予想(76.0億リンギットの黒字)や前年同月(89.6億リンギットの黒字)を下振れ。輸出が前年比2.8%減と市場予想に反し前年割れとなったことが響いた。マレーシア輸出を国別にみると、中国向けが13.0%と、シンガポール(13.9%)に次ぐ大きさとなっており、中国の依存度が比較的大きい(2015年)。中国景気の減速は続く見込みで、MYRの買い戻しが続くようだと、輸出がさらに落ち込む恐れも高まる。

 輸出が軟化していることもあってマレーシアの製造業は軟調な推移が続いている。昨年12月のマレーシア製造業売上高は前年比1.2%減と5カ月ぶりの前年割れ。2月のマレーシア・日経製造業PMIは47.8と前月(48.6)から低下し、11カ月連続の50割れとなった。
 
 マレーシアのマネー指標の鈍化も注視すべきだろう。1月の同国M3は前年比2.2%増と、4カ月連続で鈍化し、1988年3月以来の低い伸び。マレーシア内需の軟化を示唆している可能性がある。

 マレーシア中銀は9日、政策金利を発表する。1月のマレーシアCPIが前年比+3.5%と、2014年3月以来の高い伸びに加速したほか、原油先物価格とMYRの持ち直しが続いていることから、政策金利は3.25%で据え置かれるとの見方が大勢だ。

 ただ、上述したようにマレーシア景気は、輸出主導で減速感が強まる恐れがある。インフレについても、足元の加速は前年同月の低い伸び(いわゆるベース効果)による部分もあり、M3の急鈍化を考えると、インフレが再び軟調になる可能性も捨てきれない。景気次第の部分があるとはいえ、今年半ば以降、マレーシア中銀が利下げ姿勢を強める可能性も視野に入れておくべきと思われる。


2016年3月6日日曜日

■ロンドン・NY市場の主要国通貨(2016年3月4日)

 3月4日のロンドン市場はドルがやや軟調な推移となった。ドル円は取引前半こそ114円ちょうど手前でもみ合っていたが、中盤には113円台後半に下落。欧州株が前日終値近辺で推移するなか、米債利回りは上値が抑えられる展開。ドルの重石となった。取引後半のドル円は113円台後半で同水準で小幅上昇。欧州株が上昇基調に転じ、米債利回りも下値を固める動き。ただ米雇用統計の発表を控えていることもあり、ドル円の動きは限定的となった。

 ユーロドルは取引前半に1.09ドル台半ば近辺での推移。中盤に入り発表された2月のドイツ小売業PMIが52.5と5カ月ぶりの高水準に上昇すると、ユーロドルは1.09ドル台後半に上昇。後半はドイツ債利回りの上昇を背景にユーロドルは1.09ドル台後半で堅調な推移となった。

■ロンドン・NY市場の新興国通貨(2016年3月4日)

 新興国通貨はILSを除き対ドルで4日続伸。原油先物価格、欧米株の上昇が引き続きサポートとなった。

 PHPは対ドルで0.4%の上昇。2月のフィリピンCPIは前年比+0.9%と市場予想に反し前月から鈍化。コアCPIは同+1.5%と市場予想を上回る鈍化となった。

 MYRは対ドルで0.3%の上昇。1月のマレーシア貿易収支は53.9億リンギットの黒字と黒字額が市場予想を下振れ。輸出が前年比2.8%減と市場予想に反し、8カ月ぶりの前年割れとなったことが響いた。

 BRLは対ドルで1.3%の上昇。USD/BRLは一時3.65台と昨年9月1日以来のBRL高水準を記録した。1月のブラジル鉱工業生産は前年比-13.8%と減少率が市場予想を下回ったが、2009年4月以来の落ち込み。2月のブラジル自動車生産は前年比36.4%減と大幅減少が続いた。

 COPは対ドルで1.2%の上昇。コロンビア中銀のカノ役員は利上げ継続は間違いないと明言。実質賃金は依然として緩和的な水準であるとしたものの、今年の成長率は2.0~2.5%と中銀見通しの2.7%を下回るとの見方を示した。その後、コロンビア中銀は会合議事録(2月20日結果発表分)を公表。COP安の物価上昇効果(パススルー)は今後強まるとの見方が示され、利上げ継続の必要性が同意されたことが明らかとなった。また一部メンバーは50bpの利上げを主張していたことも判明した。2月のコロンビアCPIは前年比+7.59%と市場予想を下回ったが、9カ月連続で加速し、2008年12月以来の高い伸びを記録した。

 RUBは対ドルで1.7%の上昇。USD/RUBは71.8台と昨年12月28日以来のRUB高水準に達した。2月のロシアCPIは前年比+8.1%と市場予想を上回る鈍化。コアCPIは同+8.9%と2014年11月以来の10%割れとなった。

よい日曜日をお過ごしください。