2018年8月14日火曜日

キャッシュレス社会を推し進めない可能性もあるメガバンクATM削減

日本経済新聞は8月13日、三菱UFJ銀行が全国のATMを2023年度末までに2割減らす方向で検討に入ったと報じました。報道によると、三菱UFJ銀行のATMは、今年3月末時点で8141台と、三井住友銀(約5800台)や、みずほ銀(約5700台)を上回り、ゆうちょ銀(約2万9千台)に次ぐ台数とのこと。同行は、1カ所に5台あるATMを2台に減らしたり、駅前に複数あるATMを集約することで、今後6年間で6700台程度まで減らすことを目指すようです。

三菱UFJ銀行だけでなくメガバンク3行は、ATM削減に対し前向きのようです。三菱UFJ銀行と三井住友銀行は今年5月上旬、ATMの共通利用に向けて協議していると報じられました。各行が独自に設置しているATMを利用者が共通に利用することができれば、トータルでみたATMの台数を削減することができます。みずほ銀行は、今年度に勘定系システムの移行があるため、協議に加わらなかったようですが、いずれ同行も協議に加わるとの見方もあります。

メガバンクがATM削減を推進しようとしている背景には、個人預金を通じた資金調達コストの相対的な上昇が考えられます。普通預金の金利は、日本銀行がマイナス金利政策を導入した2016年1月の0.02%から低下気味となり、同年10月には0.001%と、ほぼゼロまで低下しました(低下幅は0.019%・1.9bp)。



一方、メガバンクの貸出金利(長期)は、マイナス金利政策が導入される直前の2015年12月に1.019%ありましたが、その後は低下基調で推移。今年6月時点には0.768%と約0.25%(25bp)低い水準にあります。

マイナス金利政策が実施されても、銀行は、貸出金利と預金金利を同じように下げることで、採算性を維持することができます。現に、マイナス金利が導入されたユーロ圏では、銀行が貸出金利だけでなく預金金利も下げ、採算性をある程度維持しています。

しかし日本の場合、もともと預金金利がゼロに近い状態だったところにマイナス金利政策が導入されてしまったため、預金金利の引き下げ余地は限定的でした。もちろん、日本の銀行も、預金金利を貸出金利と同じように引き下げ、(結果として預金金利をマイナスにすれば)採算性を維持できますが、社会的な責務などもあって預金金利をマイナスにできないままです。仕入れコスト(資金調達コスト)にあたる預金金利が0.019%しか下がっていないのに、販売価格にあたる貸出金利が0.25%も下がってしまえば、採算性が悪くなります。

とはいえ、メガバンクも営利企業の一つですから、採算性の悪化を放置し続けるわけにはいきません。預金金利を引き下げること(預金金利をマイナスにすること)ができないのであれば、別の手段で個人からの預金に関するコストを引き下げようとするのは自然のことで、その方策の一つとしてATMの削減を進めようとしていると考えられます。ATMの削減は、形こそ違いますが、預金金利のマイナス化と同じように、これまで預金者に与えてきた便益を減らすことを意味します。

日本経済新聞は、同じ記事で、三菱UFJ銀行がATMを削減するのは、顧客がATMからインターネットバンキング(ネット取引)にシフトしている点をあげています。そして三菱UFJ銀行は、来年度にもネット通帳で過去の取引を10年分見られるようにするなどネット取引の利便性を高めると報じています。

一部では、日本経済新聞の記事を根拠に、日本でも(ようやく)キャッシュレス化が進む、と期待する声も出ているようです。しかし注意すべきは、メガバンクがATM削減を推進しようとしているのは、採算性を改善するためであり、日本のキャッシュレス化を進めるためではないということです。メガバンクがネット取引の利便性を高めることで、キャッシュレス決済がより身近になる可能性はあるものの、それが日本のキャッシュレス化をどこまで進めるかは不透明です。

買い物での代金支払い方法(決済手法)は、消費者や企業の好みによる部分も多々あると思われ、ATM削減とネット取引の利便性向上の組み合わせで、個々人の決済手法が短期間で大きく変わるとは言い切れません。メガバンクがATMを削減したとしても、セブン銀行などのコンビニ銀行は、ATMサービス網を維持・拡充させるでしょうから、預金者は引き続きATMを利用し続ける可能性もあります。

メガバンクがATMの削減を進め、ATMの利便性が低下したとしても、預金者の多くが現金決済を好むのであれば、預金者は現金を銀行から引き出し、自宅に保管する動き(いわゆるタンス預金)を強めるでしょう。この場合、日本はキャッシュレス社会が進むどころか、キャッシュ社会がより強固なものになります。

キャッシュレス社会の進展は、銀行を含めた金融機関や政府・当局の動向だけでなく、現実に買い物をする個々人の行動や好み、考えにも依る部分があることも念頭に入れておくべきと思われます。

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