2015年11月11日水曜日

弱かったと素直に認めるべき今年夏のボーナス

11月9日に発表された毎月勤労統計によると、今年(2015年)夏のボーナスの一人当たり平均支給額(以下、今夏ボーナス)は前年比2.8%減(35.7万円)と2年ぶりの減少となった。6月分の特別給与が前年比6.7%減と、事前予想に反し大きく減少したことから、今回の結果には、さほど意外感がないはずだが、雇用・所得環境の改善が続いていると思い込んでいる一部エコノミストにとっては、それなりに驚きを与えたようだ。

今夏ボーナスが減少に転じた理由として、一部エコノミストは、毎月勤労統計で今年1月に実施された調査対象(サンプル)の入れ替えを指摘している。しかし同統計では500人以上の事業所は全てが調査対象。つまりサンプル入れ替えの影響が全くない。それにもかかわらず、500人以上事業所の今夏ボーナスは、前年比2.6%減と、全体の結果と同様に前年割れ。サンプル入れ替えというテクニカルな理由だけで、今夏ボーナスの減少を説明するのは無理がある。

むしろ毎月勤労統計で今夏ボーナスが減少に転じた理由として指摘すべきは、非正規雇用者や再雇用された高齢者の割合の増加だろう。非正規雇用者や再雇用された高齢者に支払われるボーナスは、正社員に比べ少ないのが一般的。ボーナスの少ない社員の割合が前年から高まれば、平均でみた一人当たりボーナスが前年から減少しても不思議ではない。

昨年の夏季ボーナス(昨夏ボーナス)の伸びが高すぎた面もある。同統計によると昨夏ボーナスは前年比2.7%増と1991年以来の高い伸び。企業業績は改善基調にあるものの、今夏ボーナスの基準となる2014年度の企業増益率は2013年度比で大きく鈍化していることも考えると、今夏ボーナスが反動もあって減少に転ずることも考えられる。

それにもかかわらず一部エコノミストが、毎月勤労統計で示された今夏ボーナスに対して違和感を持つのは、今夏ボーナスに関する各種アンケート調査が総じて好結果だったからだろう。たとえば経団連調査によると今夏ボーナスは前年比2.81%増。毎月勤労統計を発表する厚生労働省による調査では3.95%増だった。

ただ注意すべきは、こうしたアンケートでの調査対象は基本的には正社員であり、かつ対象企業も大企業が中心。一方、毎月勤労統計は、パート社員や再雇用された高齢者も調査対象であり、対象企業には中小企業も含まれる。一般的にエコノミストは、一国経済全体(マクロ経済)を対象とするはずだが、大企業・正社員の状況に目を奪われ、今夏ボーナスが減少したことに疑義を唱えるのは、単なる自己否定ないしは自己矛盾のようにみえる。日本経済全体でみた場合、今夏ボーナスは予想以上に弱かったと素直に認めるのが自然だろう。

今夏ボーナスが弱かった以上、今年冬のボーナス(今冬ボーナス)も弱いものになりそうだ。今夏ボーナスほど大きな落ち込みにはならないまでも、今冬ボーナスも前年比2%弱の減少が見込まれる。弱い伸びとはいえ一人当たり賃金(現金給与総額)は前年比プラスを維持し、雇用も増加基調で推移していることから、雇用者所得(雇用者全体でみた所得)も拡大を続けていると判断される。しかしボーナスが弱い分、家計所得の増加ペースは緩やかなものにならざるを得ない。結果として、個人消費の伸びは当分、実質で前年比1%弱と、冴えない状況が続くと予想される。