2015年4月15日水曜日

浜田宏一・内閣官房参与はドル円120円超を肯定

 安倍首相の経済ブレーンとされる浜田宏一・内閣官房参与(米エール大名誉教授)は4月13日、14日の2日間、日本の各種メディアに登場。メディアは、円相場に関する浜田氏の発言をいくつか報じた。見出しだけをみると、浜田氏の発言は二転三転している印象を与えたかもしれないが、発言内容を細かく確認すると、同氏の趣旨が一貫していることが分かる。つまり浜田氏は、今後も円安の動きが強まる可能性を否定していないと考えられる。

 以下は、米系メディア2社が、浜田氏の円相場に関する発言について報じたタイミング(掲載日時)と見出しを整理したものである。



4月13日
21:14 米系メディアB社:浜田内閣参与:購買力平価からすると120円はかなり円安(記事①)
4月14日
11:13 米系メディアB社:浜田氏:円安は徐々に限界に近付いている、無理に物価2%の必要なし(記事②)
20:15 米系メディアTR社:ドル120円程度は許容範囲、125-130円は購買力平価とかい離(記事③)
20:15 米系メディアTR社:金融政策は国内需給を重視、短期的な円安は仕方ない(記事④)

 ご覧とおり、上記4つの見出しだけを見ると、浜田氏は発言を二転三転しているかのような印象を与える。記事①では、同氏はドル円=120円を「かなりの円安」と認識。記事②では、同氏がさらなる円安は難しいと考えているとの印象を与える。しかし記事③になると、同氏は120円が問題ない水準と考えており、記事④では、同氏がさらなる円安も肯定している。

 ただ、メディアによる報道には、記者のバイアスが少なからず含まれており、特に見出しは文字数の都合もあってバイアスが強く示される傾向にある。記事①と②がB社によるものである一方、記事③と④がTR社によるものであることも考えると、記事①、②と記事③、④との間に矛盾が生じるのは、ある程度仕方のないことのようにも思われる。

 記事①は、B社が日系BS番組に出演した浜田氏の発言をもとにしたもので、当初(13日21:14)は見出しのみの報道。その後、B社は同番組の発言を一部抜粋した形で見出しに本文を加えた形で記事を報じている。同記事内の本文では、浜田氏の発言として、(購買力平価からすると)「120円はかなり円安。105円ぐらいが妥当」との見方を紹介。ただ、その後の文章で、浜田氏がリーマン・ショック後の円高を当時の日銀が放置していたことを批判したと紹介。同氏が「80円ぐらいから100円ぐらいまで戻す中で、アベノミクスは救世主的な役割を果たしたと発言した」と発言したことも示した。話の流れから考えると、「120円はかなり円安」という表現は、リーマン・ショック後の円高局面(80円台)と現在の円相場の水準(120円近辺)とを比較して述べたものと考えることもできる。

 記事②の本文では、記者が浜田氏に問いかける形で記事が構成されている。同記事前段では、記者が「120円からどんどん円安になるとみていないということか」との質問に対し、浜田氏は「この辺で円が売りたたかれているところの限界にだんだん近づいているんだというシグナルを流すことは悪いことではないと思っている。しょせん、為替、株は分からないから、誰も確固たるビューはない」と回答したことが示されている。見出しでは「円安は徐々に限界に近付いている」で切られているが、実際の発言では、その後に「というシグナルを流すことは悪いことではないと思っている」と続いていることがわかる。

 つまり、浜田氏は、市場には確固たるビューがない以上、ドル円が120円を超えた水準に上昇する可能性があると指摘した上で、(主体が誰だか不明だが)円がさらに安くなる(売られる)ことは限界に近付いていることを市場に織り込ませることの重要性を主張していることがわかる。

 記事②の後段では、浜田氏が「資産価格だから、10%、20%離れることはいつでもあると思う。ですから120円くらいに行くのにそんなに心配することないんだけど、それがどんどん加速するという期待はファンダメンタルズから離れている」と発言したと紹介。前段と同じように、ドル円が120円を超えて上昇する可能性を改めて示したものの、120円を超えた水準でも円安が続くことは、ファンダメンタルズ(おそらく購買力平価のこと)からみて難しくなる、との認識を示したことになる。

 記事③では、浜田氏が120円程度の円安を「許容範囲」という表現で容認する考えを示し、「125円、130円となると購買力平価との差がはっきりしてくる」、「あまり購買力平価から離れると、投機筋に仕掛けられる可能性がある」と述べたことも紹介されている。この表現は、記事②と同じように、ドル円が120円を超えて上昇する可能性を念頭に入れた上で、120円を超えた円安水準では、円が急に買い戻される可能性があることを指摘したと考えられる。

 記事④は、記事③の後段を対象に見出しのみが報じられたものである。記事③の後段では、浜田氏が、「変動相場制の論理では、国内の需給を重視すべき」と述べ、日銀による追加緩和の結果として「円が安くなっても短期的には仕方ない」との見解を示したことが紹介されている。つまり浜田氏は、日銀は国内の需給をもとに金融政策判断をすべきであり、その結果として、行き過ぎた円安が生じ、コストプッシュ型インフレなど景気の下押し要因が増えたとしても、それは短期的には仕方がないと考えるべきと主張したと考えられる。これは、他メディアとのインタビューなどで、浜田氏が日銀は2%物価目標にこだわる必要がないと述べたことと整合的である。

 整理すると、浜田氏の一連の発言は、以下にまとめられる。

・ドル円=120円は許容範囲の水準
・ドル円が120円を超えることはありえる
・ドル円が120円を超えた場合、円安が進めば進むほど、ドル円が急落するリスクが高まる
・日銀は国内需給の動向をもとに金融政策を検討すべき
・日銀が、国内需給の緩みを理由に追加緩和を実施し、円安がさらに進んでも短期的には容認すべき

 浜田氏の発言を根拠に、ドル円=120円超えを否定する姿勢は、バイアスがかかったメディアの報道によって浜田氏の主張を読み間違えた結果と思われる。

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