2015年3月27日金曜日

ドル円が下落するまで期待するのは難しい日銀の追加緩和

 本日朝方は日本で数多くの経済指標が発表されたが、それらの結果は、日銀が4月に追加緩和に踏み切るとの見方をさらに後退させるものとなった。

 2月のコアCPI(総合CPIから生鮮食品を除くベース)は前年比+2.0%と市場予想を下回り、消費税率の引き上げ効果を除けば前年並みに鈍化。総合CPIから食料とエネルギーを除いたコアコアCPIも同+2.0%とやはり市場予想を下回った。同月の実質消費支出は前年比2.9%減と11カ月連続の前年割れ。小売業販売額は前月比でこそ0.7%増とプラスに転じたが1月の落ち込み(1.9%減)をカバーできず。原油安がインフレを抑制する、といっても、消費の回復がこうも弱いようでは、インフレの早期回復は期待できない。

 ただ、日銀の金融政策決定会合・声明文でも示されているように、日銀はコアCPIの前年比が当面、0%程度で推移すると見通し済み。今回のコアCPIの伸び鈍化は、日銀に言わせれば「想定通り」となる。

 日銀・黒田総裁が物価の中長期的な動向を決める要因として指摘する需給ギャップと予想物価上昇率の動きは、日銀の追加緩和を否定する結果となっている。2月の失業率は3.5%と前月から低下。有効求人倍率は1.15倍と1992年3月以来、約23年ぶりの高水準に上昇した。一方、消費動向調査で示される1年後の物価見通しは、上昇するとの回答割合が87.3%と昨年10月の追加緩和以降、高止まりのままである。

 春闘の結果を見極めたいとの思惑もある。連合が26日発表した2015年春闘の中間集計結果によると、25日午後3時時点での平均賃上げ率は2.36%と、前年の同時期の2.23%を上回る水準。すでに現金給与総額は昨年12月から2カ月連続で前年比1%超の伸び。雇用環境だけでなく所得環境も改善が続くのであれば、需給ギャップが需要庁の方向に拡大するとの見方も説得力を増す。

 コアCPIが前年並みに落ち込み、消費の回復も弱いということであれば、4月7、8日の次回会合や、統一地方選が終わった4月30日の会合での追加緩和は自然なものとなるが、日銀・黒田総裁のロジックがそれを許さない。また黒田総裁は、2%のインフレ目標が達成する時期として「2015年度を中心とする期間」と述べ、達成時期が2016年度以降にずれ込むことを暗に容認している。これでは、日銀が目標達成に少しでも早く到達すべく、4月の会合で追加緩和をするというストーリーも考えにくくなる。すでに為替市場では、日銀の4月の追加緩和観測がかなり後退している。

 そうした中、足元では6月の米利上げ期待の後退を背景にドルが軟調に推移している。25日に発表された2月の米耐久財受注は前月比1.4%減と市場予想に反しマイナス。GDP算出に用いられるコア資本財出荷は2月こそ前月比0.2%増とプラスとなったが、1月は0.4%減と下方修正。市場関係者による第1四半期の米GDP見通しも下方修正されている。

 3月の米FOMCは声明で利上げの条件として、労働市場(雇用)のさらなる改善と中期的にインフレが2%目標に戻るとの合理的な自信が持てることを挙げている。雇用の改善は見込めても、成長率が低ければ、たとえ利上げを目指すFRBイエレン議長としても、インフレが2%に戻ると「合理的な」自信があるとは言い難い。

 頼みのドル高ストーリーも期待しにくくなったことで、ドル円は当面、120円を目途に上値の抑えられる展開が続くだろう。4月3日に発表される3月の米雇用統計がたとえ好結果だったとしても、平均時給の伸びが高まることがなければ、6月の利上げ開始期待は盛り上がりにくい。米小売売上高など3月の米景気指標が2月に続いて弱いようだと、ドル買いどころかドル売りの流れすら起こり得る。この場合、ドル円の下値の目途は116円ちょうど近辺まで広がる。この時になって、ようやく日銀は、表向きの理由は後で考えるとして、追加緩和の検討に本腰を入れるのだろう。