2017年5月26日金曜日

通貨になり得ず投機商品と化したビットコイン



 仮想通貨ビットコインの価格上昇が目立っている。ビットコインは今年初めには1000ドル台に到達。その1週間後には750ドル台まで急落したが、3月には一時1300ドル超えまで反転。3月末にはいったん1000ドルを割り込んだが、その後は上昇基調が続き、5月初めには1500ドル、同月22日には2000ドル、そして昨日(25日)には一時2700ドルをそれぞれ突破し、過去最高を更新し続けている。途中経過(価格の上下動)を無視すれば、年初に1000ドルだったビットコインは、わずか半年足らずで2.7倍(2700ドル)になったことになる。

 ドル建てよりも上昇が目立つのが円建てのビットコイン価格。今年初めに11万円程度だった円建てのビットコイン価格は、ドル建てと同様に上昇基調を続け、5月初めに15万円を突破。同月11日には20万円を超え、昨日(25日)には一時38万円の過去最高値を付けた。年初から半年足らずで3.5倍と、ドル建ての上昇率を凌駕している。

 ビットコインとは、インターネット上で流通する暗号化された仮想通貨の一種で、ドルや円のように中央銀行や政府機関によって発行されるわけではない。取引の正当性の確認は、マイニング(採掘)と呼ばれる計算作業を通じて行われ、同作業に協力した者(マイナー=採掘者)には一定量のビットコインが交付される。ただ、最大発行量はプログラムにて2100万と決められており、既存の貨幣のように発行量が無制限ではない。発行主体がなく、発行量が有限という点で、金やプラチナといった貴金属に近いとの見方をする者もいる。

 ビットコイン価格が円建てを中心に大きく上昇している背景の一つに、日本で4月に施行された改正資金決済法(いわゆる仮想通貨法)がある。これにより、ビットコインを始めとする仮想通貨は商品券などと同じ支払い手段として法的に認められ、仮想通貨の取引を仲介する業者(取引業者)は、仮想通貨交換業者として政府に登録することになった。取引業者は、仮想通貨の取引をする利用者から預かった金銭や仮想通貨を自社の財産と分別して管理するなどといった様々な規制を受けることになる。

 これまで日本では、ビットコインを始めとする仮想通貨や取引業者の位置づけは法的に曖昧なままで、2014年にビットコイン取引所として最大級とされていたマウントゴックスが破綻したこともありビットコイン取引に対し慎重な見方が根強かった。しかし仮想通貨法の施行で、取引業者の透明性は高まり、日本におけるビットコインに対する警戒心は和らいだように思える。

 日本のメディアによるビットコイン関連の報道も、ビットコインに対する警戒感を和らげる役割を果たしたかもしれない。日本のメディアは、ビットコインを「フィンテック」の代表例として、仮想通貨法施行に前後して報道を増やしてきた。こうした報道を目にした方々が、ビットコインに興味を持ち、仮想通貨法によって法的地位を得た取引業者で口座を開設し、取引を始めた可能性は否定できない。

 仮想通貨という名称が使われていることもあり、ビットコインを通貨や貨幣の一種のようにイメージする方もいるかもしれないが、それは間違った認識である。一般に貨幣には、価値の尺度を示す、交換(決済)手段となる、価値を貯蔵する、の3つの役割があるとされているが、ビットコインは、半年余りで価格が2~3倍に上昇したように価格が不安定で、価値の尺度を示す役割が果たせていない。仮想通貨法の施行で一部店舗で可能になったとはいえ、ビットコインで商品を購入することは現実的ではなく、交換(決済)手段になり得ていない。そして、価格変動が大きいことから価値を貯蔵する役割も果たせない。

 ビットコインの仕組みを考慮すると、ビットコインの価格が今後、安定に向かうとは考えにくい。上述したようにビットコインはマイニングを通じて供給されるが、供給ペースは一定であり、かつ発行量には上限がある。一方、ビットコインの需要は、その時々の思惑で大きく左右される。現在起きているように、先行き期待で買いが買いを呼ぶような状況では、需要が急増し、価格は高騰するが、ビットコインに関する当局の規制や取引業者の破たんなどといったビットコインの先行き不透明感を高めるイベントが発生すると、需要が一気に後退し、価格が急落することになる。そもそもビットコインはインターネット上での取引がほとんどであるため、需給動向の変化スピードが他の実物資産に比べて早く、価格の安定性は他実物資産よりも低い。

 投資の世界では、資産価格の評価をする際に、得られるリターンと同時に価格の変動率(リスク)も検討することが一般的となっている。ビットコインは、短期間に大きな値動きを示す可能性があるが、これはリスクが非常に高いことも意味しており、リスクで調整したリターンは、他金融資産と比べ大きくないだろう。

 ビットコインの値動きをチャート化し、為替や株価などの分析に使われるテクニカル分析を当てはめると、足元でのビットコイン価格上昇は行き過ぎたものとなっており、もはや投機商品の一つと化した感もある。ビットコインは、期待先行で今後も価格が上昇する可能性はあるだろうが、ちょっとしたニュースをきっかけに利食いの動きが強まり、これまで価格上昇を打ち消すがごとく急落するリスクも着実に高まっているように思える。