日本の個人消費が悪化を続けている。昨年第4四半期の実質個人消費は、前期比0.8%減の304.5兆円と、2011年第3四半期以来の低水準に減少した。今年に入っても1月の実質消費水準指数(家計調査ベース)は、前年比-2.7%と5カ月連続の前年割れ。水準は93.0と前月(92.5)から小幅上昇したものの、消費税率が引き上げられた直後の2014年5月を除くと、1981年(35年前)以来の低水準に落ち込んでいる。
消費悪化の主因とされているのが、一人当たり実質賃金の伸び悩みだ。本日(3月4日)発表された1月の実質賃金指数は、現金給与総額で前年比0.4%増と3カ月ぶりのプラスとなったが、ボーナスを除く「きまって支給する給与」は前年比ゼロ(横ばい)。「きまって支給する給与」は昨年7月以降、実質で前年比ゼロを境に小幅に上下動する状態が続いている。
安倍首相は、2016年度予算案の基本的質疑で、総雇用者所得は名目で増え、実質でも伸びていると発言。たしかにGDP統計で公表される雇用者報酬(一人当たり賃金に雇用者数を乗じたもの)は昨年、名目で255.4兆円と2008年以来の高水準に増加。実質でも262.0兆円と2014年から1.1%増加した。ただ実質雇用者報酬の水準は、アベノミクスが喧伝された2013年(262.2兆円)を越えていない。安倍首相が、「名目では増え」と言いながら「実質では伸びている」と述べたのも、実質での水準の伸び悩みを意識したためと推察することもできる。
所得の伸びだけでなく、可処分所得に対する消費の割合を示す平均消費性向の低下も、消費悪化の主因と思われる。1月の平均消費性向(家計調査ベース)は72.3と4カ月連続で低下し、昨年7月以来の低水準。単月でのブレを均すため四半期でみると、昨年第4四半期は73.1と2012年第1四半期以来、約4年ぶりの低さとなっている。
名目でみた一人当たり賃金や平均消費性向が今後、大きく改善に向かうとは考えにくい。今年の春闘ではメガバンク3行の各労働組合は、いずれもベースアップ(ベア)要求を見送る方針。トヨタ自動車がベア2千円以上を回答する見通しとなっているが、前年の4千円を下回る。2月のロイター企業調査によると、今春の賃上げ率が2%以上と予想する企業は全体の16%と、昨年1月調査の40%から大きく低下。ベア実施予定の企業は現状で9%しかない。年始からの世界景気の減速懸念や円高の進展で、経営側は賃上げ回避や労働者への配分をベアではなく一時金で対応する姿勢を強めるだろう。一方、平均消費性向については、消費者態度指数や景気ウォッチャー調査といった消費者マインド調査が大幅な悪化を示していないが、日本株は年始から大きく下落。2017年4月の消費税率の引き上げを控え、消費者の生活防衛姿勢が緩むとも考えにくく、平均消費性向が底這いを続ける可能性も十分あると思われる。
個人消費の悪化ないしは低迷が続くことで、日本のGDP成長率にも大きな期待は持ちにくい。そんな状況ではあるが、日銀の追加緩和を期待するのは当面、難しいだろう。日銀・黒田総裁は、本日の参院予算委員会での答弁で、さらにマイナス金利を下げることは考えていないと明言。1月29日にマイナス金利を導入した際の会見とは真逆の姿勢に転じた。マイナス金利導入による市場の混乱が長期化しつつあるほか、推測報道にあったようにG20での日本の円安誘導に対する批判への配慮を強めていると推察される。
残された手段はアベノミクス第2の矢とされる財政支出の再拡大である。先月末に成立した今年度(2015年度)補正予算の早期執行を目指すだけでなく、(来年度(2016年度)予算案が成立していないが)来年度補正予算の早期策定も視野に入る。一部で実しやかに噂される消費税率引き上げの再延期も、今後の景気次第とはいえ現実味の薄いものとも思えない。先月27日に開催されたG20声明で「財政政策の機動的な実施」が盛り込まれたことも、安倍政権の財政再拡大の錦の御旗となりそうだ。
2016年3月4日金曜日
2016年2月5日金曜日
構造改革を阻害する可能性がある日銀のマイナス金利
日銀は1月29日、マイナス金利付き量的・質的金融緩和(マイナス金利付きQQE)の導入を決定した。ただ、決定からすでに1週間が経ったにもかかわらず、マイナス金利付きQQEの評価が定まっていない。
あくまで印象論でしかないが、業務経験の長いエコノミストほど、マイナス金利付きQQEに対して否定的な見方を表明している。日銀・黒田総裁は、これまでマネタリーベースを拡大することで2%物価上昇目標を達成すると公言してきたが、今回の決定ではマネタリーベースの拡大ペースは年率80兆円で変わらず。一方で、マイナス金利の導入を決定直前まで否定していたにもかかわらず、3つ目の次元としてマイナス金利を導入。とはいえ、マイナス金利が適用されるのは250兆円程度ある当座預金のうちの10~30兆円程度。200兆円は従来通り0.1%の金利が適用されるため、当座預金残高全体でみた場合、日銀から市中銀行には(金額は減少するものの)これまで通り金利が支払われる。日銀の政策意図が不明確という指摘も多い。
日銀は、当座預金のうちゼロ金利が適用されるマクロ加算残高を適宜増加させることで、マイナス金利が適用される政策金利残高を10~30兆円程度に維持する意向を示しているが、黒田総裁はマイナス金利のマイナス幅を広げる可能性もあると発言。ならば、ゼロ金利が適用されるマクロ加算残高を変更しなければいいだけとの指摘もある。
実体経済に対する追加的な効果が期待できないとの声も多い。マイナス金利の導入で円債利回りは8年債までマイナスとなるなど、日本国債のイールドカーブは全体的に下方シフト。これにより市中銀行は日本国債による運用が難しくなるが、たとえイールドカーブが下がり、貸出金利が多少下がったとしても、日本企業の資金需要が高まるとは考えにくい。結果として、市中銀行は貸出を増やすことなく、マイナス金利であっても日本国債での運用を余儀なくされるとの見方が根強い。
ただ、日本国債のイールドカーブが下方シフトしたことで、円買いの動きは抑制されるようになった。日銀がマイナス金利付きQQEを発表した1月29日にドル円は一時121円台後半まで上昇したが、その後は下落基調が続き、本日(2月5日)午後は116円台後半と、日銀が発表する1週間前(1月21日)以来の安値に下落した。これをもって、日銀のマイナス金利付きQQEは効果がなくなったとの指摘も目にするが、ドル円の下げがきつくなったのは1月の米ISM非製造業景況指数の予想外の悪化などでドル売りが進んだ結果。日銀が毎日発表する円の実効レートは、日銀の追加緩和と同水準のまま。仮に今後、再び円買いの動きが強まるようになれば、黒田総裁はマイナス金利の拡大を示唆するなど、円買いの動きにプレッシャーをかけることも十分に考えられる。
日銀のマイナス金利付きQQEについては、市場関係者を中心にあまり評判が良くないが、円高の抑制に貢献したという点も考慮すれば、言われているほど悪いものではないようにも感ずる。ただ、日銀がマイナス金利を導入したことで、日本経済が時間とともに低迷感を強める恐れがある可能性には注意した方がいいだろう。
市場関係者や識者とされる方々が指摘するように、マイナス金利付きQQEは日本の市中銀行の採算性を悪化させるだろう。当座預金による金利収入が減少する一方で、貸出金利は低下。しかし金利低下をカバーするだけの貸出増も期待できなければ、採算性が悪化するのも当然である。
一部大手銀行は、外債や株式といったリスク資産への投資比率を高めることも考えられるが、その他銀行では、そのような対応も難しい。時間とともに、採算性の悪い銀行が淘汰される形で、銀行業界の寡占化が加速する展開が予想される。
寡占化が進んだ銀行業界では、競争の必要性が低下するだろう。この結果、不透明感の強い案件への貸出を躊躇する傾向が強まり、ベンチャー企業や中小零細企業への貸出は、これまで以上に増えにくくなる可能性も高まる。日銀は、貸出の伸び悩みが続くことで、マイナス金利をさらに拡大するかもしれない。しかし、それは銀行の寡占化を進め、ベンチャー企業などへの貸出がさらに停滞する可能性を高める。
アベノミクスが日本経済の再生に資するには構造改革(3本目の矢)を推進することが求められるとの声が根強い。しかし、日銀の金融緩和(1本目の矢)が、3本目の矢を打つ射手を狙撃し続けている可能性に留意する必要があるのかもしれない。
あくまで印象論でしかないが、業務経験の長いエコノミストほど、マイナス金利付きQQEに対して否定的な見方を表明している。日銀・黒田総裁は、これまでマネタリーベースを拡大することで2%物価上昇目標を達成すると公言してきたが、今回の決定ではマネタリーベースの拡大ペースは年率80兆円で変わらず。一方で、マイナス金利の導入を決定直前まで否定していたにもかかわらず、3つ目の次元としてマイナス金利を導入。とはいえ、マイナス金利が適用されるのは250兆円程度ある当座預金のうちの10~30兆円程度。200兆円は従来通り0.1%の金利が適用されるため、当座預金残高全体でみた場合、日銀から市中銀行には(金額は減少するものの)これまで通り金利が支払われる。日銀の政策意図が不明確という指摘も多い。
日銀は、当座預金のうちゼロ金利が適用されるマクロ加算残高を適宜増加させることで、マイナス金利が適用される政策金利残高を10~30兆円程度に維持する意向を示しているが、黒田総裁はマイナス金利のマイナス幅を広げる可能性もあると発言。ならば、ゼロ金利が適用されるマクロ加算残高を変更しなければいいだけとの指摘もある。
実体経済に対する追加的な効果が期待できないとの声も多い。マイナス金利の導入で円債利回りは8年債までマイナスとなるなど、日本国債のイールドカーブは全体的に下方シフト。これにより市中銀行は日本国債による運用が難しくなるが、たとえイールドカーブが下がり、貸出金利が多少下がったとしても、日本企業の資金需要が高まるとは考えにくい。結果として、市中銀行は貸出を増やすことなく、マイナス金利であっても日本国債での運用を余儀なくされるとの見方が根強い。
ただ、日本国債のイールドカーブが下方シフトしたことで、円買いの動きは抑制されるようになった。日銀がマイナス金利付きQQEを発表した1月29日にドル円は一時121円台後半まで上昇したが、その後は下落基調が続き、本日(2月5日)午後は116円台後半と、日銀が発表する1週間前(1月21日)以来の安値に下落した。これをもって、日銀のマイナス金利付きQQEは効果がなくなったとの指摘も目にするが、ドル円の下げがきつくなったのは1月の米ISM非製造業景況指数の予想外の悪化などでドル売りが進んだ結果。日銀が毎日発表する円の実効レートは、日銀の追加緩和と同水準のまま。仮に今後、再び円買いの動きが強まるようになれば、黒田総裁はマイナス金利の拡大を示唆するなど、円買いの動きにプレッシャーをかけることも十分に考えられる。
日銀のマイナス金利付きQQEについては、市場関係者を中心にあまり評判が良くないが、円高の抑制に貢献したという点も考慮すれば、言われているほど悪いものではないようにも感ずる。ただ、日銀がマイナス金利を導入したことで、日本経済が時間とともに低迷感を強める恐れがある可能性には注意した方がいいだろう。
市場関係者や識者とされる方々が指摘するように、マイナス金利付きQQEは日本の市中銀行の採算性を悪化させるだろう。当座預金による金利収入が減少する一方で、貸出金利は低下。しかし金利低下をカバーするだけの貸出増も期待できなければ、採算性が悪化するのも当然である。
一部大手銀行は、外債や株式といったリスク資産への投資比率を高めることも考えられるが、その他銀行では、そのような対応も難しい。時間とともに、採算性の悪い銀行が淘汰される形で、銀行業界の寡占化が加速する展開が予想される。
寡占化が進んだ銀行業界では、競争の必要性が低下するだろう。この結果、不透明感の強い案件への貸出を躊躇する傾向が強まり、ベンチャー企業や中小零細企業への貸出は、これまで以上に増えにくくなる可能性も高まる。日銀は、貸出の伸び悩みが続くことで、マイナス金利をさらに拡大するかもしれない。しかし、それは銀行の寡占化を進め、ベンチャー企業などへの貸出がさらに停滞する可能性を高める。
アベノミクスが日本経済の再生に資するには構造改革(3本目の矢)を推進することが求められるとの声が根強い。しかし、日銀の金融緩和(1本目の矢)が、3本目の矢を打つ射手を狙撃し続けている可能性に留意する必要があるのかもしれない。
2016年1月15日金曜日
盛り上がるかもしれない1月会合での日銀・追加緩和期待
現時点では市場関係者の一部からしか指摘が出ていないようだが、日本の成長率は昨年第4四半期も前期比マイナスとなる可能性が高いと思われる。
日本経済研究センターが公表するESPフォーキャスト調査によると、昨年第4四半期成長率見通しは前期比年率0.63%増と、昨年12月時点の同1.31%増から大きく鈍化。予測値が低い8機関の平均では同0.13%減とマイナスとなっている。
第4四半期も再びマイナスとなる最大の理由は個人消費の悪化だ。家計調査ベースの実質消費支出は、昨年11月が前月比2.2%減と3カ月連続の減少。10~11月平均でみると、7~9月期(第3四半期)から1.8%の減少となっている。
減少ペースが大きいことから、家計調査のサンプルバイアスを指摘する声もあるが、家計調査よりもサンプル数の大きい家計消費状況調査でも支出総額は減少基調で推移しており、家計調査の弱さをサンプル要因のみで説明するのは無理がある。
個人消費だけでなく設備投資も成長率の重石となりそうだ。11月の機械受注(民需除く船舶・電力)は前月比14.4%の大幅減。同指標は9月、10月と2カ月連続で大きく増加したが、11月だけで過去2カ月の増加分を打ち消した。12月が前月比9%以上落ち込まなければ、10~12月期(第4四半期)で前期比プラスとなるが、これは7~9月期(第3四半期)が前期比10.0%減と大きく落ち込んだため。12月の工作機械受注では、内需が前月比6.3%減(前年比11.5%減)と大きく減少したことも考慮すると、12月の機械受注に大きな期待は持ちにくく、第4四半期の設備投資も前期と同様に伸び悩む可能性が高いと思われる。
在庫調整の進展も成長率の下押し要因となるだろう。GDP統計によると、民間在庫は昨年第1四半期と第2四半期に計3.3%もGDPを押し上げ。第3四半期は0.8%の押し下げとなったが、昨年前半の積み上がりを解消したとは言い難い。鉱工業生産指数をみても在庫調整は一半ばで、第4四半期でも民間在庫は成長率を下押しすると予想される。
第4四半期の成長率は、12月の経済指標の結果次第といえなくもないが、これまで発表された12月の経済指標を見る限り、大きな期待は持ちにくい。12月の日経製造業PMIは52.6と11月から変わらず。12月の消費者態度指数も42.7と11月とほぼ同じ。12月のマネーストック(M2)は前年比3.0%増と、市場予想に反し11月から減速した。12月の景気ウォッチャー(現状判断)は48.7と、11月の46.1から大きく上昇したが、第4四半期の平均は47.7と、第3四半期の平均(49.5)を下回っている。今後発表される12月の個人消費関連、設備投資関連の各指標が、第4四半期成長率を大きく押し上げるほどの改善を示すと期待するのは難しいようだ。
第3四半期にプラスに転じた日本の成長率が、第4四半期に再びマイナスとなると、日本景気の伸び悩みが再び注目を集め、日銀による追加緩和観測が盛り上がることだろう。次回の金融政策決定会合は1月29日だが、同じの日の朝に12月の家計調査、鉱工業生産、CPIなど重要指標が相次いで発表される。いずれの指標も弱い結果となれば、市場が日銀の追加緩和期待を大きく強める展開も考えられる。
日本経済研究センターが公表するESPフォーキャスト調査によると、昨年第4四半期成長率見通しは前期比年率0.63%増と、昨年12月時点の同1.31%増から大きく鈍化。予測値が低い8機関の平均では同0.13%減とマイナスとなっている。
第4四半期も再びマイナスとなる最大の理由は個人消費の悪化だ。家計調査ベースの実質消費支出は、昨年11月が前月比2.2%減と3カ月連続の減少。10~11月平均でみると、7~9月期(第3四半期)から1.8%の減少となっている。
減少ペースが大きいことから、家計調査のサンプルバイアスを指摘する声もあるが、家計調査よりもサンプル数の大きい家計消費状況調査でも支出総額は減少基調で推移しており、家計調査の弱さをサンプル要因のみで説明するのは無理がある。
個人消費だけでなく設備投資も成長率の重石となりそうだ。11月の機械受注(民需除く船舶・電力)は前月比14.4%の大幅減。同指標は9月、10月と2カ月連続で大きく増加したが、11月だけで過去2カ月の増加分を打ち消した。12月が前月比9%以上落ち込まなければ、10~12月期(第4四半期)で前期比プラスとなるが、これは7~9月期(第3四半期)が前期比10.0%減と大きく落ち込んだため。12月の工作機械受注では、内需が前月比6.3%減(前年比11.5%減)と大きく減少したことも考慮すると、12月の機械受注に大きな期待は持ちにくく、第4四半期の設備投資も前期と同様に伸び悩む可能性が高いと思われる。
在庫調整の進展も成長率の下押し要因となるだろう。GDP統計によると、民間在庫は昨年第1四半期と第2四半期に計3.3%もGDPを押し上げ。第3四半期は0.8%の押し下げとなったが、昨年前半の積み上がりを解消したとは言い難い。鉱工業生産指数をみても在庫調整は一半ばで、第4四半期でも民間在庫は成長率を下押しすると予想される。
第4四半期の成長率は、12月の経済指標の結果次第といえなくもないが、これまで発表された12月の経済指標を見る限り、大きな期待は持ちにくい。12月の日経製造業PMIは52.6と11月から変わらず。12月の消費者態度指数も42.7と11月とほぼ同じ。12月のマネーストック(M2)は前年比3.0%増と、市場予想に反し11月から減速した。12月の景気ウォッチャー(現状判断)は48.7と、11月の46.1から大きく上昇したが、第4四半期の平均は47.7と、第3四半期の平均(49.5)を下回っている。今後発表される12月の個人消費関連、設備投資関連の各指標が、第4四半期成長率を大きく押し上げるほどの改善を示すと期待するのは難しいようだ。
第3四半期にプラスに転じた日本の成長率が、第4四半期に再びマイナスとなると、日本景気の伸び悩みが再び注目を集め、日銀による追加緩和観測が盛り上がることだろう。次回の金融政策決定会合は1月29日だが、同じの日の朝に12月の家計調査、鉱工業生産、CPIなど重要指標が相次いで発表される。いずれの指標も弱い結果となれば、市場が日銀の追加緩和期待を大きく強める展開も考えられる。
2015年12月18日金曜日
為替市場には中立に働くと思われる日銀の小規模緩和
日本銀行は本日の金融政策決定会合で、「量的・質的金融緩和を補完するための諸措置の導入」と題した事実上の追加緩和を決定した。
マネタリーベースの増加ペースは、従来と同様に年間約80兆円で維持とされたが、長期国債の買い入れ平均残存期間(以下、デュレーション)は、今年の7~10年程度から来年は7~12年程度と小幅ながら延長。ETFの買い入れについては、従来の年間約3兆円に加え、設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業の株式を対象に新たに3千億円の枠を設定した。またJ-REITについては、銘柄別の買入限度額を発行済み投資口総数の5%以内としていたが、これを10%以内に引き上げることも決められた。
日銀は声明文で、量的・質的金融緩和(以下、QQE)を推進していくにあたり、より円滑にイールドカーブ全体の金利低下を促していくことが適当と指摘。また企業や家計のデフレマインドは転換しているとの見方を示し、QQEを「補完」するためにデュレーションの延長などの「諸措置」を決定したと説明した。
JGBデュレーションの延長やETF買入枠の増額など、今回決定した内容は追加緩和の一つと言えるものだが、日銀は(声明文を見る限り)今回の決定を「追加緩和」ではなく「補完」であると否定するだろう。邪推でしかないが、今回の措置にあえて「補完」という名称を付けたのは、日銀として、追加緩和はこんなものではない、と誇示したかったからかもしれないし、日銀・黒田総裁がQQE開始当時、戦力の逐次投入はしない、と大見えを切ったことと関係しているのかもしれない。
ただマネタリーベースの増加ペースは年間80兆円で維持したまま。そんな中でデュレーションを延長してしまえば、結果として年限の短いところほど利回りの低下効果が薄れる。為替市場では、短い年限の利回りの方が長いものよりも強い影響をおぼすことが経験的に知られていることから、総額一定のもとでのデュレーション延長は、円売り圧力を弱める結果につながりかねない。
一方、(名称や建前はともかく)ETFの買い入れ額が増加されたことは日本株市場にとってポジティブ。以前ほどではないにせよ、日本株高は円売りの動きを支援する傾向があるため、ETF増額によって円売り圧力は増す可能性があると期待される。
エコノミストのように定量的に試算したわけではなく、あくまで筆者の感覚でしかないが、デュレーションの延長とETFの買入額の増加を合わせると、今回の決定による円相場への影響は中立なものと思われる。
注目すべき点の一つに、ETF買入額の増加やJ-REITの買入限度額の引き上げに対し、3人の委員が反対票を投じたことがある。年間80兆円のマネタリーベースの増加ペースに対し以前から反対票を投じていた木内委員や、(木内委員ほどではないにせよ)以前より追加緩和に否定的な姿勢を示してきた佐藤委員が、ETF買入額の増加などに対しても反対票を投じたことに違和感はないが、市場では中立的な立場に近いと言われていた石田委員も反対票を投じたことはやや意外。仮に今後、日銀が追加緩和に動くとしても、少なくとも3人の委員が反対に動くことが判明したともいえ、市場が日銀の追加緩和期待を後退させる可能性もある。
今回の「補完」措置は、原油価格の下落が続く中、日銀短観の企業物価見通しが下方修正された(インフレ期待が低下した)ことへの対応と考えていいだろう。ただ原油安やインフレ期待の低下は、ここ1カ月弱の出来事。米FRBが利上げ開始を決めたばかりのタイミングで、審議委員への根回しや追加緩和の実施準備のための時間も足らなかったため、今回は「補完」に留めたと考えることもできる。
市場は本日の日銀の発表を受けて円売りで反応。ドル円は一時1232円台半ば近辺まで上昇したが、その後は一転して円買いが進展。ドル円は122円ちょうど近辺に下落した。為替市場は、今回の決定を事実上の「追加緩和」として反応したのは良いが、中身を見ればタイトル通り「補完」程度の内容、と認識を改めたのかもしれない。
マネタリーベースの増加ペースは、従来と同様に年間約80兆円で維持とされたが、長期国債の買い入れ平均残存期間(以下、デュレーション)は、今年の7~10年程度から来年は7~12年程度と小幅ながら延長。ETFの買い入れについては、従来の年間約3兆円に加え、設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業の株式を対象に新たに3千億円の枠を設定した。またJ-REITについては、銘柄別の買入限度額を発行済み投資口総数の5%以内としていたが、これを10%以内に引き上げることも決められた。
日銀は声明文で、量的・質的金融緩和(以下、QQE)を推進していくにあたり、より円滑にイールドカーブ全体の金利低下を促していくことが適当と指摘。また企業や家計のデフレマインドは転換しているとの見方を示し、QQEを「補完」するためにデュレーションの延長などの「諸措置」を決定したと説明した。
JGBデュレーションの延長やETF買入枠の増額など、今回決定した内容は追加緩和の一つと言えるものだが、日銀は(声明文を見る限り)今回の決定を「追加緩和」ではなく「補完」であると否定するだろう。邪推でしかないが、今回の措置にあえて「補完」という名称を付けたのは、日銀として、追加緩和はこんなものではない、と誇示したかったからかもしれないし、日銀・黒田総裁がQQE開始当時、戦力の逐次投入はしない、と大見えを切ったことと関係しているのかもしれない。
ただマネタリーベースの増加ペースは年間80兆円で維持したまま。そんな中でデュレーションを延長してしまえば、結果として年限の短いところほど利回りの低下効果が薄れる。為替市場では、短い年限の利回りの方が長いものよりも強い影響をおぼすことが経験的に知られていることから、総額一定のもとでのデュレーション延長は、円売り圧力を弱める結果につながりかねない。
一方、(名称や建前はともかく)ETFの買い入れ額が増加されたことは日本株市場にとってポジティブ。以前ほどではないにせよ、日本株高は円売りの動きを支援する傾向があるため、ETF増額によって円売り圧力は増す可能性があると期待される。
エコノミストのように定量的に試算したわけではなく、あくまで筆者の感覚でしかないが、デュレーションの延長とETFの買入額の増加を合わせると、今回の決定による円相場への影響は中立なものと思われる。
注目すべき点の一つに、ETF買入額の増加やJ-REITの買入限度額の引き上げに対し、3人の委員が反対票を投じたことがある。年間80兆円のマネタリーベースの増加ペースに対し以前から反対票を投じていた木内委員や、(木内委員ほどではないにせよ)以前より追加緩和に否定的な姿勢を示してきた佐藤委員が、ETF買入額の増加などに対しても反対票を投じたことに違和感はないが、市場では中立的な立場に近いと言われていた石田委員も反対票を投じたことはやや意外。仮に今後、日銀が追加緩和に動くとしても、少なくとも3人の委員が反対に動くことが判明したともいえ、市場が日銀の追加緩和期待を後退させる可能性もある。
今回の「補完」措置は、原油価格の下落が続く中、日銀短観の企業物価見通しが下方修正された(インフレ期待が低下した)ことへの対応と考えていいだろう。ただ原油安やインフレ期待の低下は、ここ1カ月弱の出来事。米FRBが利上げ開始を決めたばかりのタイミングで、審議委員への根回しや追加緩和の実施準備のための時間も足らなかったため、今回は「補完」に留めたと考えることもできる。
市場は本日の日銀の発表を受けて円売りで反応。ドル円は一時1232円台半ば近辺まで上昇したが、その後は一転して円買いが進展。ドル円は122円ちょうど近辺に下落した。為替市場は、今回の決定を事実上の「追加緩和」として反応したのは良いが、中身を見ればタイトル通り「補完」程度の内容、と認識を改めたのかもしれない。
2015年11月11日水曜日
弱かったと素直に認めるべき今年夏のボーナス
11月9日に発表された毎月勤労統計によると、今年(2015年)夏のボーナスの一人当たり平均支給額(以下、今夏ボーナス)は前年比2.8%減(35.7万円)と2年ぶりの減少となった。6月分の特別給与が前年比6.7%減と、事前予想に反し大きく減少したことから、今回の結果には、さほど意外感がないはずだが、雇用・所得環境の改善が続いていると思い込んでいる一部エコノミストにとっては、それなりに驚きを与えたようだ。
今夏ボーナスが減少に転じた理由として、一部エコノミストは、毎月勤労統計で今年1月に実施された調査対象(サンプル)の入れ替えを指摘している。しかし同統計では500人以上の事業所は全てが調査対象。つまりサンプル入れ替えの影響が全くない。それにもかかわらず、500人以上事業所の今夏ボーナスは、前年比2.6%減と、全体の結果と同様に前年割れ。サンプル入れ替えというテクニカルな理由だけで、今夏ボーナスの減少を説明するのは無理がある。
むしろ毎月勤労統計で今夏ボーナスが減少に転じた理由として指摘すべきは、非正規雇用者や再雇用された高齢者の割合の増加だろう。非正規雇用者や再雇用された高齢者に支払われるボーナスは、正社員に比べ少ないのが一般的。ボーナスの少ない社員の割合が前年から高まれば、平均でみた一人当たりボーナスが前年から減少しても不思議ではない。
昨年の夏季ボーナス(昨夏ボーナス)の伸びが高すぎた面もある。同統計によると昨夏ボーナスは前年比2.7%増と1991年以来の高い伸び。企業業績は改善基調にあるものの、今夏ボーナスの基準となる2014年度の企業増益率は2013年度比で大きく鈍化していることも考えると、今夏ボーナスが反動もあって減少に転ずることも考えられる。
それにもかかわらず一部エコノミストが、毎月勤労統計で示された今夏ボーナスに対して違和感を持つのは、今夏ボーナスに関する各種アンケート調査が総じて好結果だったからだろう。たとえば経団連調査によると今夏ボーナスは前年比2.81%増。毎月勤労統計を発表する厚生労働省による調査では3.95%増だった。
ただ注意すべきは、こうしたアンケートでの調査対象は基本的には正社員であり、かつ対象企業も大企業が中心。一方、毎月勤労統計は、パート社員や再雇用された高齢者も調査対象であり、対象企業には中小企業も含まれる。一般的にエコノミストは、一国経済全体(マクロ経済)を対象とするはずだが、大企業・正社員の状況に目を奪われ、今夏ボーナスが減少したことに疑義を唱えるのは、単なる自己否定ないしは自己矛盾のようにみえる。日本経済全体でみた場合、今夏ボーナスは予想以上に弱かったと素直に認めるのが自然だろう。
今夏ボーナスが弱かった以上、今年冬のボーナス(今冬ボーナス)も弱いものになりそうだ。今夏ボーナスほど大きな落ち込みにはならないまでも、今冬ボーナスも前年比2%弱の減少が見込まれる。弱い伸びとはいえ一人当たり賃金(現金給与総額)は前年比プラスを維持し、雇用も増加基調で推移していることから、雇用者所得(雇用者全体でみた所得)も拡大を続けていると判断される。しかしボーナスが弱い分、家計所得の増加ペースは緩やかなものにならざるを得ない。結果として、個人消費の伸びは当分、実質で前年比1%弱と、冴えない状況が続くと予想される。
今夏ボーナスが減少に転じた理由として、一部エコノミストは、毎月勤労統計で今年1月に実施された調査対象(サンプル)の入れ替えを指摘している。しかし同統計では500人以上の事業所は全てが調査対象。つまりサンプル入れ替えの影響が全くない。それにもかかわらず、500人以上事業所の今夏ボーナスは、前年比2.6%減と、全体の結果と同様に前年割れ。サンプル入れ替えというテクニカルな理由だけで、今夏ボーナスの減少を説明するのは無理がある。
むしろ毎月勤労統計で今夏ボーナスが減少に転じた理由として指摘すべきは、非正規雇用者や再雇用された高齢者の割合の増加だろう。非正規雇用者や再雇用された高齢者に支払われるボーナスは、正社員に比べ少ないのが一般的。ボーナスの少ない社員の割合が前年から高まれば、平均でみた一人当たりボーナスが前年から減少しても不思議ではない。
昨年の夏季ボーナス(昨夏ボーナス)の伸びが高すぎた面もある。同統計によると昨夏ボーナスは前年比2.7%増と1991年以来の高い伸び。企業業績は改善基調にあるものの、今夏ボーナスの基準となる2014年度の企業増益率は2013年度比で大きく鈍化していることも考えると、今夏ボーナスが反動もあって減少に転ずることも考えられる。
それにもかかわらず一部エコノミストが、毎月勤労統計で示された今夏ボーナスに対して違和感を持つのは、今夏ボーナスに関する各種アンケート調査が総じて好結果だったからだろう。たとえば経団連調査によると今夏ボーナスは前年比2.81%増。毎月勤労統計を発表する厚生労働省による調査では3.95%増だった。
ただ注意すべきは、こうしたアンケートでの調査対象は基本的には正社員であり、かつ対象企業も大企業が中心。一方、毎月勤労統計は、パート社員や再雇用された高齢者も調査対象であり、対象企業には中小企業も含まれる。一般的にエコノミストは、一国経済全体(マクロ経済)を対象とするはずだが、大企業・正社員の状況に目を奪われ、今夏ボーナスが減少したことに疑義を唱えるのは、単なる自己否定ないしは自己矛盾のようにみえる。日本経済全体でみた場合、今夏ボーナスは予想以上に弱かったと素直に認めるのが自然だろう。
今夏ボーナスが弱かった以上、今年冬のボーナス(今冬ボーナス)も弱いものになりそうだ。今夏ボーナスほど大きな落ち込みにはならないまでも、今冬ボーナスも前年比2%弱の減少が見込まれる。弱い伸びとはいえ一人当たり賃金(現金給与総額)は前年比プラスを維持し、雇用も増加基調で推移していることから、雇用者所得(雇用者全体でみた所得)も拡大を続けていると判断される。しかしボーナスが弱い分、家計所得の増加ペースは緩やかなものにならざるを得ない。結果として、個人消費の伸びは当分、実質で前年比1%弱と、冴えない状況が続くと予想される。
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