2018年8月30日木曜日

外国人投資家が後押しするのかもしれない地銀の再編・統合

日本経済新聞は8月29日、上場地方銀行(上場地銀)において外国人投資家が株式を保有する割合(外国人株主比率)が上昇していると報じています。同報道によると、上場地銀の外国人株主比率が最も高いのは、横浜銀行と東日本銀行を有するコンコルディア・フィナンシャルグループとスルガ銀行の33.0%で、大東銀行(28.6%)、沖縄銀行(25.4%)、福島銀行(24.5%)と続いています。

日本銀行は7月末、「株主構成の変化が地域銀行の経営に与える影響」という論文を公表しています。同論文では、2010年度から2016年度の上場地銀を対象に、株主に占める外国機関投資家の割合が上昇した影響を調べたところ、地銀の配当支払いと自己株買いの動きが積極化した可能性があると指摘されています。一方、地銀の収益力に対しては、明確な影響を及ぼしていることが確認されなかったと記されています。
https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2018/data/wp18j07.pdf

一般的に外国人投資家は、投資先企業に対し株主還元の強化を求める傾向があると言われています。上場地銀において外国人株主比率が上昇したことで、上場地銀は、配当支払いや自社株買いを増やしたり、高い水準で維持する姿勢を続けると予想されます。

ただ地銀は、地域経済の停滞や貸出金利の低下などを背景に収益性が低下しています。全国地方銀行協会(地銀協)が公表する地方銀行64行の決算概要によると、昨年度(2017年度)の当期純利益は7,838億円と2年連続の減益。地銀の本業ともいえる貸出金利息収入は、2兆2,371億円と9年連続で減少しています。

収益性が低下しているのに配当支払いや自社株買いを強化すれば、(賃金などの)経費や設備投資に回す原資が少なくなると考えられます。地銀協の決算概要によると、人件費や経費などで構成される経費は、地銀64行合計で、昨年度に2兆2,827億円と13年ぶり(2004年度以来)の低水準に落ち込んでいます。

地銀の収益性低下に歯止めがかかりつつあるとはいえ、人口動態の観点から地方経済の衰退は今後も続くとみられ、地銀の収益性早期に改善に向かうと期待するのは難しいと思われます。一方で、上場地銀が、外国人投資家の圧力などを背景に配当支払いや自社株買いを増やし続けようとすると、上場地銀は保有する有価証券の売却などで株主還元原資を確保せざるを得なく、時間とともに上場地銀の財務健全性が低下する恐れが高まります。

こうした動きに金融当局も警告を発しています。日本銀行は4月の金融システムレポートで「無理な益出しの継続は、有価証券の利息・配当収益を減少させるほか、有価証券の含み益は、経済価値ベースでは資本バッファーとして機能する面があることから、株主還元のあり方も含め、収益配分について検討を進めていくことが重要である」と指摘。金融庁は7月の地域銀行モニタリング結果取りまとめで、「中期経営計画や年度業務計画に掲げた当期純利益、配当額、配当性向を維持するためのリスクテイクを行おうとする傾向がある」と記載しています。

金融システムレポート(2018年4月号)
https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/fsr180419.htm/

平成 29 事務年度 地域銀行モニタリング結果とりまとめ
https://www.fsa.go.jp/news/30/ginkou/20180713-2/20180713-2-2.pdf

このまま上場地銀が、財務健全性を損なう形で株主還元の強化を続ければ、いずれ金融当局が金融システム維持を目的に、上場地銀に対し株主還元の強化を止めるよう行政指導に踏み切ることもありうると思われます。現に、2016年3月期決算で3期ぶり最終減益だったにもかかわらず増配に踏み切り、17年3月期は減益幅が拡大したにもかかわらず配当額を維持し、18年3月期には赤字となった福島銀行に対し、金融庁は収益力の改善を求める業務改善命令を出しています。

収益性が低下した上場地銀に株主還元の強化を求め続けると、いずれ金融当局が経営に介入する恐れがあることを外国人投資家も理解していると思われます。そのため一部では、いずれ外国人投資家が株主還元策の強化をあきらめ、保有する上場地銀株を放出するとの見方もあるようです。

しかし5%を超える比率まで株式を保有している外国人投資家が、市場を通じて保有株を売却しようとしても、市場への影響が大きく、株価が大きく下落する可能性があります。むしろ特定の上場地銀を大量に保有する外国人投資家の狙いは、(あくまで推測でしかありませんが)株主還元の強化による投資利回りの向上だけではなく、地銀の再編・統合による企業価値の増加を狙っているのかもしれません。

公正取引委員会は8月23日、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)と十八銀行の経営統合を承認することを決めました。公取委は以前、統合により貸出金利が高止まりし、融資先企業が不利になることを懸念していましたが、FFGと十八銀行が債権の一部を他行に譲渡するといった計画を提出したことで、統合承認にこぎつけました。

もともと日本には銀行の数が多すぎる(オーバーバンキング)ことが長い間、指摘されており、中長期的には地銀の再編・統合は避けられないとの見方がありました。今回の公取委の判断も、こうした見方を後押しする動きの一つとの見方もあり、次の再編・統合を期待する声もあるようです。

仮にこの推測が正しいとすれば、特定の上場地銀を大量に保有する外国人投資家は、これまでと同じように株主還元の強化を求め続け、その原資を確保するために経費や設備投資を圧縮しつづけるよう要求するでしょう。地銀の財務健全性は損なわれるかもしれませんが、バランスシートはスリム化されますので、他地銀との再編・統合はやりやすくなります。

経費や設備投資を圧縮し続ける地銀は、(当然のことですが)縮小均衡的な事業活動を続けざるを得ず、キャッシュレスなど新しい金融サービスへの対応は、ITシステムの変更といった経費の増加につながることから見送られることになります。結果として、地銀が存在する地域の金融サービスの進化は停滞すると予想されます。

0 件のコメント:

コメントを投稿