2017年8月24日木曜日

帰属家賃の品質調整で日銀の金融政策に変化は生ずるか?

 総務省は帰属家賃に品質調整を実施する可能性がでてきたと報じられている。帰属家賃とは、実際には支払っていない持ち家に対する家賃を賃貸物件の家賃から推計したもの。消費者物価(CPI)全体に占める帰属家賃の割合(ウエイト)は日米ともに高く、日本では15%、米国では24%と高く、帰属家賃のCPIに与える影響は大きい。

 日本の帰属家賃は2008年10月から前年割れを続けており、今年4-6月期は前年比で0.3%低下している。一方、同時期の米国の帰属家賃は前年比3.3%の上昇である。帰属家賃における両者の違いが、日米のインフレの違いにつながっているとの見方もある。

 日本と米国では帰属家賃の推計方法に違いがある。米国では推計に際し、住宅の経年劣化の影響を織り込む(品質調整を実施する)が、日本では織り込まない(品質調整を実施しない)。一般に、住宅の品質は時間とともに劣化し、それが家賃に反映される(家賃が下がる)傾向にあるが、日本ではこの影響を考慮しないため、帰属家賃が恒常的に低下する一因であると指摘されている。

 一部報道によると、日銀は2015年の政府・統計委員会で日本の住宅の老朽化を示し、住宅の品質の変化を考慮できていないために物価に下押し圧力がかかっていると指摘した。実態に近づけるために劣化を考慮し、家賃に品質調整をすれば、CPI全体が0.1~0.2%押し上げられるという。

 総務省は、過去30年間の住宅・土地統計調査のデータから住宅の経年劣化が家賃に与える影響について分析し、1983年から2013年にかけて新築物件の家賃が平均で年率1.1%上昇したのに対し、既存物件は同0.7%にとどまったことを明らかにした。新築物件と既存物件の伸びの差である0.4%が経年劣化分と考えることができる。上述したように日本のCPIにおける帰属家賃のウエイトは15%だから、帰属家賃を品質調整すればCPIは0.1%弱(0.4%×15%)程度押し上げられることになる。

 ただ、足元での日本のCPIは、総合CPI、コアCPIともに前年比+0.4%程度。仮に日本の帰属家賃に品質調整が実施されたとしても、両CPIは+0.5%程度になるだけで、2%インフレ目標に大きく近づくわけではない。2%インフレ目標に少しでも近づきたいという日銀の思いはわからなくもないが、多大な労力をかけた割に得られる果実は、日銀にとって大きいものに思えない。

 帰属家賃が具体的に計測されるものではなく推計によるもので、かつ実際の経済活動に用いられることがないことも考えると、日銀は帰属家賃を押し上げることを考えるよりも、インフレとみなす対象指標を帰属家賃が含まれないものに変更したほうが合理的に思える。日銀が現在、対象としているインフレ指標は、生鮮食品を除く総合CPI(コアCPI)だが、たとえば対象をコアCPIから帰属家賃を除いたCPI(帰属家賃を除くコアCPI)に変更してもよい。

 しかし、帰属家賃を除くコアCPIは4-6月期に前年比+0.5%と、2015年1-3月期以来の高い伸びに加速しているが、依然として1%を下回っている。帰属家賃の有無にかかわらず、日本のインフレ圧力が弱いことに変わりはない。市場関係者の一部からは、日銀の出口戦略を期待する声が依然として聞かれるが、CPIを見る限り、その声に現実味は感じられない。

2017年7月12日水曜日

経済運営に対する高い評価で難局を切り抜けそうな安倍政権

 日本株が底堅さを増す動きを見せている。年初に19300円近辺で始まった日経平均株価は、1月半ばに1万9千円割れ。3月には19700円近くと年初来高値を小幅更新する水準まで反発したが、その後は下落基調が続き、4月半ばには18200円台と年初来安値を更新した。

 しかし4月下旬から日経平均株価は上昇基調を強め、連休明けの5月11日には2万円ちょうど近辺と2015年12月以来の高値に上昇。6月2日には20200円台、6月20日には20300円台と2015年8月以来の高値を更新。7月は一時2万円を割り込む場面もあったが、今週は2万円を割り込むことなく下値の堅い動きを維持している。

 東京都議選後の各種世論調査によると、安倍政権の支持率は30%台半ば前後と、政権運営が困難な危険水域とされる30%割れが目前。第1次安倍政権の際にも、2007年8月の世論調査で支持率が30%ちょうど近辺に低下し、翌9月に安倍首相が辞任したこともあり、第2次安倍政権も近い将来に終焉を迎えるとの見方も一部にあるようだ。

 しかし底堅い動きを示す日本株が、安倍政権を救う可能性は十分あるように思える。日本銀行が公表する資金循環などから推計すると、今年4-6月期の日本株の評価益は、日本全体で35.5兆円の増加と、前期の0.6兆円増から大きく拡大した見込み。この結果、安倍政権が始まってから(2012年12月末以降)の日本株の評価益累計は337兆円と、2015年6月末に記録した333兆円を上回りそうだ。ちなみに民主党が政権を担当していた2009年9月末から2012年9月末までの3年間、日本株は最大67兆円の評価損を記録。民主党政権が終了する直前の2012年7-9月期だけでも日本株は11.5兆円の評価損を計上した。

 日本株だけでなく、日本景気も堅調に推移している。5月の有効求人倍率は1.49倍と43年ぶりの高水準に達し、同月の現金給与総額は前年比0.7%増と緩やかながら増加基調を維持。5四半期連続で前期比プラスを記録しているGDP成長率は、4-6月期以降もプラスを続けるとの見方が強まっている。政権全体での評価は下がっているのだろうが、経済運営に対する安倍政権に対する評価は依然として高いままだろう。

 日本株や日本景気が堅調に推移し、安倍政権も続くとの見方が広がれば、円売りの動きは続くとみるのが自然となる。本日(7月12日)のドル円は、114円ちょうど近辺から113円台半ば手前へと下落したが、これは前日NY市場で節目とされた114円台半ばを突破できず、ドル買いポジションが調整された結果とみられる。米FRBが利上げやバランスシート縮小といった金融政策の正常化を模索する一方で、日銀は金融緩和を続けるという金融政策の違い(ダイバージェンス)を背景に、7月後半のドル円は114円台半ばの上抜けをトライし、次の節目である115円ちょうどを目指す展開が期待される。


2017年6月27日火曜日

マーク・ファーバーのコメント(2017年6月)



ファーバー博士からまたメールをいただきました。

博士が、ここまで規制を嫌い、間接部門の肥大化について
危機感を有しているとは思いませんでした。
米国の生産性の低下ともつながる話かと思います。

詳しくは以下からどうぞ。

マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート

2017年5月26日金曜日

通貨になり得ず投機商品と化したビットコイン



 仮想通貨ビットコインの価格上昇が目立っている。ビットコインは今年初めには1000ドル台に到達。その1週間後には750ドル台まで急落したが、3月には一時1300ドル超えまで反転。3月末にはいったん1000ドルを割り込んだが、その後は上昇基調が続き、5月初めには1500ドル、同月22日には2000ドル、そして昨日(25日)には一時2700ドルをそれぞれ突破し、過去最高を更新し続けている。途中経過(価格の上下動)を無視すれば、年初に1000ドルだったビットコインは、わずか半年足らずで2.7倍(2700ドル)になったことになる。

 ドル建てよりも上昇が目立つのが円建てのビットコイン価格。今年初めに11万円程度だった円建てのビットコイン価格は、ドル建てと同様に上昇基調を続け、5月初めに15万円を突破。同月11日には20万円を超え、昨日(25日)には一時38万円の過去最高値を付けた。年初から半年足らずで3.5倍と、ドル建ての上昇率を凌駕している。

 ビットコインとは、インターネット上で流通する暗号化された仮想通貨の一種で、ドルや円のように中央銀行や政府機関によって発行されるわけではない。取引の正当性の確認は、マイニング(採掘)と呼ばれる計算作業を通じて行われ、同作業に協力した者(マイナー=採掘者)には一定量のビットコインが交付される。ただ、最大発行量はプログラムにて2100万と決められており、既存の貨幣のように発行量が無制限ではない。発行主体がなく、発行量が有限という点で、金やプラチナといった貴金属に近いとの見方をする者もいる。

 ビットコイン価格が円建てを中心に大きく上昇している背景の一つに、日本で4月に施行された改正資金決済法(いわゆる仮想通貨法)がある。これにより、ビットコインを始めとする仮想通貨は商品券などと同じ支払い手段として法的に認められ、仮想通貨の取引を仲介する業者(取引業者)は、仮想通貨交換業者として政府に登録することになった。取引業者は、仮想通貨の取引をする利用者から預かった金銭や仮想通貨を自社の財産と分別して管理するなどといった様々な規制を受けることになる。

 これまで日本では、ビットコインを始めとする仮想通貨や取引業者の位置づけは法的に曖昧なままで、2014年にビットコイン取引所として最大級とされていたマウントゴックスが破綻したこともありビットコイン取引に対し慎重な見方が根強かった。しかし仮想通貨法の施行で、取引業者の透明性は高まり、日本におけるビットコインに対する警戒心は和らいだように思える。

 日本のメディアによるビットコイン関連の報道も、ビットコインに対する警戒感を和らげる役割を果たしたかもしれない。日本のメディアは、ビットコインを「フィンテック」の代表例として、仮想通貨法施行に前後して報道を増やしてきた。こうした報道を目にした方々が、ビットコインに興味を持ち、仮想通貨法によって法的地位を得た取引業者で口座を開設し、取引を始めた可能性は否定できない。

 仮想通貨という名称が使われていることもあり、ビットコインを通貨や貨幣の一種のようにイメージする方もいるかもしれないが、それは間違った認識である。一般に貨幣には、価値の尺度を示す、交換(決済)手段となる、価値を貯蔵する、の3つの役割があるとされているが、ビットコインは、半年余りで価格が2~3倍に上昇したように価格が不安定で、価値の尺度を示す役割が果たせていない。仮想通貨法の施行で一部店舗で可能になったとはいえ、ビットコインで商品を購入することは現実的ではなく、交換(決済)手段になり得ていない。そして、価格変動が大きいことから価値を貯蔵する役割も果たせない。

 ビットコインの仕組みを考慮すると、ビットコインの価格が今後、安定に向かうとは考えにくい。上述したようにビットコインはマイニングを通じて供給されるが、供給ペースは一定であり、かつ発行量には上限がある。一方、ビットコインの需要は、その時々の思惑で大きく左右される。現在起きているように、先行き期待で買いが買いを呼ぶような状況では、需要が急増し、価格は高騰するが、ビットコインに関する当局の規制や取引業者の破たんなどといったビットコインの先行き不透明感を高めるイベントが発生すると、需要が一気に後退し、価格が急落することになる。そもそもビットコインはインターネット上での取引がほとんどであるため、需給動向の変化スピードが他の実物資産に比べて早く、価格の安定性は他実物資産よりも低い。

 投資の世界では、資産価格の評価をする際に、得られるリターンと同時に価格の変動率(リスク)も検討することが一般的となっている。ビットコインは、短期間に大きな値動きを示す可能性があるが、これはリスクが非常に高いことも意味しており、リスクで調整したリターンは、他金融資産と比べ大きくないだろう。

 ビットコインの値動きをチャート化し、為替や株価などの分析に使われるテクニカル分析を当てはめると、足元でのビットコイン価格上昇は行き過ぎたものとなっており、もはや投機商品の一つと化した感もある。ビットコインは、期待先行で今後も価格が上昇する可能性はあるだろうが、ちょっとしたニュースをきっかけに利食いの動きが強まり、これまで価格上昇を打ち消すがごとく急落するリスクも着実に高まっているように思える。

2017年5月16日火曜日

マーク・ファーバーのコメント(2017年5月)


いつものようにファーバー博士からメールをいただきました。
博士のやや皮肉めいた口調は相変わらずです。

今回の彼のレポートでは、アクティブファンドのあり方について興味深い考察が記されています。
また現在の状況が、流動性の超新星、という言葉で警告されているのも興味深いです。
詳しくは以下からどうぞ。

マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート