2018年10月18日木曜日

「全員賛成」ではなさそうな日本でのキャッシュレス決済の普及促進

朝日新聞は10月17日、来年10月の消費増税に伴う負担軽減策として、商品券や現金を配る案が政権内で浮上してきたと報じています。同報道によると、片山さつき地方創生相は、閣議後会見で「キャッシュレスが浸透しきらない部分にも温かみが行くような対策を取らないといけない。プレミアム付きの商品券や旅行券、現金給付をおっしゃっている政党もある」と発言。自民党の連立政権パートナーである公明党の石田祝稔政調会長は、高所得者ほどポイント還元額が多くなる制度の課題を指摘し、商品券の発行や現金給付を盛り込んだ党独自の対策案を今月中にまとめる考えを示したそうです。

https://www.asahi.com/articles/ASLBJ5674LBJULFA01K.html

これまで日本政府は、消費増税に伴う負担軽減策として、クレジットカードなどのキャッシュレス決済で中小事業者の店舗(中小店舗)で買い物をした顧客に2%の増税分をポイントで還元する方法を検討していると言われていました。しかし朝日新聞の報道によると、消費増税の消費者への一部還元は、キャッシュレス決済でなくても実施される可能性がでてきたことになります。

ただ、前回のコラム(キャッシュレス決済の普及に一役買いそうな消費増税・還元策)でもご紹介しましたが、消費増税の負担軽減策の対象をキャッシュレス決済のみに限定することは、単なる景気への配慮(消費増税による景気の落ち込みを防ぐこと)にとどまらず、日本でのキャッシュレス決済の普及促進という副次的効果も伴います。特に、今回の負担軽減策では、キャッシュレス決済の普及が遅れている中小店舗のみを対象としている(と言われていた)だけに、負担軽減策の実施で、日本でのキャッシュレス決済の比率が一気に高まることも期待できました。

仮に朝日新聞の報道通りに、負担軽減策がキャッシュレス決済に限定されず、商品券や現金の給付という形も併用された場合、今回の負担軽減策が、日本でのキャッシュレス決済の普及推進につながらない恐れが高まります。消費者の立場でみれば、あえてキャッシュレス決済に変更しなくても、負担軽減効果を得ることができますし、中小店舗もキャッシュレス決済に必要な設備投資や事務手続きを経なくても、負担軽減を求める消費者を取り込むことが可能となるからです。

朝日新聞の報道の翌日(10月18日)、日本経済新聞は、政府が消費増税の負担軽減策の期間を、当初言われていた数カ月から1年程度に延長する検討に入ったと報じています。同報道では、朝日新聞の報道と違い、負担軽減策の対象をキャッシュレス決済のみとしていますが、政府が負担軽減策の期間延長を検討していることは、負担軽減策によるキャッシュレス決済の普及促進よりも景気への配慮を重視している証左と言えなくもありません。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36597330X11C18A0MM8000/?nf=1

ある週刊誌では、70代の著名ジャーナリストが、キャッシュレスの普及に伴う社会の変化に異論を唱え、ネットを中心に話題になりました。このジャーナリストは、支払(決済)がキャッシュでないと、お金を使ったという感覚が得にくく、ついつい使いすぎてしまうような気がすると述べています。

https://www.moneypost.jp/326035

日本では20代、30代を中心にキャッシュレス決済の普及を歓迎する声が強まっているように感じますが、高齢者などではキャッシュレス決済の普及を否定的にとらえる見方が根強いようで、日本の消費者全体でみた場合、キャッシュレス決済の普及を全面的に賛成しているわけではないようです。たとえば、博報堂生活総合研究所が2007年11月に実施したアンケート調査では、キャッシュレス社会に賛成と回答した割合は49%、反対は51%と、ほぼ拮抗しています。

http://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/43718

政治の世界で言われていることが、必ずしも世論を代表したものではないのかもしれませんが、今回の朝日新聞の報道は、キャッシュレス決済普及の賛否について、人々の間でコンセンサスが固まっていないことを示唆した一例と言えるのかもしれません。

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