2015年10月15日木曜日

2期連続のマイナス成長の可能性が高まった日本景気

昨日(10月14日)のNY市場は、米経済指標や米地区連銀経済報告(ベージュブック)を受けてドル売りの流れが続いた。昨日発表された9月の米小売売上高は、前月比0.1%増と市場予想を下振れ。コア売上高は同0.3%減と市場予想を上回る落ち込みとなり、前月分もマイナスに下方修正。GDP算出に使われるコントロール売上高も同0.1%減と市場予想に反し減少となり、前月分も下方修正された。

同時に発表された9月の米PPIも弱く、前月比-0.5%と市場予想を上回る落ち込み。コアPPIも同-0.3%と市場予想に反しマイナスとなった。内訳をみると、食品価格が同-0.8%と5カ月ぶりの大きな落ち込み。エネルギー価格は同-5.9%と3カ月連続のマイナスとなり、落ち込み幅は8カ月ぶりの大きさとなった。

米地区連銀経済報告(ベージュブック)も市場に弱い印象を与えた。同報告では、8月中旬から10月初めまでの米経済活動が「引き続き緩やかに拡大した」と、前回報告の「引き続き拡大した」に「緩やか」という表現が加わり、米景気の減速感を示した。また製造業については、ドル高などを理由に、「ばらつきがあるものの直近は弱含んでいる」とされ、前回報告の「おおむね良好」から下方修正された。

ベージュブックでは、賃金と物価の伸びの弱さも指摘された。ニューヨーク地区では賃金上昇圧力が目立つようになり、サンフランシスコ地区では、最低賃金引き上げの影響が小売業中心に見られるようになったと報告されたが、大半の地区では、賃金は抑制されたままであると指摘。物価上昇圧力も抑制が続いており、エネルギーだけでなく、テクノロジー製品、農産物は物価下落が観測されたと報告されている。

為替市場では、2つの経済指標の結果を受けてドル円が119円台後半から119円台前半に下落。いったんは119円台半ば近辺に持ち直したが、米債利回りの低下が続いたことから、再び119円台前半に下落。ベージュブックが公表された後には118円台後半と、9月4日以来の安値を記録。ドル売りの動きが続くことになった。

市場の反応を見れば、米景気の先行き懸念が強まりを背景としたドル売りの反応、とまとめることができるが、興味深いのは米雇用環境の改善がベージュブックでも確認されたことだ。ベージュブックでは、雇用について、大半の地区で「緩やか、ないしは、適度に拡大した」と指摘。多くの地区では、熟練工を雇用することが難しく、場合によっては未熟練工ですら雇用が難しいとの報告もあった。

FOMC声明やFRBイエレン議長の見解によると、米雇用は改善が続いており、米景気は拡大が続き、いずれ賃金や物価は上昇ペースが加速することになる。しかし現実には、米景気は減速感が強まっており、賃金は上昇ペースが鈍いまま。物価は上昇するどころか下落気味である。為替市場はFOMCやイエレン議長の見方に懐疑的であることを示したといえる。FOMCやイエレン議長の見方が正しいのか、それとも為替市場の見方が正しいのかは、今後の米経済指標で確認されることになる。

じつは日銀も、米FOMCやFRBイエレン議長と同じように、雇用の改善を根拠に今後の景気拡大や物価上昇ペースの加速を見込んでいる。ただ米国と同じように、日本でも日銀の見方に説得力がなくなりつつある。本日(10月15日)に発表された8月の鉱工業生産(改定値)は前月比-1.2%と速報値の同-0.5%から大きく下方修正された。仮に9月の伸びが生産予測指数並みの前月比+0.1%に留まれば、7-9月期は前期比-2.0%と2期連続の減産となる。

日本の鉱工業生産はGDP成長率との連動性が高いことから、7-9月期のGDP成長率もマイナス成長の可能性が高くなってきたと言える。日本経済研究センターが13日発表した10月の「ESPフォーキャスト調査」によると、民間エコノミストが予測する7-9月期のGDP成長率は平均で前期比年率0.55%増と、前月調査時の1.67%増から約1%下振れた。予測値が低い8機関の平均では同0.36%減と、すでにマイナス成長が見込まれているが、8月の鉱工業生産の下振れを受けて、7-9月期の成長率もマイナスとなるとの見方が広がるだろう。

この結果、10月30日に予定されている日銀・金融政策決定会合に向けて、為替市場では追加緩和期待が盛り上がるのかもしれない。ただ先週、ご紹介したように、筆者は日銀が追加緩和に踏み切る可能性は低いとみている。仮に筆者の見通しと異なり、日銀が追加緩和に踏み切ったとしても、過去2回の緩和と異なり、追加緩和の規模は限定的なものになるだろう。黒田総裁のこれまでの発言を無視する形で、日銀が当座預金の付利引き下げに踏み切らなければ、追加緩和が決まったとしても円売りの動きは一時的なものに留まると予想される。

2015年10月9日金曜日

円安の動きが期待しにくい日銀による追加緩和

10月30日に予定されている金融政策決定会合で日本銀行が追加緩和に踏み切るとの期待が一部で続いているようだ。日本経済の最近の情勢を考えれば、こうした期待を無碍に否定することが難しいのも事実である。

日本景気は先行き懸念が強まっている。日本の鉱工業生産は8月に前月比-0.5%と市場予想に反し2カ月連続の低下。生産予測指数をもとに試算すると、7-9月期は前期比-1.1%と、2期連続の減産となる見通しで、日本のGDP成長率が2期連続のマイナスとなることも視野に入りつつある。

需要側から見ても日本景気の先行きを楽観視することは難しい。8月の実質消費支出は前年比2.9%増と市場予想に反し3カ月ぶりの高い伸び。ただ同月の実質現金給与総額は同0.2%増と市場予想を下振れ。今年初めには、消費税率の引き上げ効果が剥落する今年4月以降の実質所得の持ち直しが期待されていたが、4~8月の間での最大の伸びは7月の0.5%増。一方で6月は3.0%も減少した。実質所得の回復が弱い以上、実質消費に大きな期待を抱くのは無理がある。8月の実質消費が比較的高い伸びとなったのは、家計調査にありがちなサンプルバイアスによるものとも思え、このペースで実質消費が拡大を続けるとは考えにくい。

設備投資の先行き不透明感も強まっている。民間設備投資の先行指標とされる機械受注・民需(除く船舶・電力)は、8月が前月比5.7%減(前年比3.5%減)と市場予想に反し3カ月連続の減少。内閣府は機械受注の基調判断を2カ月連続で下方修正した。仮に9月の受注額が前月比横ばいとすると、7-9月期は前期比12.2%減と大きく落ち込むことになる。

9月調査の日銀短観では、今年度の設備投資(含む土地投資)計画が全規模・全産業で前年度比6.4%増と前回調査から上方修正され、昨年度から伸びが拡大。同計画を根拠に設備投資の先行きを期待する見方もあるが、同計画では今年度上期が前年同期比12.0%増となる一方で、今年度下期は同2.0%増と大きく減速。機械受注の結果から考えると、上期の設備投資は計画比未達となる可能性が高い。上期に積み残した設備投資が下期に実行されることも期待できるかもしれないが、8月以降、中国を始めとする世界景気の減速感は強まるばかり。むしろ下期の設備投資計画が下方修正され、結果的に設備投資が伸び悩む可能性を視野に入れた方が現実的のように思われる。

10月6、7日の金融政策決定会合では声明で、「企業の業況感は、一部にやや慎重な動きもみられるが、総じて良好な水準を維持している」との文言を追加。9月調査での日銀短観・大企業業況判断DIが高水準を維持したことを示唆したとみられるが、DIが改善したのは非製造業であって、景気との連動性が強い製造業DIは前回調査から悪化。非製造業についても、今年度の売り上げ計画は前年度比横ばいと前回調査から小幅下方修正される一方で、経常利益が前年度比5.6%増と前回調査から上方修正。非製造業での業況判断DIの改善は、最終需要の拡大を反映した増収によるものではなく、円安一服などでコストが抑えられたことで増益幅の拡大が見込まれる結果になったためと解釈できる。9月調査の日銀短観ですら、日本政府や日銀が期待するような景気拡大の好循環が途切れつつあることが示されたと言える。

日銀による前回の緩和が昨年10月末と、次回(今年10月30日)会合のちょうど1年前であることも、次回会合での追加緩和期待を醸成しているのかもしれない。ドル円は、昨年10月末の追加緩和を受け、109円台前半から112円台半ばに急伸。その後も上昇基調で推移し、12月初めには120円を突破した。ただ、足元のドル円は昨年12月初めと同じ120円台のまま。仮に日銀が次回会合で追加緩和を見送ると、ドル円の上方モメンタムも期待しにくくなり、(米利上げ開始の有無にもよるが)ドル円の前年比の伸びが12月に向けてゼロに近付く可能性が高まる。8月のコアCPIは前年比-0.1%と、2013年4月以来の前年割れ。2016年度前半頃とされている2%物価目標の達成時期が疑問視される中、ドル円(ひいては輸入物価)の伸び鈍化は、目標達成時期の再度の先送り観測を高める。

しかし、こうした事情は理解できるものの、次回会合での追加緩和の可能性は依然として低いと考えるのが自然のように思える。日銀・黒田総裁は、2%物価目標達成時期が、原油価格次第で後ずれする可能性を示しながらも、物価の上昇基調が確認できる限り追加緩和に踏み切らない姿勢を維持。8月の失業率は3.4%と前月から小幅上昇したが、依然として低水準のまま。同月の有効求人倍率は1.23倍と市場予想を上回り、1992年1月以来の高水準を記録するなど、黒田総裁が物価の基調を見る上で重要視している労働需給のひっ迫も変わっていない。

日銀が追加緩和に踏み切るとすれば、7-9月期のGDP成長率が2期連続のマイナスとなり、同期の需給ギャップのマイナス(需要不足超)幅が4-6月期からさらに拡大し、失業率や有効求人倍率が悪化に転じたことが確認された後だろう。この場合、最速で11月18、19日の次々回会合や12月会合での追加緩和期待が高まることになる。

しかし日銀が仮に追加緩和に踏み切ったとしても、追加緩和の内容次第では、為替市場が円安方向に大きく反応しない可能性も考えておくべきだろう。日銀の長期国債購入額は月間8~12兆円と、年率換算で市中発行額の9割以上。これ以上、国債買い入れ規模を拡大させることは難しく、買い入れ対象を国債ではなく、地方債や財投債、政府保証債に広げるとの見方も出ている。ただ、その場合でも、拡大できる月間購入額は、地方債、財投債の市場規模から考えて、せいぜい0.5兆円(年間6兆円)程度。過去2回の緩和と比べ、インパクト不足は否めない。

国債や地方債といった公的債券の購入規模拡大は、もはやできず、できるとすれば買い入れ年限の長期化くらいしかないとの見方もある。理屈の上では、日銀が取るリスク量が増え、イールドカーブのフラットニングが強まることになるだろうが、購入規模が広げられない中でのリスク量の拡大では、為替市場が円売りの動きを強めるとも考えにくい。

一部からは、日銀当座預金の超過準備にかかる0.1%の付利の引き下げや撤廃を期待する声も出ている。この場合、市中金利のマイナス化が促されるとの見方から円売りの動きが強まる展開も考えられる。

しかし日銀・黒田総裁は、付利の引き下げや撤廃を検討していないと言明。そもそも付利を引き下げてしまうと、金融機関が日銀当座預金に現金を積み上げるインセンティブが弱くなり、当座預金残高が減少する恐れも強まる。つまり量的・質的金融緩和の基本方針であるマネタリーベースの拡大と矛盾する。追加緩和を想定した円安シナリオは、直感的には理解しやすいものの、現実のものとして考えるには無理のあるものと思われる。

2015年10月1日木曜日

10月会合での日銀・追加緩和期待を後退させた日銀・短観の内容

本日(10月1日)発表された日銀・短観(9月調査)は、日本景気が製造業中心に低迷が続く可能性を示したものの、10月7日もしくは30日の日銀・金融政策決定会合での追加緩和期待を後退させる内容となった。

日銀・短観(9月調査)の大企業製造業の業況判断DIは、プラス12と前回(6月)調査から3ポイント悪化。3カ月先の見通しDIはプラス10と、悪化が続く見通しとなった。

一方、非製造業の景況感は、市場予想に反し前回調査から改善した。大企業非製造業の業況判断DIはプラス25と2ポイントの改善。受注が好調な建設業や需要が持ち直している不動産業が改善を続けたほか、物品賃貸(リース)も比較的大きな改善を示した。

興味深いのは、個人消費関連の非製造業でも改善がみられたことだ。小売業はプラス25と3ポイント改善。宿泊・飲食サービスはプラス31と5ポイントの改善。対個人サービスはプラス35と11ポイントも改善した。

家計調査など個人消費関連の経済指標は、伸び悩みが続いており、業況判断DIとの乖離がきになるところ。ただ、この理由は、非製造業の業況判断DIの改善が、増収(売上増)によるものではなく、増益率の加速によるものと考えられる。

日銀・短観の売上・収益計画によると、大企業非製造業の今年(2015年)度売上高は前年度比ほぼ横ばいで、前回調査からは下方修正。これに対し同年度の経常利益、当期純利益はともに前年度から増益率が加速し、前回調査からも上方修正された。増益率の加速が非製造業の業況判断の改善につながったと思われるが、非製造業での売り上げ伸び悩みも、日本景気の低迷を示していると言える。

昨日発表された8月の鉱工業生産は前月比-0.5%と、市場予想に反し2カ月連続のマイナス。製造工業生産予測調査によると、9月は8月並みに伸び悩む見通しとなった。仮に9月の鉱工業生産が同調査通りの結果となれば、7-9月期の鉱工業生産は前期比-1.1%と2四半期連続のマイナスとなる。

鉱工業生産と日銀短観は、年後半の日本景気が製造業を中心に低迷する可能性を示したと言え、金融市場では日本景気の先行き懸念が強まる展開となるだろう。日本のGDP成長率は、製造業との連動性が強い傾向にあることから、7-9月期の成長率が4-6月期に続きマイナスとなる可能性も否定できない。

日本景気の先行き懸念が強まれば、日銀による追加緩和の期待が盛り上がっても良さそうだが、今のところ、そうした動きは見られない。為替市場では日銀短観発表後のドル円が、120円手前から119円台後半に小幅下落(円高)となった。仮に日銀による追加緩和期待が盛り上がったのであれば、ドル円は多少なりとも上(円安)方向で反応するはずだ。

注意すべきは、日本景気が低迷を続ける一方で、日銀が需給ギャップを示唆するものとして注視する生産・営業用設備判断DIや雇用人員判断DIが、いずれも小幅ではあるが需要超過の方向に変化したことだ。生産・営業用設備判断DIは、全規模・全産業計でマイナス1、雇用人員判断DIは、同マイナス16と、いずれもと前期から1ポイント低下(不足超の方向に変化)した。

一部報道によると、日銀の黒田総裁は、9月28日の関西経済界との懇親会で、物価の基調は着実に回復している、との言い回しを繰り返し使ったと言う。各種報道では、生鮮食品だけでなくエネルギーも除いた消費者物価が前年比+1.1%と2013年4月の異次元緩和以降で最大の上昇率になったことが指摘されているが、今回の日銀・短観の内容が、同総裁の「物価の基調は回復」という見方をサポートしていることにも注目すべきだろう。今月予定されている2度の金融政策決定会合での追加緩和を期待するのは難しくなったと思われる。

2015年8月7日金曜日

冴えない展開が続く見込みの日本の個人消費

 日本の個人消費は今年度に入っても盛り上がりに欠けたままとなっている。6月の実質消費支出は前年比2.0%減と市場予想に反し前年割れ。4-6月期平均では同0.4%増と微増と、消費税率の引き上げで大きく落ち込んだ昨年4-6月期から、ほとんど回復していない。

 今年度の実質所得は、消費税率の引き上げによる効果が一巡する一方で、名目賃金がベアを背景に増勢を維持することから増加に転ずると期待されていた。しかし6月の実質所得は前年比2.9%減と昨年11月以来の落ち込み。一部企業でボーナスの支払い時期が5、7、8月に変更されたためとの説明がなされているものの、ボーナスを除く給与(きまって支給する給与)も、実質では前年比0.1%減と伸び悩み。ベアのおかげで所定内給与が増加したものの、残業代(所定外給与)が春先から減少に転じたことが響いている。

 所得が伸び悩んでいる要因の一つに、いわゆる非正規労働者のシェア拡大がある。常用雇用を一般労働者とパートタイム労働者に分けてみると、一般労働者が前年比1.5%増に留まっているのに対し、パートタイム労働者は同3.4%増と2倍以上のペースで拡大している。パートタイム労働者の賃金水準は、一般労働者よりも低く、定期昇給制度が行きわたっていないこともあって伸びも低い。結果として、労働市場全体でみた一人当たり賃金の伸びは、一般労働者だけでイメージしたものと違い弱いものとなる。パートタイム労働者の多くにはボーナスも支給されないことから、一部企業のボーナス支給が7、8月に後ずれしたとしても、現金給与総額の伸びが期待外れに終わる可能性もある。

 仮にボーナスの支給で7、8月の所得の伸びが加速したとしても、耐久消費財のストック調整を背景に、個人消費の伸びが期待されたほど盛り上がらない可能性もある。GDP統計における個人消費(国内家計最終消費支出)を財別にみると、耐久財消費は、消費税率の引き上げを控えた一昨年(2013年)10-12月期に前年比19.4%増、昨年(2014年)1-3月期に同25.6%増と2四半期連続で大幅増を記録。しかし、昨年4-6月期以降は前年割れが続いており、昨年7-9月期から今年1-3月期の3四半期は二桁の前年割れとなっている。

 耐久財消費は、いわゆるリーマンショック後に実施されたエコカー減税などもあって、2009年10-12月期から5四半期連続で前年比二桁のプラスを記録。その後も増勢基調は続いており、2009年10-12月期から消費税率の引き上げが実施される直前の2014年1-3月期までの間、耐久財消費が前年割れしたことは、1度(2012年10-12月期)しかない。

 白物家電の普及率はほぼ100%近くに達する中、乗用車に至っては少子高齢化を背景に保有台数は減少傾向で推移。携帯電話ですら普及率は95%近くに達し、スマートフォンに限っても普及率は60%を超えるなど、耐久消費財は日本中に行き渡っている。こうした中、過去5年もの間、耐久財消費が拡大を続けてきたのであれば、家計の耐久財ストックの過剰感は強まっていると考えるのが自然と思われる。

 耐久財ストックの過剰感が強いのであれば、たとえ所得が増加したとしても、家計は耐久財消費を控える可能性も考えられる。この考え方が正しいのであれば、日本の個人消費は、当面、サービスの拡大に期待するしかない。

 ただ、サービスの物価動向を示す持家の帰属家賃を除くサービス物価は、6月に前年比+0.9%と5月から加速し、賃金の伸びを上回っている。消費者マインドを示す消費者態度指数は、6月に41.7と昨年からは持ち直しているが、アベノミクスが喧伝された2013年の水準を下回ったまま。サービス消費の盛り上がりを期待することも難しく、日本の個人消費は冴えない展開が続くと思われる。

2015年6月25日木曜日

円相場次第の日本景気の「いい雰囲気」

日本景気は回復基調を強めている。第1四半期GDPは速報段階の前期比年率2.8%増から二次速報段階で同3.9%増に上方修正。個人消費は前期比0.4%増と小幅ながら3期連続でプラス。設備投資は消費税率引き上げ後に伸び悩んでいたが、第1四半期に前期比2.7%増と伸びが加速した。

今後も個人消費や設備投資は底堅く推移すると思われる。4月の現金給与総額は前年比0.7%増と今年最大の伸びを記録し、実質では同0.1%減と下げ止まった。消費者態度指数や景気ウォッチャー調査が示すように、消費者マインドも安定的に推移しており、個人消費は(緩やかかもしれないが)増加基調を維持するだろう。一方、設備投資の先行指標である機械受注(民需除く船舶電力)は4月に前年比3.0%増と5カ月連続でプラス。設備稼働率の低下など製造業の設備投資は先行き不透明感が強いものの、一部メディアが報じた設備投資計画などを考慮すると、設備投資も増勢基調が続くとみられる。

個人消費や設備投資の拡大は、日本景気の先行きに対する自信を深めるだろう。昨日(6月24日)、日経平均株価が終値で2万868円と、2000年4月に記録したITバブル時の最高値を超えたのも、日本景気の先行きに対する自信の表れと解釈できなくもない。一般メディアでの報道ぶりなどを見ると、日本景気は「いい雰囲気」にあるようだ。

日本景気が「いい雰囲気」になったのは、アベノミクスのおかげ、と思う方もいらっしゃるかもしれない。たしかに安倍政権は、その前の民主党政権に比べ、景気拡大や株価上昇に熱心な姿勢を露骨に示した。その結果が表れたという見方を完全に否定することはできない。

しかし、アベノミクス(ないしは安倍政権の姿勢)のおかげで日本経済が変わった、と考えるのも無理がある。そもそもアベノミクスの三本の矢のうち一本目(金融緩和)と二本目(財政拡大)は、伝統的な経済学に基づく景気刺激策。日本経済が変わっていないからこそ、日本景気はアベノミクスで拡大できたと言える。

三本目の矢(成長戦略)に対する期待は、株式市場関係者を中心に依然としてあるようだが、どちらかというと尻すぼみとなっている。米国とのTPP協議は、米国での法案成立の遅れもあって交渉妥結に至らないまま。規制改革については、農協改革や再生医療薬の承認までの期間短縮といった実績がある一方で、高度外国人材の活用や地熱発電関連は進展が見られない。安倍政権が22日に決めた成長戦略の素案は、官民対話の開始や中高年の転職や出向を受け入れる企業への助成制度の創設など、過去2回に比べ小粒となった。安倍政権の成長戦略に対する意気込みは認めたいものの、結果が伴わない印象が強まっている。

日本経済は変わらず、三本目の矢が期待外れであっても、日本景気が「いい雰囲気」になったからいいではないか、という声もあるようだ。たしかに、そういう考え方でもいいのかもしれない。ただ、現在の日本経済は、円安という追い風で救われている部分が相当あることを忘れてはならない。

日銀の黒田総裁が発言したように、日本円の実質実効レートは歴史的な低水準にあり、今後さらに低下する(円安になる)とは考えにくい。黒田総裁は、名目でのさらなる円安を否定したわけではないと釈明したが、仮に名目での円安が止まらず、実質実効レートが上昇に転ずるのであれば、それは日本の物価上昇が進むことを意味する。

日本の物価上昇が進めば、日銀の大規模緩和が終了に近付くことを市場は意識するだろう。黒田総裁は、出口戦略(大規模緩和の終了)を述べるのは時期尚早と繰り返すが、可能性を否定した直後に追加緩和に踏み切った実績があるだけに、市場は黒田総裁による出口戦略否定論を真に受けなくなるだろう。

安倍政権後の円安基調の大前提は、日銀による大規模緩和の実施。その前提が崩れてしまえば、円売りの動きは止まる。こうなるとあとは、ドル高による相対的な円安の進展を期待するしかなく、日本景気の先行き期待も後退しやすくなる。今の「いい雰囲気」の継続性を考えることは、円相場の先行きを考えることと同じのように思える。