2017年11月7日火曜日

先物上場の承認見送りで急落する可能性もあるビットコイン

 世界最大のデリバティブ取引所を運営するCMEグループは10月31日、米商品先物取引委員会(CFTC)の承認が得られれば、年内にもビットコイン先物を上場すると発表した。じつはCMEは9月まで、ビットコイン先物の取り扱いに関し慎重な姿勢を示していた。CMEのダーキン社長は9月下旬、一部米系テレビでのインタビューで、ビットコインはまだ生まれたばかりで、CMEが先物契約に関し、非常に近い将来、前に進むとは思えないと述べた。

 しかし、米シカゴ・オプション取引所を運営するCBOEホールディングスは8月、来年初めまでにビットコイン先物オプション商品を上場すると発表。店頭デリバティブ市場でスワップ取引プラットフォームを提供するレッジャーXは、CFTCの認可を得て、ビットコイン・オプションの取引を始めた。競合関係にある他社が、ビットコイン関連ビジネスを始めたことで、CMEもビットコイン関連ビジネスに関し方針を変えざるを得なかったとみられる。

 米国でビットコイン先物が誕生するとの見方から、これまでビットコイン取引に慎重だった機関投資家が、ビットコインに対する姿勢を変えるとの期待感も高まっているようだ。ブロックチェーンを基本とした従来のビットコイン取引では、取引相手の確認が難しく、取引の承認に10分程度かかるといったデメリットがあり、機関投資家におけるビットコイン取引の障害となっていた。しかし上場先物取引であれば、標準化されたルールのもと、カウンターパーティーリスクが(事実上)排除され、取引に要する時間は数秒未満となる。上場先物を利用すれば、ビットコイン取引におけるデメリットの多くが解消されるように思える。

 しかし、ビットコイン先物には懸念すべき点が多い。まず指摘されるべき点は、先物市場におけるビットコイン清算価格だ。CMEはビットコイン先物での清算価格としてCME・CFビットコイン参考基準レート(BRR)を利用する意向を表明しているが、BRRは、わずか5つの取引所から提供される価格データによって算出される。ビットコイン価格は、取引所によってバラツキが大きいだけでなく、ビットコインの分裂や取引所に対するハッキングなどによって取引価格が不正に歪められる恐れもある。このため、たとえCMEがBRRの正当性を主張したとしても、BRRがビットコイン価格の代表となり得ないだけでなく、不正な手法により改ざんされる可能性は否定しがたい。先物取引だからといって、用いられるビットコイン価格の透明性が厳密に担保されるわけではない。

 ビットコイン先物の次には、ビットコインETFの誕生を期待する声もあるようだが、現時点では大きな期待は持てない。米国証券取引委員会(米SEC)は、ビットコインETFの承認を見送った理由として、ビットコインが当局の規制外の存在であるほか、価格操作や詐欺の懸念を指摘した。上述したようにビットコイン先物ですら、価格の透明性が厳密に担保できない以上、ビットコインETFが、価格の透明性について米SECの指摘をクリアできるとは考えにくい。

 ビットコイン価格の変動の大きさも先物取引の障害となるだろう。ビットコインのボラティリティは年率70%程度と、米国株指数(同7%程度)やドル円(同9%程度)に比べ非常に大きい。これだけ大きいと、先物取引に必要な証拠金は、少なくとも取引金額の50%程度は必要となり、ヘッジ目的での先物取引での資金効率は非常に低くなる。この結果、ビットコイン先物のほとんどが投機目的となり、ビットコイン価格のボラティリティがさらに拡大し、ヘッジ目的での先物取引をより難しくさせるという悪循環が生ずることになる。

 取引処理能力の向上を目的にビットコインが分裂を繰り返している点も無視できない。11月中旬に予定されている分裂(Segwit2X)によって、ビットコイン価格が急落する可能性を指摘する声もある。今後もさらなる分裂により、ビットコイン価格の安定性が損なわれる展開も考えられる。この場合、たとえビットコイン先物が誕生したとしても、保守的な機関投資家ほど、これまでと同様にビットコイン取引に対し慎重な姿勢を崩さないだろう。

 ビットコイン先物に関する日本語での報道を目にすると、CMEのビットコイン先物の上場があたかも決定したかのように思えるかもしれない。しかしCME、CBOEはともにCFTCから認可を得ていない。CFTCが、価格形成の不透明性や価格変動の大きさ、ビットコイン分裂の可能性などを指摘し、CMEなどにビットコイン先物の上場承認を見送る可能性もゼロではないだろう。

 仮にCFTCがビットコイン先物の上場承認を見送ることになれば、ビットコイン価格は大きく調整されると予想される。ビットコイン価格は、CMEがビットコイン先物の上場の意向を表明した10月31日の6200ドル近辺から上昇基調が強まり、週明けの11月6日には一時7500ドル近辺を記録。ビットコイン先物誕生の期待感が、ビットコイン価格を押し上げたとみる見方が多い。

 ここで参考になるのは、米SECがビットコインETFの承認を見送った際のビットコイン価格の動きだろう。米SECがビットコインETFの承認を見送った今年3月10日、ビットコイン価格は一時18%下落した。CFTCがビットコイン先物の上場承認を見送り、ビットコイン価格が、ETF承認見送りと同じように18%下落(調整)すると仮定すると、足元で7100ドル程度であるビットコイン価格は5820ドル程度。円建ての場合、83万円程度であるビットコイン価格は68万円程度に下落することになる。




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