日銀は1月29日、マイナス金利付き量的・質的金融緩和(マイナス金利付きQQE)の導入を決定した。ただ、決定からすでに1週間が経ったにもかかわらず、マイナス金利付きQQEの評価が定まっていない。
あくまで印象論でしかないが、業務経験の長いエコノミストほど、マイナス金利付きQQEに対して否定的な見方を表明している。日銀・黒田総裁は、これまでマネタリーベースを拡大することで2%物価上昇目標を達成すると公言してきたが、今回の決定ではマネタリーベースの拡大ペースは年率80兆円で変わらず。一方で、マイナス金利の導入を決定直前まで否定していたにもかかわらず、3つ目の次元としてマイナス金利を導入。とはいえ、マイナス金利が適用されるのは250兆円程度ある当座預金のうちの10~30兆円程度。200兆円は従来通り0.1%の金利が適用されるため、当座預金残高全体でみた場合、日銀から市中銀行には(金額は減少するものの)これまで通り金利が支払われる。日銀の政策意図が不明確という指摘も多い。
日銀は、当座預金のうちゼロ金利が適用されるマクロ加算残高を適宜増加させることで、マイナス金利が適用される政策金利残高を10~30兆円程度に維持する意向を示しているが、黒田総裁はマイナス金利のマイナス幅を広げる可能性もあると発言。ならば、ゼロ金利が適用されるマクロ加算残高を変更しなければいいだけとの指摘もある。
実体経済に対する追加的な効果が期待できないとの声も多い。マイナス金利の導入で円債利回りは8年債までマイナスとなるなど、日本国債のイールドカーブは全体的に下方シフト。これにより市中銀行は日本国債による運用が難しくなるが、たとえイールドカーブが下がり、貸出金利が多少下がったとしても、日本企業の資金需要が高まるとは考えにくい。結果として、市中銀行は貸出を増やすことなく、マイナス金利であっても日本国債での運用を余儀なくされるとの見方が根強い。
ただ、日本国債のイールドカーブが下方シフトしたことで、円買いの動きは抑制されるようになった。日銀がマイナス金利付きQQEを発表した1月29日にドル円は一時121円台後半まで上昇したが、その後は下落基調が続き、本日(2月5日)午後は116円台後半と、日銀が発表する1週間前(1月21日)以来の安値に下落した。これをもって、日銀のマイナス金利付きQQEは効果がなくなったとの指摘も目にするが、ドル円の下げがきつくなったのは1月の米ISM非製造業景況指数の予想外の悪化などでドル売りが進んだ結果。日銀が毎日発表する円の実効レートは、日銀の追加緩和と同水準のまま。仮に今後、再び円買いの動きが強まるようになれば、黒田総裁はマイナス金利の拡大を示唆するなど、円買いの動きにプレッシャーをかけることも十分に考えられる。
日銀のマイナス金利付きQQEについては、市場関係者を中心にあまり評判が良くないが、円高の抑制に貢献したという点も考慮すれば、言われているほど悪いものではないようにも感ずる。ただ、日銀がマイナス金利を導入したことで、日本経済が時間とともに低迷感を強める恐れがある可能性には注意した方がいいだろう。
市場関係者や識者とされる方々が指摘するように、マイナス金利付きQQEは日本の市中銀行の採算性を悪化させるだろう。当座預金による金利収入が減少する一方で、貸出金利は低下。しかし金利低下をカバーするだけの貸出増も期待できなければ、採算性が悪化するのも当然である。
一部大手銀行は、外債や株式といったリスク資産への投資比率を高めることも考えられるが、その他銀行では、そのような対応も難しい。時間とともに、採算性の悪い銀行が淘汰される形で、銀行業界の寡占化が加速する展開が予想される。
寡占化が進んだ銀行業界では、競争の必要性が低下するだろう。この結果、不透明感の強い案件への貸出を躊躇する傾向が強まり、ベンチャー企業や中小零細企業への貸出は、これまで以上に増えにくくなる可能性も高まる。日銀は、貸出の伸び悩みが続くことで、マイナス金利をさらに拡大するかもしれない。しかし、それは銀行の寡占化を進め、ベンチャー企業などへの貸出がさらに停滞する可能性を高める。
アベノミクスが日本経済の再生に資するには構造改革(3本目の矢)を推進することが求められるとの声が根強い。しかし、日銀の金融緩和(1本目の矢)が、3本目の矢を打つ射手を狙撃し続けている可能性に留意する必要があるのかもしれない。
2016年2月5日金曜日
2016年1月15日金曜日
盛り上がるかもしれない1月会合での日銀・追加緩和期待
現時点では市場関係者の一部からしか指摘が出ていないようだが、日本の成長率は昨年第4四半期も前期比マイナスとなる可能性が高いと思われる。
日本経済研究センターが公表するESPフォーキャスト調査によると、昨年第4四半期成長率見通しは前期比年率0.63%増と、昨年12月時点の同1.31%増から大きく鈍化。予測値が低い8機関の平均では同0.13%減とマイナスとなっている。
第4四半期も再びマイナスとなる最大の理由は個人消費の悪化だ。家計調査ベースの実質消費支出は、昨年11月が前月比2.2%減と3カ月連続の減少。10~11月平均でみると、7~9月期(第3四半期)から1.8%の減少となっている。
減少ペースが大きいことから、家計調査のサンプルバイアスを指摘する声もあるが、家計調査よりもサンプル数の大きい家計消費状況調査でも支出総額は減少基調で推移しており、家計調査の弱さをサンプル要因のみで説明するのは無理がある。
個人消費だけでなく設備投資も成長率の重石となりそうだ。11月の機械受注(民需除く船舶・電力)は前月比14.4%の大幅減。同指標は9月、10月と2カ月連続で大きく増加したが、11月だけで過去2カ月の増加分を打ち消した。12月が前月比9%以上落ち込まなければ、10~12月期(第4四半期)で前期比プラスとなるが、これは7~9月期(第3四半期)が前期比10.0%減と大きく落ち込んだため。12月の工作機械受注では、内需が前月比6.3%減(前年比11.5%減)と大きく減少したことも考慮すると、12月の機械受注に大きな期待は持ちにくく、第4四半期の設備投資も前期と同様に伸び悩む可能性が高いと思われる。
在庫調整の進展も成長率の下押し要因となるだろう。GDP統計によると、民間在庫は昨年第1四半期と第2四半期に計3.3%もGDPを押し上げ。第3四半期は0.8%の押し下げとなったが、昨年前半の積み上がりを解消したとは言い難い。鉱工業生産指数をみても在庫調整は一半ばで、第4四半期でも民間在庫は成長率を下押しすると予想される。
第4四半期の成長率は、12月の経済指標の結果次第といえなくもないが、これまで発表された12月の経済指標を見る限り、大きな期待は持ちにくい。12月の日経製造業PMIは52.6と11月から変わらず。12月の消費者態度指数も42.7と11月とほぼ同じ。12月のマネーストック(M2)は前年比3.0%増と、市場予想に反し11月から減速した。12月の景気ウォッチャー(現状判断)は48.7と、11月の46.1から大きく上昇したが、第4四半期の平均は47.7と、第3四半期の平均(49.5)を下回っている。今後発表される12月の個人消費関連、設備投資関連の各指標が、第4四半期成長率を大きく押し上げるほどの改善を示すと期待するのは難しいようだ。
第3四半期にプラスに転じた日本の成長率が、第4四半期に再びマイナスとなると、日本景気の伸び悩みが再び注目を集め、日銀による追加緩和観測が盛り上がることだろう。次回の金融政策決定会合は1月29日だが、同じの日の朝に12月の家計調査、鉱工業生産、CPIなど重要指標が相次いで発表される。いずれの指標も弱い結果となれば、市場が日銀の追加緩和期待を大きく強める展開も考えられる。
日本経済研究センターが公表するESPフォーキャスト調査によると、昨年第4四半期成長率見通しは前期比年率0.63%増と、昨年12月時点の同1.31%増から大きく鈍化。予測値が低い8機関の平均では同0.13%減とマイナスとなっている。
第4四半期も再びマイナスとなる最大の理由は個人消費の悪化だ。家計調査ベースの実質消費支出は、昨年11月が前月比2.2%減と3カ月連続の減少。10~11月平均でみると、7~9月期(第3四半期)から1.8%の減少となっている。
減少ペースが大きいことから、家計調査のサンプルバイアスを指摘する声もあるが、家計調査よりもサンプル数の大きい家計消費状況調査でも支出総額は減少基調で推移しており、家計調査の弱さをサンプル要因のみで説明するのは無理がある。
個人消費だけでなく設備投資も成長率の重石となりそうだ。11月の機械受注(民需除く船舶・電力)は前月比14.4%の大幅減。同指標は9月、10月と2カ月連続で大きく増加したが、11月だけで過去2カ月の増加分を打ち消した。12月が前月比9%以上落ち込まなければ、10~12月期(第4四半期)で前期比プラスとなるが、これは7~9月期(第3四半期)が前期比10.0%減と大きく落ち込んだため。12月の工作機械受注では、内需が前月比6.3%減(前年比11.5%減)と大きく減少したことも考慮すると、12月の機械受注に大きな期待は持ちにくく、第4四半期の設備投資も前期と同様に伸び悩む可能性が高いと思われる。
在庫調整の進展も成長率の下押し要因となるだろう。GDP統計によると、民間在庫は昨年第1四半期と第2四半期に計3.3%もGDPを押し上げ。第3四半期は0.8%の押し下げとなったが、昨年前半の積み上がりを解消したとは言い難い。鉱工業生産指数をみても在庫調整は一半ばで、第4四半期でも民間在庫は成長率を下押しすると予想される。
第4四半期の成長率は、12月の経済指標の結果次第といえなくもないが、これまで発表された12月の経済指標を見る限り、大きな期待は持ちにくい。12月の日経製造業PMIは52.6と11月から変わらず。12月の消費者態度指数も42.7と11月とほぼ同じ。12月のマネーストック(M2)は前年比3.0%増と、市場予想に反し11月から減速した。12月の景気ウォッチャー(現状判断)は48.7と、11月の46.1から大きく上昇したが、第4四半期の平均は47.7と、第3四半期の平均(49.5)を下回っている。今後発表される12月の個人消費関連、設備投資関連の各指標が、第4四半期成長率を大きく押し上げるほどの改善を示すと期待するのは難しいようだ。
第3四半期にプラスに転じた日本の成長率が、第4四半期に再びマイナスとなると、日本景気の伸び悩みが再び注目を集め、日銀による追加緩和観測が盛り上がることだろう。次回の金融政策決定会合は1月29日だが、同じの日の朝に12月の家計調査、鉱工業生産、CPIなど重要指標が相次いで発表される。いずれの指標も弱い結果となれば、市場が日銀の追加緩和期待を大きく強める展開も考えられる。
2015年12月18日金曜日
為替市場には中立に働くと思われる日銀の小規模緩和
日本銀行は本日の金融政策決定会合で、「量的・質的金融緩和を補完するための諸措置の導入」と題した事実上の追加緩和を決定した。
マネタリーベースの増加ペースは、従来と同様に年間約80兆円で維持とされたが、長期国債の買い入れ平均残存期間(以下、デュレーション)は、今年の7~10年程度から来年は7~12年程度と小幅ながら延長。ETFの買い入れについては、従来の年間約3兆円に加え、設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業の株式を対象に新たに3千億円の枠を設定した。またJ-REITについては、銘柄別の買入限度額を発行済み投資口総数の5%以内としていたが、これを10%以内に引き上げることも決められた。
日銀は声明文で、量的・質的金融緩和(以下、QQE)を推進していくにあたり、より円滑にイールドカーブ全体の金利低下を促していくことが適当と指摘。また企業や家計のデフレマインドは転換しているとの見方を示し、QQEを「補完」するためにデュレーションの延長などの「諸措置」を決定したと説明した。
JGBデュレーションの延長やETF買入枠の増額など、今回決定した内容は追加緩和の一つと言えるものだが、日銀は(声明文を見る限り)今回の決定を「追加緩和」ではなく「補完」であると否定するだろう。邪推でしかないが、今回の措置にあえて「補完」という名称を付けたのは、日銀として、追加緩和はこんなものではない、と誇示したかったからかもしれないし、日銀・黒田総裁がQQE開始当時、戦力の逐次投入はしない、と大見えを切ったことと関係しているのかもしれない。
ただマネタリーベースの増加ペースは年間80兆円で維持したまま。そんな中でデュレーションを延長してしまえば、結果として年限の短いところほど利回りの低下効果が薄れる。為替市場では、短い年限の利回りの方が長いものよりも強い影響をおぼすことが経験的に知られていることから、総額一定のもとでのデュレーション延長は、円売り圧力を弱める結果につながりかねない。
一方、(名称や建前はともかく)ETFの買い入れ額が増加されたことは日本株市場にとってポジティブ。以前ほどではないにせよ、日本株高は円売りの動きを支援する傾向があるため、ETF増額によって円売り圧力は増す可能性があると期待される。
エコノミストのように定量的に試算したわけではなく、あくまで筆者の感覚でしかないが、デュレーションの延長とETFの買入額の増加を合わせると、今回の決定による円相場への影響は中立なものと思われる。
注目すべき点の一つに、ETF買入額の増加やJ-REITの買入限度額の引き上げに対し、3人の委員が反対票を投じたことがある。年間80兆円のマネタリーベースの増加ペースに対し以前から反対票を投じていた木内委員や、(木内委員ほどではないにせよ)以前より追加緩和に否定的な姿勢を示してきた佐藤委員が、ETF買入額の増加などに対しても反対票を投じたことに違和感はないが、市場では中立的な立場に近いと言われていた石田委員も反対票を投じたことはやや意外。仮に今後、日銀が追加緩和に動くとしても、少なくとも3人の委員が反対に動くことが判明したともいえ、市場が日銀の追加緩和期待を後退させる可能性もある。
今回の「補完」措置は、原油価格の下落が続く中、日銀短観の企業物価見通しが下方修正された(インフレ期待が低下した)ことへの対応と考えていいだろう。ただ原油安やインフレ期待の低下は、ここ1カ月弱の出来事。米FRBが利上げ開始を決めたばかりのタイミングで、審議委員への根回しや追加緩和の実施準備のための時間も足らなかったため、今回は「補完」に留めたと考えることもできる。
市場は本日の日銀の発表を受けて円売りで反応。ドル円は一時1232円台半ば近辺まで上昇したが、その後は一転して円買いが進展。ドル円は122円ちょうど近辺に下落した。為替市場は、今回の決定を事実上の「追加緩和」として反応したのは良いが、中身を見ればタイトル通り「補完」程度の内容、と認識を改めたのかもしれない。
マネタリーベースの増加ペースは、従来と同様に年間約80兆円で維持とされたが、長期国債の買い入れ平均残存期間(以下、デュレーション)は、今年の7~10年程度から来年は7~12年程度と小幅ながら延長。ETFの買い入れについては、従来の年間約3兆円に加え、設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業の株式を対象に新たに3千億円の枠を設定した。またJ-REITについては、銘柄別の買入限度額を発行済み投資口総数の5%以内としていたが、これを10%以内に引き上げることも決められた。
日銀は声明文で、量的・質的金融緩和(以下、QQE)を推進していくにあたり、より円滑にイールドカーブ全体の金利低下を促していくことが適当と指摘。また企業や家計のデフレマインドは転換しているとの見方を示し、QQEを「補完」するためにデュレーションの延長などの「諸措置」を決定したと説明した。
JGBデュレーションの延長やETF買入枠の増額など、今回決定した内容は追加緩和の一つと言えるものだが、日銀は(声明文を見る限り)今回の決定を「追加緩和」ではなく「補完」であると否定するだろう。邪推でしかないが、今回の措置にあえて「補完」という名称を付けたのは、日銀として、追加緩和はこんなものではない、と誇示したかったからかもしれないし、日銀・黒田総裁がQQE開始当時、戦力の逐次投入はしない、と大見えを切ったことと関係しているのかもしれない。
ただマネタリーベースの増加ペースは年間80兆円で維持したまま。そんな中でデュレーションを延長してしまえば、結果として年限の短いところほど利回りの低下効果が薄れる。為替市場では、短い年限の利回りの方が長いものよりも強い影響をおぼすことが経験的に知られていることから、総額一定のもとでのデュレーション延長は、円売り圧力を弱める結果につながりかねない。
一方、(名称や建前はともかく)ETFの買い入れ額が増加されたことは日本株市場にとってポジティブ。以前ほどではないにせよ、日本株高は円売りの動きを支援する傾向があるため、ETF増額によって円売り圧力は増す可能性があると期待される。
エコノミストのように定量的に試算したわけではなく、あくまで筆者の感覚でしかないが、デュレーションの延長とETFの買入額の増加を合わせると、今回の決定による円相場への影響は中立なものと思われる。
注目すべき点の一つに、ETF買入額の増加やJ-REITの買入限度額の引き上げに対し、3人の委員が反対票を投じたことがある。年間80兆円のマネタリーベースの増加ペースに対し以前から反対票を投じていた木内委員や、(木内委員ほどではないにせよ)以前より追加緩和に否定的な姿勢を示してきた佐藤委員が、ETF買入額の増加などに対しても反対票を投じたことに違和感はないが、市場では中立的な立場に近いと言われていた石田委員も反対票を投じたことはやや意外。仮に今後、日銀が追加緩和に動くとしても、少なくとも3人の委員が反対に動くことが判明したともいえ、市場が日銀の追加緩和期待を後退させる可能性もある。
今回の「補完」措置は、原油価格の下落が続く中、日銀短観の企業物価見通しが下方修正された(インフレ期待が低下した)ことへの対応と考えていいだろう。ただ原油安やインフレ期待の低下は、ここ1カ月弱の出来事。米FRBが利上げ開始を決めたばかりのタイミングで、審議委員への根回しや追加緩和の実施準備のための時間も足らなかったため、今回は「補完」に留めたと考えることもできる。
市場は本日の日銀の発表を受けて円売りで反応。ドル円は一時1232円台半ば近辺まで上昇したが、その後は一転して円買いが進展。ドル円は122円ちょうど近辺に下落した。為替市場は、今回の決定を事実上の「追加緩和」として反応したのは良いが、中身を見ればタイトル通り「補完」程度の内容、と認識を改めたのかもしれない。
2015年11月11日水曜日
弱かったと素直に認めるべき今年夏のボーナス
11月9日に発表された毎月勤労統計によると、今年(2015年)夏のボーナスの一人当たり平均支給額(以下、今夏ボーナス)は前年比2.8%減(35.7万円)と2年ぶりの減少となった。6月分の特別給与が前年比6.7%減と、事前予想に反し大きく減少したことから、今回の結果には、さほど意外感がないはずだが、雇用・所得環境の改善が続いていると思い込んでいる一部エコノミストにとっては、それなりに驚きを与えたようだ。
今夏ボーナスが減少に転じた理由として、一部エコノミストは、毎月勤労統計で今年1月に実施された調査対象(サンプル)の入れ替えを指摘している。しかし同統計では500人以上の事業所は全てが調査対象。つまりサンプル入れ替えの影響が全くない。それにもかかわらず、500人以上事業所の今夏ボーナスは、前年比2.6%減と、全体の結果と同様に前年割れ。サンプル入れ替えというテクニカルな理由だけで、今夏ボーナスの減少を説明するのは無理がある。
むしろ毎月勤労統計で今夏ボーナスが減少に転じた理由として指摘すべきは、非正規雇用者や再雇用された高齢者の割合の増加だろう。非正規雇用者や再雇用された高齢者に支払われるボーナスは、正社員に比べ少ないのが一般的。ボーナスの少ない社員の割合が前年から高まれば、平均でみた一人当たりボーナスが前年から減少しても不思議ではない。
昨年の夏季ボーナス(昨夏ボーナス)の伸びが高すぎた面もある。同統計によると昨夏ボーナスは前年比2.7%増と1991年以来の高い伸び。企業業績は改善基調にあるものの、今夏ボーナスの基準となる2014年度の企業増益率は2013年度比で大きく鈍化していることも考えると、今夏ボーナスが反動もあって減少に転ずることも考えられる。
それにもかかわらず一部エコノミストが、毎月勤労統計で示された今夏ボーナスに対して違和感を持つのは、今夏ボーナスに関する各種アンケート調査が総じて好結果だったからだろう。たとえば経団連調査によると今夏ボーナスは前年比2.81%増。毎月勤労統計を発表する厚生労働省による調査では3.95%増だった。
ただ注意すべきは、こうしたアンケートでの調査対象は基本的には正社員であり、かつ対象企業も大企業が中心。一方、毎月勤労統計は、パート社員や再雇用された高齢者も調査対象であり、対象企業には中小企業も含まれる。一般的にエコノミストは、一国経済全体(マクロ経済)を対象とするはずだが、大企業・正社員の状況に目を奪われ、今夏ボーナスが減少したことに疑義を唱えるのは、単なる自己否定ないしは自己矛盾のようにみえる。日本経済全体でみた場合、今夏ボーナスは予想以上に弱かったと素直に認めるのが自然だろう。
今夏ボーナスが弱かった以上、今年冬のボーナス(今冬ボーナス)も弱いものになりそうだ。今夏ボーナスほど大きな落ち込みにはならないまでも、今冬ボーナスも前年比2%弱の減少が見込まれる。弱い伸びとはいえ一人当たり賃金(現金給与総額)は前年比プラスを維持し、雇用も増加基調で推移していることから、雇用者所得(雇用者全体でみた所得)も拡大を続けていると判断される。しかしボーナスが弱い分、家計所得の増加ペースは緩やかなものにならざるを得ない。結果として、個人消費の伸びは当分、実質で前年比1%弱と、冴えない状況が続くと予想される。
今夏ボーナスが減少に転じた理由として、一部エコノミストは、毎月勤労統計で今年1月に実施された調査対象(サンプル)の入れ替えを指摘している。しかし同統計では500人以上の事業所は全てが調査対象。つまりサンプル入れ替えの影響が全くない。それにもかかわらず、500人以上事業所の今夏ボーナスは、前年比2.6%減と、全体の結果と同様に前年割れ。サンプル入れ替えというテクニカルな理由だけで、今夏ボーナスの減少を説明するのは無理がある。
むしろ毎月勤労統計で今夏ボーナスが減少に転じた理由として指摘すべきは、非正規雇用者や再雇用された高齢者の割合の増加だろう。非正規雇用者や再雇用された高齢者に支払われるボーナスは、正社員に比べ少ないのが一般的。ボーナスの少ない社員の割合が前年から高まれば、平均でみた一人当たりボーナスが前年から減少しても不思議ではない。
昨年の夏季ボーナス(昨夏ボーナス)の伸びが高すぎた面もある。同統計によると昨夏ボーナスは前年比2.7%増と1991年以来の高い伸び。企業業績は改善基調にあるものの、今夏ボーナスの基準となる2014年度の企業増益率は2013年度比で大きく鈍化していることも考えると、今夏ボーナスが反動もあって減少に転ずることも考えられる。
それにもかかわらず一部エコノミストが、毎月勤労統計で示された今夏ボーナスに対して違和感を持つのは、今夏ボーナスに関する各種アンケート調査が総じて好結果だったからだろう。たとえば経団連調査によると今夏ボーナスは前年比2.81%増。毎月勤労統計を発表する厚生労働省による調査では3.95%増だった。
ただ注意すべきは、こうしたアンケートでの調査対象は基本的には正社員であり、かつ対象企業も大企業が中心。一方、毎月勤労統計は、パート社員や再雇用された高齢者も調査対象であり、対象企業には中小企業も含まれる。一般的にエコノミストは、一国経済全体(マクロ経済)を対象とするはずだが、大企業・正社員の状況に目を奪われ、今夏ボーナスが減少したことに疑義を唱えるのは、単なる自己否定ないしは自己矛盾のようにみえる。日本経済全体でみた場合、今夏ボーナスは予想以上に弱かったと素直に認めるのが自然だろう。
今夏ボーナスが弱かった以上、今年冬のボーナス(今冬ボーナス)も弱いものになりそうだ。今夏ボーナスほど大きな落ち込みにはならないまでも、今冬ボーナスも前年比2%弱の減少が見込まれる。弱い伸びとはいえ一人当たり賃金(現金給与総額)は前年比プラスを維持し、雇用も増加基調で推移していることから、雇用者所得(雇用者全体でみた所得)も拡大を続けていると判断される。しかしボーナスが弱い分、家計所得の増加ペースは緩やかなものにならざるを得ない。結果として、個人消費の伸びは当分、実質で前年比1%弱と、冴えない状況が続くと予想される。
2015年10月15日木曜日
2期連続のマイナス成長の可能性が高まった日本景気
昨日(10月14日)のNY市場は、米経済指標や米地区連銀経済報告(ベージュブック)を受けてドル売りの流れが続いた。昨日発表された9月の米小売売上高は、前月比0.1%増と市場予想を下振れ。コア売上高は同0.3%減と市場予想を上回る落ち込みとなり、前月分もマイナスに下方修正。GDP算出に使われるコントロール売上高も同0.1%減と市場予想に反し減少となり、前月分も下方修正された。
同時に発表された9月の米PPIも弱く、前月比-0.5%と市場予想を上回る落ち込み。コアPPIも同-0.3%と市場予想に反しマイナスとなった。内訳をみると、食品価格が同-0.8%と5カ月ぶりの大きな落ち込み。エネルギー価格は同-5.9%と3カ月連続のマイナスとなり、落ち込み幅は8カ月ぶりの大きさとなった。
米地区連銀経済報告(ベージュブック)も市場に弱い印象を与えた。同報告では、8月中旬から10月初めまでの米経済活動が「引き続き緩やかに拡大した」と、前回報告の「引き続き拡大した」に「緩やか」という表現が加わり、米景気の減速感を示した。また製造業については、ドル高などを理由に、「ばらつきがあるものの直近は弱含んでいる」とされ、前回報告の「おおむね良好」から下方修正された。
ベージュブックでは、賃金と物価の伸びの弱さも指摘された。ニューヨーク地区では賃金上昇圧力が目立つようになり、サンフランシスコ地区では、最低賃金引き上げの影響が小売業中心に見られるようになったと報告されたが、大半の地区では、賃金は抑制されたままであると指摘。物価上昇圧力も抑制が続いており、エネルギーだけでなく、テクノロジー製品、農産物は物価下落が観測されたと報告されている。
為替市場では、2つの経済指標の結果を受けてドル円が119円台後半から119円台前半に下落。いったんは119円台半ば近辺に持ち直したが、米債利回りの低下が続いたことから、再び119円台前半に下落。ベージュブックが公表された後には118円台後半と、9月4日以来の安値を記録。ドル売りの動きが続くことになった。
市場の反応を見れば、米景気の先行き懸念が強まりを背景としたドル売りの反応、とまとめることができるが、興味深いのは米雇用環境の改善がベージュブックでも確認されたことだ。ベージュブックでは、雇用について、大半の地区で「緩やか、ないしは、適度に拡大した」と指摘。多くの地区では、熟練工を雇用することが難しく、場合によっては未熟練工ですら雇用が難しいとの報告もあった。
FOMC声明やFRBイエレン議長の見解によると、米雇用は改善が続いており、米景気は拡大が続き、いずれ賃金や物価は上昇ペースが加速することになる。しかし現実には、米景気は減速感が強まっており、賃金は上昇ペースが鈍いまま。物価は上昇するどころか下落気味である。為替市場はFOMCやイエレン議長の見方に懐疑的であることを示したといえる。FOMCやイエレン議長の見方が正しいのか、それとも為替市場の見方が正しいのかは、今後の米経済指標で確認されることになる。
じつは日銀も、米FOMCやFRBイエレン議長と同じように、雇用の改善を根拠に今後の景気拡大や物価上昇ペースの加速を見込んでいる。ただ米国と同じように、日本でも日銀の見方に説得力がなくなりつつある。本日(10月15日)に発表された8月の鉱工業生産(改定値)は前月比-1.2%と速報値の同-0.5%から大きく下方修正された。仮に9月の伸びが生産予測指数並みの前月比+0.1%に留まれば、7-9月期は前期比-2.0%と2期連続の減産となる。
日本の鉱工業生産はGDP成長率との連動性が高いことから、7-9月期のGDP成長率もマイナス成長の可能性が高くなってきたと言える。日本経済研究センターが13日発表した10月の「ESPフォーキャスト調査」によると、民間エコノミストが予測する7-9月期のGDP成長率は平均で前期比年率0.55%増と、前月調査時の1.67%増から約1%下振れた。予測値が低い8機関の平均では同0.36%減と、すでにマイナス成長が見込まれているが、8月の鉱工業生産の下振れを受けて、7-9月期の成長率もマイナスとなるとの見方が広がるだろう。
この結果、10月30日に予定されている日銀・金融政策決定会合に向けて、為替市場では追加緩和期待が盛り上がるのかもしれない。ただ先週、ご紹介したように、筆者は日銀が追加緩和に踏み切る可能性は低いとみている。仮に筆者の見通しと異なり、日銀が追加緩和に踏み切ったとしても、過去2回の緩和と異なり、追加緩和の規模は限定的なものになるだろう。黒田総裁のこれまでの発言を無視する形で、日銀が当座預金の付利引き下げに踏み切らなければ、追加緩和が決まったとしても円売りの動きは一時的なものに留まると予想される。
同時に発表された9月の米PPIも弱く、前月比-0.5%と市場予想を上回る落ち込み。コアPPIも同-0.3%と市場予想に反しマイナスとなった。内訳をみると、食品価格が同-0.8%と5カ月ぶりの大きな落ち込み。エネルギー価格は同-5.9%と3カ月連続のマイナスとなり、落ち込み幅は8カ月ぶりの大きさとなった。
米地区連銀経済報告(ベージュブック)も市場に弱い印象を与えた。同報告では、8月中旬から10月初めまでの米経済活動が「引き続き緩やかに拡大した」と、前回報告の「引き続き拡大した」に「緩やか」という表現が加わり、米景気の減速感を示した。また製造業については、ドル高などを理由に、「ばらつきがあるものの直近は弱含んでいる」とされ、前回報告の「おおむね良好」から下方修正された。
ベージュブックでは、賃金と物価の伸びの弱さも指摘された。ニューヨーク地区では賃金上昇圧力が目立つようになり、サンフランシスコ地区では、最低賃金引き上げの影響が小売業中心に見られるようになったと報告されたが、大半の地区では、賃金は抑制されたままであると指摘。物価上昇圧力も抑制が続いており、エネルギーだけでなく、テクノロジー製品、農産物は物価下落が観測されたと報告されている。
為替市場では、2つの経済指標の結果を受けてドル円が119円台後半から119円台前半に下落。いったんは119円台半ば近辺に持ち直したが、米債利回りの低下が続いたことから、再び119円台前半に下落。ベージュブックが公表された後には118円台後半と、9月4日以来の安値を記録。ドル売りの動きが続くことになった。
市場の反応を見れば、米景気の先行き懸念が強まりを背景としたドル売りの反応、とまとめることができるが、興味深いのは米雇用環境の改善がベージュブックでも確認されたことだ。ベージュブックでは、雇用について、大半の地区で「緩やか、ないしは、適度に拡大した」と指摘。多くの地区では、熟練工を雇用することが難しく、場合によっては未熟練工ですら雇用が難しいとの報告もあった。
FOMC声明やFRBイエレン議長の見解によると、米雇用は改善が続いており、米景気は拡大が続き、いずれ賃金や物価は上昇ペースが加速することになる。しかし現実には、米景気は減速感が強まっており、賃金は上昇ペースが鈍いまま。物価は上昇するどころか下落気味である。為替市場はFOMCやイエレン議長の見方に懐疑的であることを示したといえる。FOMCやイエレン議長の見方が正しいのか、それとも為替市場の見方が正しいのかは、今後の米経済指標で確認されることになる。
じつは日銀も、米FOMCやFRBイエレン議長と同じように、雇用の改善を根拠に今後の景気拡大や物価上昇ペースの加速を見込んでいる。ただ米国と同じように、日本でも日銀の見方に説得力がなくなりつつある。本日(10月15日)に発表された8月の鉱工業生産(改定値)は前月比-1.2%と速報値の同-0.5%から大きく下方修正された。仮に9月の伸びが生産予測指数並みの前月比+0.1%に留まれば、7-9月期は前期比-2.0%と2期連続の減産となる。
日本の鉱工業生産はGDP成長率との連動性が高いことから、7-9月期のGDP成長率もマイナス成長の可能性が高くなってきたと言える。日本経済研究センターが13日発表した10月の「ESPフォーキャスト調査」によると、民間エコノミストが予測する7-9月期のGDP成長率は平均で前期比年率0.55%増と、前月調査時の1.67%増から約1%下振れた。予測値が低い8機関の平均では同0.36%減と、すでにマイナス成長が見込まれているが、8月の鉱工業生産の下振れを受けて、7-9月期の成長率もマイナスとなるとの見方が広がるだろう。
この結果、10月30日に予定されている日銀・金融政策決定会合に向けて、為替市場では追加緩和期待が盛り上がるのかもしれない。ただ先週、ご紹介したように、筆者は日銀が追加緩和に踏み切る可能性は低いとみている。仮に筆者の見通しと異なり、日銀が追加緩和に踏み切ったとしても、過去2回の緩和と異なり、追加緩和の規模は限定的なものになるだろう。黒田総裁のこれまでの発言を無視する形で、日銀が当座預金の付利引き下げに踏み切らなければ、追加緩和が決まったとしても円売りの動きは一時的なものに留まると予想される。
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