2015年1月23日金曜日

ECBの量的緩和はユーロ円の下落につながるか?

 欧州中央銀行(ECB)は、1月22日の理事会で、月額600億ユーロの資産を買い入れる量的金融緩和策(QE)を3月から実施することを決めた。資産買入規模が、一部メディアで報じられた月額500億ユーロを上回っていたこともあって、為替市場はユーロ売りの反応。ユーロドルはQE実施を公表したECBドラギ総裁の会見を機に1.16ドル台前半から1.13ドル台前半へと大きく下落。翌23日の東京市場では1.13ドル台後半に反発したが、それでも2003年9月以来の安値圏での推移となっている。

 ECBのドラギ総裁は会見で、QEを実施することでインフレが高まるだろうと発言。一部報道は、ECBがQE実施でユーロ圏インフレ率を今年0.4%、来年0.3%押し上げるとみていると報じた。しかし、エコノミストを中心とした市場関係者の多くは、QEによる物価上昇効果を疑問視している。英国は約3年半、米国は約5年間、日本は(途中でいったん途切れたものの)計14年間、それぞれ量的緩和策を実施した。しかし、足元では各国とも消費者物価が大きく鈍化。原油価格の大幅下落という予想外の出来事を言い訳に使う見方もあるかもしれないが、QEが何年も続けられたのに、物価押し上げ効果は、原油安で失われてしまう程度のものだったことを自ら認めるようなものだ。

 物価に限らず、ECBのQEによる実体経済への影響は限定的との見方も多い。欧州主要国の金利水準は、QE実施前からすでに過去最低水準。ECBがQEを実施したとしても、金利の低下幅は限定的とみるべきで、ユーロ圏内での貸し出し増加を期待することは難しい。

 エコノミスト的なロジックでいえば、物価も上がらなければ、貸出も増えない以上、為替市場でユーロが大きく売られるのは不合理となる。しかし、為替市場は、エコノミストの頭の中のように合理的なものではない。市場全体が今後起こりうるであろうと考えたことは、たとえ実際の事実と異なるとしても、市場では「事実」となる。すでに為替市場では、QE=自国通貨安、の図式が出来上がっているだけに、ECBのQE実施はユーロ売りにつながる。いわゆるバンドワゴン効果である。

 ECBがQEの実施を宣言したことで、次の注目点は、QEの先輩である日銀とECBとのQE比べとなるだろう。ECBのQEペースは月額600億ユーロ。一方、日銀は長期国債、ETF、J-REITを年間計約83兆円のペースで買い入れる。仮に1ユーロ=134円とすれば、日銀のQEペースは月額516億ユーロ。ECBの方がQEペースが速いともいえ、一部からはユーロドルだけでなく、ユーロ円にも下方バイアスがかかりやすいとの見方も出ている。

 しかし日銀の長期国債の買い入れ規模は市中発行額の9割程度。一方、ECBは銘柄あたり25%、発行体債務の33%を超える買い入れはしないことを明言している。国債市場における中央銀行のプレゼンスは、あきらかに日銀の方が大きい。

 株式などリスク資産に対する姿勢も両者で大きく異なる。日銀は年3兆円ペースでETFを買い入れるが、ECBによる株式買い入れはゼロ。ドラギ総裁は、昨年12月4日の理事会後の会見で金以外のあらゆる資産購入について検討したと述べたが、ECBが日銀のように株式(ETF)まで買い入れることは、大規模QEの実施を発表したばかりということもあって当面、期待できない。

 QEのペースだけでなく、規模やリスク資産の有無等を考えると、ECBのQEは日銀と同程度か、日銀よりもやや弱いとの評価もできなくはない。バンドワゴン効果でユーロドルは今後も軟調な推移が予想されるが、ユーロ円は一部で期待されるほど下落基調が続かない可能性も視野に入れておくべきだろう。

■ロンドン・NY市場の主要国通貨(2015年1月22日)

ECBは前日の報道通りにQE開始を宣言。ただ資産買入ペースは月額600億ユーロと事前報道を上回り、日銀よりも速いペース。これを受けてユーロは対ドルで11年以上前の水準に下落しています。日欧の金融緩和競争の始まり、といったところでしょうか。

※チャートは2003年からのユーロドル。下がれば下がるほどユーロが安くなっていることを意味します。

 1月22日のロンドン市場はドルが下落基調で推移。ドル円は118円台前半から117円台後半に下落する一方、ユーロドルは1.15ドル台後半から1.16ドル台前半に上昇した。米債利回りはじり高の動きとなったが、ECB理事会を前にドル買いポジションを調整する動きが優勢となった。

 NY市場に入ってもECB理事会の結果発表までドルは軟調な動き。ドル円は117円台半ば近辺にじり安の動きとなる一方、ユーロドルは1.16ドル台前半で底堅い動きを続けた。

 ECBは理事会で政策金利を0.05%で据え置くと発表。ただ、さらなる措置はドラギ総裁の会見で発表されるとした。ECBの金利据え置き発表を受けてユーロドルは1.16ドル割れとなった直後に1.16ドル台半ば近辺に上昇するなど荒い値動き。ただECBドラギ総裁会見で追加措置が発表されるということもあり、ユーロドルは上下動が一巡すると1.16ドル台前半での推移に戻った。一方、ドル円は117円台後半に小幅反発した。

 ECBドラギ総裁は理事会後の会見でECBが国債を買い入れる「量的金融緩和」を導入すると発表。ECBの指揮下で各国中銀が3月から国債を含め毎月600億ユーロの資産を買い取り、当面2016年9月まで続けることを明らかにした。買い取り対象は、投資適格級のユーロ圏国債が中心で、EU関連の国際機関が発行するユーロ建て債券も含まれると発表。これまでに実施されてきたABS買い取りも続けるとした。また同緩和措置で買い入れる資産の上限は、単一の発行体から購入する債券の33%とした。ドラギ総裁は、ギリシャ債の買い入れに関し、ギリシャに対して特別な規則を設けておらず、基本的にすべての国に適用される規則だと発言。ただギリシャ債が購入される前に満たされなければならない一定の条件があるとも述べ、今後買い取りの対象にギリシャ債を加えることに含みを持たせた。

 ドラギ総裁の会見を受け、ユーロドルは1.16ドル台前半から1.15ドル台前半に急落。その後、1.16ドル台前半に急反発する場面もあったが、ユーロ売りの動きは続き、再び1.15ドル台前半に下落するなど激しい値動き。ユーロドルは1.15ドル台後半に反発した後は下落基調での推移となり、NY市場取引前半には1.14ドル台後半まで下落。中盤に入ると1.15ドル台前半に反発する場面もあったが、後半もユーロ売りが先行。引けにかけては1.13ドル台後半と2003年9月以来の安値での推移となった。

 ドル円はECBドラギ総裁の会見を受けて118円ちょうど近辺に上昇。しかし米債利回りが低下したことでドル円は117円台前半に急落した。取引中盤に入ると、米債利回りが持ち直し、米国株も底堅い動き。ドル円は上昇基調で推移し、引けにかけては118円台半ばとこの日の高値を更新した。なお、この日発表された米新規失業保険申請件数は30.7万件と市場予想を小幅上回ったが市場の反応は限定的だった。

 デンマーク中銀はECBドラギ総裁の会見後に主要政策金利である譲渡性預金(CD)金利を15bp引き下げ-0.35%にすると発表。貸出金利は0.05%で据え置いた。

 ECBが月額600億ユーロの資産買入を発表。日銀は長期国債を年間約80兆円に相当するペースで買い入れをする。仮に1ユーロ=134円とすれば、日銀の長期国債買い入れペースは月額498億ユーロ。ECBが日銀よりも緩和ペースが速いことになる。ユーロ円は昨年10月以来の安値に達したが、ユーロドルに比べれば下げ幅は小幅。下げ余地は大きいとの見方も可能かもしれない。

 ECBのQE開始で欧米株は上昇。一方、米債利回りはNY市場中盤から持ち直し。市場のリスク選好姿勢の強まりを背景に本日東京市場でのドル円は堅調な推移が期待される。一方、ユーロはECBのQE開始を受けて上値が抑えられる見込み。アジア通貨は欧米株の上昇が好感され対ドルで底堅い動きとなりそうだ。

■ロンドン・NY市場の新興国通貨(2015年1月22日)

 新興国通貨は東欧通貨を除き対ドルで買い優勢。ユーロと連れ安となる格好で東欧通貨は対ドルで大きく下落。一方、RUB、TRYなどEMEA通貨や中南米通貨は上昇した。

 BRLは対ドルで1.0%の上昇。ブラジル中銀は市場予想通り全会一致で政策金利を50bp引き上げ12.25%にすると発表。50bpの利上げは2回連続で、政策金利は2011年8月以来の高水準となった。同中銀は声明で追加利上げについて「慎重に」実施するとの文言を削除した。

 MXNは対ドルで0.8%の上昇。1月上旬のメキシコCPIは前年比+3.08%と市場予想や前月を大きく下回り、2011年3月以来の低い伸びに鈍化。コアCPIも同+2.43%と大きく鈍化し、メキシコのインフレ圧力の大幅後退が示された。

 TRYは対ドルで1.1%の上昇。1月のトルコ消費者信頼感は67.7と前月から変わらず。12月のトルコ外国人観光客数は前年比9.5%増と5カ月ぶりの高い伸びとなった。

英国のテニス大会であるウィンブルドン選手権の主催者が、選手の服装や下着、靴の色を白に限定するよう定めたルールの厳格化を発表したそうです色の付いたものは、ヘッドバンドなどのアクセサリーのみとのこと。私も下着を白に変えようと思います。

2015年1月22日木曜日

■ロンドン・NY市場の主要国通貨(2015年1月21日)

 NY市場は取引前半にドルが下落。しかし中盤以降は持ち直した。取引前半は米債利回りがじり安の動きとなったことからドル売り優勢。ドル円は117円台後半から117円台前半に下落と、この日の安値を更新する動き。一方、ユーロドルは1.15ドル台後半から1.16ドル台前半に上昇した。12月の米住宅着工件数は108.9万戸と市場予想を上回ったが、同時に発表された同月の米建設許可件数は103.2万戸と市場予想を下振れ。ドル売り優勢の動きは続いた。

 取引中盤に入ると、一部メディアがユーロ圏関係筋からの情報としてECB役員会が月額500億ユーロの債券を買い入れる案を提案したと報道。買い入れ期間についてはメディアによって1年から2年と幅があった。同報道を受けてユーロドルは1.15ドル台後半に急落し、ドル円は117円台前半から117円台後半に反発。しかし、その後の別報道で3月より前のECB債券買い入れはないとの見方が伝わると、ユーロドルは1.16ドル台後半に急反発。一方、ドル円は117円台前半に下落した。

 その後は米債利回りが上昇基調で推移したことで、ドルは一転して買い戻しの動き。ドル円は118円ちょうど近辺まで上昇。ユーロドルは1.15ドル台後半に下落した。

 カナダドルはカナダ中銀の予想外の利下げを受けて急落した。カナダ中銀は市場予想に反し、政策金利を25bp引き下げ0.75%にすると発表。同時に発表した経済見通しでは、2015年上期の成長率を昨年10月時点予想の2.4%から1.5%に下方修正。2015年通年は2.4%から2.1%に引き下げられた。総合インフレ率は、原油安を背景に、2015年の大半において目標レンジの1~3%を下回って推移するとし、第2四半期には0.3%まで低下すると予想された。同中銀は四半期ごとの金融政策報告書で、原油価格見通しの著しい低下は、2015年、またその後数年のカナダ経済にとり明らかにネガティブと指摘。家計の不均衡が高止まりしており、目先さらにやや高まる可能性があるとの認識も示し、今回の利下げは金融不安定およびインフレ鈍化のリスクに対する保険であると同時に、経済が完全に機能するために必要な調整を支援するものだとした。カナダ中銀の予想外の利下げを受けドルカナダは1.20台後半から1.23ちょうど近辺と2009年4月以来のカナダドル安水準に急上昇。その後、ドルカナダは1.23ちょうど近辺でのもみ合いとなったが、カナダ中銀のポロッツ総裁が追加利下げに含みを持たせる発言をすると、1.24ちょうど近辺まで上昇。終盤はカナダドルを買い戻す動きも出て、ドルカナダは1.23台半ばでの推移となった。
 
 ECB理事会を前に一部メディアはQE実施に関する具体的な報道を先行。ここまで具体的な内容となると、ECBのQE実施は規定路線となってしまう。報道では債券買い入れの期間に関して1~2年と幅があることから、FRBのQEと同じようにオープンエンドとなる可能性も考えられる。ただ、本日のECB理事会での決定が報道内容に近いものとなれば、いったんはユーロを買い戻す動きが出るだろう。理事会の後ドラギ総裁会見で緩和姿勢の強弱が注目されることになる。

 一方、ドル円は米国と日本の金融政策の方向性の違いを背景に底堅い動きが期待される。昨日の日銀・黒田総裁は会見について、一部からは追加緩和姿勢が弱いとの見方も出ているようだが、個人的には逆で、同総裁は市場のサプライズを狙いながら、追加緩和実施のタイミングを模索しているように思われた。

■ロンドン・NY市場の新興国通貨(2015年1月21日)

 新興国通貨は原油価格が持ち直したこともあって買い戻しがやや優勢。しかしMXNやTRYなどは対ドルで下落した。

 ZARは対ドルで0.5%の上昇。12月の南アフリカCPIは前年比+5.3%と市場予想を上回る鈍化。コアCPIも同+5.7%と市場予想に反し前月から鈍化した。同国中銀のクガニャゴ副総裁はインフレは下方トレンドにあると指摘。ただインフレ期待は依然として目標レンジの上限近くにあると指摘。早期の利下げ観測をけん制した。

 PLNは対ドルで1.0%の上昇。12月のポーランド鉱工業生産販売は前年比8.4%増と市場予想を大きく上回る伸び。ただ一方で同月同国PPIは同-2.5%と市場予想を上回る落ち込みとなった。

 RUBは対ドルで小幅下落。1月19日までの週のロシアCPIは日次平均前月比+0.079%と前週から加速。ただロシアのウリュカエフ経済発展相は、今年のインフレは13%か、それをやや上回る水準になる見込みと述べたうえで、第1四半期にはピークに達するだろうとの見方を示した。

 TRYは対ドルで0.2%の下落。トルコのエルドアン大統領はトルコ中銀の先日の利下げは十分なものとみなせないと発言。現在の金利水準ではトルコ国内での投資はほぼ不可能であり、トルコ中銀の声明内容は受け入れることができないとの見解も示した。
 
東京地方は今日も午後から雨模様との予報。気温も6度くらいまでしか上がらないみたいです。昨日と同様に雨と寒さの二つの対策が必要ですね。

2015年1月21日水曜日

物価目標への強いコミットメントを示した日銀・黒田総裁

日銀は21日、金融政策決定会合にて金融政策運営方針を据え置き。日銀の黒田東彦総裁は、会合決定後の会見で、当座預金の超過準備への付利引き下げの可能性を事実上否定。日銀による追加緩和期待は後退し、為替市場は円買いの反応となった。しかし筆者は、黒田総裁が追加緩和の可能性を否定していることはなく、むしろ追加緩和の実施を視野に入れたままと考えている。

日銀は21日の金融政策決定会合で金融政策運営方針を据え置き。銀行貸出の拡大を主目的とした金融機関への各種資金供給策については、期限が1年延長され、資金供給策の一部で総枠が7兆円から10兆円に引き上げられたものの、一部で期待されていた当座預金の超過準備への付利引き下げについては言及すらなされなかった。景気の基調判断も「緩やかな回復を続けている」との表現が続けられるなど、総じて見れば現状維持の印象を強める内容だった。

一方で、予想通りとはいえ、日銀は物価見通しを引き下げた。「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」の中間評価では、2015年度のコアCPI(消費者物価指数除く生鮮食品)見通しが、消費税率引き上げの影響を除くケースで+0.4~1.3%(中央値は+1.0%)と、10月末時点の+1.1~1.9%(同+1.7%)から大きく下方修正された。

物価見通しが大きく下方修正されたにもかかわらず、金融政策は現状維持の結果となったことで、金融政策決定会合の結果発表後の総裁会見は大きく注目された。ただ黒田総裁の会見冒頭の説明は、これまでの内容を踏襲するもの。黒田総裁は、これまでの会見や講演と同じように、物価の中長期的な動向を決めるものは、基本的には需給ギャップと予想物価上昇率(インフレ期待)の2つだと指摘。需給ギャップは、潜在成長率を上回る成長が実現するもとで、改善傾向をたどるとし、予想物価上昇率はBEI(ブレーク・イーブン・インフレ率、固定利付国債と物価連動債の利回り格差)は低下しているものの、サーベイ調査でみた予想物価上昇率は総じて維持されているとした。

黒田総裁が指摘するように需給ギャップも予想物価上昇率も大きな変化はみられない。日銀は、昨年7-9月期の需給ギャップが-0.3%と前期(-0.2%)から小幅悪化したとする試算を公表したが、需給ギャップとほぼ同様のトレンドを示す「短観加重平均判断DI」(日銀短観の生産・営業用設備判断DIと雇用人員判断DIを加重平均したもの)は緩やかな改善が継続。昨年12月のDIの「不足」超幅は1992年5月以来の水準に拡大し、先行きも「不足」超幅の拡大が続くと見込まれている。

製造工業生産能力指数は、2012年末から低下基調で推移。昨年11月は94.9と1986年3月以来と30年近く前の水準まで低下した。ここまで生産能力が削減されれば、需要が多少縮小しても、設備過剰感が短期間に大きく強まるとは考えにくくなる。

労働需給もひっ迫感の強い展開が続くと予想される。日本の労働力人口は、少子高齢化の進展を背景に1997年半ばをピークに減少基調で推移。一方で有効求人数は、2010年から増加基調で推移。よほど大きな雇用調整ショックでも生じない限り、労働需給のひっ迫感が大きく後退するとは考えにくい。

予想物価上昇率も家計・企業・エコノミストなどのサーベイ調査では高水準を維持している。日銀が予想物価上昇率を示すサーベイ調査として参照する内閣府の「消費動向調査」や、日銀の「生活意識アンケート調査」をみると、1年後に物価が「上がる」との回答割合は、2013年夏場から昨年末まで概ね80%を超える水準のまま。日銀短観の企業の物価見通しでも、1年後の物価全般の見通し(平均)は12月調査で+1.4と大きな変化を見せていない。昨年4月の消費税率の引き上げを機に日本の景気指標は軟調な推移が続いているだけに、各種サーベイ調査による予想物価上昇率は堅調ぶりが目立つ。

総裁会見での質疑応答では、会合での当座預金の超過準備への付利引き下げの議論の有無について質問がなされたが、黒田総裁は超過準備への付利の引き下げについて議論は全くなかったと明言。総裁が重視する需給ギャップや予想物価上昇率に大きな変化がなく、一部で期待されていた付利引き下げは議論すらなかったことで、早期の追加緩和観測が大きく後退した。

しかし同会見で注目すべき点は、付利の引き下げの有無ではなく、2%の物価安定目標に対する黒田総裁のコミットメントの強弱にあったと思われる。筆者の印象では、黒田総裁は目標に対するコミットメントを弱めておらず、むしろ今回の会見で自身のコミットメントの強さを示した。

黒田総裁は、会見での質疑応答で、2015年度を中心とする期間に2%の物価上昇を達成する可能性が高いとの見解を改めて表明。原油価格の動向次第で「(達成時期が)多少前後する可能性はある」とも述べたが、達成時期が2016年度にずれ込む可能性について明確な回答を求める質問に対しても、「15年度を中心とする期間」との表現を繰り返すのみ。達成時期が前後に若干はみ出る部分はあることは認めつつも、達成する時期がどの程度ずれ込むかについては、最後まで具体的な表現を避け、最後には「わざわざ2016年度に入ると言っているわけでもない」と述べ、「2016年度」という言葉を口にすることすら嫌がるそぶりを見せた。

また黒田総裁は、2%目標の達成時期が「多少前後する」との表現を指摘され、2013年4月の量的・質的金融緩和導入時よりも日銀のコミットメントが弱まったのではないかとの質問に対し、2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に2%の物価安定目標を達成すると導入当初から述べたと強く反論。その後のレポートでも、2015年度を中心とする期間に2%に達する可能性が高いという見通しを申し上げたとし、現時点でもコミットメントの強さに全く変更はないと強調した。

展望レポートで示された2015年度物価見通しは、中央値で+1.0%と2%目標から遠く離れる形で下方修正。しかし追加緩和は見送られ、需給ギャップと予想物価上昇率の2つを理由に2%目標は当初の見通し通りのタイミングで達成するとされた。市場が日銀の追加緩和姿勢の後退を感じたのも無理はない。

ただ注意すべきは、2%目標に対する総裁のコミットメントは、質疑応答での態度や言動から推察するに相当強いものだということだ。むしろ黒田総裁は2%目標の実現に向けて、追加緩和の実施を視野に入れていると考えた方が自然に思える。

注意すべき点は、黒田総裁が予想物価上昇率の好転モメンタム(勢い)が弱まる可能性を指摘したことだ。同総裁は、質疑応答の終盤で、ここまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅れてしまうリスクがあると指摘。10月末の追加緩和を例に出し、どういう理由であれ、期待インフレ率にマイナスの影響が生じ、2%の物価安定目標の達成が難しくなる状況になれば、躊躇なく金融を調整すると述べている。この表現は、過去の会見、講演、国会証言等々で何度も使われたものだ。

ロジカルに考えれば、日銀の追加緩和の有無は、予想物価上昇率を示す各種サーベイ調査での物価見通しの強弱から判断されることになる。しかし、さらに注意すべきことは、たとえサーベイ調査で物価見通しに変わりはなくても、黒田総裁が追加緩和に踏み切る可能性があることだ。現に10月末の追加緩和実施前のサーベイ調査での予想物価上昇率には大きな変化が見られなかった。

これに対する黒田総裁の見解(弁解)は、12月の金融政策決定会合後の会見で明快に述べられている。同総裁は、予想物価上昇率が大きく変わらなかったにもかかわらず10月に追加緩和に踏み切った理由として、消費を中心として内需が弱い状況が続き、物価上昇率が次第に下がってきており、その上、原油も大幅に下がって、これがさらに物価上昇率を下げる可能性がある中で、予想物価上昇率が下がっていく「懸念」があったと指摘。その後、追加緩和によって予想物価上昇率は維持されたとの見方を示している。

経済は自然科学と違い実験ができないため、10月末の追加緩和によって予想物価上昇率が維持されたのか、それとも追加緩和がなくても予想物価上昇率は維持されたのかを確認することはできない。しかし、ここで重要な点は、黒田総裁の見解の客観的な(もしくは学術的な)正しさを確認することではなく、黒田総裁が、予想物価上昇が下がる「懸念」を持てば、たとえサーベイ調査などで予想物価上昇率が下がらなくても追加緩和をする可能性があることだ。

日銀ウォッチャーなど市場関係者の多くは、日銀の追加緩和の有無を考える際に、物価上昇率やBEI、需給ギャップや予想物価上昇率などといった客観的な情報を拠り所にしたいところだ。しかし、黒田総裁の発言を確認すればするほど、客観的な情報から追加緩和の有無を考えるのは無理があるように感じてしまう。むしろ市場関係者は、黒田総裁のインフレ期待に関する主観を重視すべきのように思える。ただ、黒田総裁でない限り総裁の主観を正確に把握することはできない。

結局、市場関係者は、客観的な情報から黒田総裁の主観を読み解くという非常に難解な作業を続けざるを得ない。原油安や物価鈍化といった客観情報は、日銀の追加緩和の必要性を示しているため、市場はいずれ日銀の追加緩和期待を再び強めるだろう。追加緩和の実際のタイミングは見定めにくいものの、ドル円相場は客観情報に基づく緩和期待を背景に底堅い動きが予想される。

■ロンドン・NY市場の主要国通貨(2015年1月20日)

米国株は場中にかけてマイナス圏での推移となりましたが、ドル円は底堅い動き。本日の日銀会合での追加緩和期待も一部にあるようです。

※チャートはダウ30種平均とドル円です。

 1月20日のロンドン市場はドルが取引中盤まで上値の重い動きとなったが、後半には買い優勢に転じた。ドル円は取引中盤までに118円台前半から118円ちょうどに下落。東京市場で小高く推移していた米債利回りが低下し、上げて始まった欧州株も上げ幅を縮める動き。ドル円は下落基調での推移となった。ただ取引後半に入ると下げていた米債利回りが反転。欧州株も下げ止まるとドルは買い戻しの動き。ドル円は引けには118円台半ば近辺まで上昇した。

 ユーロドルは取引中盤まで1.15ドル台後半での方向感に欠ける動き。12月のドイツPPIは前年比-1.7%と市場予想を上回る落ち込みとなったが、市場の反応は限定的だった。1月のドイツZEW景況感指数が48.4と市場予想を上回り、昨年2月以来の高水準を記録すると、ユーロドルは1.16ドルちょうど近辺まで上昇。ただユーロ買いの動きが続くことはなく、ユーロドルは引けにかけて1.15ドル台後半に反落した。

 NY市場はドルが底堅い動きとなった。ドル円は取引前半に118円台後半でのもみあい。中盤にかけて米国株がマイナス圏に落ち込み、米債利回りも低下基調で推移すると、ドル円は118円台前半に下落した。1月の米NAHB住宅市場指数は57と市場予想を小幅下回ったが、前月分が上方修正されたこともあり、市場の反応は限定的。取引後半に米債利回りが上昇基調に転ずるとドル円は118円台後半に上昇し、この日の高値を更新した。

 ユーロドルは取引中盤にかけて1.16ドルちょうど近辺に上昇したが、その後は下落基調が続き、取引終盤には1.15ドル台前半とこの日の安値を更新。引けにかけて1.15ドル台半ば近辺に小幅反発したが、ユーロドルの上値は重かった。

 カナダドルは下落。ドルカナダはNY市場取引中盤にかけて1.19台後半から1.21ちょうど近辺に上昇。後半は同水準でのもみ合いとなった。11月のカナダ製造業売上高は前月比1.4%減と2カ月連続のマイナスとなり、市場予想を上回る落ち込み。原油安もあってカナダドルは売り優勢だった。

 米国株も小幅ながらプラスとなるなど市場のリスク回避姿勢は一服したまま。原油安に対する
懸念もやや後退したように思われる。本日の東京市場でのドル円は、日銀金融政策決定会合の
結果発表まで様子見姿勢が続く見込み。一方、ユーロはECB理事会での追加緩和決定観測を
背景に上値の重い動きが続くと思われる。アジア通貨は対ドルで方向感に欠ける展開が予想される。

■ロンドン・NY市場の新興国通貨(2015年1月20日)

トルコ中銀は利下げ。今後もトルコの利下げは続くような気がします。

 新興国通貨はBRLなど一部通貨を除くと対ドルで下落。ユーロ下落で東欧通貨も下落。原油先物価格が下落したことからRUBやCOPも売られた。

 TWDは対ドルで0.4%の下落。12月の台湾輸出受注は前年比4.5%増と市場予想を上回る伸び。日本向けやカナダ向けが二桁減となったが米国向けは4カ月連続の二桁増となった。

 BRLは対ドルで1.5%の上昇。1月15日までの週のブラジルFIPE・CPIは前月比+0.87%と市場予想を上回る伸び。1月の同国CNI産業信頼感は44.4と2004年の統計開始以来最低を更新した。ブラジルのレビ財務相は財政改善のための増税を実施する意向を表明。ブラジル格下げ懸念を後退させた。

 ILSは対ドルで0.6%の下落。11月のイスラエル製造業生産は前月比-0.7%と2カ月連続のマイナス。前月分も大きく下方修正された。

 TRYは対ドルで0.3%の下落。トルコ中銀は市場予想に反しレポレートを50bp引き下げ7.75%にすると発表。翌日物貸出金利と翌日物借入金利は据え置かれた。同中銀はインフレは商品市況の下落で鈍化傾向にあるものの、金融政策は慎重なアプローチが求められると指摘。今後の金融政策はインフレ見通し次第とした。ただ同国イシク大臣は同国政府が望むのは実質金利をゼロまで引き下げることであり、今回の利下げは期待に合致していないと発言。今後も利下げを続けることを期待するとした。

 HUFは対ドルで0.7%の上昇。ハンガリーのオルバン副経済相は同国政府がHUFを政策ツールとして利用する意向はないと発言。ただHUF安は輸出競争力を押し上げ、同国経済に好影響を及ぼすとの認識も示した。

 PLNは対ドルで0.5%の下落。12月のポーランド平均総賃金は前年比3.7%増、同月同国の雇用は同1.1%増といずれも市場予想を上回る伸び。ポーランド中銀のベルカ総裁はPLNの対スイスフラン相場は安定的なものである必要があると発言。現在のスイスフラン高が続くとは考えにくいとも述べた。ポーランドのシュチュレク財務相はスイスフラン建てローンによるシステミックリスクは生じていないと発言。スイス中銀によるマイナス金利の恩恵はローンに反映されるべきとの見解を示した。

東京地方は午後から雨模様との予報。気温も6度くらいまでしか上がらないみたいです。雨と寒さの二つの対策が必要ですね。

2015年1月19日月曜日

政府への配慮を示すため25bp程度の利下げは考えられるトルコ

 トルコ中銀は20日、レポレートなど3つの政策金利を発表する。Bloomberg調査によると、レポレートについては、予想回答者数22名のうち14名が現状維持。6名が25bp、2名が50bpの利下げをそれぞれ予想している。翌日物貸出金利や翌日物借入金利についても同様で、予想回答者数20名のうち15名は現状維持を予想。残り5名が25~50bpの引き下げを予想している。


 ただ、原油価格の下落で他の国と同様にトルコもインフレが鈍化している。12月のトルコCPIは前年比+8.17%と市場予想(同+8.78%)や前月(同+9.15%)を大きく下回り、前月比では-0.44%と2012年6月以来の大幅マイナスを記録。コアCPIも前月比-0.38%と2010年8月以来の落ち込みとなった。またトルコ中銀が発表した12月のインフレ期待は、12カ月後が前年比+6.81%と前月の+7.21%から急低下。原油安を受けて他品目でもインフレ圧力が後退したと言える。

 一方でトルコ景気は低迷したままである。11月のトルコ鉱工業生産は前年比+0.7%と市場予想(同+1.8%)すら下回り、2013年8月以来の低い伸び。12月の同国消費者信頼感は67.7と3カ月連続で低下し、2010年1月以来の低水準に落ち込んでいる。

 景気低迷を背景にトルコ政府は利下げ要求を続けている。トルコのエルドアン大統領は、高金利がトルコ国内での投資の障害になっており、金融セクターの収益は市民から召しあげた莫大な金額であると露骨に批判。トルコ中銀に対しては、何を待つ必要があるのかと正し、国民の声を同中銀に届ける義務があると述べた。ちなみに同大統領は、大統領職に独立性があるように、同中銀にも独立性がある「かもしれない」と述べた。

 トルコ中銀としては、原油安でインフレ期待が後退したとしても、足元のTRY安を考えれば利下げは避けたいところだろう。同中銀はTRYが対ドルで2.39ちょうど近辺と当時の過去最安値を記録した翌日にレポレートを4.50%から10.00%に大幅利上げ。この結果、TRYは対ドルで2.20を割り込む水準まで買い戻された経緯がある。足元のTRYは対ドルで2.32台と昨年12月中旬に記録した2.41台から買い戻されたとはいえ、依然として安値圏での推移。米利上げ観測が根強いこともあり、利下げによってTRY安が進み、結局インフレがまた加速してしまう展開もありえる。Bloomberg調査で金利据え置き予想が多数を占めているのも、こうしたロジックの合理性が高いからだろう。

 ただ、トルコ政府が執拗に利下げを要求しているほか、トルコ中銀の独立性が他の国に比べ弱いことも考慮すると、同中銀が政府の要求を全く無視するとも考えにくい。レポレートを25bp程度下げることで政府に配慮を示す一方で、コリドー金利は維持し、市場のTRY安圧力をかわそうとするのではなかろうか。