2015年5月21日木曜日

1%程度の冴えない成長が続く見込みの日本景気

 昨日(5月20日)発表された日本の第1四半期GDPは、今後の日本の成長率が1%前後で伸び悩む可能性を示す内容となった。

 日本の第1四半期GDPは実質で前期比年率2.4%増と、2四半期プラスとなり、伸びは昨年第1四半期の4.9%増に次ぐ水準に加速した。市場予想では前期と同じ1.5%増程度の伸びに留まるとの見方が多かったことから、日本経済は市場予想を上回る成長となった、と言えなくもない。

 ただ市場関係者などが指摘するように、第1四半期の成長率は割り引いてみる必要がある。GDPの内訳をみると、成長率をけん引したのは民間在庫投資で、その寄与度は前期比年率2.0%。需要の弱さの裏返しとも言える民間在庫投資の積み増しを考慮しなければ、日本の成長率は年率0.4%増(前期比0.1%増)と、ほぼゼロ成長だったことになる。

 今回発表されたGDPは一次速報値では、民間在庫投資の算出に実測データではなく推計値が用いられており、二次速報値で修正される可能性が高い点にも注意が必要である。たとえば昨年第1四半期のGDP統計での民間在庫投資の年率寄与度は、一次速報値で0.8%減だったが、二次速報値では2.0%減と大きく下方修正。今年第1四半期の成長率を大きく押し上げた民間在庫投資が、二次速報値で下方修正され、全体の成長率も年率1%台に鈍化することも十分にあり得る。

 一方、個人消費や設備投資といった在庫投資を除く民間内需は伸び悩みが続いている。個人消費は前期比0.4%増と3期連続でプラスを維持したが、水準は308.9兆円と安倍政権が始まった直後の2013年第1四半期の水準(312.2兆円)を下回ったまま。今後は実質所得の持ち直しで個人消費が底堅く推移するという見方は根強いが、賃金の伸びが弱い非正規雇用の拡大傾向は続いている。また、これまで一人当たり賃金の上昇をけん引していた所定外給与は3月に前年割れとなった。消費税率の引き上げによる下押し効果は一巡するものの、実質賃金の伸びは前年比1%台半ばがせいぜいとみるべきで、仮にこの見方が正しいとすれば、個人消費の伸びは前年比1%台前半程度、成長率全体を1%弱押し上げるにとどまる。

 設備投資は1年ぶりのプラスとなったが、その伸びは前期比0.4%増と非常に弱い。日銀短観の設備投資計画(含む土地投資額)では、全規模全産業の設備投資額は今年度5.0%減の見込み。消費税率の引き上げ後に低下した製造業の設備稼働率が上昇に向かっていないことも考えると、設備投資の拡大ペースは緩やかなものにならざるを得ない。

 メディアでは大きく取り上げられていないが、公的需要(政府消費や公共事業といった政府部門による支出)の成長率寄与度が0.2%減とマイナスに転じたことにも注目すべきだ。公共投資の先行指標である公共工事請負額は昨年8月以降、前年比で減少基調が続いている。昨年度補正予算による経済対策が、過去2度の対策と比較して小規模であることから、公的需要は今後も成長率を押し下げることになる。

 外需は今後も成長率にとって中立に働くだろう。本日(5月21日)に発表された5月の中国HSBC製造業PMI(速報値)は49.1と前月から小幅上昇したが、好不況の分岐点とされる50を3カ月連続で下回った。回復期待が根強い欧州景気もユーロ相場によるところが大きく、欧州向け輸出が加速するとは考えにくい。円の名目実効レートは今年に入って下げ止まり、実質実効レートに至っては緩やかながら上昇に転じている。円安進展による純輸出の拡大というストーリーも期待しにくい。

 個人消費や設備投資が前年比1%台前半程度の伸びとなっても、公的需要が成長率を押し下げ、外需も成長率に対して中立となれば、全体の成長率は1%ちょうど近辺と潜在成長率並みの伸びに留まることになる。これでは、たとえ原油価格の上昇が続いたとしても、内需拡大によるインフレ圧力が強まるとは考えにくく、2016年度前半に達成すると公言している日銀の2%インフレ目標の達成は怪しくなる。

 しかし日銀は当面、追加緩和を見送るようだ。一部メディアは、本日と明日に開催される金融政策決定会合で、景気判断が上方修正される可能性があると報じた。日銀・黒田総裁は国会証言で2%インフレ目標は2016年度前半には達成するとの見通しを示しており、追加緩和の実施を見送る姿勢を示している。一部報道にあるように景気判断が上方修正されれば、追加緩和実施のハードルが上がることになる。

 景気が(1%程度とはいえ)安定的に推移すれば、安倍政権は大型の経済対策を見送る姿勢を強めるだろう。2020年度に基礎的財政収支の赤字解消を国際的な公約に位置付けている安倍政権としては、景気が悪化するならまだしも、成長率が1%程度で伸び悩んでいることを理由に大型経済対策を実施するのは難しい。

 ただ、日銀の追加緩和や政府の経済対策が見送られるのであれば、市場におけるアベノミクスに対する期待も後退しやすくなる。為替市場においては、米FRBによる利上げ開始時期にもよるが、日米の金融政策の違い(ダイバージェンス)というテーマよりも、日本景気の伸び悩みやドル高懸念が材料視される可能性も出てくる。この場合、ドル円は120円程度で伸び悩むこととなり、2016年度前半での2%インフレ目標の達成を疑問視する声が強まるだろう。

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