日本の個人消費は今年度に入っても盛り上がりに欠けたままとなっている。6月の実質消費支出は前年比2.0%減と市場予想に反し前年割れ。4-6月期平均では同0.4%増と微増と、消費税率の引き上げで大きく落ち込んだ昨年4-6月期から、ほとんど回復していない。
今年度の実質所得は、消費税率の引き上げによる効果が一巡する一方で、名目賃金がベアを背景に増勢を維持することから増加に転ずると期待されていた。しかし6月の実質所得は前年比2.9%減と昨年11月以来の落ち込み。一部企業でボーナスの支払い時期が5、7、8月に変更されたためとの説明がなされているものの、ボーナスを除く給与(きまって支給する給与)も、実質では前年比0.1%減と伸び悩み。ベアのおかげで所定内給与が増加したものの、残業代(所定外給与)が春先から減少に転じたことが響いている。
所得が伸び悩んでいる要因の一つに、いわゆる非正規労働者のシェア拡大がある。常用雇用を一般労働者とパートタイム労働者に分けてみると、一般労働者が前年比1.5%増に留まっているのに対し、パートタイム労働者は同3.4%増と2倍以上のペースで拡大している。パートタイム労働者の賃金水準は、一般労働者よりも低く、定期昇給制度が行きわたっていないこともあって伸びも低い。結果として、労働市場全体でみた一人当たり賃金の伸びは、一般労働者だけでイメージしたものと違い弱いものとなる。パートタイム労働者の多くにはボーナスも支給されないことから、一部企業のボーナス支給が7、8月に後ずれしたとしても、現金給与総額の伸びが期待外れに終わる可能性もある。
仮にボーナスの支給で7、8月の所得の伸びが加速したとしても、耐久消費財のストック調整を背景に、個人消費の伸びが期待されたほど盛り上がらない可能性もある。GDP統計における個人消費(国内家計最終消費支出)を財別にみると、耐久財消費は、消費税率の引き上げを控えた一昨年(2013年)10-12月期に前年比19.4%増、昨年(2014年)1-3月期に同25.6%増と2四半期連続で大幅増を記録。しかし、昨年4-6月期以降は前年割れが続いており、昨年7-9月期から今年1-3月期の3四半期は二桁の前年割れとなっている。
耐久財消費は、いわゆるリーマンショック後に実施されたエコカー減税などもあって、2009年10-12月期から5四半期連続で前年比二桁のプラスを記録。その後も増勢基調は続いており、2009年10-12月期から消費税率の引き上げが実施される直前の2014年1-3月期までの間、耐久財消費が前年割れしたことは、1度(2012年10-12月期)しかない。
白物家電の普及率はほぼ100%近くに達する中、乗用車に至っては少子高齢化を背景に保有台数は減少傾向で推移。携帯電話ですら普及率は95%近くに達し、スマートフォンに限っても普及率は60%を超えるなど、耐久消費財は日本中に行き渡っている。こうした中、過去5年もの間、耐久財消費が拡大を続けてきたのであれば、家計の耐久財ストックの過剰感は強まっていると考えるのが自然と思われる。
耐久財ストックの過剰感が強いのであれば、たとえ所得が増加したとしても、家計は耐久財消費を控える可能性も考えられる。この考え方が正しいのであれば、日本の個人消費は、当面、サービスの拡大に期待するしかない。
ただ、サービスの物価動向を示す持家の帰属家賃を除くサービス物価は、6月に前年比+0.9%と5月から加速し、賃金の伸びを上回っている。消費者マインドを示す消費者態度指数は、6月に41.7と昨年からは持ち直しているが、アベノミクスが喧伝された2013年の水準を下回ったまま。サービス消費の盛り上がりを期待することも難しく、日本の個人消費は冴えない展開が続くと思われる。
2015年8月7日金曜日
2015年6月25日木曜日
円相場次第の日本景気の「いい雰囲気」
日本景気は回復基調を強めている。第1四半期GDPは速報段階の前期比年率2.8%増から二次速報段階で同3.9%増に上方修正。個人消費は前期比0.4%増と小幅ながら3期連続でプラス。設備投資は消費税率引き上げ後に伸び悩んでいたが、第1四半期に前期比2.7%増と伸びが加速した。
今後も個人消費や設備投資は底堅く推移すると思われる。4月の現金給与総額は前年比0.7%増と今年最大の伸びを記録し、実質では同0.1%減と下げ止まった。消費者態度指数や景気ウォッチャー調査が示すように、消費者マインドも安定的に推移しており、個人消費は(緩やかかもしれないが)増加基調を維持するだろう。一方、設備投資の先行指標である機械受注(民需除く船舶電力)は4月に前年比3.0%増と5カ月連続でプラス。設備稼働率の低下など製造業の設備投資は先行き不透明感が強いものの、一部メディアが報じた設備投資計画などを考慮すると、設備投資も増勢基調が続くとみられる。
個人消費や設備投資の拡大は、日本景気の先行きに対する自信を深めるだろう。昨日(6月24日)、日経平均株価が終値で2万868円と、2000年4月に記録したITバブル時の最高値を超えたのも、日本景気の先行きに対する自信の表れと解釈できなくもない。一般メディアでの報道ぶりなどを見ると、日本景気は「いい雰囲気」にあるようだ。
日本景気が「いい雰囲気」になったのは、アベノミクスのおかげ、と思う方もいらっしゃるかもしれない。たしかに安倍政権は、その前の民主党政権に比べ、景気拡大や株価上昇に熱心な姿勢を露骨に示した。その結果が表れたという見方を完全に否定することはできない。
しかし、アベノミクス(ないしは安倍政権の姿勢)のおかげで日本経済が変わった、と考えるのも無理がある。そもそもアベノミクスの三本の矢のうち一本目(金融緩和)と二本目(財政拡大)は、伝統的な経済学に基づく景気刺激策。日本経済が変わっていないからこそ、日本景気はアベノミクスで拡大できたと言える。
三本目の矢(成長戦略)に対する期待は、株式市場関係者を中心に依然としてあるようだが、どちらかというと尻すぼみとなっている。米国とのTPP協議は、米国での法案成立の遅れもあって交渉妥結に至らないまま。規制改革については、農協改革や再生医療薬の承認までの期間短縮といった実績がある一方で、高度外国人材の活用や地熱発電関連は進展が見られない。安倍政権が22日に決めた成長戦略の素案は、官民対話の開始や中高年の転職や出向を受け入れる企業への助成制度の創設など、過去2回に比べ小粒となった。安倍政権の成長戦略に対する意気込みは認めたいものの、結果が伴わない印象が強まっている。
日本経済は変わらず、三本目の矢が期待外れであっても、日本景気が「いい雰囲気」になったからいいではないか、という声もあるようだ。たしかに、そういう考え方でもいいのかもしれない。ただ、現在の日本経済は、円安という追い風で救われている部分が相当あることを忘れてはならない。
日銀の黒田総裁が発言したように、日本円の実質実効レートは歴史的な低水準にあり、今後さらに低下する(円安になる)とは考えにくい。黒田総裁は、名目でのさらなる円安を否定したわけではないと釈明したが、仮に名目での円安が止まらず、実質実効レートが上昇に転ずるのであれば、それは日本の物価上昇が進むことを意味する。
日本の物価上昇が進めば、日銀の大規模緩和が終了に近付くことを市場は意識するだろう。黒田総裁は、出口戦略(大規模緩和の終了)を述べるのは時期尚早と繰り返すが、可能性を否定した直後に追加緩和に踏み切った実績があるだけに、市場は黒田総裁による出口戦略否定論を真に受けなくなるだろう。
安倍政権後の円安基調の大前提は、日銀による大規模緩和の実施。その前提が崩れてしまえば、円売りの動きは止まる。こうなるとあとは、ドル高による相対的な円安の進展を期待するしかなく、日本景気の先行き期待も後退しやすくなる。今の「いい雰囲気」の継続性を考えることは、円相場の先行きを考えることと同じのように思える。
今後も個人消費や設備投資は底堅く推移すると思われる。4月の現金給与総額は前年比0.7%増と今年最大の伸びを記録し、実質では同0.1%減と下げ止まった。消費者態度指数や景気ウォッチャー調査が示すように、消費者マインドも安定的に推移しており、個人消費は(緩やかかもしれないが)増加基調を維持するだろう。一方、設備投資の先行指標である機械受注(民需除く船舶電力)は4月に前年比3.0%増と5カ月連続でプラス。設備稼働率の低下など製造業の設備投資は先行き不透明感が強いものの、一部メディアが報じた設備投資計画などを考慮すると、設備投資も増勢基調が続くとみられる。
個人消費や設備投資の拡大は、日本景気の先行きに対する自信を深めるだろう。昨日(6月24日)、日経平均株価が終値で2万868円と、2000年4月に記録したITバブル時の最高値を超えたのも、日本景気の先行きに対する自信の表れと解釈できなくもない。一般メディアでの報道ぶりなどを見ると、日本景気は「いい雰囲気」にあるようだ。
日本景気が「いい雰囲気」になったのは、アベノミクスのおかげ、と思う方もいらっしゃるかもしれない。たしかに安倍政権は、その前の民主党政権に比べ、景気拡大や株価上昇に熱心な姿勢を露骨に示した。その結果が表れたという見方を完全に否定することはできない。
しかし、アベノミクス(ないしは安倍政権の姿勢)のおかげで日本経済が変わった、と考えるのも無理がある。そもそもアベノミクスの三本の矢のうち一本目(金融緩和)と二本目(財政拡大)は、伝統的な経済学に基づく景気刺激策。日本経済が変わっていないからこそ、日本景気はアベノミクスで拡大できたと言える。
三本目の矢(成長戦略)に対する期待は、株式市場関係者を中心に依然としてあるようだが、どちらかというと尻すぼみとなっている。米国とのTPP協議は、米国での法案成立の遅れもあって交渉妥結に至らないまま。規制改革については、農協改革や再生医療薬の承認までの期間短縮といった実績がある一方で、高度外国人材の活用や地熱発電関連は進展が見られない。安倍政権が22日に決めた成長戦略の素案は、官民対話の開始や中高年の転職や出向を受け入れる企業への助成制度の創設など、過去2回に比べ小粒となった。安倍政権の成長戦略に対する意気込みは認めたいものの、結果が伴わない印象が強まっている。
日本経済は変わらず、三本目の矢が期待外れであっても、日本景気が「いい雰囲気」になったからいいではないか、という声もあるようだ。たしかに、そういう考え方でもいいのかもしれない。ただ、現在の日本経済は、円安という追い風で救われている部分が相当あることを忘れてはならない。
日銀の黒田総裁が発言したように、日本円の実質実効レートは歴史的な低水準にあり、今後さらに低下する(円安になる)とは考えにくい。黒田総裁は、名目でのさらなる円安を否定したわけではないと釈明したが、仮に名目での円安が止まらず、実質実効レートが上昇に転ずるのであれば、それは日本の物価上昇が進むことを意味する。
日本の物価上昇が進めば、日銀の大規模緩和が終了に近付くことを市場は意識するだろう。黒田総裁は、出口戦略(大規模緩和の終了)を述べるのは時期尚早と繰り返すが、可能性を否定した直後に追加緩和に踏み切った実績があるだけに、市場は黒田総裁による出口戦略否定論を真に受けなくなるだろう。
安倍政権後の円安基調の大前提は、日銀による大規模緩和の実施。その前提が崩れてしまえば、円売りの動きは止まる。こうなるとあとは、ドル高による相対的な円安の進展を期待するしかなく、日本景気の先行き期待も後退しやすくなる。今の「いい雰囲気」の継続性を考えることは、円相場の先行きを考えることと同じのように思える。
2015年5月21日木曜日
1%程度の冴えない成長が続く見込みの日本景気
昨日(5月20日)発表された日本の第1四半期GDPは、今後の日本の成長率が1%前後で伸び悩む可能性を示す内容となった。
日本の第1四半期GDPは実質で前期比年率2.4%増と、2四半期プラスとなり、伸びは昨年第1四半期の4.9%増に次ぐ水準に加速した。市場予想では前期と同じ1.5%増程度の伸びに留まるとの見方が多かったことから、日本経済は市場予想を上回る成長となった、と言えなくもない。
日本の第1四半期GDPは実質で前期比年率2.4%増と、2四半期プラスとなり、伸びは昨年第1四半期の4.9%増に次ぐ水準に加速した。市場予想では前期と同じ1.5%増程度の伸びに留まるとの見方が多かったことから、日本経済は市場予想を上回る成長となった、と言えなくもない。
2015年4月23日木曜日
ドル円は慎重な姿勢が続く見込み
昨日発表された日本の通関統計によると、3月の輸出数量は、前年比3.3%増(前月比では2.5%程度の増加)と増加基調を維持。4月30日発表予定の3月の鉱工業生産は、市場予想で前月比-2.5%と2カ月連続の低下が予想されているが、製造工業生産予測調査によると4月は同+3.6%と反転が見込まれている。日本の生産活動は、第2四半期も拡大基調で推移するとの見方が優勢である。
しかしマークイットが本日発表した4月の日本製造業PMIは49.7と3カ月連続の低下となり、昨年5月以来の50割れ。内訳をみると、新規受注で50割れが続いたほか、生産も昨年7月以来の50割れとなった。
マークイットが主張するようにPMI内の生産と鉱工業生産は一定の連動性を有する。PMI内の生産が50割れを記録したことを考慮すると、4月に入っても鉱工業生産の低下が続く可能性は排除できない。
しかしマークイットが本日発表した4月の日本製造業PMIは49.7と3カ月連続の低下となり、昨年5月以来の50割れ。内訳をみると、新規受注で50割れが続いたほか、生産も昨年7月以来の50割れとなった。
マークイットが主張するようにPMI内の生産と鉱工業生産は一定の連動性を有する。PMI内の生産が50割れを記録したことを考慮すると、4月に入っても鉱工業生産の低下が続く可能性は排除できない。
2015年4月15日水曜日
浜田宏一・内閣官房参与はドル円120円超を肯定
安倍首相の経済ブレーンとされる浜田宏一・内閣官房参与(米エール大名誉教授)は4月13日、14日の2日間、日本の各種メディアに登場。メディアは、円相場に関する浜田氏の発言をいくつか報じた。見出しだけをみると、浜田氏の発言は二転三転している印象を与えたかもしれないが、発言内容を細かく確認すると、同氏の趣旨が一貫していることが分かる。つまり浜田氏は、今後も円安の動きが強まる可能性を否定していないと考えられる。
以下は、米系メディア2社が、浜田氏の円相場に関する発言について報じたタイミング(掲載日時)と見出しを整理したものである。
以下は、米系メディア2社が、浜田氏の円相場に関する発言について報じたタイミング(掲載日時)と見出しを整理したものである。
登録:
投稿 (Atom)