2017年11月7日火曜日

先物上場の承認見送りで急落する可能性もあるビットコイン

 世界最大のデリバティブ取引所を運営するCMEグループは10月31日、米商品先物取引委員会(CFTC)の承認が得られれば、年内にもビットコイン先物を上場すると発表した。じつはCMEは9月まで、ビットコイン先物の取り扱いに関し慎重な姿勢を示していた。CMEのダーキン社長は9月下旬、一部米系テレビでのインタビューで、ビットコインはまだ生まれたばかりで、CMEが先物契約に関し、非常に近い将来、前に進むとは思えないと述べた。

 しかし、米シカゴ・オプション取引所を運営するCBOEホールディングスは8月、来年初めまでにビットコイン先物オプション商品を上場すると発表。店頭デリバティブ市場でスワップ取引プラットフォームを提供するレッジャーXは、CFTCの認可を得て、ビットコイン・オプションの取引を始めた。競合関係にある他社が、ビットコイン関連ビジネスを始めたことで、CMEもビットコイン関連ビジネスに関し方針を変えざるを得なかったとみられる。

2017年10月23日月曜日

マーク・ファーバーのコメント(2017年10月)



ファーバー博士から、久しぶりにメールをいただきました。
博士の長期ドル安シナリオは興味深いです。

詳しくは以下リンクをクリックしてください。

マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート

ドル円相場では賞味期限切れとなった日本の総選挙

昨日(10月22日)投開票の第48回衆議院選挙では、自民党が単独で283議席の獲得と、選挙前勢力(284議席)を維持。連立パートナーである公明党が29議席の獲得と、選挙前から獲得議席数を5議席減らしたが、自公両党で312議席と全議席数の3分の2(310議席)を超えた。自公両党が衆院選で3分の2以上の議席を得たのは、今回の選挙も入れて3回連続となる。

【表:党派別議席獲得状況】


 政治の分野では、与党だけで3分の2の議席を占め、憲法改正に前向きな姿勢を示す希望の党が出現したことで、憲法改正の国会発議のハードルが大きく下がった点が注目されている。また、解散前後は大幅な躍進が期待された希望の党が議席を減らす一方、急ごしらえの感が否めなかった立憲民主党が公示前から3倍超の議席を獲得し野党第一党になるなど、興味深い点も散見される。

 ただ今回の総選挙をラフに捉えれば、今回の選挙は、日本国民の大多数が、政権交代など望まず、アベノミクスを含め現在の政策群の継続を支持したと解釈すれば事足りる。日本の実質GDP成長率は、昨年から今年前期までの1年半にわたり前期比プラスを維持。実質賃金は前年並みのままだが、失業率は2.8%と1994年6月以来の低水準に低下。日経平均株価は2万1千円台と1996年10月以来の高値を記録した。給料は大きく上がらないまでも、雇用が脅かされることもなく、株価も上がっている状況に大きな文句をつけるのは難しい。内閣府が1963年から続けている「国民生活に関する世論調査」によると、現在の生活に「満足」と回答した割合は73.9%と過去最高を更新した。機密保護法、安保法、森友・加計問題などを通じ、安倍政権に対する批判が和らぐことはないが、「満足」な現在の生活が変わるリスクを負ってまで安倍政権を変えようと思う方は少数派だろう。

 週明けの為替市場では、ドル円が先週末終値の113円台半ばから一時114円ちょうど近辺に上昇。あたかも日本の総選挙の結果が好感されたかのようにみえるが、23日正午前のドル円は113円台後半に失速している。投開票前の事前調査で、自公が300程度の議席を確保するとの見方が示されていたことを考慮すれば、今回の総選挙の結果が市場のサプライズになったとは考えにくい。

 むしろドル円の上昇は、先週から続いている米国での税制改革推進の動きや米FRBの追加利上げ継続期待を反映したものと解釈すべきだろう。現に週明けの米債利回りは、2年債が1.58%台と9年ぶりの高水準を維持。ドル円の上昇をサポートした。

 ただ一方で米10年債利回りは、朝方に2.39%ちょうど近辺を記録したものの、その後は2.38%台前半に失速。米税制改革に対する期待感はあるものの、米国のインフレ期待は強まっておらず、今年後半の米景気が加速すると期待することも難しい。この結果、米10年債(ひいては長期債)利回りは、米FRBによる追加利上げ継続期待が高まっているにもかかわらず上値が抑えられている。

 ドル円は日米10年債利回りとの連動性が高いことが知られているが、米10年債利回りの上値が重いなか、ドル円が日本の総選挙を材料に上昇を続けるとは期待しにくい。日本の総選挙に関する評価や分析は、しばらく日本のメディアを賑わすかもしれないが、ドル円相場における材料としての賞味期限はすでに切れているように思われる。

2017年9月29日金曜日

日本企業の変革にかかっている日本経済の今後

 世界景気は、昨年(2016年)後半から堅調に拡大している。OECDが公表する世界景気先行指数(Global Leading Economic Indicator)は、2013年後半に前年比3%程度のペースで上昇していたが、その後、上昇ペースは鈍化し、2014年後半から2016年前半までの2年間は1.5%程度とギリシャショックの2011年後半以来の低い伸びが続いた。しかし2016年7月から世界景気先行指数は加速に転じ、9月には前年比2.0%、12月には同2.5%、そして最新データにあたる今年3月には同2.9%に加速した。

 4-6月期も世界景気は堅調なペースで拡大を続けている。主要国の4-6月期・実質GDP成長率を見ると、米国が前年比2.2%増と前期(1-3月期)から加速。中国は同6.9%増と前期と変わらず。ドイツは同2.1%増と2014年1-3月期以来の高い伸びに加速した。

 7-9月期も世界景気は好調を維持していると推察される。米ISM製造業景況指数は8月に58.8と2011年4月以来の高水準を記録。中国製造業PMIは8月に51.7と6月と同水準に高止まり。ドイツZEW景況感(期待指数)は7-9月平均で14.8と、前期(4-6月期)の19.6から低下したものの、前々期(1-3月期)の13.3を上回っている。

 日本も他国と同じように比較的順調な拡大を維持している。実質GDP成長率は昨年7-9月期に前年比1.1%増と1年ぶりに1%超を記録。翌10-12月期は同1.7%増に加速した。しかし今年1-3月期は同1.5%増、4-6月期は同1.4%増と、今年に入っても成長率は1%台を維持しているものの、緩やかに鈍化している。

 日本の成長率が伸び悩む理由として潜在成長率の低さが指摘されている。潜在成長率とは、経済的な付加価値を産出する際に必要とされる労働力、資本、生産性の3つの要素をすべてフル活用した場合に達成される成長率のことである。日本は、すでに人口減少局面に入っているため労働力の伸びが低く、設備投資が盛り上がっていないことから資本ストックの伸びも小さい。この結果、日本の潜在成長率は現在、ゼロ%台前半から1%程度と言われており、足元の成長率(1%台半ば近辺)は、潜在成長率からみれば良好であるとの見方すら存在する。

 ただ潜在成長率は、あくまで国内の生産要素を想定した考え方で、海外経済との連動性を明示的に考慮していない。仮に日本経済が、海外経済の拡大をより効果的に取り込むことができれば、日本のGDP成長率は、潜在成長率を大きく上回ることも可能である。

 日本が海外経済の拡大をどの程度、取り込むことができているかを見るために、ここではGDP成長率に対する純輸出(財・サービスの輸出から輸入を差し引いた額)の寄与度をみてみよう。今年4-6月期の場合、純輸出の寄与度は+0.5%と、全体の伸び(+1.4%)の約3分の1を占めている。なお、アベノミクスが始まった2013年1-3月期以降、日本の純輸出の寄与度は、-1.2~+1.3%と非常に狭い範囲で推移しており、2013年1-3月期から今年4-6月期までの4年半の平均は+0.2%に過ぎない。

 外需寄与度が狭い範囲に収まり、平均では+0.2%に過ぎないことは、日本経済が外需に左右されず、内需中心の体質になったと解釈することもできる。しかし、足元のように海外経済が堅調に拡大している局面では、日本が海外経済の拡大という恩恵を取りこぼす結果になっているとも解釈できる。

 たとえば、日本がオイルショックを乗り越えて再び成長軌道を取り戻した1980年代前半(1981~84年)の純輸出の寄与度は、0.0%~+2.3%と常にプラスで、平均で+0.9%と今の4倍以上の水準にあった。この結果、同期間の日本の実質GDP成長率は、平均で+3.9%と、こちらも今の4倍以上の高い伸びとなっている。当時の日本は、海外経済の動きを効率的に取り込み、高い成長を確保できていた。

 なぜ今の日本は、海外経済の拡大という追い風を取りこぼすようになってしまったのだろうか。一つの仮説として考えられるのは、日本企業がグローバリゼーションという世界的な流れへの対応に遅れてしまったということだ。日本では第二次世界大戦後から90年代前半までの長きにわたり国内市場が持続的に拡大してきた。この結果、日本企業の多くは、たとえ内需型産業であっても、それなりに発展することができたが、この成功体験が、海外市場への対応を軽視する企業文化につながった可能性がある。

 日本人の多くは強く感じるように、外国語に対するアレルギーも日本企業のグローバリゼーション対応の遅れにつながったのかもしれない。また日本は第二次世界大戦後、米ソ冷戦体制のもと米国に追随することで奇跡的な発展を手に入れたが、この結果、日本では海外=米国という枠組みが頭の中で定着し、90年代後半からの中国をはじめとする新興国の経済発展の流れに乗り遅れてしまった可能性も考えられる。

 リーマンショックと呼ばれる2008~09年に起きた世界的な金融危機による大打撃が、日本企業経営者のトラウマとなっているのかもしれない。リーマンショック時の日本では、大企業も含め数多くの企業が破綻し、数多くの労働者が解雇された。この痛手からの教訓として、日本企業の経営者は、海外経済との連動性をあえて断ち切り、業績の安定化を手に入れたのかもしれない。しかし、その引き換えに、海外経済の拡大を取り込み、業績を大きく拡大させるチャンスを見過ごしてしまった可能性も考えられる。この見方は、日本企業の多くが、万が一に備えるという名目で、増収増益が続いているにもかかわらず、設備投資や賃上げを実施せず、稼いだ利益を負債返済や現預金の積み増しに動いている姿からも推察できる。

 アベノミクスにおける第一の矢(金融緩和)や第二の矢(財政支出の拡大)は、日本経済を活性化したものの、海外経済の拡大を取り込むという点で大きな期待は持ちにくい。それゆえにエコノミストの一部は、日本経済のさらなる発展を目指し、第三の矢(成長戦略)に強い期待を示しているが、海外経済拡大の取り込みにおいては、政府が策定する成長戦略が果たす役割は限定的なものでしかない。結局のところ、日本企業経営者が、考え方や行動を変え、最終的には日本企業の収益力を上げていくしかない。10月22日投開票の衆議院選挙どのような結果に終わったとしても、日本経済の先行きは、政治ではなく日本企業の変革にかかっているように思われる。


2017年9月14日木曜日

日本の上場企業経営者の課題:敵対型アクティビストを回避するための資本生産性の引き上げ

 法人企業統計によると、今年6月末時点の日本企業(除く金融・保険)の総資産は1556兆円と3月末の1569兆円から縮小したが、自己資本は664兆円へと増加し、自己資本比率は42.7%と1954年の統計開始以来の過去最高を更新した。

 日本企業の自己資本が増加を続けているのにもかかわらず、日本の株式市場では日本企業の多くが割安に放置されている。全上場企業のうち株価純資産倍率(PBR)が1倍未満の割合を日米英独の4カ国別にみると、英国が14%、米国とドイツが10%であるのに対し、日本は38%と突出して高い。

 日本の上場企業が割安に放置される理由の一つとして考えられるのは、日本企業が現預金を過剰に保有していることだ。日本企業が保有する現預金は、6月末時点で192兆円と過去最高を更新し、総資産に占める割合は12.3%と26年(1991年6月末)ぶりの高水準に上昇した。手元流動性が時価総額の30%を超える日本の上場企業数は約4千社のうち200を超える。

 日本は英米にくらべ現金保有コストが高い。日銀は2016年1月にマイナス金利政策を導入。これにより預金金利は、すべての預入期間においてほぼゼロとなり、円建ての安全資産とされる日本国債の利回りも、満期10年未満まですべてマイナスとなり、10年物ですらゼロ近辺となった。こうした結果、有価証券から得られる日本企業の金利収入は激減した。