2016年12月2日金曜日

マーク・ファーバーのコメント(2016年11月)

ふと思い出したように、マーク・ファーバー博士から、レポートが届きました。
以下に内容を簡単にご紹介します。

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注目の米大統領選はトランプ氏の勝利となりました。
“世界中の誰もが驚いた”と報道されていますが、
本レポート読者の皆様には
「さもありなん」だったのではないでしょうか。

さて、今月のテーマは「超現実主義(シュルレアリスム)」です。
日本では、それを語源とした「シュール」という言葉が
「意味不明」「異常」「不思議」といった意味合いで、
よく使われているように思います。

ただ、もともとの意味合いは
合理性(現実・理性)を超越して、
潜在意識(自然・欲望)を探求する思想運動とのことです。
レポートに詳しい説明があります……。

博士は、芸術ならまだしも、現代の政治・経済・金融・マスコミで、
まさに合理性を無視して、己の欲望のまま突き進む
超現実主義者が臆面もなく闊歩していると指摘し、
いくつか具体例を挙げています。

そして、民主主義社会が超現実主義社会となり、
崩壊の道を歩んでいると危惧しています。

さらに博士は、こうした傾向からも
ハイパーインフレのシナリオが考えられ、
そのなかでどのような投資方針が立てられるか説明しています。

特に今月は、資源株で具体例を挙げています。
また、その読みが外れたときの“ヘッジ”についても言及しています。

なお、前半の超現実主義についての説明で紹介された
芸術家・作品について一見にしかずということでリンクを張りました。
よろしければ、ご参考ください。

【超現実主義の芸術家】
マックス・エルンスト(ドイツ出身の画家・彫刻家・1891―1976)
 https://www.wikiart.org/en/max-ernst
サルバドール・ダリ(スペイン出身の画家・1904―89)
 https://www.wikiart.org/en/salvador-dali
ジョアン・ミロ(スペイン出身の画家・1893―1983)
 https://www.wikiart.org/en/joan-miro
イヴ・タンギー(フランス出身の画家・1900―55)
 https://www.wikiart.org/en/yves-tanguy
ルネ・マグリット(ベルギー出身の画家・1898―1967)
 https://www.wikiart.org/en/rene-magritte
ジャン・アルプ(アルザス出身の彫刻家・画家・1886―1966年)
 https://www.wikiart.org/en/jean-arp

【超現実主義に影響を与えた芸術家】
ジョルジョ・デ・キリコ(イタリア出身の形而上絵画派画家)
 https://www.wikiart.org/en/giorgio-de-chirico
ギュスターヴ・モロー(フランス出身の象徴派画家)、
 https://www.wikiart.org/en/gustave-moreau
アルノルト・ベックリン(スイス出身の象徴派画家)、
 https://www.wikiart.org/en/arnold-b-cklin
オディロン・ルドン(フランス出身の象徴派画家)、
 https://www.wikiart.org/en/odilon-redon
アンリ・ルソー(フランス出身の素朴派画家)
 https://www.wikiart.org/en/henri-rousseau
ジュゼッペ・アルチンボルド(イタリア出身のマニエリスム画家)、
 https://www.wikiart.org/en/giuseppe-arcimboldo
ヒエロニムス・ボス(オランダの初期フランドル派画家)
 https://www.wikiart.org/en/hieronymus-bosch

【ニューヨークダダ】
マルセル・デュシャン
 https://www.wikiart.org/en/marcel-duchamp
 『ビン掛け』
 https://uploads0.wikiart.org/images/marcel-duchamp/bottlerack-1914.jpg
 『泉』
 https://uploads7.wikiart.org/images/marcel-duchamp/fountain-1917.jpg
フランシス・ピカビア
 https://www.wikiart.org/en/francis-picabia
マン・レイ
 https://www.wikiart.org/en/man-ray
アルフレッド・スティーグリッツ(訳注:米国出身の写真家)
 https://www.wikiart.org/en/alfred-stieglitz

【代表的な手法】
コラージュ(切り抜き)
 https://en.wikipedia.org/wiki/Collage
ドゥードゥリング(無意識ないたずら書き)
 https://en.wikipedia.org/wiki/Doodle
フロッタージュ(こすりつけて模様を映し出す技法)
 http://www.deviantart.com/tag/frottage
デカルコマニー(転写画)
 http://www.deviantart.com/tag/decalcomania
グラッタージュ
 http://www.deviantart.com/tag/grattage

マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート

2016年10月17日月曜日

マーク・ファーバーのコメント(2016年10月)

マーク・ファーバー博士から、またレポートが届きました。
せっかくですので内容を簡単にご紹介します。

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ミレニアル世代とは、
おおまかに80年代前半から00年代前半に生まれた
10から30代の米国人を指します。

「おおまかに」というのは、
厳密な定義があるわけではなく、
人によって結構な差があるからです。

日本では、おおまかに80年代前半から00年代までの
学習指導要領の影響を受けた10から30代を
「ゆとり世代」と呼ぶことがあります。

これも「おおまかに」であり、
その範囲は人によって大きな差があるようです。

ただ「ゆとり」というと文脈に
否定的な意味あいを含んでいることが多く、
要は日米ともに「いまどきの若い奴らは……」
という使われ方をしている感じがします。

さて、博士はこのミレニアル世代が
現状・将来に対して誤った認識をしているのに驚いた
(そしてよく考えれば驚くほどではない)
と指摘しています。

その元凶として挙げているのは、
いつもの方々です。

また、その“誤った認識”のひとつとして
年金の積立不足危機(特に公務員年金)
を挙げています。

ただでさえ不足しているのに
今後は逆ザヤで、さらに二進も三進もいかなくなり
倒産する自治体が続出する可能性があるようです。

それなのに米国では
「現金(の呪縛)を撤廃して
金利を“自由”にしよう
=金利操作・マイナス金利を推し進めよう」
という議論があります。

博士はキャッシュレス社会がむしろ呪縛となり、
さらなるドルへの自傷行為となる
可能性を指摘しています。
ここが今回のレポート最大のテーマです。

レポートの最後は
有望市場としてブラジルを挙げています。

大きな偏見と混乱で、かなりみえにくいものの
そこには「真実」「転機」「進化」があり、
むしろ人知れず、何もせず、
“いつもの方々”に踊らされて
退化していく国よりはマシとの指摘です。

マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート

2016年9月16日金曜日

マーク・ファーバーのコメント(2016年9月)

よき知人でもあるマーク・ファーバー博士からレポートが届きました。
以下に内容を簡単にご紹介します。

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今年11月8日に米大統領選が実施される予定です。
言い換えると投票まで2カ月を切りました。

ご存じのように
民主党の予備選ではヒラリー・クリントン氏が
共和党ではドナルド・トランプ氏が指名されています。

なお、いわゆる第3党の
リバタリアン党からはゲーリー・ジョンソン元ニューメキシコ州知事、
米緑の党からはジル・スタイン医師が指名され、
また、多数の無所属候補が出ていますが、
大旋風を巻き起こすまでには至っていないようです。

今回のレポートでは、一部には“究極の選択”といわれる大統領選で
クリントン氏もしくはトランプ氏が当選した場合、
世界情勢、財政・金融政策、債券・株式・通貨・コモディティ市場に
どのような影響が予想されるか考察しています。

博士としては、
共和党も民主党も“本流”は同じ穴のムジナとなっており
(マスコミの“本流”はそのプロパガンダを担っている)

失敗続きの既得権益層・エリート・ネオコンを代表し、
また政治家としての誠実さに問題をみせたクリントン氏よりも

政治的に未知数で、人格的に問題があっても、
民衆とつながり、国際協調的、実利主義であるトランプ氏のほうが
持続的成長に欠かせない「平和」、
ひいては投資環境の観点からもマシである
という意見のようです。

さて、金価格の横ばいが7月から続いており、
一部には天井感から値崩れの声も出てきました。

しかし、博士は依然として
「貴金属価格が長期的に著しく上昇しないという
 どんなシナリオも描くことが難しい」というスタンスです。

レポートでは貴金属が業界人に嫌われる理由と
その背景についても指摘しています。

マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート

2016年8月29日月曜日

追加緩和で高まる日銀の保有資産減損リスク

 先週末(8月26日)のワイオミング州ジャクソンホールでの年次経済シンポジウムでは、FRBイエレン議長だけでなく、日銀・黒田総裁も「『マイナス金利付き量的・質的金融緩和』による予想物価上昇率のリアンカリング」と題した講演を披露している。9月21日公表される予定の「(今までの金融緩和策についての)総括的な検証(総括的検証)」の約1カ月前だけに、同総裁の講演内容を検証する意義はあるだろう。

 黒田総裁は、講演の冒頭で、日本は過去20年以上、長きにわたるデフレ、潜在成長率の低下、幾度かの金融危機、急速な高齢化とこれに伴う労働人口の減少による構造問題を経験してきたと説明。その上で、長期でみると、低インフレと低金利は共存する傾向があると指摘し、名目金利にゼロという下限制約(ゼロ制約)があるため、伝統的ないし標準的な金融政策の頑健性(resilience)は著しく損なわれたと述べた。

 そのため同総裁はマイルドではあるものの継続的なデフレを克服するため、「量的・質的金融緩和(QQE)」を導入し、QQEには、(1)できるだけ早期に2%のインフレ目標を達成するという明確で強力なコミットメントを伴う、(2)大量の国債買入れによってイールドカーブ全体に下方圧力を加える、という点に特徴があると説明。(1) には、大規模な金融緩和と言う裏打ちによって人々のデフレマインドを抜本的に転換し、予想物価上昇率(インフレ予想)を引き上げる狙いがあったと述べた。
しかし黒田総裁は日本のインフレ予想が安定せず、弱めの動きが観察されていることを認める。その理由として同総裁は、日本の長期インフレ予想が1990年代以降、2%より低いままであったという事実を持ち出し、2014年夏ころからの原油価格の下落でインフレ予想が弱くなってしまったという説明をした。その上で、同総裁は長期的なインフレ予想を目標水準(2%)近傍に引き上げる(アンカーする)ために、現在「マイナス金利付き量的・質的金融緩和(マイナス金利付きQQE)」を推進していると述べた。

 その後、黒田総裁は、マイナス金利付きQQEによって長期・超長期の国債利回りが大幅に低下したと指摘。その理由として、マイナス金利付きQQEはゼロ制約を取り払うことになるため、ゼロ制約の影響を受けない場合に成立するであろう「真の金利」が示現したと指摘した。そして最後に黒田総裁は、中央銀行によるインフレ目標に対する強いコミットメントが企業や家計のインフレ予想の形成に影響を与えることがコンセンサスとなっており、コミットメントそのものが頑健な金融政策の枠組みを確立する上で重要であることに変わりはないとした。そして、日銀は今後も、物価安定の目標の実現のために必要と判断した場合には、躊躇なく、「量」・「質」・「金利」の3つの次元で、追加緩和を講ずるという、いつものフレーズを繰り返し、「量」・「質」・「金利」のいずれも追加緩和の余地は十分にあるとした。

 黒田総裁による講演内容については、市場関係者から賛否両論が示されているが、講演内容が総裁自身の考えであることは否定しがたい。9月21日公表予定の総括的検証でも、「インフレ期待」や「真の金利」、「中央銀行のコミットメント」が大きなキーワードになると思われる。
9月会合後の金融政策については、講演内で「中央銀行のコミットメント」を強調したこともあり、日銀がこれまでの金融緩和について自ら否定し、金融緩和の縮小と取られかねないような新たなアクションを選択するとは考えにくくなった。むしろ「インフレ期待」を刺激し、国債利回りを「真の金利」に近付けるためにも、マイナス金利の深堀り、買入資産の拡大といった何らかの追加緩和が実施される可能性が出てきたと思われる。

 ただ黒田総裁が講演最後に述べたように、追加緩和の余地が十分にある、との考えには注意が必要である。先の7月会合ではETF買入額の拡大が決められたが、これにより円債市場だけでなく日本株市場でも日銀の存在感の高まり(悪く言えば市場支配)が批判されている。マイナス金利の深掘りについても、金融機関の収益悪化につながるとの批判は根強くある。

 黒田総裁が、こうした批判を懸念せず、「量」・「質」・「金利」の3つの次元で大規模な追加緩和に踏み切る可能性は否定すべきではないだろう。むしろ批判が高まれば高まるほど、批判者の神経を逆撫ですることを意図的に狙うことで、「中央銀行のコミットメント」の強さを誇示しようとするかもしれない。

 仮に3つの次元で大規模な追加緩和が実施された場合、日銀の次なるリスクは保有資産の減損リスクとなるだろう。資産買い入れ規模の拡大は、保有資産の価格変動リスクをさらに抱えることになる。ETFやJ-REITは国債と違い満期による償還がなく、日銀が資産買い入れ額の縮小・停止(テーパリング)に入り、保有資産の売却(出口戦略)に着手するまで、日銀はETFやJ-REITの減損リスクを拡大させ続けることになる。

 マイナス金利の深堀りは、保有国債の減損リスクを高める。日銀は保有国債の減損に備え、すでに約2.7兆円の引当金(債権取引損失引当金)を計上しているが、日銀はマイナス金利付きQQEを開始してから、約マイナス0.2%程度の利回りで国債買い入れを年80兆円のペースで続けている。現在の金融政策が今後も続くとすると、マイナス金利で買い上げる国債の保有残高も年80兆円のペースで拡大する。仮に毎年80兆円の国債をマイナス0.2%で買い入れる場合、1年間で満期時に1600億円の損失が発生するが、これが毎年毎年積み上がると、5年後には約2.4兆円の損失と、2.7兆円の引当金の多くを使い果たしてしまう。仮に日銀が当座預金に付与するマイナス金利を2倍にし、円債市場でもマイナス金利が同じように2倍に拡大すれば、4年弱で引当金は不足する計算となる。

 日銀の2015年度決算では、債権取引損失引当金を4501億円積み増したほか、外国為替関係損益で4083億円の純損失を計上したことで、当期剰余金は4110億円と2010年以来の低水準に落ち込んだ。日銀が保有資産の減損に直面した場合、日銀が赤字企業に転落することは十分にあり得るし、場合によっては債務超過に陥ることも中長期的には視野に入る。

2016年5月31日火曜日

実質金利の低下を予感させる鉱工業生産のポジティブサプライズ


 本日(5月31日)に発表された4月の鉱工業生産は、前月比+0.3%と市場予想(同-1.5%)を裏切り2カ月連続のプラスとなった。4月14日に発生した熊本地震で、一部大手自動車・電機メーカーは工場閉鎖を余儀なくされたが、輸送機器は前月比-0.6%と小幅低下に留まり、電気機械はエアコン生産の拡大もあって同+3.9%と大きくプラス。鉱工業生産全体でも前月比プラスとなった。

 同時に発表された製造工業生産予測調査によると、5月は前月比+2.2%、6月は同+0.3%とプラスが続く格好。予測指数通りとなれば4-6月期は98.5(前期比+2.5%)と、2015年1-3月期以来の高水準に回復することになる。

 報道によると、安倍首相は2017年4月に予定されていた消費税率の引き上げを2年半(2019年10月に)延期する方針を固めた模様。国会会期末にあたる明日(6月1日)の首相会見では、今年度第二次補正予算案の策定について言及される可能性もある。熊本地震を受けての第一次補正予算の規模は7780億円。二次補正予算案の規模は、一部報道によると5~10兆円程度になるようだ。

 熊本地震による減産の影響が、当初の予想ほど大きくなかったことに加え、5月、6月は増産が続く見込み。8千億円弱の追加財政支出に、5~10円規模の補正予算が新たに加わることになれば、今年(2016年)4-6月期の成長率は、前期比年率2%台程度まで加速し、年後半は3%台前半に加速するとの見方も可能となる。

 景気が強含めばインフレ圧力が再び強まる展開も視野に入る。4月の有効求人倍率は1.34倍と市場予想や前月を上回り、1991年11月以来の高水準に上昇。失業率は3.2%と消費税率が3%から5%に引き上げられる直前の1997年3月以来の低水準を維持。日本の労働需給はひっ迫感が強まっている。

 円相場は上昇したものの、コアコアCPI(CPIからエネルギーと食品を除いたもの)は4月も前年比+0.7%と底堅く推移。NY原油先物価格は26日に一時50ドルを突破し、2月11日に記録した安値(26ドル)のほぼ倍の水準に回復した。日銀の2%インフレ目標のターゲットとなっているコアCPI(CPIから生鮮食品を除いたもの)は早期に前年比プラスに転ずるだろう。

 日銀が期待するように2017年度中のインフレ2%目標の達成は、依然として難しいように思われるが、これまでと違いインフレが立ち上がってくれば、アベノミクス1.0で示された第2の矢(機動的な財政政策)が復活したとの見方もあり、金融市場でインフレ期待が盛り上がる可能性も否定できない。

 日銀のマイナス金利付き量的・質的金融緩和により、円債利回りは10年までマイナスが常態化。ここでインフレ期待が高まれば、実質金利の低下を通じた円下落期待を指摘する声が広がっても不思議ではない。