2016年3月10日木曜日

日本株下落や個人消費悪化の前兆にも見えるタンス預金の急増

 日本のタンス預金が急増している。2月の現金通貨流通高は前年比6.7%増と2003年2月(13年前)以来の高い伸び。現金に銀行などの金融機関に預けられた預金を含むM3は、前年比2.5%増と前月(同2.6%増)から小幅増加していることも踏まえると、日本に流通するマネー全体が拡大したのではなく、預金の一部が取り崩され、現金にシフトした動きが強まったと解釈できる。

 増えた現金の多くは、実際の経済活動に使われたわけではなく、自宅などに自分で保管される、いわゆるタンス預金であると推察される。現金を紙幣・硬貨別にみると、一万円札が前年比6.9%増と高い伸びとなっているのに対し、五千円札は前年比0.2%増、千円札は同1.9%増と伸びが弱い。保管目的であれば、千円札や五千円札よりも一万円札を使用するのが効率的で、タンス預金が増えているという推察と合致する。一部エコノミストが一万円札と千円札の二つの伸びから推計したタンス預金の総額は今年2月で約40兆円。金融危機の最中だった2000年代後半の平均が26.6兆円だったというから、タンス預金は金融危機時の約1.5倍に拡大したことになる。

 日銀が1月29日にマイナス金利付き量的・質的金融緩和の導入を発表したことでタンス預金が増加したと指摘するメディアもある。たしかにマイナス金利の導入は、一般の人々にも大きな驚きを与え、預金金利の急低下にもつながったが、それだけでタンス預金が急増したと考えるのは、やや無理があるように思える。一万円札の発行高の伸びが加速したのが、昨年後半からだったことも考えると、(これも一部エコノミストが指摘していることだが)マイナス金利の導入よりも、昨年1月の相続税の課税強化やマイナンバー制度の運用開始が、タンス預金の拡大を促したとみた方が自然に思える。

 ただ現時点では仮説でしかないが、足元でのタンス預金の拡大が、消費者心理の悪化を反映した動きである可能性もある。現に2月の消費者態度指数は40.1と市場予想(42.2)を大きく下回り、昨年1月以来の低水準に悪化。各種メディアは、中国を始めとする海外景気の悪化リスクを喧伝しており、大口資産家が資産保全措置としてタンス預金を積み上げていると推察することも可能と思われる。

 仮にこの仮説が正しいものとすれば、日本株の下落や消費の悪化といった事態を想定する必要があるのかもしれない。上述したようにタンス預金を中心現金通貨流通高の伸びが高まった2003年2月は、金融機関のペイオフ解禁などで金融不安が高まった時期。当時、日経平均株価は、2002年5月に記録した12081円から、2003年4月の7603円まで大きく下落。個人消費は、2002年第4四半期、2003年第1四半期と2四半期連続で前期比0.3~0.4%の減少を記録した。もちろん消費者心理の悪化だけで日本株が大きく下落し、個人消費が悪化するわけではないが、日本景気の先行き不透明感が強まっているだけに、慎重な見方を続ける価値はあるように思える。